魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
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第8章:拓かれる可能性
第235話「孤軍奮闘」
前書き
厳密には二人いるけど、状況的にはそんな感じなので>サブタイトル
引き続き、帝sideです。
「これで……17人」
「“天使”も併せたら60人は超えるな……」
神界の一画で、またもや神を一人倒した優奈と帝。
神界にある程度詳しい優奈がいる事で、包囲されない限り二人は負けていなかった。
「……元の世界まで、後どれくらいなんだ?」
「……その事なんだけど……」
戦闘後は休みながらも帝が王の財宝から取り出した宝具で移動している。
そのため、本来ならもうすぐ着くはずだが……。
「多分、イリスがその出入り口を利用している。だから、不用意にそこに辿り着いたら、イリスの軍勢と鉢合わせになるかもしれない」
「……嘘だろ……?」
考えればわかる事だっただけに、帝は信じたくないとばかりに声を漏らす。
「……でも、私達にはこっそりと別の出入り口を用意する力もない」
「つまり……」
「どうしてもイリスの軍勢を突破する必要がある。……もしくは、消耗を覚悟で堂々と出入り口を作り出すか」
こっそりでなければ出入り口を作り出す事は不可能ではない。
しかし、作り出す際に大きく理力を消耗するため、得策じゃない。
かと言って、イリスの軍勢を突破するのも厳しい。
「……どうするんだ……?」
「手があるとすれば、突破するだけの力を確保するか、味方を増やす事ね」
「味方……?」
この神界にいる人間は帝と優奈だけだ。
そんな状況で、味方と言われても帝はピンと来ない。
「いたでしょ?イリスの軍勢と戦う神が」
「……あれか」
思い出すのは、戦線を維持していた神達。
そう、忘れてはいけない。イリスと戦っているのは優輝達だけではない。
むしろ、その神々の方が、表立って対立している勢力だ。
「“闇”と対になる“光”の勢力。……その神達と上手く合流出来れば……」
「……そうか、味方になってくれる神もいるのか……。忘れていた……」
神界に事自体が罠だったため、会った神のほとんどが敵だった。
そのため、帝も失念していた。
「洗脳されているかどうかは、私ならイリスの理力の影響が分かるから、そこで判断できるわ。……とにかく、留まっていても仕方ないわ」
「ああ。行こう」
再び移動を開始する。
たった二人、神界に取り残されても、諦めずに進み続けた。
「……やっぱり、洗脳されてるだけあって、本来より弱くなっているのか」
「ええ。“性質”がイリスの闇で弱まってるわ。イリスが傍にいたら、“闇”の力で本来の力も出せるけど、そうでないのなら出力が低い。だから、貴方でも渡り合えるわ」
「おかげで、神界での戦いにも慣れてきた」
あれから数戦、洗脳された神と“天使”達と戦い、倒した。
そのおかげで帝もある程度戦えるようになっていた。
「……向こうから、イリスの力の残滓を感じるわ。同時に、戦闘らしき理力の奔流も。……もしかしたら、誰か戦っているのかもしれない」
一段落している時、優奈が気配を感じ取る。
「って事は、あの時みたいに洗脳されていない誰かが……!」
「ええ。いるかもしれないわ」
気配を感じ取った先へ、早速二人は向かう。
「……あれか!」
「そうよ!」
移動した先には、何人もの神と“天使”が倒れていた。
中心には、勝ち残った神と“天使”がいる。
「(イリスの気配は倒れてる連中からね。なら……)」
「これは……敵を倒し終わった後か?」
「洗脳された連中は既に倒れてるわ。まぁ、戦闘が終わったのは確かね」
優奈が気配を感じ取った時には、既に戦闘が終わりかけていた。
そのため、辿り着いた時には既に戦闘終了していたのだ。
「(……待って。どうして、“嫌な予感”が止まらないの?)」
「って事は、残ってる神が味方って事か!」
さすがに優奈以外味方がいないというのが不安だったのだろう。
帝は嬉しそうに立っている神達へ近づく。
「……あれは、人間か?」
「という事は……」
「……っ!」
その時、聞こえてしまった。その神達の会話を。
そして、見てしまった。辛うじて倒れていなかった神の、訴えるような目を。
「ッ―――!!帝!!」
「え……?」
刹那、優奈は帝を突き飛ばすように瞬間移動する。
同時に理力による障壁も展開するが、防ぎ切れるはずがない。
導王流も用いて防御を試みたが、その上で理力の槍に貫かれた。
「ぁ、がっ……!?」
「なっ……!?」
帝は、一瞬状況を呑み込めずにいた。
だが、相手は待ってくれない。
理力が宙に集束し、そこから極光が放たれた。
「ッ……!」
優奈が無理矢理体を動かし、帝と共にその場から飛び退く。
「……ごめんなさい、帝。貴方自身失念していたのでしょうけど、一つ言い忘れていた事があったわ……」
「え……」
「敵は、イリスとイリスが洗脳した神達だけじゃない。……イリスに便乗した悪神も、敵だと言う事よ……!洗脳されていない分、気づけなかった……!」
そう。洗脳されていた祈梨が言った言葉の中でも本当だった情報の一つ。
敵はイリスだけではない。それに協力する神も、また存在する。
そして、その神達はイリスに洗脳されている訳ではなく、己の意志で行動する。
故に、イリスの気配を頼りに見分けていた優奈も、気づくのが遅れた。
「ッッ!」
そして、悠長に驚いている暇もない。
飛び退いた二人へ、悪神達の“天使”が襲い掛かる。
「気を付けなさい!今度の相手は、本来の力そのままよ!」
「くっ……!」
すぐさま各々武器を構える。
対し、“天使”も闇色の武器を構え、襲い掛かった。
その様は最早天使とは見えない。良くて堕天使と言った所だろう。
「はぁっ!」
「このっ……!」
白兵戦なら、こちらの“領域”に引きずり込んで戦える。
そう考えて二人は武器を振るった。
帝はともかく、優奈は導王流があるため、まず負けはない。
……だが、それを覆すのが“性質”だ。
「“返れ”」
「ッッ……!」
まるでベクトルが180度変わったように、武器の軌道が無理矢理変えられる。
それは武器を叩きつけて弾かれた時よりも大きな隙となる。
「がぁっ!?」
「ッ、帝!」
優奈は瞬間移動で反撃を躱した。
しかし、帝は躱せずにまともに攻撃を食らってしまった。
「(ベクトルの反転……いえ、今の感覚は、プラスのモノをマイナスに変えられた……?とにかく、一旦離脱を……!)」
「おっと、そうはさせんぞ」
「ッ……新手……!」
戦略的撤退を選ぼうとする優奈を、また別の神が阻む。
結界のように展開されたソレは、まるで幽閉のための牢獄のようだった。
「(瞬間移動でも、離脱出来ない……!間違いなく、“性質”を利用したもの……!)」
「神界を逃げ回る人間が残っているかもしれないと、イリスが言っていたが……その通りだったな」
さらに増援が来る。
これで、優奈が危惧していた包囲が完成してしまう。
その上、“性質”を利用した結界で逃げる事も叶わない。
「……こうなったら、全員倒すしか……!」
「出来るのか?お前に」
「ッ……!」
覚悟を決めて向き直った瞬間、優奈の体が重くなる。
「そこの男を庇った時点で、お前の敗北は決まった」
「……体力が自然回復しない……むしろ、減っている……そういう、“性質”……!」
神界において、体力などは全て自然回復する。
だが、今の優奈は逆にそれが自然減少していた。
体力、魔力、霊力、そして理力すら徐々に減っていく。
「優奈……」
「……それが、どうしたってのよ……!その程度で、私の“可能性”は潰えていない……!帝!倒すわよ!!」
それでもなお、優奈は武器を構える。
戦力差は大きい。その上、勝ちの目となる優奈は弱っている状態だ。
負ける事は許されず、必ずここで勝たなくてはならない。
「ッ……ぉおおっ!!」
帝も、それを理解している。
だからこそ、雄叫びと共に大量の武器を射出する。
「無駄だ!」
「ッ!」
だが、その悉くが“反転”する。
「(武器そのものが反転した訳じゃない……。向きがそのまま変わっただけだ!)」
ここに来て、直感で帝は動く。
反転した武器は、軌道がそのまま反転しただけだ。
つまり、帝に返って来た武器は、全て柄の方から飛んでいる。
ならば、多少当たった所で大した事はない。
「武器はそうだろうな。だが、これはどうだ?」
「ぐっ……!?」
……それすら、“天使”は読んでいた。
武器では意味がないのなら、今度は帝本人の動きを“反転”させた。
弾かれるように後方へ動かされた帝は、体勢を崩す。
「そういう事、ねっ!!」
それを見ていた優奈が、瞬間移動を使いつつ肉薄する。
“性質”による干渉を受ける前に、“天使”を三人程切り裂いた。
「甘い!」
「そっちがね!!」
「なっ!?」
今度は神が“性質”で干渉する。
だが、優奈の動きは一瞬止まったがすぐに動き出した。
その事に、神は驚く。
何せ、反転するはずだった動きがそのままだったのだから。
「そういう事か!」
「ッ!」
それでも、相手は洗脳されておらず、本来の力そのままの神だ。
すぐさま、優奈のしている事を見抜き、一旦“性質”の干渉を解いた。
「ふっ……!」
「くっ……!デタラメに……!?」
簡単な事だ。優奈は、“性質”によって動きを反転させられる瞬間、その反転に合わせて自分から動きを変えたのだ。
一瞬止まったのは、優奈自身が動きを反転させるために止まっていたから。
それに気づいた神は、“性質”の干渉をして、即座に解除を繰り返した。
これにより、優奈はその干渉に対処しきれなくなる。
「っ、こっっの……!!」
その間、帝は棒立ちしている訳ではない。
他の悪神と“天使”の動きを牽制するため、武器を放ち続けた。
白兵戦にすら持ち込まれないように、防戦一方でありながら牽制し続ける。
優奈が、悪神を倒してくれると信じて。
「(なら!!)」
果たして、優奈は動いた。
途中の接近があるから近づけないのであれば、その過程を省けばいい。
そう考え、瞬間移動で神に肉薄した。
同時に、その悪神の“天使”に創造魔法による剣を突き刺し、牽制する。
“性質”の干渉を受ける前ならば、これぐらいは容易かった。
「甘い!」
「ッ……!」
だが、相手は“天使”ではなく、神だ。
反応が早く、攻撃の軌道を“反転”させられる。
それも、先程と同じくデタラメなタイミングでだ。
「っ、はぁっ!!」
その上で、優奈は武器を振り抜いた。
当然、振るった武器は反対方向へ振るわれ、空ぶった。
「ぐっ……!?」
しかし、その悪神に攻撃が命中する。
「何……!?」
「人間の発想力、舐めるんじゃないわよ……!」
見れば、そこにはいくつもの剣が浮いていた。
そのどれもが、優奈に結び付いた理力による剣だ。
それらが、悪神を囲んでいた。
「軌道が何度も反転しようと、帰結するのはどちらかの一方向だけ。……だったら、二種類の軌道をいくつも用意すれば、必ず命中する……!」
「なるほど、なっ!!」
「ッ!!」
悪神が理力を放出する。
それを優奈は飛び退く事で躱すが、僅かに掠る。
……それだけで体力が奪われたのを察した。
「つまらん小細工はなしだ。正面から屠って見せよう」
「……“反転”だけではないと思っていたけど……なるほどね」
さらに飛び退く。
直後、悪神から冷気と共に“負”のエネルギーが放出される。
その力の大きさは、先程までより遥かに強い。
「“負の性質”……それならば、イリスに付くのも納得よ」
「ご名答。無論、先程までのは力のほんの一端よ。……ここからが本番だ」
「ッ……!」
跳ぶ。直前までいた場所を冷気と負のエネルギーが襲う。
触れただけで腐ってしまいそうな瘴気とあらゆるものを凍り付かせそうな氷がそこかしこに出現し、優奈に向けて放たれる。
「帝……っ!」
攻撃を瞬間移動で躱しつつ、優奈は帝を案じる。
……だが、そこにいたのは既にボロボロに打ちのめされた帝だった。
「ぐ……ぁ……逃げ、ろ……!」
「ッ……この……離れなさい!!」
咄嗟に優奈は帝を抑えつける“天使”を蹴り飛ばす。
帝の体を掴み、全ての敵に対処しやすい位置に瞬間移動する。
「……優奈……」
「……そこで回復に専念してて。……その間は、私が……!」
理力による結界で、帝は何重にも保護される。
そして、優奈はその結界を自身の“領域”を結び付けた。
正しくは、“領域”を伴った結界とし、そこに帝を保護したのだ。
「待、て……!待って、くれ……!」
「っ、はぁっ!!」
優奈が理力を解放し、“領域”を主張する。
それによって悪神の攻撃を打ち払う。
「(イリスに加担した神は、全て“悪”に関わる“性質”を持つ。“負の性質”に、先程の結界もその類……それを意識して……)」
「む……!」
「(攻める!!)」
創造魔法による剣を一斉に放ち、牽制とする。
そして、一気に攻勢に出た。
狙うは、結界を張った神だ。
「やはり来るか。だが」
「くっ……!」
瞬間移動と、分身魔法による一斉攻撃を放つ。
だが、それは神を包むように現れた障壁に阻まれた。
「“領域”の防御は俺も得意としているんでな」
「“性質”による防御……!」
「そら、俺にかまけていていいのか?」
「くっ……!」
瞬間移動し、直前までいた場所を闇色の理力が襲う。
「(結界さえ壊せば逃げられる。でも、それを張った神は防御に専念している。あの“領域”を砕くには、明らかに時間が足りない。……という事は……)」
「結局は倒さなければならないと言う事だ」
「ッ……!」
相対するのは、“負の性質”を持つ神と、もう一人の悪神。
そして、洗脳された神々と、それぞれの神の“天使”達。
それらを倒さなければ、結界を張った神を倒す事が出来ない。
「(今までは多くても二人の神までしか同時に相手して勝つ事が出来ない。……“天使”さえいなければ、三人でも勝てるかもしれない……だけど)」
多勢に無勢。
優輝がやっていた時間稼ぎとは違い、この戦いは勝たなければならない。
優奈がいくら優輝と同等の力を持っているとはいえ、神界の神ではない身では、まともに相手した所で勝ち目はない。
「(……数が多い。それでも、やらなくちゃいけない)」
一瞬、意識を帝に向ける。
元々、優奈は可能性を繋ぐために帝を助けに来た。
彼を助けるためならば、優奈は如何なる逆境でも立ち向かう心算だ。
……その結果、自分がどうなってしまうのかも顧みずに。
「……ふっ!!」
“パァン”と、理力同士がぶつかり、弾ける。
同時に、優奈は瞬間移動でその場から消え、放たれていた一撃を避ける。
回避しきれない攻撃を相殺しつつ、防げない攻撃は確実に躱す戦法だ。
まずは堅実に動き、相手を見極める。
「くっ……!」
波状攻撃のように“天使”達が襲い掛かる。
理力を用いた砲撃や、武器で連携して攻撃してくる。
「ッ……!」
単純な白兵戦なら、優奈の方が上だ。
武器を持つ手の動きを、牽制して止め、重心を利用したカウンターを決める。
さらに攻撃の軌道を僅かにずらし、直後に攻撃してきた“天使”にぶつけた。
そのままカウンターを続けるだけでも相手出来るが、そこで瞬間移動する。
「ッッ!」
「すばしっこいものだ……!」
“負”のエネルギーが爆撃のように襲い掛かる。
優奈はそれらを瞬間移動で避け、攻撃してきた悪神に反撃する。
だが、相手は神だ。反撃の蹴りはいとも容易く防がれた。
「ッ、ぐ……!」
すぐさま瞬間移動で間合いを離す。
すると、今度は洗脳された神とその“天使”が襲い掛かった。
放たれる理力の槍や閃光は、生半可な防御では確実に貫かれる威力だ。
さらに“性質”も伴っているのか、相殺を試みようとした優奈の砲撃があっさりと貫かれてしまった。
「(貫く事に関係した“性質”……!防御は厳禁。躱す!!)」
体を捻り、瞬間移動と空中機動を駆使して放たれる攻撃を躱し続ける。
“性質”に引き寄せられているのか、幸い攻撃の規模は“面”というより“線”や“点”に近いため、躱すのは比較的容易だ。
「(そろそろ、反撃に……!)」
洗脳された神達の攻撃と、悪神達による理力の暴力。
それらを掻い潜るように優奈は躱し、逃げ回る。
そして、隙あらば創造魔法で創り出した武器に理力を纏わせ、射出する。
「(近接は飽くまで防御に専念!反撃は創造魔法で……!)」
肉薄し、攻撃してくる神と“天使”を振り切るように受け流す。
理力を纏った創造魔法の武器は、途轍もない速度でまず“天使”達へ向かう。
「そこ!」
「がっ……!?」
威力も並ではない。
一撃一撃を全力で放ち、その威力はとこよやサーラの本気の一撃を凌ぐ。
理力と神界という状況下故に、一点に集中した攻撃は尋常じゃない威力を持つ。
「(洗脳された連中は何とかなる……!)」
さながら、シューティングゲームの自機だ。
敵の弾幕を潜り抜けながら、少数の射撃で的確に敵を倒していく。
洗脳された神や“天使”程度なら、それだけで確実に怯ませられる。
「(問題は……!)」
「はぁっ!」
「(悪神……!)」
悪神の“天使”が襲い掛かってくる。
優奈は瞬間移動で間合いを保とうとするが、本来の力そのまま使う相手の“天使”も同じようについて来る。
「ッッ!!」
威力を減らした弾幕で洗脳された“天使”の攻撃を相殺する。
同時に剣を飛ばし、それで悪神の“天使”と攻撃の応酬を繰り広げる。
いくら本来の力そのままとはいえ、白兵戦に長けている訳ではないため、近接戦を仕掛けられた所で対処は出来る。
「っづ……!?っの……!!」
問題は、理力と“性質”による攻撃だ。
攻撃が飛んでくる過程がないため、躱すのが難しく、確実に優奈の体力を削る。
すぐさま反撃及び回復を行うが、相手の数が多い。
「ッ……らぁっ!!」
理力を纏った蹴りで、攻撃を弾く。
同時に創造魔法の剣で洗脳された敵を牽制しつつ瞬間移動を繰り返す。
悪神の“天使”の攻撃を躱しその内一人に肉薄した。
「(確実に、一人ずつ削る……!!)」
間合いを離そうとする“天使”の腕を掴み、直後に出現した攻撃の盾にする。
同時に、理力を流し込んで自身と“天使”を結び付ける。
これにより、“天使”が瞬間移動で逃げてもどこにいるか分かるようになった。
「ッッ……!」
「ぐっ……!?」
攻撃を掠り、時には命中しながらも突き進む。
そして、理力の剣で“天使”の喉を貫く。
「っづ……!?」
直後、瞬間移動を読んだ大規模の理力をぶつけられ、地面に叩きつけられる。
「くっ……!」
すぐに体勢を立て直し、追撃を避ける。
瞬間移動も、本来の力を放つ悪神の追撃には意味がない。
悪神達の攻撃は、放ってから命中までの過程が存在しない。
そのため、追尾や射線の概念がなく、姿を認識されている限り回避は必須だ。
「はっ!!」
「ぐっ……貴様……!?」
導王流もあまり役に立たない。
だが、回避やカウンターの要領はそのまま応用できる。
それを利用して、優奈は攻撃を避けつつ、“天使”をその攻撃に晒す。
「(同じ“領域”の神及び“天使”の攻撃は効かない。でも、盾にはなる。それに、全員同じ“性質”じゃないから……)」
「ぐっ……ぅ……」
「こうやって、楽に倒せるって訳ね……!」
しばらく盾になっていた“天使”は、最後に優奈に一閃されて倒れる。
これでまず一人。数を減らす事が出来た。
「がっ……!?」
それでも、たったの一人だ。
雨霰と降り注ぐ致死レベルの攻撃に、優奈は一発、二発と命中していく。
直撃は避けているが、確実に体力は減っていた。
「まだまだ……!!」
「ぐぁっ!?」
次の“天使”を捕まえ、再び攻撃に晒させる。
しかし、二度目は通じない。
「(攻撃密度が薄く……?っ、これは……!)」
「沈め!!」
「っ、ぁ……ッッ!!?」
気づいた時には、瞬間移動を駆使しても躱しきれない状態だった。
上から“性質”を掛け合わせた理力の壁が落ちてくる。
そう、“壁”だ。躱そうとするのが馬鹿らしい程の規模で攻撃してきた。
「(これは……“負”と……“悪”の“性質”……!そう……もう一人の“性質”は、つまり……!)」
「俺の“負”を食らった上でこの攻撃……効くだろう?」
「ぐ、ッ、ぁああああっ!!」
“意志”を強く、理力を天に向けて貫くように放つ。
僅かに、理力の壁が薄くなったのを感じ取る。
すぐさま優奈はその穴を突っ切るように跳び、窮地を脱する。
「はぁっ、はぁっ、ぐっ……!」
「効いただろう?我が“悪”は。汝を染め上げる事は出来ぬとも、蝕む事は出来る」
「……“悪の性質”って訳ね……最悪のコンビじゃない……!」
ただでさえ重くなっていた優奈の体が、さらに鈍くなる。
瞬間移動だけでは高速機動が維持できなくなり、創造魔法で足場を作る。
立体的に跳びつつ、先程までと同じように攻撃し続ける。
「ッ、はぁあああああああああっ!!!」
攻撃の嵐を駆け抜け、一人、また一人と“天使”を仕留めに掛かる。
倒したか確認する暇はなく、全身全霊の一撃をぶつけて“領域”を砕き、即座に離脱して別の“天使”を狙うのを繰り返す。
「ここに来てさらに早くなるか。……面白い!」
「(“負の性質”でどんどん体が重く……!優輝みたいに背水の陣じゃないから、“意志”で相殺しきれない……!)」
元々短期決戦ではあったが、優奈はさらにそれを急いだ。
最早“戦う者”として攻撃に晒されるのではなく、一つの“攻撃”として相手の嵐の如き攻撃の中を飛び続ける。
「(チャンスを作れ!一撃を全身全霊で叩き込んで、“負の性質”から砕け……!)」
一筋の流星となって、優奈は戦場を駆ける。
途中、何度も躱しきれない攻撃に命中するが、止まらない。
一点集中。まずは体を鈍くする“負の性質”を持つ悪神に狙いを定めた。
「来るか……!」
「ッッ、そこぉおおおおおおおお!!!」
一瞬。最早、チャンスとも思えないような僅かな間。
そこを突き、優奈は突貫する。
「来ると分かっていれば、捕まえる事も容易い」
「ッッ!?」
だが、その刃は届く前に止められた。
「“幽閉”……閉じ込める事なら右に出る者はいない。動き回られれば、なかなか捕まえる事は出来ないが、こうして行き先が分かればこの通り」
「“幽閉の性質”……!」
「ああ。さて、俺の“性質”による檻を、どうやって突破するつもりだ?」
「っ……!」
結界を張った神が、今度は優奈を小さな結界に閉じ込めた。
“性質”をそのまま使った理力の檻は、優奈のような爆発的な突破力があっても、易々とは破る事が出来ない。
そして、“溜め”の時間が与えられる事もない。
「あ、ぐ、ぁああああああああああああああああああああ!?」
他の神や“天使”による一斉攻撃が、優奈の体を打ちのめす。
絶え間のない攻撃の嵐に、優奈は何も出来ずに叫び声を上げた。
後書き
“負の性質”…冷気等の数値的マイナスや、負の感情と言った概念的な物などを操れる。ベクトル操作は飽くまで力の一部でしかない。
“悪の性質”…文字通り。闇属性の攻撃ばかり使う。同名の“性質”を持つ神が複数いるが、今回出たのは魔王やボスのような貫禄を持つ。“負の性質”と組むと、善心持ちの存在に対して常にデバフが掛けられたりする。
“幽閉の性質”…文字通り。敵を閉じ込める結界の他、攻撃そのものを閉じ込めて無効化するなども可能。割と汎用性がある。
ちなみに、イリスは帝しか神界に人間はいないと思っています。つまり、これでも優奈は想定外の存在です。
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