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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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最終章:無限の可能性
  第234話「可能性の半身」

 
前書き
―――希望は繋がれた。……まだ、可能性は尽きない


引き続き帝達sideです。
ちなみにですが、帝sideは時間軸的に前回の緋雪達よりも少しばかり時間を遡っています。優輝が矢を放ってしばらく辺りです。
 

 








「ふっ!」

 “ギィイン”と、一瞬で肉薄してきた“天使”の攻撃が弾かれる。
 直後にカウンターである理力を込めた掌底が突き刺さり、“天使”が吹き飛ぶ。
 さらに、同時に瞬間移動して帝の隣へ移動する。

「一旦離脱するよ!」

「あ、ああ……!」

 帝の肩に手を置き、エアがデバイスに戻るのと同時にその場から消え去る。
 そこへ“天使”達の攻撃が突き刺さるが、もうそこに二人はいない。









「……啖呵切ったのは良いんだけど、私も消耗してるからね……」

「えぇ……」

「これでも八束神社との出入り口辺りからずっと飛んできたのよ?」

 周囲に誰もいない場所まで来て、優奈と帝は一旦一息をつく。

「優輝がイリスに放った一矢。イリスにとっては、ただ一矢報いられた程度だけど……本命は別。リヒトと共に、“私”を分離させて帝の所まで届けるのが目的だった」

「……一体、何があったんだ?それに、あんたは一体……?」

「……順に話していく必要があるね」

 今まで優輝の親戚で、自分の好きな相手としてしか優奈を見ていなかった帝。
 ここにきて、優奈の謎さに懸念が出来ていた。

「まず最初に……私は、優輝の親戚なんかじゃないわ。ましてや、厳密には人間ですらない……のは、さすがに分かるよね」

〈ここにいる時点で、少なくともただの人間ではないのは確定ですしね〉

「エアには前にも会ったわね。あの時ははぐらかしたけど、さすがに今回は正直に説明するから安心して」

 結界を張り、周囲からばれないようにして優奈は説明を始める。
 結界は理力によって張られたものなので、神界でも普通に通用する。

「元々、私が生まれたのは本当に偶然だったの。優輝が神降しをして、椿の女性としての因子を取り込んだ事で、創造魔法の“性質”と優輝自身の本当の“性質”が作用した結果、“志導優奈()”という存在が生まれたの」

「“性質”が作用して……」

 例えるのなら、それは化学反応のようなものだった。
 偶然が重なった結果、もう一人の存在として優奈が生まれたのだ。

「私のような存在が生まれるのは、本来ならあり得ない事。……でも、優輝はそんな普通の存在じゃなかった。……その時の優輝は気づいてなかったけどね」

〈彼自身が特殊だったからこそ、貴女が生まれたと?〉

「そうね。優輝は、今でこそ人間ではあるけど、かつて……それこそ、人でいえば前世の前世の……そのまた前世。それぐらい前の時は、人ではなかった」

〈輪廻転生……いえ、魂が同一ならば、一宗教の理に限った話ではありませんね。……なるほど、“性質”の作用……となれば、かつての彼は……〉

「その通り、神界の神だったわ」

 エアの推測を肯定するように、優奈は言葉を繋ぐ。

「なっ……!?」

「でも、ついさっき言った通り、今の優輝は人間。神の頃の記憶はないし、力もない。残っているのは、“性質”のみって訳。当然、自覚もなかったわ」

〈……しかし、その“性質”によって生まれた貴女は……〉

「そう。覚えてるって訳」

 記憶がないのは、単に忘れている訳ではない。
 その部分が消失しているのも同然なのだ。
 だからこそ、本来であれば優輝は決して神界の神であった事を思い出せない。
 だが、“性質”は記憶を失う以前から変わっていない。
 それが変わっていないのであれば、神であった頃の記憶も完全には消えていない。
 故に、そこから生まれた優奈は、優輝の持っていない記憶と知識を持っていた。

「志導優奈という存在自体は、いわば“優輝が女性だった可能性”なの。尤も、性別が違うだけで性格も色々変わってくるのだけどね」

〈……ですが、それだけではないはずです。“役割”と、先程は言っていましたね?〉

「……さすがに耳聡いわね、エアは」

 帝を助けに現れた時、確かに優奈はそう言っていた。
 そして、その“役割”を終えたと言う事も。

「私の“役割”……それは、優輝に神としての力や記憶を取り戻してもらう事よ。まぁ、“役割”と言っても特に何もする必要はなかったのだけどね」

〈その“役割”を終えたという事は……〉

「いいえ。まだ優輝は神に返り咲いていない。優輝の“可能性”は潰されたわ。他ならぬイリスによってね。記憶だけはある程度戻ったみたいだけど」

「あいつが、やられた……?」

 優輝が負けた事に、今まで会話に入れていなかった帝が反応する。
 優輝の強さを知っているからこそ、衝撃だった。

「み、皆は……?」

「何とか脱出したわ。優輝は、皆を確実に逃がすために残って戦う事を選んだのよ。……そして、倒れる前に私を分離させた。他でもない、孤立した貴方を助けるために」

「………」

 優輝が既に倒れた事、皆を逃がすために殿を務めた事。
 何より、自分を助けるためにここまで来た事に、帝は情報を呑み込めずに沈黙する。

「優輝は信じているのよ。貴方を、皆を。……例え、自分が倒されようと、敵の手に堕ちようとも、皆が立ち上がるのをね」

〈……彼は、ずっと一人で全てを背負っていました。戦力として頼っても、心の拠り所として誰かを頼る事はありませんでした。……そんな彼が……?〉

「……よく見てるわね、ホント。帝を支えているだけあるわ。……その通り、優輝は今度こそ心から皆を頼った。皆の“可能性”を信じて」

 そこまで話して、優奈は何かに気付いたように振り返る。

「説明はここまでね。とにかく、今は私が助けに来た事だけ理解してればいいわ」

「……敵か?」

「ええ。まずは撃退しつつ、神界からの脱出を図るわ」

「……わかった」

 説明の間が休憩にもなったのか、帝は回復しきっていた。
 そして、今は優奈によって“格”の昇華がなされている。
 ……もう、みじめに逃げ回る必要はない。

「“意志”を強く。それは変わらないわ。でも、それ以上に重要なのは自らの“領域”を保つ事。結界でも、信念でもいいわ。自分にとって“譲れないモノ”、それが貴方の“領域”であり、この神界において強みとなるわ!」

「ッ……!」

 刹那、極光が帝と優奈の二人を襲う。
 それを、優奈が理力で創造した剣で切り裂いた。

「“来る”わ!踏ん張りなさい!」

「ぐっ……!?」

 その直後に重圧が二人を襲う。
 理力を扱える優奈が事前に察知し、帝に備えさせる。

「(極光を切った際、かなりの熱を感じた……なら、熱に関する“性質”……!)」

 障壁を張り、重圧を軽減しつつ優奈は推測する。
 先程の極光には、物理的な熱が強く含まれていた。
 まともに食らえば、骨すら残らないような熱量だ。

「(さらに物理的な“重圧”。そして……!)」

 “ヒュッ”と言う、空気を貫く音が僅かに響く。
 直後、優奈は袈裟斬りを繰り出し、肉薄してきた“天使”の刺突を弾く。

「さしずめ、重力に関する“性質”と、槍または突きに関する“性質”ね……!」

「余計な邪魔を……!」

「今更白兵戦で負けないわよ……!」

 肉薄してきた“天使”は一人ではない。
 遅れて二人の“天使”と、その主である神がそれぞれ違う槍を持って襲い掛かる。
 しかし、計四人の攻撃を優奈は的確に捌く。

「俺も忘れるなよ……!」

「ちぃっ……!」

「私から目を逸らしていいのかしら?」

 帝の投影魔法による剣が“天使”達に向けられる。
 それに意識が向いた瞬間、さらに優奈が創造魔法で剣群を創造して繰り出す。
 剣の雨に、“天使”はその場で弾くか大きく迂回するように避ける。

「ふっ!!」

「ッ、さすがに強いわね……!」

 だが、残った神本人は最低限だけ逸らして優奈に槍の一撃を繰り出す。
 未だ重圧の影響がある優奈では、その連撃に防戦一方になる。

「そらぁっ!」

「ふん!」

「そこよ!」

 そこで、帝が足元から王の財宝で攻撃する。
 それを一息で弾く神だが、さらに優奈が緋雪の分身魔法を模倣して、四方から一斉に攻撃を仕掛ける。

「甘いっ!」

 だが、それすらも槍を一回しするように振るって弾いてしまう。

「『ええ。それで仕留められるとは思っていないわ』」

「……逃したか」

 尤も、優奈にとってはそれは目晦ましに過ぎない。
 瞬間移動を用いて、優奈は帝と共にその場から消えていた。

「まだまだ来るわよ!」

「ああ!」

 移動した優奈と帝は、そのまま遠くから攻撃してきた神へと迫る。
 捕捉したのは重圧を放っていた神と、熱線を放ってきた神だ。
 当然のように重圧で動きを阻害され、熱線が弾幕のように放たれてくる。
 神本人だけではなく、“天使”達も同じようにしてくる。

「(帝を追っていた神はいくつかのグループに分かれている。……各個撃破していけば、確実に数は減らせるはず……!)」

「(体が重い……だが、そんなの関係ねぇ……!生きて帰るんだ!そのためにも、目の前に立ち塞がる敵を倒す……!)」

 動きを阻害されてるにも関わらず、優奈と帝は攻撃を避け続ける。
 優奈は“可能性”を繋いでいくために。
 帝は、生きて帰るために、“意志”を強く持つ。
 呼応するように、優奈からは理力が、帝からは魔力が強く放たれる。

「先行するわ。上手く援護して!」

「分かった!」

 先に優奈が瞬間移動で熱線を放っていた神に肉薄する。
 優奈は神界の神の記憶があるため、距離などを意図的に無視できる。
 それを利用して、一瞬で間合いを詰めたのだ。

「ッ……!やっぱり、“熱の性質”ね!」

 肉薄した瞬間、優奈の体を灼熱地獄の如き熱が襲う。
 熱線を放っていた神は、優奈の予想通り“熱の性質”を持っていた。
 それにより、その神の周囲は通常なら無事では済まない程高熱だった。

「くっ……!」

 いくつもの武器を創造して、その神にぶつけようとする。
 だが、届く前に全て高熱によって熔けてしまう。

「(厄介ね……熱気の範囲がそのまま“領域”になってる。攻防一体の“性質”……どうやって破るか……いえ、策は考えない!)」

 理屈で考えてもどうしようもない。
 即座にそう判断を下し、優奈は理力をそのまま放つ。
 力の塊でしかない理力であれば、熱気のバリアは無効化できる。

「“天使”が集まって相乗的に“領域”が強まっている……でも」

「エア!世界を切り裂け!!」

「もう一人、忘れちゃダメよ?」

   ―――“カタストロフ・エア”

 世界を裂く一撃が“天使”を襲う。
 宝具である天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)と違い、その威力は格段に低い。
 だが、世界を裂く概念効果はあり、“格”の昇華で神界に通じる今、熱気を“領域”として展開する神に絶大な力を発揮する。

「なっ……!?」

「単純にぶつけるのではなく、文字通り“世界を裂く”。“領域”はその者にとっての“世界”。そんなのを表に出していたら、ねぇ?」

「くそっ……!」

 “熱の性質”を持つ神である男が悪態をつきつつ、熱気を収める。
 あまりにも帝の魔法と相性が悪いため、その判断は間違っていない。
 だが、それは悪手だった。

「生憎、代償なしに倒せるなんて思ってないのでね」

「ぐっ……お前……!?」

 肉薄した優奈が、神の体に手刀を突き刺す。
 それだけでは、神を倒す事は出来ない。それは優奈も神も分かっている。
 それどころか、“性質”によって体内に熱を集中され、優奈の手が焼ききれる。
 その上で、優奈は手刀から理力を全力で放出した。

「が、ぁあああああああっ!!?」

「手一つで一撃で倒せるなら、使わない訳ないでしょう」

 “領域”に直接干渉し、一気に倒す。
 相手の“領域”に踏み込むため、優奈もただでは済まない。
 “熱の性質”によって、優奈の右手は一時的に焼け落ちた。

「貴方達には代償はいらないわ。今ので、どういった力か理解したから」

「ッッ……!?」

 それだけで優奈の攻撃は終わらない。
 残った“天使”に対し、理力のレーザーを放つ。
 攻防一体の“領域”を持つとはいえ、戦闘技術があまり高くないのか、“天使”達はほとんどが避けきれずに食らう。

「帝!」

「ああ!」

 優奈が追撃として、理力を体に浸透させるようにぶつけていく。
 同時に、帝が剣を飛ばして牽制し、反撃をさせないように立ち回る。

「(同じ理力を使えるのなら、容易にこちらの“領域”へと引きずり込める。……つまり、地球の、他世界の戦闘の法則に引きずり込んで、倒せる!)」

 理力を込めた掌底や、剣による一撃などで、“天使”達はどんどん倒れていく。
 耐えても追撃を二発も食らえば倒れていた。
 今までどれほど攻撃を叩き込んでも倒せなかった神界の神や“天使”が倒せるのは、優奈が無理矢理地球や他世界の戦闘の法則に引きずり込んでいるからだ。
 ただの物理的な戦闘で、強く影響を受けるように概念を上書きしている。
 神界についてかなり理解を深めた優奈だからこそできた事だ。

「このっ……!」

「(白兵戦に切り替えてきた……それは正解。でも、悪手ッ!!)」

 熱を集束させ、某ライトセーバーのように振るってくる“天使”。
 だが、それこそが優奈が狙った事。
 近接戦に限れば、優奈に敵う者などほとんどいない。

「ッ!」

「ごっ……!?」

 カウンターの掌底を食らい、体が浮く。
 そこへ、いくつもの剣が飛んできて体が串刺しとなる。
 ダメ押しのように帝の剣も刺さり、最後に理力の塊で押し潰された。

「……まずは、一人」

 これで、“熱の性質”を持つ神とその眷属の“天使”は全滅した。
 次にターゲットにするのは……

「次は、貴方よ」

 理力を使って魔法陣を構成し、今の今までかかっていた重圧に干渉する。
 そう。先程からずっと“重力の性質”による重圧がかかっていた。
 その上で“熱の性質”を持つ神を倒し、重圧に干渉したのだ。

「ふっ!!」

 干渉してくる“性質”に理力を通し、遠隔で衝撃波を放つ。
 同時に、どこにいるかを逆探知。帝の手を掴み、瞬間移動する。

「ッッ……!」

「させません!」

 移動先には、理力の一撃を食らって怯む神と、追撃を阻止しようとする“天使”の姿があった。

「っ……!」

「そこだ!」

 理力が扱えるなら、形なき力でさえ、形あるものとして扱える。
 優奈は理力を障壁のように広げ、“天使”達が繰り出した重圧を防ぐ。
 同時に、帝が武器を飛ばして牽制。隙を作り出す。

「理力の力をそのまま使う……っていうのは、むしろ人間の方がやりやすいみたいね」

「っづ……!?」

 その隙を突くように、優奈が刃状に固めた理力を飛ばす。
 “性質”による重圧を無視し、神と“天使”達の体を二つに別つ。

「『どういう事なんだ?』」

「『神は、良くも悪くも自身の“性質”に影響されるのよ。今回で言えば、奴らは自身の“性質”である重力を操る力に、理力が自動的に変換されてしまってる。さっきの私みたいに、力をそのまま飛ばせないのよ』」

「『なるほど……』」

「『他にも……優輝が神界で最初に戦った神。あいつで言えば、マイナス方面に近い“青の性質”を持っていた。青……つまり倦怠感やブルーな気持ちと言ったイメージカラーも操れるのだけど、その倦怠感などが神本人にも影響していたの』」

「『諸刃の剣みたいなものか?』」

「『そうね』」

 今まで一人だった帝には情報も足りない。
 それを補うように、優奈が念話で説明する。

「『他にも、こうして“戦闘”という形にしている時点で、私達の“領域”に踏み込んでいるの。なまじ固有の“領域”を持たない私達を倒すためには、分かりやすい形で私達に敗北を分からせる必要がある。だから、こうして“戦闘”になっている』」

「『……えっと、つまり……俺達の土俵に態々上がっているのか?』」

「『良い例えね。その通りよ。条件としては、神界の存在ではない方が有利なのよ。……ずっと、皆勘違いしていたのだけどね』」

 しかし、だからと言って勝てる訳ではない。
 逆に言ってしまえば、神々は相手の土俵に上がってなお、勝つ力があるのだ。

「そういう事だから、さっさと沈みなさい」

「ご、ぁっ……!?」

 “重力の性質”を持つ神に左手を突き刺し、先程の神と同じように理力を放つ。
 “性質”をモロに受け、優奈の左手も無残に潰れる。

「っづ……!」

 だが、これで二人の神とその“天使”達を倒せた。
 一人の両手を犠牲にこの戦果はかなり大きいと言えるだろう。

「優奈!」

「……このくらい、平気……!優輝はもっと酷い状態で戦い続けたんだから……!」

 痛みがない訳ではない。両手が使えなくなった優奈は顔を顰めていた。
 それでも、優奈は戦う姿勢を止めない。

「右手は完全に焼け落ちて、左手は原型がないほどぐちゃぐちゃにひしゃげた。……でも、治る可能性はゼロじゃない」

「何を……」

「不完全とはいえ、私は優輝の神としての力をある程度扱えるの。……神の権能さえあれば、放置しても治っていくわ」

 そういうと、優奈は理力を手へと流す。
 それだけで、治療不可に見える手が少しずつとはいえ治り始めた。

「ッ……!」

「ちょっ、帝?別に、治るわよ?」

「んなの関係ねぇ!……王の財宝の……この薬なら……!」

 だが、帝は見てられないとばかりに、回復魔法を使いながら王の財宝から回復薬を取り出し、それを優奈の再生し始めた手に掛けた。

「これで、治るのも早くなるはずだ」

「別にこんな事しなくても……」

「関係ないって言っただろ」

 低いトーンで言われ、さすがに優奈も何事かと帝に向き直る。

「俺は馬鹿だ。概念とか、役割だとか、そういった複雑な事を言われても、半分までしか理解できない。……これでも以前は“踏み台転生者”な事をやってたんだ。自分の馬鹿さ加減には呆れすらあるほどだ」

「………」

「……でもな、それでも、譲れないモノがあるんだよ……!!」

 見る見るうちに優奈の手が治っていく。
 それを何度か横目で見ながら、優奈は帝の言葉に耳を傾ける。

「もっと、自分を労わってくれ……!俺は、お前に傷ついてほしくないんだ……!」

「帝……」

 神界だからこそ、帝の強い“意志”が言葉に乗って伝わってくる。
 必死で、切実で、だけど自分にはどうしようもない、そんなもどかしい感情が。

「俺は!お前が―――」

「―――それ以上は、ダメだよ」

 ……故に、優奈は全て吐き出そうとする帝を止める。

「……それ以上は、ちゃんとここから脱出してから、ね?」

「…………ぁ、ああ……」

 困ったように微笑む優奈。
 帝も、自分が今言わなくてもいい事を言いそうだったなと、その言葉を呑み込む。

「さぁ、話を戻す……前に、もう一人残っていたわね」

「……さっきの槍使いか」

「ええ。白兵戦に強い“性質”を持ってる。……だから、さっきまでの諸刃の剣のような戦い方は通じないわ」

 先程までは戦闘技術が低い神だったからこそできた事。
 白兵戦に持ち込み、隙を突かなければ出来ないため、その白兵戦に強い神が相手では、むしろ不利になる。

「今度は、白兵戦に対応しつつ、理力で“領域”を削るしかないわ」

「……となると、俺は援護だけか」

「ええ。頼りにしてるわ」

 剣を矢に変え、帝は弓矢を構える。
 そこへ、いくつもの槍が飛来した。

「標的確認……エア、撃ち落とせ!」

〈はい!〉

 矢を放ち、投影魔術で剣を射出する。
 さらに、制御と捕捉をエアに任せて槍を撃ち落とす。

「ふっ!!」

 その間に、肉薄してきた神による槍の一撃を優奈が逸らして捌く。

「(俺が出来るのは飛んでくる槍を撃ち落とす露払いだけ!神相手に白兵戦で競り勝てると思うな!なまじ勝ったとしても、それで倒しきれる訳じゃない!)」

 帝は心の中で自分の役割を再確認する。
 飽くまで自分は優奈の援護をするだけだと、妨害を防ぐために行動するのだと。

「ッッ……!」

 いくつもの金属音を響かせながら、帝は武器を飛ばし、槍を撃ち落とす。
 遠くに見える“天使”の数は僅か三人。
 神本人が単独で肉薄してきた所を見るに、“槍の性質”持ちは計四人だけだろう。
 近くの他の神や“天使”は、先程全滅させた。

「(数が少ない今だからこそ……チャンス!)」

 投影魔術で槍を相殺しつつ、矢を放つ。
 エミヤの力がある帝であれば、その矢は寸分違わず“天使”の額に当たる。
 さらに二射、三射目と放つが、その二発は槍で弾かれた。

「(防がれた。けど、その間に……ッ!?)」

 牽制にはなっただろう。そう考えて帝は優奈の方へ視線を向ける。
 だが、そこには神一人に苦戦する優奈の姿があった。

「(恐ろしく速い上に、重い!単純に槍捌きが上手い……!)」

 穂先を逸らし、受け流す。同時にカウンターを繰り出す。
 しかし、すぐに槍がそのカウンターを防ぐ。
 一手一手が堅実且つ鋭く、カウンターすらも防げるように立ち回っていた。
 ならば厄介な槍を奪えばいいと、優奈は試す。
 しかし、奪おうとした瞬間にその槍は消え、別の槍を手に取って攻撃してきた。
 単純に白兵戦が強く、このままでは長期戦になると思われた。

「『優奈!!』」

「っ!」

 帝が念話で呼びかけ、“天使”達への牽制を続けつつ王の財宝を展開する。
 そこから、巨大な剣……千山斬り拓く翠の地平(イガリマ)を射出する。
 すぐさま優奈はバク宙の要領でその上に乗るように躱す。
 そして、そのまま神へとぶつけようとした。

「ぬっ!?」

 だが、神はあっさりとそれを下へ逸らし、同じく乗る。

「ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 そこへ、帝が遥か上空から投影魔術を用いつつ躍りかかる。
 “天使”達へは、大量の武器群と王の財宝から“万海灼き祓う暁の水平(シュルシャガナ)”を放った後、放置していた。

「なんと……!?」

「ぁあああああああああああああああああああ!!!」

 それは、一か八かの賭けだった。
 なまじ白兵戦では勝てないと判断した帝だからこそ、その行動に出た。
 ガワだけ投影した、いくつもの千山斬り拓く翠の地平(イガリマ)万海灼き祓う暁の水平(シュルシャガナ)を一気に神に向けて放つ。

「ぬぅっ……!」

 どれも神には通用しない。だが、無視される事はない。
 理力による障壁か、槍によってそれらの剣は悉く無効化される。

「……見事」

 だが、優奈から一時的に意識は逸れる。それが狙いだった。
 全ての剣が無効化された直後、優奈が分身魔法と併用して神に斬りかかる。
 一撃一撃が必殺。それを察知して、神は自らの敗北を悟った。







「……一度逃げるわよ」

「あ、ああ……!」

 あの一撃が決定打となり、徐々に優奈が競り勝った。
 その後、足止めしていた帝に加勢に入り、“天使”達を倒した。
 そして、休む事なく移動を開始する。

「このまま進むのはダメなのか?」

「忘れたの?神界では単純な移動では意味がないわ」

「っ、そうだったな……」

「……安心して、貴方だけでも絶対に送り届けるから」

「……………」

 瞬間移動でその場から移動し、優奈と帝は駆ける。
 その時の優奈の発言に、帝はずっと何かを思うように黙り込んでいた。













 
 

 
後書き
“槍の性質”…文字通り。槍を扱うのに長け、槍を使った白兵戦では優奈を上回った。他にも槍を創造して射出なども可能。

“熱の性質”…文字通りの性質の他、熱線を放ったり熱気であらゆるものを燃やすor熔かす事ができる。さらに、熱気の範囲がそのまま“領域”となる攻防一体の強さがある。ちなみに、見た目は褐色肌の赤髪赤目な暑苦しい容姿。

カタストロフ・エア…デバイスのエアを使った帝の切り札。天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)の威力をかなり弱体化させた魔法だが、世界を切り裂く効果は健在。さらには連発しやすいという利点がある。

万海灼き祓う暁の水平(シュルシャガナ)…プリズマイリヤに登場。詳しくはWiki参照。


リヒトは帝の所まで飛んでいくのにほぼ全ての力を使いました。なので、優奈はリヒトを使わずに戦っています。
また、優奈が帝の所まで飛んでいけたのは、リヒトと優輝による“導き”の力によるものです。 
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