ペルソナ3 アイギス・だいありー
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
中編
前書き
全編アイギスの1人称で書くつもりだったのですが、感情に乏しい頃のアイギスの1人称ではどうしても細かい描写ができません。やむを得ず中盤は風花を語り手として代弁してもらうことにしました。
ロボットについてなんだかんだと語ってますが、別に私も詳しいわけではないのでご容赦を。雰囲気だけ感じていただければ結構です。
「ロボット博覧会?」
夜、寮の1Fに全員が集まっているところで、順平君が桐条先輩に昼間の出来事を説明しました。
順平君の話を聞いて、桐条先輩が少し首を傾げました。
「風花とか、そういうの好きそうだよね。」とゆかりちゃんに話しかけられたので、「うん、ちょっと興味あるかな・・・。」と私は答えました。
それにしてもアイギスがこんなイベントに興味をもって、行きたいと主張するなんて、本当に驚きです。
アイギスの方に目を向けると、彼女は霧条先輩をじっと見つめています。その視線には、「どうしても」という真剣なものが感じられる気さえします。
「これなんスけどね。最先端のロボット展示会とかってやつで・・・その目玉がこの会話ロボットらしいんスけど・・・」
順平君がチラシを差し出しました。
先輩はそのチラシの裏表を見て「うちのグループが主催してるのか。」とつぶやきました。
チラシが順番に回され、私もゆかりちゃんから受け取って見てみました。
個人的にはすごく興味のあるイベントです。アイギスも同じロボットとして何か感じるものがあったのでしょうか。
「しかし、いくら最先端のロボットといっても、アイギスとでは比べ物にもならないだろう。」
真田先輩が腕組みをして少し困惑したように言いました。
「まあ、そうだろうな。現時点の科学技術では、はっきり言ってアイギスレベルのロボットの製造は不可能だ。アイギスはロボット工学とは異なる、超科学的なもので成り立っている。むしろオカルトに近いと言っていい。タルタロスやシャドウやペルソナの研究成果だからな。」
桐条先輩が答えました。
そう、アイギスはロボットではあるのですが、技術的な意味でのロボットというものを超えた存在です。その核となるのはパピヨンハートと呼ばれる未知の物質なのです。
「ペルソナだって使える、心のあるロボットですからね。ここで展示されるようなロボットとは別物だと思います。」と私も言いました。
「まあ、心っていっても、まだ人間にはほど遠い感じだけどな。」
と順平君が言ったので、私は首を振って返しました。
「そんなことないよ。だってただの機械は何かに興味を持ったり、自分の仲間であるロボットに会いたいなんて思ったりしないでしょ。まだ経験が乏しくて未熟だから非常識なことを言ったりもするけれど、心が無いわけじゃなくて、成長している途中なんだよ。」
「そっか・・・ああ、でも、そうかもな。」
順平君はうなずきました。
「確かにこれに行きたいって言った時のアイちゃんからは、なんだかすごい気迫を感じてさ。つい、こうしてチラシを持って帰ってきちまったわけよ。」
順平君の言葉に天田君も「そうですね。」と同意しました。
「アイギスは自分と同じロボットに会ったことがない・・・か。そりゃあ、会えるというなら会ってみたくもなるかもね。」
ゆかりちゃんもそう言って小さくうなずきました。
「グループが関与しているなら、夜、展示会が閉まった後にでも見せてもらうよう手配はできるだろうが・・・。しかし、おそらくアイギスが会いたがっているような代物ではないだろうな。それでも良いのだろうか。」
桐条先輩は悩ましげに言いました。
「展示会に出ているのは、ごく当たり前のロボット工学の産物だろう。アイギスのようなオカルティックなものが出てきたら、世界中がひっくり返る。そもそもアイギスの構造には製作者も解き明かせないブラックボックス的な部分が多数あって、そうそう世の中に出せるようなものではないからな。」
それから桐条先輩はアイギスに向かって声をかけました。
「ということだが、アイギス。正直、会話と言っても、お前が期待するようなレベルの物とは思えない。それでも行きたいか。」
「はい。」
アイギスは迷わず即答しました。
「現代のロボット工学の技術のレベルについては、検索して把握できています。それでも私と同種族というのであれば、会って確かめてみたいのであります。」
「そうか・・・。わかった。では、関係者に打診してみよう。立場上、私も同行する。君も来てくれるか?」
桐条先輩はリーダーである『彼』の方を見て訊きました。
「ええ、大丈夫です。」
『彼』が静かに答えます。
「あの・・・私もいっしょに行っていいですか?」
たまらず、私も声を上げました。
「私もこういうものに興味があるから・・・こんな機会めったにないし、見てみたいなって・・・」
あまり女の子らしくないかな、と思って少し顔が熱くなります。
それでも、アイギスがそのロボットと会ってどんな反応をするのか、それを確かめずにはいられません。
「ああ、構わないぞ。他にも行きたいものがいれば言ってくれ。」
桐条先輩が、みんなを見回します。
「ワン!」とコロちゃんが吼えました。。
「お前はだめだ。」
先輩の言葉にコロちゃんは悲しそうにクゥーンと声を上げました。
見学は展示会が終了した後の、夜遅くということになりました。
結局、これまでの行きがかり上、順平君も来るということになって、アイギスと他4名という一行となりました。
会場である国際展示場は巌戸台からはそれほど遠いわけではありませんが、桐条先輩がワゴン車を運転手付きで手配してくれたので、みんなでそれに同乗していきました。
会場の撤収作業は翌日となっていたため、私達は展示物をほぼそのままの状態で見ることができました。
「無理を言って申し訳ありません。」と頭を下げる桐条先輩に、案内担当である現場主任の山村技師はにこやかに応じてくれました。
会場にはさまざまなロボットが陳列されたままになっています。
災害現場で崩れたがれきの隙間を移動できるへび型ロボット、足場の悪いところでも歩ける四つ足ロボット、足の悪い人を補助する介助ロボット 等、人間形態のアイギスとは程遠い、奇抜な形のロボットが大半を占めています。
私はその一つ一つが面白くて、時間があるならいつまででも見ていたいくらいでした。
その中で、純粋に人間形態と言えるのはごく一部です。
目立ったのは、軽快なステップで歩いたり踊ったりできる『ATOM』。子供サイズで顔も可愛らしく、頭に2本の角のような突起があります。
他には、スリムな体形で、こちらは高速で走ったり、高く飛び跳ねたりできる『8ーMAN』。胸に大きく「8」の文字が入っています。
あと目を引いたのは、右半面はいかにもロボットらしい青い外装に覆われているにも拘わらず、左半面はカラーリングは赤く、ところどころが透明で内部構造が見えるようになっている、人体模型のような外観の『ジロー』。
そして最後に、銀色の近未来的な衣装を身に着けて、美少女の姿をしているのが『スピカ』です。
スピカは座ったままで歩くことはできません。しかし表情の変化は豊かで、手も複雑な身振りを再現しています。人間と会話することに特化したロボットなのです。
精巧すぎて、停止している状態ではむしろ不気味な感じがしますが、動き出すと驚くほど人間らしい表情ができます。
コンピューターそのものは体の外にあり、ケーブルで接続されていてリモートで動くようでした。
「スピカは、こちらの問いかけに対して対応する考え、回答をしてきます。また興味を持ったことについては質問してきたりもします。」
山村さんが説明してくれました。
「興味ですか。ロボットがどうやって興味を持つのです?」桐条先輩の問いに
「まあそれもプログラムの内です。言ってしまえば、組み込まれているデータの中から選択しているだけではあります。それでも自分が得た情報を元に関連する質問してきますので、かなり人間との会話を再現できていると思います。」と山村さんは説明しました。
「こちらがスピカの頭脳をほぼ独力で開発した和久田君です。」
山村さんに紹介されて、スピカのコンピューターを操作していた三十歳くらいの男性が会釈をしました。しかし笑顔は見せず、暗い目つきをしています。その表情に、私は少し不吉なものを感じました。
「山村さんは単純にそう言いますが、人間だって頭の中に記憶された物から選択して言葉を発しているわけです。ただ機械より前提条件が複雑なだけです。スピカは機械的な作業としてではなく、独自の思考に基づいて言葉を選択しているのですから、そういう意味では初歩的な人格が備わっていると言っていいレベルで会話の相手ができています。今後、さらにデータ量を増やしていけば、いつかは本当の人間と変わらない会話ができるようにだってなるはずです。」
和久田技師は、山村さんの説明が不満だったのか、そう言いました。
「・・・ということです。」
山村さんはその態度をまったく気にしないかのように、こちらを向いてににこやかに言いました。
和久田さんは少し顔を歪めて口を尖らせると、そのまま端末に向かって作業に戻りました。
「彼が愛想が無いのはご容赦を・・・。もともとこの展示会までの調整で、徹夜続きで疲れているんです。その分 スピカが愛想を振りまきますので・・・それでは早速試してみましょう。」
山村さんはみんなをスピカの前に誘導しました。
「どうぞ、何か話しかけてみてください。」
みんなが顔を見合わせて躊躇したので、私が思い切ってが「こんにちは。」と声をかけてみました。
「こんにちは。私の名前はスピカです。」とスピカが返してきました。人工音声だけど、アニメキャラ的な可愛い声でした。
「私は風花っていいます。」
「風花さん、よろしくお願いします。風花さんはおいくつですか?」
「16歳。高校生です。」
「私といっしょですね。」
スピカが笑顔を見せて、うれしそうに両手を合わせます。背後で「そういう設定です。」と山村さんがささやきました。
「学校では何かクラブ活動をしていますか?」
スピカがさらに質問をしてきました。話し方は驚くほど自然です。表面的な雰囲気はアイギスと遜色有りません。
「私は写真部に入っています。」
「写真を撮るのは楽しいですか。」
「自分がきれいだと感動したものを、写真として残せるのはとても楽しいです。」
「それはとっても素敵ですね。」
「ありがとう。スピカさんは何かクラブ活動をしていますか?」
ちょっと無理な質問だったかな、と私は気になりましたが、スピカはよどみなく答えてきました。
「私はお仕事があるのでクラブ活動はしていません。おしゃべりが好きなので、こうして皆さんとお話する仕事をしています。」
その後、さらに少し話を交わした後、他の人に入れ替わりながら交代で話をしました。
会話は非常にスムーズでしたが、当然ながら表面的なものであり、あまり深い内容の話にはなりませんでした。
それでもスピカは、スポーツの話、政治の話、アイドルの話 等、どんな話にも対応してきます。
「私は〇〇が好きです。」「〇〇を応援しています」と言ったり、時々夢を語ったりもしましたが、それもあらかじめプログラムされている設定なのでしょう。
技術的には見事なものでしたが、これがアイギスが期待したような会話と言えるのかが気になりました。
「アイギス。お前も話してみるか?」
桐条先輩が気を使ってアイギスに声をかけました。
「はい。」と言ってアイギスが前に出ます。
「アイギスであります。スピカさん。こんにちは。」
「こんにちはアイギスさん。アイギスさんもみなさんのお友達ですか。」
「同じ活動をする仲間であります。」
アイギスが答えます。
「スピカさんは自分が人間ではないことを自覚しているでありますか。」
唐突にアイギスがそんな質問しました。きわどい質問に、一瞬、場の雰囲気が凍り付きます。
「はい、私はロボットです。話をするロボットなので『スピーカー』から取って『スピカ』と名付けられました。アイギスさんもロボットなのですか?」
「はい。」
アイギスが即答します。一同、何を言い出すのかとギクッとしましたが、付き添いの技師は笑っています。冗談だと思ったのでしょう。
アイギスがロボットであることは、ここの人たちは当然知りません。金髪碧眼の容姿なので、外国人留学生だという風に紹介してあります。今日は月光館の制服を着て来ていまし、どこからみても人間にしか見えません。
「それじゃあ、私と同じですね。お友達になれるでしょうか。」
「はい。初めての、ロボットのお友達であります。」
「とてもうれしいです。」
「うれしいですか? うれしいとどんな感じがするのでしょうか。」
アイギスが興味深そうに尋ねました。
「笑いたくなるような、体が浮き上がるような、そんな感じになります。」
スピカの答えを聞いて、アイギスは「なるほどなー。」といった後、少し考えるように口をつぐむみ、それから「それならば、私もうれしいであります。」と答えました。
そしてアイギスとスピカは顔を見合わせて笑みを浮かべました。
それが、私にはまるで本当に気持ちが通じ合っているかのように見えました。
「見事なものですね。」
桐条先輩が感心したように言いました。
「アイギスが突拍子もない質問をしたのに対しても、実に自然な流れで会話を続けた。」
「まあ、こういう催しものだと、わざととんでもない会話を振ってくる人がいるものですから・・・。たいていのことには対応できますし、本当に困れば『私にはわかりません』と答える逃げ道も作ってあります。」
山村さんが答えました。
「いや、あまり素晴らしいので、思いのほか長い時間過ごしてしまいました。展示会でお疲れのところ、遅くまでお付き合いいただいて申し訳ありませんでした」
「とんでもない。気になさらないでください。実のところ、私たちの取り組みは金食い虫ですので、グループ党首のお嬢様にご理解いただくことは願ったりなのですよ。」
山村さんはあっけらかんと笑ってそう言いました。
その後、山村さんに見送られて、私たちは車で会場を後にしました。
「感じのいい方でしたね。」と私が言うと、
「まあ、技術屋というより政治屋だな。最後に言っていたことが本音だろう。しかし、ああいう人物がいないと、技術的プロジェクトというものはなかなか進まないものだ。」と桐条先輩が答えました。
それからアイギスに「どうだった?アイギス。満足したか?」と訊きました。
「はい。初めて同じロボットと話をして、お友達になることができました。満足であります。」
アイギスが答えました。私にはその声音が本当に嬉しそうに聞こえました。
「しっかし、スピカっちは、なかなかのもんだったよ。可愛いし、喋り方なんかもアイギスより流ちょうなくらいだったしさ、ロボットだって知らなかったらナンパしたくなっちゃうくらいだよな。」
順平君がいつものテンションで『彼』に言いました。それに対して『彼』もいつもの調子で「どうでもいい。」と返します。
「それで、デートに行くならどこに行きたいか、などと聞いていたのか。」
桐条先輩があきれたように言うと、「私も屋久島で初めてお会いした時に、ナンパされたであります。」とアイギスが言いました。
「えっ、あっ、ちょっと、なんでそういう流れに?」
順平君が思わぬ返しにおたおたとする姿がおかしくて、私は思わず笑ってしまいました。
ここにゆかりちゃんがいたら、きっときついツッコミが入ったことでしょう。
「でも、本当に遅くなってしまいましたね。すみません。私がいちいちじっくり見てたから。」
私は助け船を出すつもりで話の流れを変えました。
「なに、君だけではないさ。こういうきっかけではあったが、私も興味深く見せてもらった。まあ予定より遅くはなったが、なんとか影時間までには帰れるだろう。」
桐条先輩がそう言ったところで、先輩の携帯電話が鳴りました。。
「はい。・・・はい、私です。」
先輩が電話に出て、しばらく相手の話を聞いて、「なんですって?アイギスを?」と急に声音が変わりました。
そのただならぬ様子に、「どうかしましたか?」と『彼』が尋ねます。
「いや、それが・・・スピカがアイギスのことを呼んでいるらしい。」
桐条先輩は、電話を耳に当てたまま戸惑った表情で言いました。
後書き
『ATOM』とか『8-MAN』とか『ジロー』とか、あからさまに出してみました。最初はオリジナルで考えてたんですが、なんか元ネタがあった方が面白いかと思ってこうなりました。ジョークだと思って見逃してください。
後編ではアイギスの1人称で、アイギス対ロボット軍団の戦いとなります。
ページ上へ戻る