ペルソナ3 アイギス・だいありー
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前編
前書き
実は今、「マーダーボット・ダイアリー」というアンドロイドが主人公の小説を読んでいまして、アイギスの1人称小説も面白いかも・・と思って挑戦してみました。しかし、終盤の人間に近い状態のアイギスならともかく、前半の常識や感情に欠けるアイギスの1人称はなかなかきついです。
結果的に、風花と交互に語らせることにしました。
まずはアイギスパートをどうぞ。
アイギスであります。
正式名称は対シャドウ特別制圧兵装七式であります。
月光館学園 巌戸台分寮を拠点とする特別課外活動部に配備され、戦闘兵器としてシャドウ殲滅の任に就いているであります。
但し、平常時においては、特別課外活動部顧問の幾月さんより「人間の心を理解し、人間の心に近づくこと」という課題を与えられています。その為には、大勢の人間とコミュニケーションを取り、多様な状況下でのケーススタディから人間らしさを習得していくことが必要と考えられます。
しかし、私は一人で寮から出ることを禁じられており、自由に野外活動を行ことができません。
その理由としては、「人間に対する理解が浅く常識が欠けている為、人前で不自然な行動をとる危険性が高いから」とのことであります。「常識」とは社会生活を円滑を行う為の指標のひとつで、これを知らずに世の中に出ることは、交通ルールを知らずに車を走らせるに等しい行為と言えます。ゆえに、現状での「外出禁止」は理にかなった判断では有るのですが、「常識」を身に着ける為にはまた多くの人間とのコミュニケーションが必要であると考えられ・・・どうにもジレンマであります。
結果として現状では、日中の話し相手が主にコロマルさんだけ、ということになっています。これでは人間の心より、犬の心に近づくことにならないでしょうか。
状況打破のためにも、なんとか人間とのコミュニケーションを増やす機会が必要と思われます。
この寮で、私の次にコロマルさんとコミュニケーションを取れるのは天田さんであります。
推測ですが、これは天田さんが他の方より年齢の若い「子供」であることが関係していると思われます。人間は言葉を話せない四つ足の状態で生まれてきて、徐々に成長して人間らしくなっていくので、その過程においては人間より動物に近いのであります。つまり天田さんは人間より犬などの動物に近く、それ故に犬であるコロマルさんの心がよくわかるのではないでしょうか。
そんな考察をしていたところで、ちょうど天田さんが階段を下りて来ることに気がつきました。そういえば今日のコロマルさんの散歩当番は天田さんの番であります。
ここはひとつ、学習の為に、私も散歩に同行させてもらえるよう天田さんと交渉するであります。
「天田さん、コロマルさんの散歩でありますか?」
「あ、アイギスさん・・・。ええ、コロマルの散歩がてら買い物にでも行ってこようと思って・・・。」
私が話しかけると、天田さんは少し警戒気味に返事をされました。
私が人間の対応に不慣れなように、天田さんも人間ではないものとの対話に慣れていないと思われます。これは、いわゆる「お互い様」という現象であります。
「私もいっしょに連れて行っていただけないでしょうか?」
「えっ」
天田さんは驚いた声を上げて目を見開きました。その後しばらく沈黙したまま、落ち着かない様子であたりを見回し、何か考えている様子であります。
これは「困っている」という状況と思われるであります。
「どうしようかな・・・僕一人じゃ、ちょっとマズいんじゃないかな・・・。」
72秒後に出た天田さんの回答は否定的であります。そこで重ねてお願いをしてみることにしました。
「なんとかならないでしょうか。私は人間を理解するよう命じられています。その為には寮の外で多くの人間を観察して、情報を増やすことが必要であります。」
交渉においては、まず相手に「こちらの状況への理解」を得ることが重要であります。
「それはわかるんだけど・・・どうしよう。困っちゃったな。」
天田さんからはなかなか了承が得られません。交渉は難航しています。次の段階として【対応レベル】を引き上げる必要がありそうです。
私が【火器使用による威嚇】を検討していると、ちょうどそこに順平さんが帰宅されたであります。
「ちーす」
「ああ、順平さん。良かった。」
ドアから入ってきた順平さんを見て、天田さんが助けを求めるように声を上げました。
「んー?どうした?天田少年。」
そう言うと、順平さんは笑いながらこちらに近づいて来たであります。
「アイギスさんが、コロマルの散歩についてきたいって言うんですよ。」
「おや!」
順平さんが大きく目を見開いてこちらを見ました。
「なあに?アイちゃん、散歩にいきたいの?」
「はい。私は人間と多くのコミュニケーションを取り、常識を身に着けることを命じられているであります。寮の中では情報収集に限界があるので、外の世界を観察する機会を増やす必要があると考えられます。」
「ははあ、なるほどね。そりゃーわかるけど・・・さすがに天田少年一人では荷が重いよなあ。」
順平さんはそう言って、天田さんの肩に手を回したであります。天田さんは少し窮屈そうな困ったような表情であります。
「それでは順平さんも、同行していただけないでしょうか。」
私は方針を変え、順平さんにもお願いしてみることにしました。
順平さんはキョトンとした表情で、自分の顔を指さして首をかしげました。
「順平さん、僕からもお願いしますよ。」
天田さんも一緒に頼んでくれました。コロマルさんも甘える声を上げてねだっているであります。
「ええー、コロマルまで・・・。なんだか俺、人気者? ・・・しょうがないなあ。それじゃあ、アイちゃんと天田少年の為にひと肌脱ぎますか。」
交渉の結果、ついに順平さんの承諾を得られました。これは大きな進歩であります。私はミッションの達成に対して、体が浮くような奇妙な感覚を得ました。その感覚は私にとって好ましいものでした。
「ありがとうございます。それではすぐにリードを用意するであります。」
「おっ、アイちゃんよくわかってるじゃないの。」
「はい。散歩の際は安全対策上、リードを着用する事がマナーであります。」
私は物入からリードを取り出し、皆さんのところに持っていきました。
「これはコロマルさんに付ける分、そしてこれは私に付ける分であります。」
「えっ、ちょっ!! ・・・アイちゃんにもつけるの!?」
順平さんが、驚いた表情で訊いてきました。
「散歩ですから。」
「やめて! そんな恰好見られたりしたら、なんか特殊な趣味の人みたいに思われちゃうから・・・・。」
順平さんは焦ったように声を張り上げたであります。
「あと、これは順平さんに付ける分であります。」
「ええー!、ちょっと待って、俺もそっちなの!?」
「はい。本日の散歩当番は天田さんであります。同伴者にはリードの着用が必要と判断されます。」
「勘弁して!!」
「散歩のマナーであります。」
「そんなマナー無いから!!!」
こうして コロマルさん、天田さん、順平さん、に同行して散歩に出たであります。
私は「そのままの姿での外出には問題が有る」と指摘されたので、屋久島から持ってきた青い服を身に着けました。
服を着ることに対する必要性はまだよく理解できませんが、これも社会通念上の「常識」というものかと思われます。人間は調和を求めるので、社会生活において不自然に見えないということは重要なことであります。
夏も終わりに近づき、日が傾くのが早くなりつつありますが、それでも外はまだ明るくて人通りも少なからずありました。
小さな子供と手をつないで歩く母親。笑い声を上げながら、楽し気に話す女学生たち。自転車を走らせる男性。
久しぶりの外の世界は興味深いものが多く、私は周囲を見回しながら情報収集に専念したであります。
途中で、小さな犬を抱いた高齢の女性とすれ違いました。
「あれも散歩なのでしょうか。犬の方が歩いていないのは何か特別な事情があると思われます。小さな犬だったので赤ん坊だと推測されるであります。」
「あれはトイプードルって言って、大人になっても小さい犬なんですよ。」
私の疑問に、天田さんが教えてくれたであります。
「小さい犬だと、犬よりも虫に近いのかもしれません。あの犬は虫の心がわかるかもしれませんね。」
私がそう言うと、「何言ってんだ?」と順平さんが不思議そうに訊いてきました。そこで私は自分の推論を説明したであります。
「寮の中では、天田さんが一番 コロマルさんを理解していると思われるであります。天田さんは子供で、成人よりも小さいので、人間より犬に近いのだと考えられます。その為、他の人よりコロマルさんの心が良くわかるのだと推測されます。
その考え方で行けば、小さな犬は、犬より虫に近いので、虫の心がわかるのでは無いでしょうか。」
「ちょっ・・・ちょっと、アイギスさん。」
聞いていた天田さんが、眉をひそめて抗議するように声を上げました。
「ひどいですよ。僕が犬に近いなんて・・・」
「違いましたでしょうか?」
「僕は、小学生だし、帰ってくる時間が早いからコロマルといる時間が長いんですよ。だから他の人よりも少し余計にコロマルの考えてることがわかるだけです。いくら小さくても人間は人間で・・・犬に近くなんかないです。」
天田さんの(少し怒った感じの)説明をきいて、私はその内容を理解したであります。
「つまり心を理解するには、一緒にいる時間が長いことが必要なのでありますね。」
「時間だけじゃないです。僕はコロマルが好きで・・・わかりたいっていう気持ちがあるから・・・だからわかるようになるんです。」
「なるほどなー。」
どうやら私の推論は間違っていたようであります。しかし、心を理解するために重要なポイントを学習することができました。①長い時間行動を共にし ②相手を理解する努力をする、ことが重要ということです。
これだけでも、本日の散歩には十分な成果があったと言えるであります。
「これだから、アイちゃんを自由に外出させられないんだよなー。」
話を聞いていた順平さんが、ため息をつきながら言いました。
確かにまだまだ適切な情報が不足しているようです。もう少し学習しないと、無用な混乱を招きかねません。
「まあ、いろいろ知る機会が増えれば、だんだんおかしなことを言わなくなるんじゃないですか。」
天田さんが少しゆがんだ笑顔を見せて答えたであります。以前、このような表情を「苦笑」と呼ぶのだということを学習しました。これは「心から笑えているわけではない」という複雑な心境を示すものとのことです。子供でありながらこのような高度な感情表現を使いこなすとは、天田さんもあなどれないであります。
人間の心は、なかなか奥が深いであります。
話をしながら歩いているうちに、コンビニエンスストアの前に通りかかりました。
順平さんと天田さんが、夕食を購入するために店内に入ったので、コロマルさんには外で待っていただくことにして、私も後について入ってみることにしました。
「犬を店内に入れないこと」、これもマナーのひとつであります。ロボットについては特に規定がないようなので、問題ないものと判断します。
店内には、限られたスペースを効率よく利用して食べ物や雑貨などが数多く置かれています。
私は順に回って並べられた商品を観察し、その品ぞろえから人間の需要について学習しました。
それから外に面したガラスに貼られた1枚のポスターに注目したであります。『ロボット博覧会』というイベントの告知ポスターでした。
そこには、さまざまな機械的デザインのロボットの写真が表示されており、その中央にはクローズアップされた『若い女性』に見える写真が載っていたのであります。
その女性の写真には『会話ロボットのスピカ』と記載されていました。この方が『会話のできるロボット』ということでしょうか。
私がしばらく見つめていると、「どしたの、アイちゃん」と順平さんが声をかけてきました。
私はポスターを指さし「このイベントはどういうものでしょうか。」と尋ねました。
「『ロボット博覧会』かあ。興味あるの?」
「はい。天田さんも順平さんも人間の仲間であります。コロマルさんや先ほどのトイプードルは犬の仲間。私はロボットですが、私と同じようなロボットの仲間には会ったことがないであります。」
「そっかー。アイちゃんはオンリーワンの存在だからなあ。」
「対シャドウ特別制圧兵装は、私の前にも6体作られていますが、次世代機の製造に合わせて廃棄されている為、私は直接会ったことがありません。」
私はポスターに向き直った。
「特に、この『会話のできるロボット』には非常に興味があります。」
「会話ロボットねー。話してみたいの?」
「はい。是非会ってみたいであります!」
自分でも意外なほど強い口調となり、順平さんは戸惑ったような表情を浮かべました。
「ああ・・・前に出かけたとき、携帯電話屋さんの店先にあるロボットと話してなかったっけ。」
「残念ながらあれはプログラムされた少数の言語を流しているだけで、応答パターンが限られていて会話とは言えなかったであります。本当に会話ができるというのであれば、このロボットの方と話をしてみたいであります。なんとか、連れて行っていただくことはできないでしょうか。」
順平さんは「うーん」と唸って頭をごりごりと掻くと、「まあ、桐条先輩に相談してみっか・・・」と言って、ポスターの下にあったチラシを1枚手にしたのであります。
後書き
まずは前半終了です。
なかなか「あります」口調での1人称小説はツライものがありますが、いかがでしょうか。
ちなみに、ペルソナ3の時期にはまだソフトバンクのペッパーはいませんでしたので、その辺はただのジョークとして目をつぶってください。
次は風花が語り手となるパートで、アイギスが会話ロボットのスピカと出会います
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