曇天に哭く修羅
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第二部
選抜に向けて
前書き
何時もより長め。
日本の代表は【龍帝学園】
英国は【ブラック&ホープ】
「イギリス随一の名門だ。しかし代表になった選手の経歴からするとチーム戦で脅威にならんだろう。だが今回はアリーナが舞台の一対一で戦う団体戦」
赤髪の教官《桐崎美鈴》によれば、シングルスならば英国最強と言っても過言ではない実力を持ったのがブラック&ホープらしい。
「特に2年の《エリザ・ネバーエンド》と3年の《レックス・ディヴァイザー》は怪物と言える。龍帝で勝てる者は10人も居まい」
《立華紫闇》はレックスの名を聞いて《イリアス・ヴァシレウス》の話を思い出す。
しかし今はエリザのことだ。
「なあクリス。ネバーエンドって」
「忌々しいけど私の姉よ」
イリアス曰く、《クリス・ネバーエンド》は複雑な家庭の事情が有るのだという。
「今回の親善試合はイギリスの【古代旧神/エルダーワン】が御上覧なされる。しかし日本の古代旧神であらせられた《逢魔京華》様は昨年に倒されてしまった」
なので現在の【魔術師】において世界四強が一人である《白々良木眩》が代わりに来ることになったらしい。
「出場者は選りすぐりでなければならん。無様な勝負を見せればどうなるか解ったものではないからな。学園の教師陣も必死だ」
今年は生徒会長や学園上層部の指名ではなく親善試合の【代表選抜戦】を行う。
一年だけの【夏期龍帝祭】と違って全学年の希望者が出るとのことだ。
「魔術学園の全国大会である【全領域戦争】、略して『全領戦』に参加する権利を獲得する戦い【冬季龍帝祭】に近い形式となる」
美鈴の言葉に一年が盛り上がるも話題に上がるのはクリスと《橘花 翔》の二人だけ。
紫闇や《的場聖持》、《エンド・プロヴィデンス》のことは完全に無視。
「俺と聖持は相変わらず学年最下位付近だから仕方ないとして、紫闇は学年2位なんだからいい加減実力を認めれば良いのに」
「器の小ささを証明してるよね」
美鈴の話が終わると全員教室へ戻っていき、昼休みを終え、何事も無く放課後を迎えることになったのだが急にどよめきが起こる。
「やっほー。たっちばっなく~ん」
大人の色気が漂う。
何処か悪戯好きな雰囲気。
美貌の姉御肌。
「うっそだろおい」
「的場く~ん。ちょっと借りてくわよ~」
紫闇は生徒会長の《島崎向子》に腕を引っ張られ学園の外まで連れ出された。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
校門の前ではマスコミがインタビュー。
答えていたのはクリスだ。
「私達としてはエリザちゃんとの姉妹対決を期待するんだけども」
一瞬だがクリスの顔が曇る。
「そ、そんなの当然エリザよ。決まってるじゃない。親善試合はこの私があの噛ませ犬を倒し無敵神話をブッ壊す為の舞台でしかないわッッ!!」
マスコミは変化に気付いていない。
「強がりだな」
「エリザちゃんはトラウマみたいよ」
紫闇と向子はその場を後にして街へ。
そこかしこに並ぶモニターから流れるのは【人類保全連合(HCA)】と言われる世界的なテロ組織のニュースばかりであった。
彼等は魔術師と古代旧神を狙う。
人類の敵だと考えている為だ。
邪神大戦で【旧支配者】の全てが倒され封印された現在においてHCAこそがテロリストの代名詞だと言っても良い。
「元気だね~。参っちゃう」
「そう言えば会長って既に半分は軍属みたいな立場になってるんでしたっけ。じゃあHCAの件に関しても何か仕事を?」
紫闇の問いに向子が苦笑う。
「そーなんだよね~。向子さん優秀だから、かなりの権限と仕事を押し付けられてるんだ~。まあ腕の良い知り合いがいっぱい居るからその人達にもサポート頼んで楽させてもらってるけど」
それにしても最近になって人類保全連合(HCA)の活動が異常に増えた。
あまりに犯行が多過ぎる。
「親善試合大丈夫ですか?」
「古代旧神を獲るチャンスだし来るだろうね。でも責任者はあたしだから頑張るよ。生徒会の総出で対処させてもらうつもりだから」
少し安心した紫闇だが気になる。
(会長以外の生徒会見たことねーな)
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ここだよ立華くん」
向子が連れてきた場所。
「黒鋼の屋敷じゃないっすか」
何時も閉まっている門は開いている。
玄関も同様だった。
「お、来てる来てる」
向子は靴を脱ぐと遠慮せず上がり込む。
障子を開けると居間。
そこには紫闇の師《黒鋼 焔》と屋敷の主である《黒鋼弥以覇》
そしてもう一人。
「あ、あの人は……」
直接見るのは初めて。
しかし立華紫闇も知っている。
青い瞳に《永遠レイア》と同じく白を基調にした服装と髪色でちょっとホストに見えなくもない長身の男。
「やあやあ御初だね立華君」
【矢田狂伯/やだきょうはく】
龍帝学園と同じ関東領域に在る魔術学園の一つ茨城の【刻名館学園】4年生。
その生徒会長である。
「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ。どうやら儂は居らん方が良さそうな雰囲気じゃのう。ここからの話は関係無さそうじゃし」
弥以覇は腰を上げ退席した。
「それじゃ本題に移ろうか会長」
向子に対し焔がニヤつく。
「だね。何で狂伯くんが居るのか話すよ」
彼女は席に着いて語り出す。
聞くところによると、彼は紫闇を始めとした『合宿』に参加する生徒の護衛として向子から依頼を受けたらしい。
「立華君って他国との親善試合はどういうものだと思う?」
紫闇は狂伯の質問に対して一般の感覚で常識的な答えを返す。
「同盟国同士が毎年行う友好を深める為の交流戦じゃないんですか?」
「うーん。普通のスポーツとか表向きの意味はそうなんだけどね。でも魔術師の場合だと裏の意味が有るんだよ」
焔は溜め息を吐いた。
「さっさと教えてあげれば?」
狂伯は彼女の言葉に応じる。
「他国の魔術師から【古神旧印】を奪って自国の【無明都市】を解放する為に利用するのさ。だから他の国にスパイや刺客を送り込み、親善試合に出場しそうな奴を襲う。俺が護衛役に来たのはそういうこと」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
無明都市の『階層』を解放した数。
それは国家の強大さを測る指標。
世界の共通認識。
日本は昨年までに4人の【魔神】が居た。
[暴食]
[気狂い道化]
[鉄拳の女帝]
[史上最強]
無明都市の階層は魔神になった魔術師の数だけ解放される仕組みになっている。
「去年の途中まではアメリカの5層目に次ぐ世界2位の記録だった。十分に特別扱いされるんだけど、だからこそ国際社会でも邪魔者なんだよ。どの国も表には出さないけどね」
しかしこの解放数に急激な変動。
日本に居た4人の魔神は世界中を探しても敵う者が居ないとまで言われていたが、突如として現れた4人の魔術師に倒されてしまう。
だが魔神を倒しても意味は無い。
魔神になると左手の【古神旧印】が完成し、それを引き換えにして無明都市の階層が一つ解放されるからだ。
彼等は4人の魔神を倒した後に駆けつけた日本軍の魔術師達を撃破して己の刻印を完成させ新たな魔神となっている。
「軍の魔術師は死亡者ゼロで気を失っていたり直ぐ治るような怪我だったから特にお咎め無く新たな魔神として認められたわ」
以前より更に強い魔神を得られた上に無明都市の完全解放まで達成できたので日本としては言うこと無しに4人を評価。
今や世界最強の国家となった日本は最も影響力・発言力を持つので更に他国から狙われる立場になったが4人の内、誰かを動かせば軍事力で何も問題ない。
しかしここで疑問。
史上最強ら4人が居た時点で残り3層。
生まれた魔神は4人。
一人の刻印は余分なはず。
「多かった分の古神旧印は一つも解放されてない国の中からランダムに選ばれて、その国の無明都市を解放する為に使われるらしいよ」
向子によると実際そうなったらしい。
「自国の解放が終わっても古神旧印を完成させる意味は有るんだな」
(戦う理由が減らないで良かった)
紫闇は安心して戦いに臨む。
その覚悟を決める。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「紫闇、ちゃんと聞こうね」
「話を戻すわよー」
ぶっちゃけた話、どの国も他の国を蹴落とすことに必死なのだ。
日本は既に無明都市の完全解放を成し遂げ他の国よりも先んじているからマシ。
しかし親善試合をするイギリスは争いから抜け出せるような状況ではない。
「英国の悪どさは有名だ。勝つ為なら本当にどんな手段も問わないからね。刺客のことも【人類保全連合(HCA)】辺りのテロリストに責任をおっ被せるだろうさ」
イギリスの偽装工作は世界一らしい。
証拠は残らないだろうとのこと。
「なーるほどね。刺客による襲撃祭りが始まるってことか。大半の人間はそういう雑音で本スペックを発揮できなくなってしまう」
「ほむほむの言うとーり。それだと困っちゃうから代表になれそうな実力を持つ有能な生徒に護衛を付けてるわけなんだ」
焔の理解に向子が笑む。
そして狂伯を見た。
「立華くんを始めに選んだ合宿メンバーは生徒会長のあたしお気に入り。特に注目してるってわけ。期待も大きいんだよ?」
「てなわけで俺にお鉢が回ってきたわけよ。向子さんとは知らないわけじゃないしね。昔のよしみで軍内部に限った[便利屋]の力を見せてやる。安心してくれよ。俺一人だけが護衛ってわけじゃねーしな」
紫闇は狂伯の経歴を知っている。
龍帝とも所縁が有る人物だ。
「いや、あんたの実力は疑わないよ」
(今の俺だと絶対に勝てない)
狂伯は一年の頃、龍帝に居た。
圧倒的な学年一位の成績。
【全領戦】の学園代表を決める個人戦では決勝で島崎向子に敗れ代表になれなかったが団体戦では全領戦において本選で副将を任され一敗もしていない。
入学直後に向子からスカウトされ生徒会の副会長まで勤めあげた。
当時は文句無しの学園No.2。
2年からは刻名館に転校したが、そこでもいきなり学年1位を取り、転校から一月後には生徒会長の座を譲られてしまった。
魔術学園の生徒会長とは学園最強の代名詞みたいなものなので、それを戦闘力以外が理由で手放すというのはよっぽどのことがなければ有り得ない。
しかし前会長の判断は正しかった。
狂伯は有望な人間を生徒会に任命し自分の手で鍛え上げ、全領戦の団体戦では1年目でベスト16という成績を残し、昨年は全国ベスト8。
個人戦では2年連続刻名館代表。
全国ベスト4に食い込んだ。
世界ランクにおいても30位以内に数えられるほど高い戦闘能力は既にかつての世界四強魔術師の一角【暴食の亜理栖】に手が届いていると言われるほど。
「あの~気になってたんですけど」
紫闇は合宿について尋ねる。
「向子さんが龍帝学園でお気に入りのメンバーを選抜戦で勝たせ日英親善試合の代表にする為に無人島で合宿しようって企画なのさー!」
立華紫闇
クリス・ネバーエンド
《的場聖持/まとばせいじ》
生徒会の副会長
監督に向子と教官の桐崎美鈴。
《エンド・プロヴィデンス》は永遠レイアと兄弟揃っての用事で欠席。
橘花翔と《江神春斗》は行方不明で連絡が着かないそうだ。
「気にせず行ってきな紫闇。たまには黒鋼以外で戦う人と修業してきたら良いよ」
「会長としては、ほむほむにも参加してほしかったんだけどねー」
期間は1週間で出発は明日の朝。
「いや、ちょっと急すぎる……ッ!」
紫闇は急いで新居に戻っていった。
後書き
_〆(。。)
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