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提督はBarにいる。

作者:ごません
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棄てられた少女の歩む先は

 矢矧の負傷は半日ほどで全快した……が、精神的な物なのか肉体的な物なのか、疲労が溜まっていたらしく中々目を覚まさなかった。結局目を覚ましたのは、救助されてから3日目の事だった。起きた当初は不安と混乱から多少暴れたらしいが、そこは荒事なんぞ慣れっこなウチの連中があっさりと鎮圧したらしい。それもお互い無傷で。頼もしいったらありゃしないぜ、まったく。

「失礼するぜ」

 医務室のドアをガチャリと開けると、ベッドに横たわっていた矢矧が跳び跳ねる様に起きて土下座の姿勢を取ろうとする。ってか何で土下座?

「あぁ、そのままそのまま。まだ本調子でも無いだろうに」

 そう言って寝かせようとするが、矢矧は動く気配がない。

「お前さん、怪我人だろう?そんな体勢取ってる方が此方としちゃあ気を遣うんだが」

 途端にビクリと身体を震わせ、土下座の姿勢を解く矢矧。上げたその顔の瞳は揺れ、身体も小刻みに震えている。その両方が『提督』という存在への怯えを顕している。

「……隣、座るぞ?」

 確認をとってからベッド脇に置かれた椅子に腰掛ける。矢矧も再びベッドに横たわったが、ベッドのリクライニング機能を使って上半身だけ起こしている。

「改めて、俺がこの鎮守府の提督をしている金城だ。宜しくな」

「は、はい……えぇと、あの、それで」

 そこオドオドとした様子は一般的に認知されている『矢矧』の性格には似ても似つかない。矢矧はもっとこう、男勝りで溌剌としているイメージなんだが。余程環境的な要因で性格が歪められてしまったらしい。

「ん?なんだ、聞きたい事があるなら何でも聞いてくれ」

「あの……ここは何処の鎮守府なのでしょうか?」

「ここか?ここはブルネイ第一鎮守府。ブルネイ方面の鎮守府の取り纏めをやっている」

「じゃあ、あなたが、あの……!」

 途端に矢矧の目が輝き始めたんだが。どういう事だ?

「お願いします、助けて下さい!」

 矢矧、再びの土下座。

「おいおい、どういう事だ。話が見えんぞ?それに何度も言うが、お前さんはまだ怪我人だろうが。まずは落ち着け」

 そう言って無理矢理ベッドに寝かせる。

「す、すいません」

「さて、順を追って説明して貰おうか」

 何となく察しは付いてるけど、な。





「私の所属は横須賀第三七号鎮守府です」

「横須賀の三七……ってぇと、確か猿島に置かれた港湾防御用の警備府だったか?」

「はい、その通りです」

「また何でそんな内地の軽巡がこんな所にいる?」

 警備府ってのは、その周辺の海域を警備するから警備府ってんだ。本土の、それも大本営のお膝元にある警備府の艦娘が遠く離れた南方戦線の入り口とも言えるブルネイ周辺で深手を負って浮いていた。これで何もないなんて考えられる奴ぁよっぽど脳内がお花畑だぜ。

「そ、それは……」

 矢矧は言い澱む。果たしてこの喉の辺りまで上がってきている『モノ』を、洗いざらいぶちまけてしまって良いのだろうか?と。

「なぁ、当ててやろうか?」

 そう口に出したのは、矢矧の前に座って嗤う壮年の男。ブルネイ第一鎮守府に住まう『怪物』、金城零ニ提督だった。

「お前さん、恐らくだがその警備府で長いこと秘書艦やってたんだろ?」

「な、何故それを……!?」

「長い事こんな阿漕な商売やってるとな。見えてくるんだよ、色々とな」

 警備府ってのはその在り方の性質上激戦区と呼ばれる海域にある物でない限り、艦娘の錬度は高くならない。その殆どが水雷戦隊か潜水艦相手になるからだ。そんな内地の警備府で錬度が80を越えているとするならば、まず間違いなく一線級の戦力……恐らくは艦隊旗艦レベル。そうなると人員の少ない小規模鎮守府では秘書艦も兼任というのが大概だ。

「そこでお前さん、何かしら提督の不正……まぁ脱税か収賄ってトコかな?その辺りの証拠を掴むないし不可抗力で見てしまった」

 明らかに顔が青ざめる矢矧。ビンゴだな。

「そんでもって、アンタは恐らく提督にその証拠を突き付けて問い詰めた……そうだろ?」

 ギリ、と歯軋りを立てて顔を歪める矢矧。元になったマスターシップの影響なのか、元々武人気質な所があるのか、矢矧は正義感の強い娘が多い。その上この矢矧はその警備府では秘書艦兼(恐らくだが)最高錬度の艦娘だ。艦娘達を率いる実質No.2として任務に励んでいたであろう誇りを鑑みるに、まず間違いなく提督を追求しただろう。

「ところが提督は反省の色を見せるどころか、開き直ったんじゃねぇか?『俺は国防の要を担っている提督だぞ、金くらい貰って何が悪い』とでもな」

「……めて…………」

「それでお前さんは南西方面への単独出撃命令でも受けたのかな?鎮守府にいる艦娘を人質にでも取られて。恐らくだが、脚部の艤装に爆弾でも仕掛けてあったんだろうな。潜水艦の魚雷喰らっても、あそこまで綺麗に脚は吹っ飛ばないからなぁ?」

「やめて………!」

「お前さん、誰にも相談せずに提督問い詰めたんだろ?そうなりゃ話は簡単だ、何しろお前さん1人亡き者に出来れば提督の安全は守られるんだからなぁ?」

「もうやめて!聞きたくないっ!」

「駄々こねてんじゃねぇよ小娘が!」

 涙を流しながら喚く矢矧を一喝する。俺の剣幕に驚いたのか、ビクリと身体を震わせて身体を縮こませる矢矧。

「なぁ、矢矧よ。お前さんの提督はクソ外道かもしれん。だが、お前さんは間抜けも間抜け、大間抜けだぜ?」

「え……?」

「お前さんが提督を追求した事は正しい事かもしれんが、もう少し利口なやり方があっただろうって言ってんだよ」




「まず、何故周りの艦娘に相談しなかった?」

「だって、皆を巻き込みたく無かったし、それに提督が不正をしてるなんて信じたくなくて……」

「その時点で間抜けだろうが。いいか、相手に直接問い質して追求する時ってのぁ、相手にぐうの音も言わせない状況下に追い込んでからするモンだ。どっかの探偵モノのアニメみたいに証拠を突き付けたからって犯人がベラベラと自供する訳ねぇだろバーロー」

「う……」

「それに、秘密ってのは共有する奴が増えれば増えただけ秘密じゃなくなる。1人を始末するより100人を始末する方が手間が掛かるからな、相手も手出しがしにくくなる」

 これは俺がよくやる手口。最近だとアメリカ相手にかましてやったった。

「どうだ?これだけでもお前が如何に間抜けだったか解ったろ?だがな、お前が一番やらかしちゃいけなかった間抜けはな………提督を信じた事だ」

「え……?」

 矢矧の目が点になる。

「提督に限らず人間ってのは狡猾だ。何しろ艦娘になる前のお前らを自由自在に扱ってたのは俺達人間なんだからな。お前らも人間の形をしているとはいえ、所詮は艦が人の形を取ってるだけだ。人間の知恵やら経験には全くオツムが追い付いてねぇんだよ」

「そんな……」

「人を疑え。人間の指示だけを鵜呑みにして動くだけならお前ら艦娘には頭脳も、心も、下手すりゃ人間の形になる必要すらねぇんだぞ?俺はウチの連中にそう教えてきた」

 俺の話を聞いて俯く矢矧。その顔の下には、ポタリ、ポタリと雫が垂れている。

「さてと、小難しい話は終わりだ。今度はお前さんの今後の話をしよう」

 矢矧からは俯いたまま返事がない。

「お前さんが取れる選択肢は3つ。1つ、艦娘を辞めて一般人として生きる。2つ、艦娘は辞めるがウチの鎮守府で事務方として就職する。ウチは万年人手不足なんでな、給料は弾むぜ?」

 反応無し。聞いていると勝手に判断して、話を進める。

「3つ、元いた鎮守府ではない別の鎮守府に教導艦として着任する。お前さんの経験を活かすならコレがオススメかな?……まぁ、後2~3日は入院しててもらう。その間にゆっくりと考えるこった」

 じゃあな、と席を立ち医務室を出る。ドアがパタンと閉まった途端、中から啜り泣く様な声が聞こえてくる。

















 俺は胸ポケットに入れてあったスマホを取り出し、耳に当てる。

「聞いてたか?」

『無論じゃ。しかしお前さん、ちと手厳し過ぎやしないか?』

「うるせぇ、隠居ジジィが現役のやる事に口出しすんな。んで?やるのか」

『儂よりもカミさんの方が大層ご立腹でな』

「ほぅ?」

『話は聞いていたぞ、金城』

「三笠教官……」

『私の半身が眠る猿島で不正を働く馬鹿……いや、自殺志願者が居るそうじゃないか?』

 そういや戦艦三笠が眠る場所だったな、猿島。

『報酬はいらん、私も個人的に腹が立った。喜んで後始末をしてやろう』

「へいへい、ではお任せしますよっと」

 そう言ってスマホの通話を切る。現役時代の尻拭いだ、精々働けよ?『ジジィ』。 
 

 
後書き
 まさかの菱餅イベ復活に阿鼻叫喚している提督の皆様、お疲れ様ですm(_ _)m俺も悲鳴をあげております。

さて、イベントといえばウチのアンケートイベントももうすぐ締め切りです。ぶっちゃけていうとリクエストの人数が足りておりません。足りない分は作者推薦枠という事で俺が選んでもいいんですが、出来れば読者の皆様のご要望にお応えしたいと考えております。

要するに、アンケート参加お待ちしてますってことですw 
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