白き竜の少年
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闇の化身との邂逅
木ノ葉忍者学校で過ごす最後の1日。ここで過ごした6年間は良い事ばかりではなかった。むしろ辛い事の方が多かったが、終わるとなるとそれはそれで感慨深いものがある。
「今回の卒業試験は分身の術だ。呼ばれた者から隣の教室に来るように」
黒髪に白髪が混じった細身の男。左の眉の上から、頬にかけて刀傷が印象的だ。彼の名前は潮クジラ。ハルマのクラスの担任である。
彼は伝達事項を伝えると、教室から出て行き、生徒たちは次々と五十音順に呼ばれていく。教室は緊張感に包まれていた。そんな中で、茶髪をツインテールにした少女がこちらに近付いてくる。
「この分じゃ、あんたは合格できそうにないわね。でも、それで正解よ。千手とうちは。二つの優秀な一族の血を引いていてもあんたに忍の才能はない……ただの落ちこぼれ。分かったら、身の程を知ってさっさと静かに暮らしてなさい」
彼女は千手アズサ。ハルマとは異母姉弟の関係にある。ただ、毎回会うたびに同じような会話が繰り広げられる為、ハルマは彼女が苦手だった。さて、どうやって乗り切るかと考えていると、右手に額当てを握って教室に戻ってきた橙色の髪の少年 猿飛レツが険しい顔をして、こちらに近付いてくる。
「アズサァ……言っていい事と悪い事があんじゃねーの?」
レツはハルマと仲がよく、アズサがこうやって絡む度に助けてくれるのだ。レツの嗜めるように言った言葉を聞いたアズサは鼻で笑い、反論する。
「私はただ事実を言っただけよ。落ちこぼれが忍になったところで真っ先に犬死にするだけ。そうなるぐらいなら、忍にならないで生活した方がマシでしょ?」
「そうかもしれねぇけど、直接言う必要はねーだろ。ハルマが本当にお前の言う落ちこぼれだったら、合格できるわけねーんだからよ」
レツの言葉にアズサの顔から表情が消えた。頬が紅く染まり、目が吊り上がる。ハルマがまずいと思った時にはもう遅かった。
「無理に決まってるでしょ!この落ちこぼれに忍の才能なんてないのよ‼︎」
アズサは昔からハルマに関することの沸点が低い。反論すれば怒りだすことがよくあった。特に忍に関することにはそうだった。とりあえずはレツから自分に意識を向けさせようと試みる。
「アズサ。忠告はありがたいけど、それは聞けない。オレは忍になる。何があっても」
そう断言するハルマにアズサは何かを言おうとするが、タイミング良くか悪くか、潮がアズサを呼ぶ。
「……どうなっても知らないわよ?」
「そんなに心配してもらわなくてもオレはそんなヤワじゃない」
アズサは顔をそらし、ズカズカと教室の外へ向かう。一息ついて、お互いに顔を見合わせた。
「たくっ……アズサの奴。酷え言い方だな」
「まあ、いつもの事だけどな」
“他の大人たちに比べたらはるかにマシだ”
その言葉を自分の中に隠して、ハルマは立ち上がった。忍になる事は通過点に過ぎない。ここで立ち止まるつもりはない。
「次、千手ハルマ!」
卒業試験終了後。合格した子供達が親と何かを話している中、ハルマは左手に額当てを握り、その場を後にしようとしているようだった。しかし、ダンゾウが行く手を阻む。ハルマに会う為にわざわざアカデミーまで来たのだ。目的を果たさなければ来た意味がない。
「……お前が千手ハルマか?」
「そうですけど、誰ですか?」
ダンゾウは自分を見上げているハルマを見る。ハルマは世間的には落ちこぼれのレッテルを貼られた少年だ。
この少年が本当に落ちこぼれという名の仮面を被り、多くの大人たちを欺いてきたのか。それとも、噂通りの少年なのか。それを確かめるべくダンゾウはハルマにある問いを投げかけた。
「落ちこぼれ……そう言われているお前に一つ問いたい」
「難破船に同胞である十人が乗っている。その中の一人が性質の悪い伝染病に罹ってしまった。このまま生かしていると他の九人も病に罹って死んでしまう事になる。お前がこの船のリーダーならば、どのような判断を下す?」
これはかつてうちはイタチにしたのと同じ問いだ。その時、彼は一人を殺して他の九人を助けると答えたと記憶している。
「……分からないです」
「そうか……分からないか」
この答えだけならば期待外れだったと感じ、噂に違わぬ少年であったと、切り捨てていただろう。しかし、ダンゾウはハルマの目が一瞬だけ鋭くなったのを見た。仮面の中に潜んでいる本心は果たしてどこにあるのか。それはダンゾウにさえも分からないが、これではっきりした。彼は落ちこぼれなどではない。忍の素質を兼ね備えた少年であると。
「また会える日を楽しみにしている」
だが、それはまだ開花していない。ならば誰かが導く必要がある。
「ハルマの忍の才をこじ開けるのはワシの役目か」
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