白き竜の少年
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序章
序章
白いTシャツを着て、その上にチャックを開けた、紫色のパーカーを羽織っている黒髪の少年・千手ハルマが商店街を歩いていた。彼を見て、ひそひそと何か言葉を交わしている大人たち。いつもの光景だ。大人たちはハルマを避けるように道を開ける。
「(……バカバカしい)」
ハルマを見る彼らの表情や瞳からは常に怒りと恐怖が感じ取れる。何に怒り、何を恐れているのか。ハルマには皆目見当もつかないが、彼らの対応などまだ可愛いものだ。厄介なのは、日夜命を狙い暗躍する忍共である。
「(オレを殺す事なんて出来ないってのに……)」
千手一族から差し向けられ、ハルマが実際に対峙した刺客は下忍か中忍クラスだけだ。ハルマ自身は知らないが、上忍クラスの刺客は密かに彼を守っている暗部の手の者が処理している。それはさておき。一族から差し向けられた忍は3。気配の消し方からして、おそらくは下忍だろう。そしてハルマは下忍程度なら、倒すのは造作もない。
「……いい加減面倒だな……」
商店街を抜けると、人目が少なくなる。刺客達はその時を狙って動き出しているのを感じ取る。だんだんとその距離が縮み始めた。ハルマは彼らが飛び出して来る時を待つ。目に力を込めると、風景が紅く見えるようになった。目はいつもの黒い瞳から三つの勾玉が浮かぶ紅い瞳へと変化していた。写輪眼。うちは一族の血を引いている者だけに開眼する血継限界だ。写輪眼には目を見た者を幻術に掛ける力がある。更にこの眼は動きを見切り、先読みする事も可能だ。相手を殺す気がないハルマにとって、この眼の力が気絶させる為に必要になる。
「……鈍い奴ら……」
三つの影が飛び出す。それぞれ手にはクナイを握っている。二人が前方と後方からハルマを目指して走り出し、もう一人はハルマの頭上に飛んだ。地上では前後ではさみ撃ちに。上空に逃げれば、もう一人が対処する。
“他愛もない”
ハルマは口には出さず、そう呟いた。この程度のものは木ノ葉忍者学校で習っているものだ。初歩の戦法。しかもこの時既に彼らは過ちを犯していた。それは距離だ。3人のハルマとの距離は全員がバラバラだった。前にいるものが最も遠く、上に跳躍した者が最も近い。飛び出すタイミングと距離が合っていないのだ
「やった!」
上に跳躍した者のクナイがハルマの脳天に刺さった。しかし、次の瞬間、ハルマの身体は丸太に姿を変える。
【変わり身の術】
自身と符を張り付けた物体を入れ替える忍術で、これもまたアカデミーで教わるものだ。丸太と入れ替わった次の瞬間、ハルマは後方から現れ、最後尾にいた者の首筋に手刀を落とす。
「……後二人……」
ハルマは次いで先程、脳天にクナイを突き刺そうとした忍に迫る。
「くっ……‼︎」
相手はクナイを右手に逆手で持ち、対抗しようとするが既に勝負は決していた。
「……写輪眼……」
前方にいた忍が呆然とした様子で呟いた。目を合わせてしまった時点で既に幻術の中にいる。相手は力無くうつ伏せに倒れ、気を失っていた。これで残るはただ一人。
「……オレの負けだ」
残った一人はハルマに敵わないと判断したのか、膝を折り、クナイを捨てた。賢明な判断だと思ったが、油断したところを襲ってくるとも限らない。足にチャクラを込め、素早く後ろに回り、手刀を落とした。
「ふぅ……今日は……満月か……」
瞳を閉じて、深呼吸をする。再び目を開いた時、浮かぶのは黒い瞳だった。上空を見上げると、燦然と輝く満月が目に入る。満月を眺めているとハルマの脳裏にあの日の事が過ぎる。
ーオレを殺したくば恨め!憎め!そしてみにくく生き延びるがいい……。逃げて……逃げて……生にしがみつくがいいー
あの日、ハルマは大切な人たちを失った。家族。あの日の事は今も鮮明に覚えている。術の練習を終えて帰った時、そこは地獄だった。血によって赤く染まる土地。苦悶の表情を浮かべながら息絶えた人たち。彼らとは対照的に全てを受け入れたかのように穏やかな表情を浮かべていた姉。ただ寝ているだけだと思う程穏やかな顔だった。
ー何で!何でこんな事になったんだよ‼︎ イタチさん‼︎‼︎ー
自分は何も出来ず、何も知らない餓鬼でしかない。何故、うちはイタチは同胞を殺したのか。ただの同胞殺しではない事は、姉の表情を見れば分かる。姉も忍だ。イタチの同胞殺しを理由もなく見過ごす筈もなければ、受け入れる筈もない。だから『何か』があったのだと、そう言い切れる。もう一人、あの事件から生き残ったイタチの弟はそれを認めないだろうが。ただ、その一方でハルマ自身、イタチを憎いとも感じている。大切な人達を殺したイタチが許せない。仕方のない事ではあるが、そんな自分の一面を改めて自覚し、ハルマは自嘲するように鼻で笑う。
「はっ……人の事言えねえか……」
顔の右側を包帯で覆った男。黒い衣服を着込み、はだけさせた左肩からは白い衣服が露わになっている。左手に杖を持っているその男の名を志村ダンゾウという。彼は自身の居室で虎の仮面を被った部下の報告を聞いていた。
「……ダンゾウ様。また千手一族の者が倒れているのを発見いたしました」
この4年間、よく耳にする報告だ。それを聞いて、ダンゾウは小さく息を吐く。
「そうか。やったのはやはり……ハルマか」
最初は他里か大蛇丸の仕業だと思っていたから、あのハルマだと分かった時は驚いたものだ。
「はい。彼らの記憶を辿った限りは……」
あの事件から約4年。ハルマがどのように成長しているのか、興味があった。
「一度会ってみようではないか……」
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