提督はBarにいる。
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冬の鍋パ!・その1
今宵の『Bar Admiral』は装いがちと違う。いつものカウンター席は無く、厨房の向かい側には小上がりになった座敷があり、テーブルと座布団がズラリと並んでいる。さながらカウンターの無い座敷席のみの居酒屋のようだ。今夜の店は貸切状態、とある艦娘が主催となっている『とあるグルーブ』の会合の為に主催者が金を出してウチの店をわざわざ予約したのだ。
「うぃ~す、今夜はよろしくね司令官」
「お、今夜は望月が一番乗りか」
やって来たのはメンバーの1人である望月。基本的に面倒くさがりな彼女だが、このグループの会合は何だかんだ楽しみなのか行動が早い。
「まぁ、今日は非番だったしね~。おぉ、今回もお酒ちゃんはいっぱいだぁ♪」
そう言って座敷に上がり込むと、部屋の隅に用意された酒の山から一瓶手に取って頬擦りしている。因みにだがこの望月、幼い見た目に反して駆逐艦の中ではかなりの呑兵衛である。まぁ、ウチの鎮守府の所属で呑兵衛じゃない奴を探す方が難しいんだが……それを抜きにしてもウチの駆逐艦の中では5本の指に入るくらいの蟒蛇だ。
「相変わらず好きだねぇ、もっちー」
「お~川内さん!おっつー」
続いてやって来たのは川内。鬼の警備班長も、この会合の日は夜警を休むらしい。その後も続々とメンバーがやって来る。鳥海・日向に霧島・大淀・鹿島・時雨・古鷹・青葉・利根・筑摩に三隈。多摩・木曾・名取・天城・大鷹に隼鷹・神風と朝風・照月・凉月。脈絡のないメンバーに見えるが、みんなとある共通点がある。
「……む、私が最後か?」
そして最後にやって来たのがこの会の主催者である、武蔵。普段の制服ではなく、落ち着いた色合いのセーターにロングスカート。どこの良いトコのお嬢さんかと思ったぜ。
「よぅ、みんなおまちかねだぜ」
「そうか、では早速始めるとしよう」
そう言うと武蔵は俺から氷入りのジョッキを受け取り、勢い良く焼酎を注いでいく。
「さて、今宵の『九州艦娘の会』にお集まり頂き、嬉しく思う。小難しい事を私は言うつもりはない。今夜も楽しく、飲み明かそうではないか!」
『お~!』
「乾杯!」
『かんぱ~い!』
店内のあちこちでグラスが、ジョッキが打ち鳴らされてグイグイと注がれた酒が喉の奥に消えていく。『杯(さかずき)を乾すから乾杯というのだ』ってのが武蔵のポリシーらしいからなぁ、大ジョッキに注がれた焼酎を一気に飲み干している。さっき武蔵も言っていたが、この集まりの名前は『九州艦娘の会』ーー長崎の造船所生まれだったり、名前の由来が九州の地名だったり、佐世保所属だった奴だったり。まぁとにかく、九州に関連した奴等との親睦が目的で武蔵が立ち上げた鎮守府内の組織……なんて、大層なお題目を掲げちゃいるが。
「提督よ、酒にはツマミだ。ジャンジャン持って来てくれ!」
ぶっちゃけた話、ただの飲み会サークルなんだがな。
「それで、今夜のご馳走は何だ?提督よ」
「今夜は鍋だ。お前ら人数も多いからな、まとめて作れてなおかつ美味い鍋はうってつけだ」
実際、俺の鍋料理のレパートリーの持ち合わせは相当なモンだ。学生時代は共働きだった両親とメシマズだったばあちゃんの代わりに俺が包丁を握ってたからな。冬場には自然と、簡単に量を作れる鍋料理が多くなった。
「味を変えてジャンジャン出してくからな。好きなのを勝手に持って食え!まずは『じゃがチゲ』と『ホタテのとろとろ湯豆腐』だ」
《ピリ辛ホクホク!じゃがチゲ》分量4人前
・豚バラ肉:250g
・ジャガイモ(大きめの):3個
・玉ねぎ:1個
・豆腐:1/2丁
・ゴボウ:1/2本
・白菜キムチ:100g
・せり:1把
・昆布(長さ10cm位の物):1枚
・煮干し(大きめの奴):10匹
※その他、ニラや長ネギなんかも美味しいぞ!
〈チゲの素〉
・味噌(赤味噌系):大さじ3~4
・コチュジャン:大さじ1~2
・ひきわり納豆:80g
・おろしニンニク:1かけ分
・ごま油:小さじ1
まずは具材の下拵えから。メインのジャガイモは皮を剥き、8つ位に切る。大体3cm角位が目安だな。玉ねぎは皮を剥いて先と根っこを落としたら繊維に沿って1cm幅の薄切りに。ゴボウはたわしなどで皮を擦り落としたらささがきにして、水にさらしておく。せりは根元を落として5cm位の長さにざく切り。豆腐・キムチ・豚肉はそれぞれ食べやすい大きさに切っておく。
鍋に水6カップ(1.2リットル)を張り、昆布と頭とハラワタを取り除いた煮干し、ジャガイモを入れて弱めの中火にかける。沸騰直前に昆布は取り出しておく。
沸騰してから6~7分煮込み、ジャガイモに火が通っているか竹串を刺してチェック。竹串がスッと通ったら玉ねぎと水気を切ったゴボウを加えて更に煮込む。この時アクが出やすいので、綺麗に取り除く。
玉ねぎが煮えるのを待つ間にチゲの素を作っておく。味噌・コチュジャン・ひきわり納豆・おろしニンニクをボウルに入れ、良く練っておく。ポイントは納豆が入る事と、鍋に入れる前に良く練っておく事。納豆が入るとコクが出るし、鍋の汁にとろみが出て具材に良く絡む。鍋に入れる前に練っておくのは、その納豆から出るとろみで調味料のダマが出来ないようにするためだ。
玉ねぎ・ゴボウに火が通ってきたら、チゲの素に煮汁を1~2杯加えて延ばして鍋に入れる。こうするとボウルに残るチゲの素が減るからな。
全体を掻き回してチゲの素が馴染んだら、豆腐加えて煮る。豆腐が温まったら豚肉を加えて更に煮込む。豚肉を先に入れると、煮えすぎて豚肉の旨味が全て抜けてしまうので野菜から煮るように。
豚肉に火が通ったら香り付けのごま油を回しかけ、キムチ・せりを加えてサッと煮る。せりに火が通ったら完成だ。
※オススメの〆はうどん!ピリ辛の汁がたっぷり絡んだうどんは絶品だぞ!
《タレ無しで食べる!?とろとろ湯豆腐》※分量4人前
・絹ごし豆腐:2丁
・チンゲン菜:2株
・ホタテの水煮缶:汁も込みで180g
・長ネギ:10cm
・卵:2個
・水:1リットル
・鶏ガラスープの素:小さじ2
・生姜:1かけ
・酒:大さじ2
・醤油:大さじ2
・ごま油:大さじ1
・豆板醤:小さじ1/2
(水溶き片栗粉)
・水:大さじ4
・片栗粉:大さじ2
お次はタレ無しで食べる中華風の湯豆腐だ。まずは具の下拵えから。チンゲン菜は根元を良く洗って細かい土や砂を落とし、縦に4つに割ったら5cmの長さに切り揃える。長ネギも5cm長さの細切りに。メインの豆腐は軽く水気を切り、1丁を6等分にしておく。生姜は細切りにして卵は溶いておき、水1リットルに鶏ガラスープの素を溶かしてスープを作っておく。
鍋にごま油を引いて熱し、長ネギを炒めていく。香りが立ってきたらチンゲン菜を加えてサッと炒める。チンゲン菜に油が回ったら、スープ、醤油、酒、ホタテの水煮缶の中身を汁ごと加えて煮込んでいく。ここがポイントで、ホタテの水煮缶の汁にはホタテのいい出汁が出てるからな。捨てるなんて勿体無い。
鍋が煮立ってきたら水溶き片栗粉を加えてとろみを付ける。この時、お玉でかき混ぜながら加えてやるとダマにならずに綺麗にとろみがつくぞ。チンゲン菜が柔らかくなったら溶き卵を加えてかき玉にする。
切っておいた豆腐を加えて、豆腐が温まったら完成。食べる際に細切りにした生姜や豆板醤をお好みで加えて食べる。
※オススメの〆は春雨!ぬるま湯で戻した春雨(50g)を、豆腐を食べきった鍋に水1カップと共に加えて少し煮込む。春雨が柔らかくなったら食べ頃。とろとろの春雨スープっぽくなって美味い。
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