ようこそ、我ら怪異の住む学園へ
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其の弐 蛇を宿した女
第十六話 記憶
———それは、暑い夏の日だった。
「おねえちゃん! 誕生日おめでとう‼︎」
「わぁっ! ありがとう、ミカ」
妹が姉の誕生日を祝っている。
誕生日祝いとして贈ったのは、手作りの小銭入れ。
妹の方が、近頃毎日のように少しずつ、頑張って作り上げてきたものだ。
「ありがとう……一生大切にするね!」
「うん‼︎」
———だが、そんな幸せも長くは続かない。
「……おねえちゃん、行っちゃうの?」
「そうだよ。みんなのためだからねぇ」
「いやだ‼︎‼︎」
その日の晩。姉の方に人体実験に参加するよう、手紙が届いた。
母親と父親が黙って準備をする中、妹は泣いていた。
「いやだって言ってもだめなのよ。それに、これは名誉あることで……」
「でも、おねえちゃんと離れ離れになるのいや‼︎ ずっと一緒にいるの‼︎」
「でも……だめなんだからだめ。行かなきゃ」
「やだあっ‼︎」
とうとう泣き初めてしまった妹を必死に落ち着かせようとするが、ぽたりぽたりと落ちる涙は勢いを増すばかり。
どうしようもなくなって、ついに姉も泣き出しそうになる。
本当は自分だって行きたくない。ずっとここにいたい。でも行かなきゃいけないから。
そう決めていたのに、心が揺らいでしまう。
だが、結局姉は両親に連れられ、その家を出ていってしまった。
———自分の気持ちに素直になっていたら、何か変わっただろうか。
実験で、沢山の人が発狂しながら死んでいくのを見た。可哀想だと思った。
沢山自分の血が流れるのを見た。痛くて、辛くて、怖くて仕方がなかった。
でも、それが完成してしまって。でも、力の使い方が分からないからその場で暴走してしまって。
奴はその場にいた研究員を皆殺しにした。
長い廊下を、ひたすら慣れない体で逃げた。
でもそこで銃殺されてしまって、奴はそこで死んでしまった。
だけど、そこで願ったんだ。
「罪を償いたい」
そう、彼岸の主に。
そして、彼女は怪異となった。
だが噂の改変により、いつしか人間へ抱く気持ちが「許してほしい」から「許さない」へ変わってしまったんだ。
本当なら七不思議として、
人間の願いを一つ叶える代わりに代償を貰って生きて、
いつか罪を償いきって、ちゃんと成仏できたのに———
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