ようこそ、我ら怪異の住む学園へ
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其の弐 蛇を宿した女
第十四話 シオン
鋭い刀の先が、シオンの首に触れる。
一瞬の間の出来事に対応できなかった元宮が、送れて反応するも、今回ばかりは引き剥がすことは出来なさそうだ。
「いくら暴走したのが君とは言えど、人間に危害を加えた以上この私が黙っちゃいない。分かっているだろう?」
『分かっています……分かってますから……どうか、苦しくないように殺してください。鬼神様』
元宮がいくら押しても、四番目は動じない。怪異という常識を逸脱した存在なのだから、人間の力で勝てるわけがないのだ。
「鬼神様‼︎ なんで、なんでいきなりそんな‼︎」
「罪を犯したものは罰せられる。当然のことだろう」
「だからって、なんで急に! 一緒に噂を変えることについて考えてくれたじゃないですか‼︎ それに、好きにしろって‼︎」
「事情が変わった。だから、すまない」
「嫌だ‼︎ 絶対に嫌だ‼︎‼︎」
元宮はシオンを縛り付ける縄をどうにか緩めると、彼女の手を引いてその場から逃げ出す。
出来る限りの全力疾走で、本当の鬼から逃げるために。
「……はあっ、っぁ……はぁ……」
『だ、大丈夫ですか……も、元宮様』
「ごめん……むりかも」
二人は新校舎の昇降口まで走ってきた。ここまで来れば見つからないし、何かされることはないだろうと思ったから。
階段の陰に隠れて、元宮は床に寝転がって息を整え、シオンは心配そうな顔をしながらそれを見守っていた。
「……絶対、守るからね」
それを見た元宮は声を掛ける。それは、彼女を気遣っての言葉であると同時に、自分に言い聞かせるような言葉であった。
だが、シオンは小さく首を振ると、儚げに笑って返した。
『いいんです。わたしは二度も罪を犯しました。人殺しの大罪を、二度もです。これ以上どうやって罪を償えというのですか』
シオンは四番目に殺されることを拒まなかった。これ以上、生きようとしていないのだ。
自分の罪をきちんと理解し、その上でどうしたいか考えた。
その結果が死だったのだから、元宮の言葉を聞いても、もうなんとも思わない。
「なんで、どうして……諦めるの?」
『いいんです、もう。噂の力で自分を制御できずに暴走してしまって、そしてまた人を殺してしまう。もう嫌なんですよ』
ぽたり。一滴の雫が垂れた。
元宮の頬をつたって、ぽたりぽたりと雫が落ちる。
夕陽が当たってきらきらと光るその様を見て、シオンはある時を思い出した。
———自分が人体実験に参加させられることが決まった時、大切な妹は泣いていた。
この少年のように、大粒の涙を、ぽつりぽつり溢しながら。
優しくて、温かい涙にわたしも泣いてしまって、そこで初めて行きたくないなんて愚かな考えをした。
もっと妹と一緒に居たかった。妹が結婚して、幸せになるまで、ずっと一緒に居てやりたかった。
でも、国には逆らえないからわたしは自分の気持ちなんて全て捨てて、実験に行ってしまった。
本当の気持ちは? 強制されるだけのわたしは、じゃあなにになるの?
『でも、わたしは———』
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