ソードアート・オンライン 八葉の煌き
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八葉の剣聖と閃光の少女
これはゲームであっても遊びではない
茅場晶彦も巧い事を言うものだ、確かに二年前からあの城…アイン・クラッドの頂を目指す作業は、この世界の住人にとって遊びじゃなくなっている。
だがそれと同時に確かにゲームだ。ルールがある物は全てゲームと呼べる。
視界左上にある緑色の線が消えた瞬間…本当の意味で死ぬと言うルールがある以上、この「ソードアート・オンライン」は、確かにゲームだ。
たった一つの命を懸けた、即ちデスゲーム。
「ふぅ...」
そんな世界の、木の上で俺…アリオスは溜息をついた。
どんなに安全な場所にいても、死ぬ可能性を0にはできないと言うのが現実でも俺の持論ではあった。
だがその持論が、ここまで真理だと万人が認める世界には正直来たくは無かった。
だってそうだろう?俺が現実で死ぬ可能性を0にはできないと言うのはいつもが限りなく0に近いと言う事が前提での話しなんだぜ。車に引かれる可能性、突然爆撃を受ける可能性、なんらかの発作でぶっ倒れる可能性、角を通った瞬間通り魔が現れて刺し殺される可能性…並べれば数は確かに多いが、そのどれもが余りに小さい可能性でしかないと言うのに。
だがこの世界は確かに人を殺す。余りに手軽に、街の外に出れば自分を殺しえるモンスターが待っている。たかが雑魚のモンスターに余りにも多くの人数が殺された。
かく言う俺も、今でこそ雑魚と断言できる物達だが俺は最初そいつらと向き合うだけで……いや、戦うだけで足が震えて、ほんの僅かに緑色のゲージが減るだけで腰が引けた。情けない事にも、彼女がいなければけっして今日まで生きてこれなかったかも知れない。
「おーい!アリオスぅ!」
その彼女、アスナが遠くから手を振っているのが見えた。
「木に登って何してるのー?」
「昼寝ー!」
「モンスターに襲われても知らないよー!」
「そっちこそ、その目立つ鎧なんとかしないとモンスターの餌食だぜ!
副団長なんだから特注の制服とか作って貰えよー!」
「それが許されたら苦労しないよー!アリオスからヒースクリフ団長に頼んでよー!」
「いやだー、面倒くさーい!」
おおよそ、命の柱となった少女との会話とは思えない。
俺の名前はソード・アート・オンラインの世界でこそアリオスだが俺の本当の名前は木戸琢磨と言う。木戸琢磨は彼女アスナの現実での姿…結城明日奈の幼馴染なのだ。更に言うと付人でもある。俺の父親も明日奈の親もお互い金持ちで友達同士だったからこそ俺達は殆ど生まれたときからの付き合いなのだ。更に言うと俺は彼女と結婚するかも知れなかった。いわゆる許婚、と言う奴だ。少なくともそうなる可能性は高かった。
だがそれも出会うまでの事。どうやら俺が子供ながらに「ちがうこのひとじゃない」と口にしたらしい。今考えるとすこぶる失礼な事だが、それは明日奈も同じだった。だから俺は明日奈にとっての「代わり」を自称している、本物が出てくるまでの「代わり」。中学に上がってからは流石にお互い意識するようになり一度だけ付き合ったことがあったがあまりにも綺麗に破局した。それもいっそ清々しい程に。
オマケにどうやら「本物」と思しき人物までこの世界のほうで現れてきてしまった。そろそろ「代わり」もお役御免かとびくびくする今日この頃である。
だが、言い換えればそれ程に俺と明日奈は近い関係だ。それはアリオスとアスナでも、変わらない。
だから俺はデスゲームが始まったその日、今下で木の上にいる俺を見上げているこの娘と約束した。絶対に二人とも生き残ろう、と。その約束がなかったら挫けていたかも知れない。
だからと言ってこのゲーム最強クラスのプレイヤーにまでなる必要は無かったのかも知れないが。
俺もアスナもこのソードアート・オンライン内で自他共に最強を認めるギルド「血盟騎士団」の副団長を務めている。最初その団長であるヒースクリフと言う男から勧誘を受けたときには俺たちも飛び上がった物だ。それこそなんらかの研究が実ったアルキメデスの如く街を走り抜けた記憶もある。
更に言うと俺達は有名だ。それも知名度で言うならレベル以上にぶっちぎっている。
アスナの場合はやはりその美貌だろう。我が幼馴染ながらコイツは美人だ、それも特上クラスの。オタクばっかりのこの世界でコイツと同等の美人を俺は他に一人も知らない。美人云々以前に女性プレイヤーですら少ないのだから。
俺の場合は…すこし事情があるとしか言い様がない。まあ確かに血盟騎士団副団長と言うだけでも十分に名を轟かせる要素になっているだろうがそれだけでは癪だがこの美人には敵わないのである。
「そろそろ降りなよー!ご飯食べなーい?」
「なんか作ったのかー?」
「うん、だから食べよー!」
少なくとも一つ、コイツと幼馴染で良かったと言うのがこれだった。俺は横からさんざん止めなよと言ってきたのにも関わらず戦闘に一切役に立たない料理の「スキル」を上げていることだ。おかげでこの世界唯一の楽しみと言って過言ではない美味をいつも堪能する事ができる。
言い忘れた事だがこの世界には様々なスキルが存在する。それを育てていく事によって俺達は強くなる。そのスキルの育て方次第では戦闘だけでなく鍛冶屋にだってなる事ができる。もっとも料理はコイツがあげているので俺は戦闘に特化しているが。なのでコイツと決闘《デュエル》する時は必ずハンディをせがまれる。仕方ないのであげているがそれでも100戦95勝。その内5敗は俺がステータス異常があったのを黙って決闘した物だ。なので実質無敗…なのだが、黙っていたのがばれて、それについてマジでぶちぎれたコイツには勝てる気が微塵もしなかった。台風のような勢いでベットにしばきたおされてある意味地獄のような治療を受けた。他人は羨ましがって天国とか言ったが俺はあえてこう言おう。あれは治療ではなく処刑だと。ベッドから出ようとしただけで頭上を音速のレイピアが通過して特上の笑顔で笑うのだ。その彼女をもし見たら絶対にファンの八割が尻尾を巻いて逃げ出すに違いない。
残る二割は異常性癖だ。絶対そうだ。
…話を戻そう。
この世界で料理と言えば街中のレストランにある西欧風?なのか知らないがそう言った料理を食すのが一般的だ。別段不味い、とは思わない。
だが料理スキルを極めたアスナの料理を口にした瞬間からとてもじゃないがそんな物を口にしようとは思わなくなった。その事を本人に伝えると「あんなに止めろって言ったのに…」と言ってむくれた。謝っても中々許してくれなかった。
「シェフ、今日のメニューは?」
「特製ソースのサンドウィッチ。」
「お、あれか。」
ただ、それでも俺は中々料理スキルの偉大さが理解できなかった。だが、ある日コイツがマヨネーズや醤油を作り出してしまったのには流石に平伏した。あれに関して言えばこの世界の何処を探しても作れる奴はいまい。少なくとも俺は懐かしさの余り感動の涙を滝のように流した。俺たちの間では盗み聞きされても話題にならないよう特製ソースだとか秘伝のタレとしか言わない。本人もそれで商売する気はないらしいし、慣れてしまえば物事を隠すのは簡単だ。
「むぐむぐ...美味いな。相変わらず。」
「そりゃあ練習したからね。」
「まあな、ここまでにするのにはすごい時間がかかったもんな。最初の頃なんか暗黒物質を作っちゃって……」
「それは始めたばっかの頃でしょ!」
アスナに小突かれながら、俺達は笑った。これも二人で決めた事だ、この世界で明るく生きていくためにできるだけ笑おう、と。そのお陰か俺が「まっくろくろすけ」と内心で呼んでいる男みたいに躍起になってレベルを上げるような真似はしていない。…少なくともアスナは。俺はなぜか異様に高い。別段必死になってあげているわけじゃないが、血盟騎士団としては珍しくソロでの活動を多く行なうからだろうか?思えば4人以上でパーティを組んだ事などボス戦以外では一度もないかも知れない。大抵アスナと俺の二人でなら何とかなる場面ばかりだったからだ。そうでなければ血盟騎士団の副団長など務まりはしない。
「……………ふぅ、食った食った。ご馳走様。」
「お、偉いぞ。ちゃんとそういう風に食後の挨拶ができるようになったね。」
「なんだその言い方は。お前は俺の母親か。」
「いいじゃないそのくらい…そろそろ町に戻らない?」
「あ、もうこんな時間か。結晶使うのも勿体無いし歩いて帰るか。」
「うん……あ。」
そう言ってアスナがキョロキョロと辺りを見渡した。
「ね、アリオス。これって……」
「やれやれ、モンスターも料理の臭いに誘われたのかね。」
僅かに数体だが、その気配がちらほらと集まってきていた。幸いにもこの俺が寝ていた木の周りは敵が寄らない安全エリアなので入ってくることはない(でもなければその上で考え事なんかしない)のだがその木を離れたら、その瞬間襲い掛かってくるだろうモンスターが一、二、
「三体って所か。」
ま、俺達はあんな三下には遅れは取らないけど。
「よいしょっとぉ。」
そんな声と共に立ち上がって俺の武器、刀である「神太刀八葉丸」を抜刀した。自慢じゃないが恐らく今発見されてる刀の中でこの「八葉丸」がもっとも高性能な刀だろう。
アスナをみるとこちらも細剣「ランベントライト」を鞘から引き抜いていた。だがアスナから放たれたのは意外な言葉だった。
「私に任せてもらえる?」
「へ?お前今なんて?」
「あ…だってアリオスは私よりもレベルが7も上じゃない。そんなにレベル高い人、攻略組でもそんなにいないよ。バランス取らないと。」
ああそういう事。
「愛しの彼と並べるくらい強くなりたーい、と。」
「ちっ違うよ!別にキリト君についてじゃない!」
「はい自爆ー。おれ『キリト』なんて一言も言ってないもん。」
「あ、汚い!」
「男は大体汚いものなのだよ。覚えておきたまえアスナクン。」
と最後は我らが団長の口調を真似て言ってやった。
だが、反撃とは予想外なものだ。
「ぷっ。全然似てないよアリオス!あははは!」
「なっなにぃ、似てないだと!?そんな馬鹿な!リズベットからはそっくりって言われたぞ!」
「あはは!それ絶対お世辞だよ!あんまりにも似てないからリズも気にしてそう言ったんだと思う!あはは!!」
「むむむ………グッ。」
クソォ、てっきり怒って突っかかってくるかと思ったが予想外な方向から攻められたぜ……
にしても笑いすぎだろ。仕方ないからデコピンで黙らせる。ただのデコピンと侮る無かれ、俺の鍛え抜かれた筋力ステータス補正によりその威力はデコピンの癖にビシィッと言う効果音まで出て、
「いったぁあい!」
美少女の泣きっ面を拝める程の物となる。
「何するの!」
「そんなこと言ってる場合かなぁ。モンスターも来てるぜぇ?」
わざと嫌味ったらしくいったのだが今回は物凄い膨れっ面で睨まれた。
…流石にやり過ぎたか?まあコイツもモンスターで憂さ晴らしできるだろうし多分街につく頃には忘れてるだろう。
事実本人もその気があるのかいつもに増す凄まじい速さでモンスター共を叩き潰していた。
凄まじい勢いの八連続攻撃、確かアレは…『スター・スプラッシュ』だったっけか?かなりハイレベルな剣技だった筈だ。残念ながら俺は細剣には縁がないから詳しいことはわからないが…
まあなんにしても楽ができるので文句はない。一応鞘に納めたままの「八葉丸」に手をかけて、様子を見守ったがその必要も無かった様で数分足らずで全滅させていた。
「レベルアップの足しにはなったかぁ?」
「倒さないよりマシって言う位。」
スズメの涙程度、と言うことだ。
「ま、そりゃあそうだよな。」
「安全マージンもとっくに越えてる階層だしね。経験地はそんなには入らないよ。」
コイツだってレベルが低いわけじゃない。むしろ物凄く高い。それはもう一般的な基準で言えば「閃光」と言う渾名で呼ばれるほどには。と言うよりは俺と血盟騎士団団長ヒースクリフが強すぎるだけなのだ。レベルで言えばもう一人怪物クラスに強い知り合いがいるがあれはむしろネトゲ狂なので除外する。
「まあその内に追いつけるだろ。」
「その内って言うのが見えてこないんだってば!」
こう返答してくること自体さっきの話を概ね認めるようなものとは気がつかないらしい。
…まったく純情だねぇこのお姫様は。相手が相手って言うのも有るんだろうけど、さ。
「じゃあ今度俺と狩り場行くか?お忍びで。」
「…それアリオスがサボりたいだけでしょ。」
「うへぇっ。ばれてーら。」
「もうっ!…ありがとね。」
「いいっていいって。気にするな。」
昔からこんなもんだったからな、お前との付き合いは。
お前励ますのにはチョットふざける位のがちょうど良いんだよ。
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