曇天に哭く修羅
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第一部
火花
前書き
お待たせー?
とうとうこの日がやってきた。
《江神春斗》への挑戦権を賭けた大一番。
【夏期龍帝祭】の決勝戦が行われる。
例年ならば決勝をする前に第三位決定戦が有るのだが今年は様子が違う。
準決勝で負けた《クリス・ネバーエンド》は《立華紫闇/たちばなしあん》から受けたダメージでドクターストップが掛かり、戦うこと無く敗北することとなった。
クリスとしては悔しいはずだ。
普通なら必ず勝てる、今まで5秒以内で勝ってきた相手に不戦敗なのだから。
《黒鋼 焔》はその放送を聞きながら祖父の《黒鋼弥以覇》と《永遠レイア》の三人で観客席の後方に有る立ち見席へ向かう。
「もし。黒鋼弥以覇、かな?」
その声は熱に満ちていた。
声の主は老人。
しかし背筋は真っ直ぐ。
180cmは有ろう身長。
全身が鍛えられている。
特に前腕の発達は尋常でない。
面構え・佇まい・雰囲気は正に達人。
自然に取られた間合いからすると剣士か。
弥以覇は真面目な顔をして老人を見る。
「……久しいな。お主の孫は出とらんから会うことも無いであろうと思ったが、誰か気になる参加者でもおったのかのう江神」
「60年ぶりだな好敵手」
春斗の祖父《江神全司》
【邪神大戦】で『剣鬼』と言われ、『鬼神』と呼ばれた弥以覇と殺し合いを楽しんだ
【魅那風流剣術】の師範でもある。
「こっちは儂の孫じゃ」
弥以覇の言葉に全司が焔を見た。
「女子ながら昔の貴様によう似とる。ところで弥以覇。『万葉』は息災なのか?」
「……死によった。焔が産まれる直前に」
万葉は焔の祖母で弥以覇の妻だ。
「……やはり、持たなんだか」
焔は名前しか知らない。
しかしこの二人にとっては違うようである。
彼等は会場の中心を見た。
そこには武舞台。
「さて此度の試合、貴様の弟子は勝って優勝出来るかな弥以覇」
「成長ぶりでは破格。生意気にも儂や焔が扱えぬ独自の技を身に付けた。クリス・ネバーエンドと同等なら先ず大丈夫じゃろうて」
全司は苦笑してしまう。
(どうやら良き弟子を得たようだな)
全司は弥以覇が羨ましかった。
孫も弟子も『鬼』であることに。
しかし自身の孫は『人』だ。
「お前の弟子が勝ち抜いて我が孫に挑めば勝ち残るのはやはりお前の弟子かのう。正直に言えば自分の孫が勝つことを信じられん」
全司の想いに弥以覇は哀れんだ顔をした。
「兄さんはどうかな? 紫闇は優勝できると思う? 言わなくても解りきってるけど一応は聞いとかなきゃね」
焔の問いにレイアは溜め息を洩らす。
「断言したくないんだけどなー」
言葉に詰まった。既に結論は出ている。だからこそ困っているのだ。
「兄さんも多分あたしと同じだよ」
焔が目を瞑る。
「どう足掻いても」
レイアの続きを焔が紡ぐ。
「負けるのは紫闇だ」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
控え室を出た紫闇は入場口に向かう。
ベストコンディションである。
「いきなり来るからな、あの体調不良」
大丈夫だろうか。
入場口を出て花道を歩く。
紫闇と相手に対して声援が飛ぶ。
何万人もの観客から寄せられる注目。
武舞台へ上がった両者が互いを見た。
二人は結界で覆われる。
閉ざされた空間は闘気で歪むよう。
『大変長らくお待たせ致しました。第50回夏期龍帝祭の決勝戦が始まりますっ!』
実況が紹介を始める。
『西方は立華紫闇選手。学年序列は1000位。最下位かつ三軍の負け犬。加えて時に廃棄物とまで揶揄される『規格外』でもあります。しかしこの男は強いッ! どうやって力を身に付けたのかは解りませんが今の彼にはこの場に立つ資格を有していますッ!!』
紫闇にぶつかる声が増えた。
大きくなって。
『東方は《橘花 翔》選手。彼もまた三軍で学年序列997位から這い上がってきた努力の人。予選から準決勝まで全ての相手を一撃でタイムも3秒以内です。歴代レコード全てを塗り替えてしまいましたッ!』
このまま行けば、昨年に《皇皇皇/すめらぎこうのう》と戦って敗れ亡くなった、前・史上最強の魔術師にして【魔神】《神代蘇芳》を超えると言われている。
紫闇よりも沢山の声援。
しかし翔はどうでも良いようだ。
無言で紫闇を見ている。
「江神も凄いと思ったけどお前も凄いな」
「そうか? まあ俺は立華に勝てさえすれば何でも良いんだが」
【龍帝学園】の会長である《島崎向子》の依頼を受けた彼は思う。
(江神春斗と戦うにはまだ早い)
故にここで紫闇を倒す。
そしてまた再起させる。
時間は掛かるがこれを繰り返して少しずつ強くするのが一番確実だ。
(それでも何時まで掛かるか解らん。今の江神と立華にはあまりにも差が有るから)
紫闇の右手に赤い装紋陣が浮かぶ。
「輝け。【紫闇/しあん】」
彼の【魔晄外装】が顕現した。
その様相を見た翔は少し驚く。
準決勝までの外装とは変化していたから。
(以前は黒い籠手だった)
しかし今は紫で不気味かつ怖ましい。
それでいて闇の如く深い光を放つ。
(あの光は外装に流れる【魔晄】か?)
準決勝よりも一段強くなっている紫闇に何が起きているのか考えた翔は心当たりに辿り着くと会場に居る人間の気配を探ってレイアを見つけた。
(成る程。会長には聞いていたが、どうやら彼が外装を改造したらしいな)
しかし翔は一笑に付す。
所詮は付け焼き刃でしかない。
(今の立華なら対処できる範囲だ)
これまでの試合と同じく外装は出さず。
それで勝てるから。
「別に橘花は外装出さなくても良いぜ。江神と戦うのは俺なんだからな」
『最後の戦いが、一年の頂点を決める戦いが、始まるぞおおおおおおおおッッ!!』
二人は構えて待つ。
『開幕だあああああああッッ!!!』
「お前には負けねえぞ橘花」
「俺も負ける気は無い」
後書き
1巻分で話を終わらせるか原作と同じ4巻分を書き上げるか悩む。
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