テイルズオブザワールド レディアントマイソロジー3 ―そして、僕の伝説―
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第二十三話
――あの後、僕達はセルシウスから、彼女が知っている限りの話を聞いた。
あの暁の従者の時に現れたラザリスが、セルシウスが言っていた『災厄』と呼ばれる存在の事。
ただ、この事に関して、ラザリス自身が言っていた『誕生する筈だった世界』。それが何故、この世界『ルミナシア』に封じられていたのかはセルシウスにも分からないらしい。
だが、それと同時に新しい情報が彼女から入った。
それは、『この世の創世に立ち会ったヒトでも、精霊でもない者』、そして、その存在から創世の時について聞いた『ヒトの祖』。
……詳しい事は結局分からず終いで、現在はこの『ヒトの祖』の事について、リタがセルシウスから詳しく話を聞いている。
そしてそれを待つ今現状、僕はと言えば……――
「―――九百七十八、九百七十九……ッ…九百八十っ!」
――現在、素振り中であった。
要するに詰まるところ暇なのである。
現在、クラトス師匠等、僕にとっての師匠メンバー達は皆依頼に行っており、鍛錬と言ってもこうして甲板で素振りをするしかないのだ。
え?エミルやカイウス?…エミルはマルタとイチャついてて、カイウスはルビアといつもの痴話喧嘩してるよ(チッ……リア充暴発しちまえよ)。
「―――九百九十八、九百九十九……ッ…千ッ!!……ふぅ…」
――暫くして、目安にしていた素振り千本を終わらせると木刀をゆっくりと下ろして息を整える。
「――ぁ。やっぱり此処に居たんだ、衛司」
ふと後ろからそんな声が聞こえて振り返ると、僕を見て小さく微笑んでいるカノンノがいた。よく見るとその両手には飲み物が入っているコップが二つあった。
「……カノンノ?どうして此処に……というかそのコップは…?」
「ロックスから衛司が鍛錬してるって聞いたから何か飲み物いるかな、って思って持って来たんだけど……駄目だったかな?」
「全然。むしろナイスタイミングだよ。ありがとう、カノンノ」
カノンノの言葉にそう僕は答えカノンノから飲み物が入ったコップを受け取り、もたれ掛かれる所まで歩いてその場に腰掛けると、カノンノも僕の隣へと腰掛けた。
そのままカノンノから受け取った飲み物を飲んでいると、不意に隣に座っているカノンノの顔が少し俯いていた。
「……?どう……したの?」
「その、ね……衛司は私たちが今居るこの世界とは別の世界から来て……記憶が…あったんだよね…」
「……うん。まぁね……」
「それじゃあ……改めて聞いちゃうけど…衛司のいた世界には……やっぱり私の書いた絵の風景は…なかったかな…?」
ゆっくりと俯いていた顔を上げ僕を見てそう聞いてきたカノンノ。彼女の書いた風景……僕が居た世界では少なくとも…それを僕を見たことはない。
僕はカノンノのその問いに小さく首を横に振った。
「そっか……少し残念だな…」
「ごめん……力になれなくて」
僕の返答に落ち込んだ様子を見せるカノンノにそう頭を下げるとカノンノは『ううん』と首を横に振った。
「衛司のせいじゃないよ。……ただ、これで衛司が私の絵を見なくなるって思うと…ちょっと寂しくて…」
「そっか……ん……?」
僕が小さく頷いていると不意に、カノンノの言葉に引っかかった。
「…カノンノ、僕がカノンノの絵を見なくなるって……?」
「ぇっ……だって……私の絵はあくまで…衛司やメリアが見て、記憶の手掛かりになればってものだったから……別の世界から来てた衛司や、ディセンダーだったメリアは……もう見る必要がないんだなって思って……それで……」
そう言いながら徐々に声が小さくなっていき再び俯いていくカノンノ。
その姿が、いつものよりどこか弱々しく見えた僕は一度溜め息を吐くと……
「――この…考えすぎっ子っ!」
「――ぁいたっ!!?」
俯いたままの彼女の額やや上に向けデコピン(ちょっと強め)を放った。
突然の事に僕の指が直撃した額を抑え、カノンノも流石に驚いた表情で顔を上げた。
「……僕に記憶があって、別の世界から来たからって、メリアがディセンダーだったからって…僕達がカノンノの絵を見なくなる理由にはならないよ」
「ぇ……でも……もしかしたら……本当に無い風景かもしれないんだよ…?」
僕の言葉に驚いたままの表情でいるカノンノ。だが、それは徐々に寂しげな表情となっていき、そう言葉を出す。
今まで彼女自身があると信じ続け、『この風景は無い』と一言も言った事がない彼女から出た言葉。
……それは、多分、今までこれだけ様々な場所を見て回って、その風景がいまだに一つも見つからない現実から出た彼女の不安の言葉なのだろう。
「……絶対ある」
「ぇ……?」
「初めて絵を見せてくれた時にも僕は言った筈だよ。カノンノがあんなに綺麗に、鮮明に描けてる風景を『嘘』だとか『有り得ない』だとか言わないって。だから、僕は絶対にあるって信じてるし……見つかるまで僕も一緒に手伝うって。…だから例え、言い出したカノンノが途中で諦めそうになったって、僕が絶対に諦めずに一つでも見つけて、カノンノの手を無理やりにでも引っ張ってみせるよ」
弱々しく見える彼女に、僕はそう思った言葉をそのまま出し、言い終わると笑って見せる。
それが僕なりに出来る、彼女を安心させるものだと思って。
そう思いながらカノンノを見ていると……
「……ぇ…っ?」
突然の事に僕はそんな言葉が出た。カノンノが不意に顔を戻したと思うと、そのまま僕の胸元に顔を埋めるように抱きついてきたからだ。
ぇ……何事っ!?
「……ッ…」
「えっと……カノンノ…泣いて…る…?まさかデコピン痛かった!?それなら今すぐ謝るけど――」
「――違うのっ!……衛司は…本当に…良い人過ぎるから……嬉しくて……私の不安だって飛ばしてくれて……」
「………カノンノ……」
「――だけど……もう少しだけ不安だから……こうしてて……」
僕から顔を隠すように埋めてそう途切れながらも言葉を繋げていくカノンノ。
そんな彼女に、僕は左手で抱きしめ返して、右手でそっと頭を撫でた。
「……僕で良ければ……」
例えなんだろうと……彼女の力になれるのなら、僕はなんだって良かった。
―――――――――――――
――――『オマケその1(その後の甲板の衛司とカノンノ)』
「……………」
「……………」
「……………//(どうしよう)」
「……………//(離れ…ずらい)」
――そのまま約数十分、彼等がこのままで居たことは、言うまでもない。
――――――――――――
――――『オマケその2(ホール側のその他、甲板への扉の隙間から)』
「――……うわー、甲板に出ずらい」
「…良い雰囲気そうねー、二人とも♪」
「…お、ぉ、おぉお嬢様ぁあぁぁぁーっ!」
「いやいやー、青春ですねー♪」
「全くね~♪グフフフフ~♪」
――この数十分後、甲板から戻った二人に向け彼等の視線が温かったのは言うまでもない。
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