戦国異伝供書

「お主がじゃ」
「使えと言われますか」
「そうせよ、わしは最近わかった」
　ここで暗い顔になってだった、久政は猿夜叉に話した。
「お主は元服もまだじゃが」
「それでもですか」
「わしより器も資質も上じゃ」
　そのどちらもというのだ。
「それでお主が浅井家の主になればな」
「その時は」
「浅井家は変わる、わしは小さい」
　また自分で言うのだった。
「器も知れておる、しかしな」
「それがしはですか」
「そうじゃ、大きな者になってじゃ」
　そしてというのだ。
「浅井家を支えてくれる、だから元服してな」
「家督を継げば」
「わしはもう用がないか」
「いえ、それは」　
　どうかとだ、猿夜叉は久政に述べた。
「流石にです」
「ならんか」
「はい、やはり父上は浅井家の主」
「だからか」
「それがしこれから家督を継いでも」
　そうなってもというのだ。
「是非共」
「わしを親としてか」
「お話を聞きたいです」
「そう言ってくれるか」
「そのことお願い申します」
　父に頭を下げた、そのうえでの言葉だった。
「くれぐれも」
「済まぬのう、ではな」
「その時は」
「わしも及ばずながらお主に助言しよう」
「そうして頂ければ」
　こう父に言うのだった。
「それがしに有難いです」
「ではな、して近いうちにその元服じゃが」
　久政は今度はこちらの話をした。
「お主の名じゃが諱はな」
「それは、ですか」
「六角殿が付けられるそうじゃ」
　猿夜叉がどうかと見ている彼がというのだ。
「その様にな」
「左様ですか」
　猿夜叉は己の考えを隠して応えた。
「あの方が」
「そうされるとのことじゃ、そして名はな」
「そちらは」
「新九郎とするか」
　こう言うのだった。
「それでよいか」
「新九郎、よい名ですな」
「そうであろう、ではな」
「はい、元服した暁には」
「その様に名乗るとよい」
「わかり申した」
「その様にな」
　こうしたことも話した、そうして猿夜叉は元服そして六角家の方から正確に言えばその重臣の家から来る姫を正室に迎える日の準備をしていた。
　だがそれは表向きでだ、彼は六角家から独立し戦うことに備えていた。そしてその中で着々と動いていたが。
　その中で比叡山からも密偵からも六角家の話を聞きかつ鉄砲も揃えていた、彼はその揃えられた鉄砲達を見て言った。
「うむ、これだけあればな」
「鉄砲達がですな」
「今は三百です」
「三百あれば」
「大きな力となる、雨では使えぬし」
　火花が濡れてだ。