戦国異伝供書
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第七十二話 六角家からの話その五
「おわかりになられぬか」
「若し六角家が若殿と縁組をされると」
「先程のお話もありますし」
「それに六角家からさらに言ってきます」
「そのことも考えますと」
「急いだ方がよいか」
猿夜叉はこうも考えた。
「わしは」
「それも必要やも知れませぬな」
「ことの流れ次第では」
「それも」
「そうじゃな、しかし父上はわしをいつも慈しんで下さる」
父のしての久政も思うのだった。
「幼き頃よりな」
「殿は優しき方です」
「我等にも民にも」
「ああした方であればこそです」
「領地は平穏でもあります」
「そうじゃ、そうした方じゃ」
国を乱す様なことはしないというのだ。
「それ故にな」
「親不孝はですな」
「若殿もされませぬな」
「決して」
「無道な親なら諌めるものであるが」
子としてそれは当然だというのだ。
「しかしな」
「それでもですな」
「殿はそうした方ではない」
「だから諌めることもですな」
「若殿にしましても」
「せぬしな」
それにというのだ。
「如何なる事態でも無体、不孝はな」
「されませぬな」
「それは」
「何としても」
「そうしたい、わしはな」
孝についてはというのだ。
「何としても大事にしたい」
「戦国の世では親不孝も常です」
「父子で争うことも多いです」
「あちこちでそうしたことになっていますな」
「どうも」
「武田家が言われておるが」
この家だけでなくというのだ。
「大友家でもあったな」
「九州のですな」
「豊前や豊後、筑前に大きな力を持つ」
「あの家でもありましたな」
「特に伊達家はな」
この家の話もだ、猿夜叉は話した。
「代々じゃな」
「その様ですな」
「常に父子が争う」
「そうした有様ですな」
「それはよくない、源氏の様な無道じゃ」
苦い顔でこうも言ったのだった。
「源氏については知っておろう」
「はい、九郎判官殿のことだけでなく」
「あの方のことが有名ですが」
源義経のことから話された。
「あの御仁だけではありませぬ」
「源氏はまことに親子兄弟で争いました」
「叔父と甥でもでしたな」
「身内での争いばかりでした」
「平家や奥州藤原氏と争うよりまず身内でした」
「身内の中で争い」
「そしてばかりで」
つまり骨肉の争いに終始してというのだ。
「遂に誰もいなくなりました」
「源氏の血は絶えました」
「その嫡流は」
「今の源氏の家は傍系のみじゃ」
源氏を名乗る家は多いがというのだ。
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