| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

Epica53再始動~Their dreams~

†††Sideイリス†††

ようやく戻ってこられた本局に、嬉しさいっぱいのわたしはスキップで廊下を進んでいた。そんなわたしの後ろから「タイトスカートだってこと、忘れてない?」って、同じように局の青制服を着てるルミナの呆れ声が聞こえた。

「ギリで見えないから大丈夫っしょ♪ それより早く行こうよ! みんな、もう待ってるかもしれないしさ!」

わたし、ルミナ、セレス、クラリスの4人は今、特務零課――特殊機動戦闘騎隊(こっちの方が通称ね)のオフィスに移動中だ。そんなウキウキ気分でスキップするわたしの様子に、わたしを知る局員たちが微笑ましく眺めてくる。

「ティファ先生、クララ、セラティナも、本局勤めだしね」

セレスの言うように、名前の挙がった3人は特騎隊の強制活動休止に伴って、本局内の部署に異動した。ティファ――ティファレトは以前から務めてる医務局、クララは転移スキルを買われて護送官、セラティナは海上警備部。ちなみにミヤビは地上勤務の鉄道警備隊。

「でも大丈夫なの? ティファ先生、医務局の副局長になってるし・・・」

「大丈夫だよ、クラリス。ティファも、特騎隊への復帰を望んでたから」

脅威対策室から特騎隊の再始動許可のお達しがわたし達メンバーに送られてきて、それぞれ異動願いを出してる。でも、さすがに「ティファも立場的に長期遠征任務はダメみたい」って付いちゃう。そりゃ医務局のナンバー2になったわけだから、あんまり本局を空けるわけにはいかないんだよね。

「医療スタッフの人員は足りているけど、補充はどうするの?」

「・・・うーん。要る?」

わたしがそう聞き返すと、3人は「要らない」首を横に振った。自分で言うのもなんだけど、特騎隊は管理局内に存在する全ての部隊の中で最強だって思ってる。全員がマイナス、ニア、プラスを含めたSクラスだ。余程のことがない限りは、医務官が必要なほどのダメージは受けない。

「(次元世界の中でも最高クラスのティファの治癒魔法だって、特騎隊としての活動中は1度も使わずに済んでたし)だよね~」

「そうそう。それにアイリも居てくれるしさ」

「だけどルシルはもう頼れないよね? 前線復帰できるか判らないんでしょ?」

「んー、たぶん・・・。でもルシルも特騎隊に復帰するつもりだって言ってくれてたし」

「事務方、サポート班としてでしょ? まぁ、ルシルが抜けたくらいで特騎隊が弱体化するわけじゃないけど」

「でも空戦や対多、対兵器戦とかは、ルシルの魔法の方が効率いいからな~」

「そこは、わたし達がきっちり役割分担して頑張ろうじゃん」

そうしてわたし達は、捜査部フロアの一画に用意された特騎隊オフィスの前に到着。特騎隊オフィスと廊下を隔てるスライドドアの横には、The 0th Extra Forceって刻印されたプレートがある。この隊を設立することを決め、脅威対策室からプレートのデザインをどうするか聞かれて、日本で好きになった桜の花を背景に彫ってもらった。

(わたしのキルシュブリューテも、桜の花って意味だし)

わたし達はドアの前に立って、「さぁ、行こう!」1歩踏み出す。ドアがスライドして開いて、私たちを迎え入れてくれた。久しぶりのオフィスの中に入ると、「おかえりなさい!」出迎えの挨拶が掛けられた。
すでに待ってくれていたスタッフみんなの敬礼に、わたし達も「ただいま!」って敬礼を返した。部隊長デスクへ続く動線の両側に立つみんなの顔をちゃんと見ながら歩みを進めてると、今この場に居るのがおかしい髪色が目に入った。

「・・・って、ルシル!? 何やってんの!? まだ退院できてないでしょ!」

右側の列の1番奥、わたしのデスクに近い場所に、車椅子に座ってるルシルが居た。ビックリしてるわたしに向かって、「いやだって、俺も特騎隊だし」なんて小首を傾げた。

「特騎隊の再始動日だと言うのに、俺ひとり医務局のベッドで寝ていられるか。ティファ先生に少し無理を言って連れてきてもらったんだ」

ルシルの向かい側に立つティファをジロッと見ると、ティファは「主治医のシャマル先生にも許可貰ってる」ってポツリと言った。ルシルの後ろに控えてるアイリに目をやると、「間違いなく♪」ウィンクしてきた。

「なら、いいか。でも体調が悪くなったらすぐに戻ってよ?」

「了解だ。ま、足が動かないだけだから問題ないさ」

それだけでも十分な大問題なんだけど。ひとつ嘆息した後にわたしは、「ミヤビ。お待たせ」嬉しそうにしてるミヤビに声を掛ける。

「はいっ、シャル隊長! 約束を守っていただいてありがとうございました! ミヤビ・キジョウ、この日をずっと夢に見ていました!」

涙目になってるミヤビが愛おしくて、わたしは「ごめん、ありがとう!」彼女をハグした。この子もハグし返してくれて、喜びを分かち合った。そして、わたし1人で部隊長デスクの前に立って、ルミナとセレスとクラリスはそれぞれ自分のデスク前に立つ。

「コホン。えー、みんな久しぶり! 本日より特務零課・・・特殊機動戦闘騎隊の活動を再開します。わたしたち特騎隊は、臨時任務に即応するための部隊です。身内の恥ですが、最後の大隊によって引き起こされた今回のイリュリア・クーデター事件によって管理世界に起こされた混乱は、今なお影響があります」

特騎隊の半数はザンクト・オルフェン出身者だ。全員が騎士でもないし魔導師でもないけど、今回の事件で知り合いが大隊関係者だったってスタッフも何人か居る。だからわたしの言葉に俯くスタッフが何人もいた。

「最後の大隊が壊滅したことで、抑圧されていた犯罪組織や犯罪者が再び悪事に手を染め始めた。わたしたち特騎隊は、中でも脅威レベルの高い連中を相手にすることになる」

特騎隊の仕事は、普通の武装隊などじゃその事件を解決できないと判断された際、その事件専門の他特務隊が設立までの期間、被害の拡大を食い止めることだ。ま、わたし達が強すぎて、そしてスタッフが有能なおかげで、専門部隊の設立までに解決しちゃうんだけど。

「たぶん、これから忙しくなると思う。だから・・・だから、みんなで力を合わせて、管理世界、ううん、次元世界の平和を守っていこう!」

わたしが高々と右拳を突き上げると、みんなも「おおー!」拳を天井に向かって突き上げた。スタッフの士気も上々で、溜まってた仕事をし始めたみんなの様子を一通り眺め終えた後・・・。

「ねえ、ルシル。あなた、本当に医務局に戻らなくても大丈夫なの?」

隊長であるわたしの補佐官を務めるルシルも、隊長デスクの近くにある副官デスクに着いて、滞ってた特騎隊の書類整理をし始めたから、もう1度聞いてみた。さっきも大丈夫みたいなことを言ってたけどさ、やっぱり不安は完全に拭えない。

「心配するな、シャル。何せこのオフィスには今、ティファ先生とアイリが居るのだからな。容態が急変してもすぐに診てもらえる」

ルシルが信じてるティファとアイリは他の医療スタッフと、特騎隊の遠征任務用の母艦となるLS級艦船シャーリーンに積み込む医薬品を確認してる。

「・・・えっと、しつこいのは、わたしがあなたを心底心配してるってことで、その、そこは解かってほしい」

「当たり前だろ。ありがとう、シャル。でもこれは、俺が特騎隊の一員として意地だ。再始動日の初日くらいはしっかり務めを果たしたい。ま、明日からもうしばらく入院生活を満喫させてもらうよ」

「ん。それでいいんだよ」

ルシルに抱き付きたい衝動を抑えて、わたしも仕事を開始。モニターとキーボードを立ち上げて、活動休止前から溜まってる仕事の片付けに入る。

(明日のパラディン昇格試験、応援に行けたらいいんだけど・・・)

トリシュ、アンジェ、それにフィレスとパーシヴァル君は明日、メンバーが総入れ替えになる銀薔薇騎士隊ズィルバーン・ローゼの入隊資格であるパラディンになるため、同じ騎種の騎士やシスター達と総当り戦を行う。
トリシュは弓騎士、アンジェは打撃騎士、フィレスは剣騎士、パーシヴァル君は槍騎士の騎種別で試験だ。応援には行けたら行くって話をちょっと前にしてたんだけど、特騎隊の再始動と被っちゃうなんて。

(ごめーん!)

心の中で土下座しながら、わたしはカタカタとキーボードのキーを打ち続けた。

†††Sideイリス⇒トリシュタン†††

子供の頃から夢だったパラディン。その夢が叶うかどうかのパラディン昇格試験。私は弓騎士の頂点であるボーゲンパラディンの座を懸けて、他の弓騎士と総当り戦を行っている。
例年どおりなら昇格試験は14日間と時間を掛けて、常に万全の状態で平等に試合に臨めるようになっていた。でも、大隊の一件で騎士の大半が試験に臨めるような状態ではなくなったことから、今日1日で全試合が終わる予定。

『トリシュ。アンジェリエですが、そちらの様子はどうですか? こちらは、やはりB級の騎士が多く、それに開会式で見て知ったとおり参加人数が少ないことで、もう試合が終わりそうです』

3試合を全勝で終わらせて控え室で休憩している私に、アンジェから思念通話が入った。

『弓騎士の方も似たようなもの。私たちオランジェ・ロドデンドロンのメンバーが、先のパラディンを打ち破ったって話もあって、相手の士気が少し下がってきてる』

ただでさえB級の騎士が多い中、私たちがそんな戦績を出してしまったことがかなり影響を出していた。けれど実際、私はボーゲンパラディンだったガラガース卿には勝てなかったし、アンジェとクラリスも魔術師化という、現代においては反則級のアドバンテージがあったこそ勝てた。それは2人も認めている。そう、厳密には私たちは勝ってはいない。

『けれど、長年A級の1位を競い合ってたエクトルがいるの』

『エルネスタ・エクトルですね。騎士としての英才教育を受けていたあなたを、何度か打ち破った・・・』

先のザンクト・オルフェン決戦でも彼女は、自身の隊である黒篝火花騎士隊シュヴァルツェ・ツュクラーメンを率いて、裏切りの騎士たちを何十人と確保した。実績も実力も十分すぎる。

『相手にとって不足なし』

エクトルも3勝で休憩を迎えている。そして次の相手が彼女だ。今回の最大の試練とも言える彼女にさえ勝てれば・・・。拳をギュッと握って、これまでの彼女との闘いを反芻して、勝つイメージを思い浮かべていると、ズズゥーン!と足元が揺れた。

「っ!?」

聖王教会本部から少し離れた場所に建てられているここ騎士団訓練施設。五角形状に並ぶ5棟のドームが渡り廊下で繋がっている巨大施設で、そのうちの弓騎士試験が行われている第3クッペル内に・・・

『今の振動は、第2クッペルで行われているフィレス・カローラ、ボニファーツ・ド・バトラーの試合によるものです。安心して試験を続行してください』

そんなアナウンスが入った。セレスの姉の騎士フィレスと、イリスとA級1位を長年競い合っていたけど、2年前に除隊した騎士バトラーの試合。今回のイリュリア・クーデター事件で人手不足になったことで再入隊を果たした。そんなイリスと互角な騎士バトラーと、騎士フィレスの闘いなら、今の振動も納得できる。2人ともSクラスの魔力を有する騎士なのだから。

『トリシュタン・フォン・シュテルンベルク、エルネスタ・エクトル両名、試合会場へ』

アナウンスで名前を呼ばれ、私は深呼吸を1回してから椅子より立ち上がり、控え室から出る。クッペルの中央にある試合会場とも呼んでいる訓練場へと向かう。

「シュテルンベルク・・・」

「エクトル・・・」

2つ隣の控え室から出てきたエクトルとバッタリ。アリシアさんとフェイトさんのハラオウン姉妹には劣るけれど綺麗な金の髪をフォーテール(一般的なツインテールのように頭の上の他に、耳の下辺りにもう2つテールを結んでいる)、深い青い瞳の右側にはモノクルを付けて、わたしと同じ女性用の騎士団服を身に纏っている。

「ボーゲンパラディンとなるための最大の障害だったガラガース卿が失脚した今、貴女を倒しさえすれば確実にパラディンとなれる」

別段会話する気がなかったけれど、隣に並ばれてしまえば仕方ない。私は「パラディンの切符は私が頂く」と告げると、エクトルは「そっくり返すわ」と小さく笑った。

「それにしても、シスタープラダマンテの失脚、リナルド元団長の死という形でトラバント家が没落したことで空席となった六家の座を狙おうとしていたら、まさかシュテルンベルク家がすぐに収まるなんて。一体どうやってマリアンネ聖下を篭絡したの?」

「特には。まぁシュテルンベルク家は、古くはシュトゥラから続く家柄であり、聖王家とも繋がりがあったから、それが理由では?」

挑発を受け流し、チラッと横目でエクトルを見てフッと鼻で笑って挑発返し。エクトル家も古い家柄ではあるけれど、シュテルンベルク家に比べればまだ新しいし、聖王家との繋がりはまったくない。

「・・・六家の座は奪われたけど、パラディンの称号だけは必ず、エクトル家が貰い受ける」

「はいはい頑張ってください」

「この・・・! 貧乳」

エクトルがボソッと呟いた単語を、私の耳はしっかりと聞いた。けれど、そんな安い挑発を受けるわけにはいかない。しかし彼女は調子に乗って、「24歳でその小ささ。可哀想」なんて哀れんできた。うん、もうそろそろキレそう。

「ま、弓騎士であるなら小さい方がいいでしょうけど。でも小さいと女性としては・・・ね。ふふ、小学生みたい♪」

プチ。

「貧乳がそんなに悪いの!? 大きかったらそんなに偉いの!? というかそこまで小さくないわ!」

我ながら安い挑発に乗ってしまったと、怒鳴る最中に思っていたけれど、同姓とはいえ身体的特徴を馬鹿にするのは許せなかった。

「ひゃあん!? な、何をするの!?」

エクトルの胸を両手で鷲掴んで、「それに、私と対して変わらないでしょうが!」女である私の小さな手に収まるほどの大きさの胸を揉みしだく。触れた限り、悔しいけど私より少し大きい。

「この、ちょっ、もう・・・ダメ・・・!」

「足腰立たなくしてやる!」

「ハッ! は、な、れ、て!」

ドンッと突き飛ばされた私は、顔を真っ赤に肩で息をしているエクトルを見る。乱れた団服を調えて、私に指を差すと「胸のサイズと同じく絶対に負けないから!」それだけを言い放って、ひとり会場へ走り去って行った。そんな彼女を見送った後、私は自分の胸に手を添えて軽く揉んだ。

「・・・。いいもん。小さくたって、赤ちゃんにミルクあげられるもん・・・」

くすん。しょんぼりしながら私も会場へ向かう。スタジアムとも言える観客席のあるフィールドの出入り口は東西のゲート2つで、私は東から入った。そこで「少し遅刻ですよ、騎士トリシュタン」審判員に注意されてしまった。

「あ、はい。申し訳ありません」

早足でフィールドの中央に立つ。私と向き合う形で佇んでいるエクトルは目を閉じて瞑想中。向かい合う私たちに「それではこれより、騎士トリシュタンと騎士エルネスタの試合を行います」審判員が告げた。

「フィールド設定は森林。フィールド展開後、30秒間の移動時間を設けます。そして合図と同時に試合開始です」

審判員が離れていき、「騎士甲冑と武装の用意を」と告げた。右耳に付けている十字架型の待機形態である「イゾルデ!」と呼び、起動させる。反りのある二振りの短剣の柄頭を連結させた弓へと変形させる。

「ブランジァン、起きなさい」

エクトルも団服の袖を捲り、ブレスレットを露にした。起動した“ブランジァン”は左前腕を覆う籠手となり、手首の両側からリムが伸び、ダークブルーの魔力弦が張られた。
騎士甲冑は、立て襟のブラウス、ペプラムジャケット、レギンス、前開きのオーバースカート、ハーネスブーツ。腰には物質矢を収める矢筒。そしてモノクルにレティクルが浮かび上がった。

『では、フィールド展開』

アナウンスが流れると同時、建造物シミュレータによって木々が投影された。私とエクトルの間に巨木がそびえ立ち、お互いの姿が見えなくなる。これから30秒の間は移動時間。その間に狙撃ポイントを探すために動く。

(思ったより木々が多い。直線距離での狙撃は難しいかも)

そうこうしている内に『試合を開始まで5秒』そうアナウンスが流れた。4、3、2、1とカウントをして、『試合開始!』のアナウンスと共にブザーが鳴った。私は即座に木の頂上へと上り、探査用の魔力矢を1本と魔力弦に番える。

――這いずるは不明なる発信者――

魔力矢の先端、鏃だけを不可視化させたところで・・・

――弐竹――

森の中から魔力矢が1本と飛来。私は横っ飛びしながら弦を引き、「往け!」不可視の魔力矢を射た。軸のところが消滅し、透明になっている鏃だけが飛ぶ。
エクトルはガラガース卿の弟子でもあり、使用する魔法は彼のものと同じ名前、同じ効果。けれどガラガース卿の下位互換とも言える魔法ということもあり、対処はしやすい。

(それに、彼女には兄様やはやてのような遠隔発生資質は無いから、矢の射出場所に必ず居る!)

今射た鏃――発信者は、直前に私に向かってきた魔力に反応して、その出所の近くで待機、そして私にだけ判る魔力波を放ち続けて、対象の居所を教えるというものだ。これでどこに隠れていようとも相手の居場所が判る。

「よっと」

木の枝に降り立ち、発信者より反応が来るのを待ちつつ、新たに生成した魔力矢を指の間に4本と挟みこむ。そして自前の目の良さを魔力で強化することで機能するようになる千里眼を使って、発信者と一緒にエクトルの姿を探す。

(見つけた!)

魔力矢を“ブランジァン”に番えていたエクトルと目が合った。彼女のモノクルも特別製で、私の千里眼と似たような機能を持つ。考えることは同じだ。でも勝つのは・・・

――滅び運ぶは群れ成す狩り鳥――

「私だ!」

――五乙――

共に放った魔力矢は、お互いの間で何十本という光線となって激突した。空に数え切れないほどの魔力爆発が起きて、視界を潰すほどの光を生み出して視界は潰した。けれど私には発信者の効果があるから、エクトルの居場所はもう掴んでいる。

「一気に決めにいく!」

新しい魔力矢を番え、私は勝利のために手加減無用の攻撃を行い始めた。

・―・―・―・―・―・

聖王教会騎士団の最精鋭部隊である銀薔薇騎士隊ズィルバーン・ローゼ。その隊に所属するための条件は各騎種、剣騎士、騎乗騎士、鎌騎士、斧騎士、弓騎士、槍騎士、打撃騎士の頂点、パラディンの称号を得ること。
最後の大隊の一件にて壊滅状態だったが、今日、パラディンを選定するために行われた試験によって、新しいパラディンが誕生した。

「聖王教会教皇兼教会騎士団団長、マリアンネ・ド・シャルロッテ・フライハイト。そして六家当主は、あなた達を新たなるズィルバーン・ローゼに属するパラディンとして認めます」

パラディン昇格試験が行われていた5つのドームから成る訓練施設、その第1クッペルにて、ベルカ自治領ザンクト・オルフェンを治めるフライハイト家と、それに連なる六家の当主たちが、フィールドの中央に設けられたステージ上に居た。マリアンネを始めとした自治領の長たちの前には、新しいパラディンとなった騎士たちが横に並んでいた。

「では、騎種・剣騎士、シュベーアトパラディン、フィレス・カローラ」

「はい!」

教皇マリアンネの秘書官を務めるツィスカ・ヴェールマンが、ステージ脇から名前を呼んだ。呼ばれたフィレスが短い移動階段でステージに上がり、マリアンネの前で肩膝立ちをして頭を下げた。

「フィレス・カローラ。第8代シュベーアトパラディンに任命します」

マリアンネは隣に立つカリム・グラシアの持つクッションの敷かれた薄く長い箱から、1つの薔薇を象った記章を手に取り、フィレスの団服の襟に付けた。

「フィレス・カローラ、謹んで拝命いたします」

一礼をした後、フィレスがステージを降りて元の列に戻ると、ツィスカが「騎手・弓騎士、ボーゲンパラディン、トリシュタン・フォン・シュテルンベルク」と次の名前を呼んだ。トリシュタンも、フィレスと同じようにマリアンネの前で肩膝立ち。

「トリシュタン・フォン・シュテルンベルク。第12代ボーゲンパラディンに任命します」

「トリシュタン・フォン・シュテルンベルク、謹んで拝命いたします」

「騎種、打撃騎士、シュラーゲンパラディン、アンジェリエ・グリート・アルファリオ」

「アンジェリエ・グリート・アルファリオ。第14代シュラーゲンパラディンに任命します」

「アンジェリエ・グリート・アルファリオ、謹んで拝命いたします」

「騎種、槍騎士、シュペーアパラディン、パーシヴァル・フォン・シュテルンベルク」

「パーシヴァル・フォン・シュテルンベルク。第11代シュペーアパラディンに任命します」

「パーシヴァル・フォン・シュテルンベルク、謹んで拝命いたします」

幼少の頃よりパラディンを夢見ていたトリシュタンとアンジェリエは、見事にその夢を叶えた。フィレスも、イリスが戻ってくるまで、そして自分に勝ってシュベーアトパラディンの座を奪うその時まで、パラディンとして居続けることを決意していた。再びシュペーアパラディンとしての座に就いたパーシヴァルは、妻や子に恥じぬ騎士であり続けると誓った。
こうして銀薔薇騎士隊ズィルバーン・ローゼは、新たにパラディンを迎えて再始動した。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧