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曇天に哭く修羅

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第一部
  春斗に非ず

 
前書き
_〆(。。) 

 
立華紫闇(たちばなしあん)》と《江神春斗(こうがみはると)

彼等が立ち会った翌日。

午前五時半。

江神の屋敷。

起床した春斗は水風呂に入る。

気を引き締めてから《エンド・プロヴィデンス》、祖父である《江神全司/こうがみぜんじ》の二人が待つ道場へ向かう。

彼にとっては何時ものこと。

エンドは道場の端で見ているだけだが他の二人は剣道の防具を着けて竹刀を持つ。

全司は今年で90才になる。

だが、【邪神大戦】の折に『剣鬼』と呼ばれていた益荒男(ますらお)の気迫は今だ衰えない。

筋骨も隆々。

上背(うわぜい)も175cm有る春斗より更に高い。

180cmを越えている。

そんな祖父・全司との稽古は常に緊張感に溢れているのだが、春斗は九才になった頃から一度も一本を取らせたことは無かった。

春斗は2年前の13才だった当時、日本で最初の【魔神】と話題だった[鉄拳の女帝]《白鳥マリア》に挑むも一秒で大の字に倒れ見下ろされてしまう完膚無きまでの敗北を喫する。

しかしそれは、あくまでも【魔術師】として、【魅那風流】の剣士としてに(こだわ)ったからであって、全ての力を惜しみ無く使っていれば、決して負けはしなかっただろう。


「今日も春斗の勝ちかぁ」


エンドがぼやく。

互いに探りを入れて剣を交わす両者。

そこから良の調子で撃を打ち込む。


「ふぅーむ。春斗の剣は日々成長を遂げ、冴えを増しておるようじゃな。もはや先読みで技を察知できていても躱せん」

「恐縮です」


外観から見た全司の肉体は60年前の全盛期と比べても殆ど変わらない雰囲気だ。

加齢による老いは有るが、現在の状態でかつての邪神大戦に参加しても、まだまだ強者の部類に入るだけの実力を維持している。

剣技の熟練度に関しては大戦が終わってからも長年の鍛練と研鑽を経て、当時よりも数段上の領域であろうことは間違いない。

寄る年波による弱体化を技術と経験、気迫と磨き抜いた感覚で埋め合わせ補う。


総合的には全盛期と変わらないはず。


(なのに勝てぬのは)

(勝てないのは)


全司とエンドは同じ答えが浮かぶ。

単純な実力で春斗の方が上。


(例え『鬼』で在らずとも、今の俺は貴方には負けませんよ、御爺様。あの頃に、父上と母上が亡くなるより前にレイアさんとエンドに出逢っていなければ解りませんが、今の俺なら[本気]の御爺様であろうと歯牙に掛からない程度でしかない)


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


江神春斗の両親は七年前に死んだ。

《ナイアー=ラトテップ》が討たれ東京が【無明都市/ロストワールド】となった。

その時に死んだという。

春斗は無明都市の発生時に何らかの影響で外部へと弾き出されてしまったことで彼は無明都市に隔離されなかった『生還者』という世界的にも稀な存在となる。

春斗は二人のことに執着しているわけではないが、二人は今でも彼に影響を与えていた。


仏頂面の父と厳格な母が一度だけ破顔して頭を撫でてくれた時のこと。

魅那風流の奥義を身に付けた時だ。


「よくぞその歳で身に付けた」

「貴方には剣才が有る。かけがえの無いものを持って生まれましたね春斗」


これが忘れられなかった。

だから剣の道を歩み続けている。

鬼に成れない自分でも諦めが付かないのは、この時のことが有り、『人』のままで強者となって見せた《永遠レイア》が居たから。


(父母が褒めてくれたのはあれっきり。最初で最後のことだった。だからこそ魅那風流の剣士であることに固執するのかもしれない)


左手の甲に有る【古神旧印(エルダーサイン)

春斗は初期状態の点。

それも仕方ないだろう。

彼は学園に不登校な状態。

もちろん【天覧武踊(てんらんぶよう)】にも出ていない。

春斗を気にした全司が話を振る。


「五割まで完成させてからが長い道程になる、と何処かで聞いたことが有るな」

「はい。古神旧印のシステムが生まれてから七年経ちますが、完成率が五割以上に達した者は世界で30名に満たないようです」


古神旧印は天覧武踊で相手を失神・殺害してエネルギーを奪うのだが、それを続ければ必ず五割以上になるというものではなかった。

二人の会話にエンドが口を挟む。


「俺の予想ですけど刻印は強者を倒さないと成長しないんじゃないんですかね? このシステムは圧倒的な強者、『神に選ばれし者』を決める為のものじゃないかと」


古代旧神(エルダーワン)】が何を考えているのか人間には理解できるわけも無いが、エンドと春斗には全司の思考が手に取るように解った。

神に選ばれし者。

それは孫の春斗に(あら)ず。

彼はそう思っている。
 
 

 
後書き
_〆(。。) 
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