ソードアート・オンライン クリスマス・ウェイ
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消えない歌声【前編】
珍しく天気予報が大はずれし、予測されなかった大粒の雪が新宿のモール街に舞っていた。
雪に足をとられる前にと、駅へ急ぐ人々をよそに俺と明日奈は二人でベンチに座っている。
光り輝くクリスマスツリーのイルミネーションの向こうですこし気の早い「赤鼻のトナカイ」が流れている。
助けられなかった彼女の歌声がメロディにのって蘇る。
――二年前のクリスマスに背教者ニコラスがもたらした宝は、結局なんの力も奇跡も持たなかった。
うちひしがれて、のたうちまわり、掴んだ雪の冷たさを思い出し俺は両手を見た。
俺の、桐ヶ谷和人の指先は冷気に凍えて真っ白だった。
手のひらに雪の結晶が乗る。手にのった雪はすぐには溶けない。
指は冷え切り、白くなっていた。雪が次々と手のひらに落ちてくるが、拭き払う余力もなかった。
すると俺の手を、ずっと隣にいた明日奈がそっと掴んだ。
わずかに生きていた神経が明日奈の手の感触を伝えてくる。氷のように冷たかった。
当然だ。このベンチに二人で腰掛けてからもう一時間も経っている。
突然の雪だったので傘もない。
明日奈の栗色の髪にうっすらと雪が乗っていた。
「でもね。でもね、キリトくん……」
明日奈は冷え切った俺の手を躊躇なく自分の頬に押しつけた。
VR空間では情報量が少なすぎてまだ完全に感じることができない、本物の体温が手のひらをくすぐる。
明日奈はもう一度、俺の手を頬に押しつける。
強くふれたら崩れてしまいそうなほど、アスナの頬はやわらかい。
瞳から落ちる涙が俺の指に滴る。涙は温かくて熱かった。
熱い吐息が手首のあたりを流れていく。
そして明日奈は目を細めて、微笑みながらこう言った。
「でもね、キリトくんが、私を迎えに来てくれた日も雪がふってたんだよ――」
と――。
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