| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

曇天に哭く修羅

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第一部
  才気

 
前書き
_〆(。。) 

 
江神春斗(こうがみはると)》は体育館の中央に移動。

深呼吸や精神統一をしている。

立華紫闇(たちばなしあん)》もウォームアップ。

体を温め中央へと踏み出す。


「度肝を抜いてやれ」


黒鋼焔(くろがねほむら)》は彼とすれ違う時に激励し、《エンド・プロヴィデンス》や《的場聖持(まとばせいじ)》の居る所へ歩いていく。

紫闇の右腕が肘の辺りまで灰色の外殻に覆われ全身が銀色の魔晄防壁に包まれる。


「では見せてもらうぞ」


春斗は直刀を下段に置く。

そして脱力した。


「持国天の構え」


紫闇から感嘆の息が出る。

見事な立ち姿だ。


(ぶちのめしてやりたかったのに思わず見とれちまうとはな。良いね。そうこなくちゃ。でなきゃ俺が憧れるだけの価値が無い……!)


初めて会った時に五人の学生魔術師を瞬殺して見せた頃から薄々感じてはいたが、紫闇は改めて春斗との間に有る絶対的な差に戦慄してしまう。

隙を探す紫闇は春斗を囲むようにゆっくりと周回しながら歩を進める。

が、付け入るような(あら)は皆無。


(やっぱ駄目か。どうせ背後からの不意討ちも当たらないだろうし。負けるってんなら潔く真っ向勝負と行かせてもらうぜ)


紫闇が間合いに侵入。

刀を()った春斗は悠然に動く。

紙一重で躱し、刀身で受け、位置取りを変えて攻撃が出来ないように立ち回り、紫闇の猛攻を事も無げに、当然の如く凌ぐ。

そんな春斗を見て解らされる。


(一連の体捌きで判るな。やっぱ天才だわ。同じ期間修業してもこうなれる気がしない)


そんなことを考えていた紫闇の耳に春斗の声が危機を報せるように飛び込んできた。


「参る」


速度・鋭さ・タイミング・軌道。

文句無しの一刀。

以前の紫闇なら訳も解らず食らっていた。

しかし今の彼は違う。

スレッスレで避ける。

春斗の顔面にカウンターの右拳が飛ぶ。

対応する春斗は何時の間にか剣を元の位置に構えて次撃を出す体勢を整えていた。

彼は紫闇の反撃を読んでいたのだ。

斬撃が飛ぶ。

が、ここまでは紫闇の想定内。


紫闇は拳を繰り出しながら交差して迫る春斗の攻撃が命中する寸前で[盾梟(たてさら)]を発動。

防壁を膨らませて強化。

これは『堅剛(けんごう)』という技術。

防御で相手の攻撃を受け止めながら、自分の出した攻撃の反動で攻撃を出した部位を痺れさせることで意図的に相手の隙を作り出すもの。

間接的な攻撃には使えないが直接攻撃してくる相手には大体通じるので便利。


(技の性質上、相手の攻撃力と耐久力、麻痺からの復帰を計算に入れないといけないけど)


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


紫闇が盾梟を発動したことを確認した春斗は直刀が魔晄防壁にぶつかる前に柄の握りを弱めながら後方へ跳び下がることで衝撃による腕の痺れを防ぎつつ、紫闇の反撃が届かない場所へと迅速に避難する。


(一定以上の力を使って硬く質量の有る物体を叩くと腕が痺れてしまうのと同じ原理の迎撃をする防御用の技なのか)


金属バットを力いっぱい硬い床や壁に向かって打ち込んでみれば判るかもしれない。

(すす)めはしないが。

ならばと春斗は紫闇がカウンターによる反撃を取れないようにしようと攻め方を変える。

紫闇に近付くと彼の攻撃に合わせて自分がカウンターを決めることで地道に斬っていく。

全身なます切りだ。


「普通なら死んでいるのだが頑丈だな。魔晄防壁だけでなく体も心も有ってこそだが」


春斗の斬撃は切っ先だけではあるが、紫闇の魔晄防壁を完全に突き抜けていた。

お陰で出血多量。

長くは持たないだろう。


「満身創痍であろうと相手が相手だ。そう簡単に手を抜くわけにもいくまい」


春斗が腰を落とす。

直刀の柄頭を腹に当てた。


「増長天の構え」


春斗の威圧感が増していく。


「魅那風流剣術・飛車斬り」


震脚のように春斗の足が踏み込む。

強靭な体育館の床が砕ける。

有象無象の【異能】なら破壊すること叶わぬ強固な構造の体育館を【魔晄】の身体強化が有るとは言え、ただの踏み込みで破壊するのは異常だ。

紫闇と春斗、彼我(ひが)の間合いが詰まる。

今までとは比べ物にならない速さの斬撃。

連続して飛ぶそれは紫闇からすれば無数の光る銀色の筋が殺到するようにしか見えない。

一閃たりとも見切れなかった。


(この斬撃は立華の攻撃を()なしながら出していたカウンターとは違う。此方(こちら)から積極的に斬っていく乱撃だ。既に全身が傷だらけのお前が何処まで耐えられるかな?)


傷の上から無数の斬撃を浴びる紫闇。

まるで痛みという嵐の中に投げ込まれたかのように体のあちこちが余すところ無く痛い。

皮膚が裂け鮮血が散る。

骨が折れて砕ける。

何処かの内臓も破裂した。


血反吐を吐いて紫闇は春斗に迫る

ボクシングのクリンチと同じ。

抱き付けさえすれば密着状態なので下手に剣を振ることが出来ず攻撃も止むだろう。


(押し倒して寝技へ───)


しかし見抜かれていた。


「甘い」


春斗は側面に回り首に一撃。

それに反応した紫闇の右拳が黄金に輝く。

繰り出した[禍孔雀(かくじゃく)]はクリーンヒットして春斗の顔面で爆発を起こす。

しかし彼は動かない。

完全に発動して捉えたのに無傷。


「その程度か?」


春斗から返礼の突き。

直刀の切っ先は紫闇の首筋を打ち、彼の体を体育館の端まで吹き飛ばした。
 
 

 
後書き
_〆(。。) 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧