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曇天に哭く修羅

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第一部
  打算による立ち会い

 
前書き
_〆(。。) 

 
《クリス・ネバーエンド》が壁に張り付いていた背中からずり落ちると【魔晄(まこう)】の気配、そして【魔晄外装】が消えた。

意識を失ったようだ。


「特定の人間を除いた中では強い【魔術師】だったけどあたしの首を取るには未熟。新しい【異能】でも身に付けてから出直しておいで」


黒鋼焔(くろがねほむら)》はクリスを見下ろす。


(一体どうやって、何をしてクリスを倒したのかまるで解らない。何も見えなかった。気が付いたら終わっちまったって感じだ)


焔や《永遠(とわ)レイア》と共に黒鋼の屋敷で修業していた頃は《立華紫闇(たちばなしあん)》の目で追えるくらいの速さだったはず。

ということは紫闇を完全に殺してしまわぬよう手を抜いてくれていたということに他ならない。


(遠い……。何て距離なんだ。一体どれだけ離されてるんだ俺と焔は。そして焔より強いレイアさんとは想像することすら出来ないな……)


焔の背中に届くどころか足下にも及ばない以上の差が付けられている。

その現実が紫闇を打ちのめす。

しかし彼は恍惚(こうこつ)とした。

これだけの力を持った強者が自分の師。

それは紫闇にとって超えるべき目標が増えたということに他ならないのだ。

先が楽しみになってしまう。


「立華。あの動きが見えたか?」


江神春斗(こうがみはると)》は焔に鋭い目を向けながら紫闇に彼女が取った行動の理解を問う。


「いや、理解(それ)以前に見えてない」

「そうか。黒鋼焔はさっきの一撃に異能も【超能力】も用いてはいない。クリスの猛攻に耐えるだけの防壁を張りながら一足跳びで近付き外装の有る右腕を振り下ろしてクリスの胴へと叩き付けた。それだけだ」


紫闇は春斗の解説に瞠目(どうもく)する。


「技術も理法も何も無い。ただただ基礎能力の高さに任せた素人のような手打ちで体重も乗ってなければ腰も入ってないものであれとはな」

(流石は当代の黒鋼と言ったところか)


紫闇と違い春斗には全て見えていた。

故に紫闇は感じ取る。

現時点の自分と春斗の明確な差を。


「俺の師であるエンドと聖持もそうだがお前もつくづく恐ろしい師を得たものだな。闘技者として(やつ)(のぞ)みたい気持ちは有るが、今はそれよりも優先すべきことが有る」


春斗は紫闇を見た。


「俺は構わないぜ。今からでもな」


願ってもないことだ。今の力が何処まで春斗に通じるか本人を相手に試せるのだから。

この機会を逃す手はない。


「成る程。俺もお前も互いに気持ちの準備は出来ているというわけか。それでは何の問題も無いわけだな。学園の【天覧武踊(てんらんぶよう)】で学年序列を取り合う番付勝負をしているよりよっぽど有意義な時間を過ごせそうだ」


紫闇と春斗は嬉々として目を輝かせ、愉悦に口元を歪ませながら闘志を剥き出しにした。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「焔さーん。そいつ死んだの?」


《エンド・プロヴィデンス》が様子を尋ねる。


「君なら判ると思うけど、まだまだ未完成で成長段階の惜しい逸材だからね。彼女が熟すのを待って出来上がってから(いた)だくよ」


そう言って焔は《的場聖持(まとばせいじ)》に近付く。


「ところで聖持君。そっちの二人がヒートアップしてるけど何か有ったの? 今にもおっ(ぱじ)めそうな雰囲気なんだけど」

「焔さんに許可を得たらやるみたいですよ」


断りを入れずとも構わないのだが、自分とクリスの戦いが終わるまで待ってくれていたのは焔にとって有り難いことだった。


(これで思う存分に江神を観察できる)


紫闇は春斗を倒したがっている。

しかし今はまだ無理だ。その為にも紫闇をどう育てるかに必要な情報が欲しかった。


(是非とも欲しいそれをくれるって言うんだから願ったり叶ったりだよね。紫闇にも江神との差を身を以て実感してもらえるし)


焔が見た春斗の感想は『腕が立つ』学生魔術師だがその腕の段階が尋常ではない。

ただ『鬼』ではないことも判ったので自分が望む相手というには不十分だった。

それを帳消しにする強さなら話は別だが。

焔は二人の立ち会いを許す。


「これで心置きなく戦えるってわけだな。この拳でお前に刻んでやるぜ江神春斗。立華紫闇という存在を。先ずはそこからだ」

「俺は【夏期龍帝祭】に出ない。クリスには優勝すれば相手をすると言ったが正直なところ彼奴(きゃつ)が優勝するのは難しい。エンドや聖持が出ずとも貴君が居るからな。しかし今の立華だと万が一で遅れを取ることが有り得る」


春斗は体の真横に赤い[装紋陣(サークル)]を浮かべると漆黒の鞘と鍔が無い柄に納まった『直刀』の魔晄外装を引き出す。

彼の熱意に溢れた瞳が紫闇に向く。


「立華が優勝する為の確率を少しでも上げる為に俺も協力させてもらおう。クリスが優勝できたとしても戦う気がしないのだ。奴は自分の異能を使いこなせていないように思えるのでな。せめて今の紫闇を普通に倒せる位になってくれれば別だが」

「へっ、打算だろうが理由はどうあれ俺はお前と戦うのを楽しみにしてたんだ。お前と【魅那風流剣術】を確りと味合わせてもらうからな。そうすりゃあ夏期龍帝祭の相手は楽勝だろうから」

「立華がどういう魂胆でも構わん。俺を利用して強くなるが良い。簡単には追い越せん。此方(こちら)も【黒鋼流体術】を体感させてもらう。『技』ではなく、お前達の抱えている『鬼』をな」
 
 

 
後書き
_〆(。。) 
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