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戦国異伝供書

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第六十七話 元康初陣その十一

「むしろそちらじゃ、そして何があっても攻め落とせぬ城はな」
「ありませんな」
「そうじゃ、だからな」 
「この二つの城は」
「どうということはない、ただお主はよく城攻めの話は付け城の話をするが」
 実は元康は雪斎や義元と城攻めの話をするとそうして長く攻める考えを言うのだ、それで今も話に出すのだ。
「積極的に攻めぬな」
「それでは兵を多く失うので」
「だからじゃな」
「はい、迂闊に攻めるよりも」
「付け城を置いてじゃな」
「そこに腰を据えて」
 そのうえでというのだ。
「攻めるべきとです」
「考えておるな」
「左様です」
「それも手じゃ、とかくどの様な城もじゃ」
「絶対に攻め落とせぬことはないですな」
「必ず攻め落とせる」
 このことは可能だからだというのだ。
「だからじゃ」
「上洛の障壁は」
「織田家じゃ、既に丸根と鷲津の二つの砦を固めておる」
 雪斎はもうこのことを知っていた。
「だからな」
「はい、尾張に攻め入れば」
「まずこの二つの砦を攻めることになるが」
「それがしが」
「そうおいそれとは攻め落とせぬ」
 この二つの砦はというのだ。
「だからな」
「それ故に」
「覚悟してかかれ、守る敵将にもよるが。特にな」
「特にとは」
「木下藤吉郎というか」
 雪斎もここでこの者の名を出した。
「確か」
「あの足軽から侍大将までなった」
「うむ、どうも忘れてしまった」
 木下、彼の名をというのだ。
「いかん。しかしこの者は相当な切れ者という」
「だから足軽から侍大将までなりましたな」
「一気にな、教養はないそうじゃが政でも戦でも頭が随分回り」
「かなりですな」
「その御仁がどちらかの砦に入れば」
「しかも二つの砦は連携しているとか」
 それが出来る様になっているというのだ。
「なら余計に」
「攻め落とせぬ」
 容易にはというのだ。
「そしてそこにな」
「木下殿が入れば」
「まさに鬼に金棒じゃ」
 そうした状況になるというのだ。
「だからな」
「用心して」
「戦うのじゃ」
 そうせよというのだ。
「よいな」
「肝に銘じておきます」
「この度の戦で今川家が決まる」
 雪斎は深刻な顔になりこうも言った。
「どちらにしても」
「勝とうが敗れようが」
「勝てば上洛はなった様なものであり」
「天下人ですな」
「そして敗れれば」
 その時はというと。
「今川家は大きく力を失うか」
「若しや」
「有り得る、しかしお主は」
 元康はとだ、雪斎は彼自身にはこの様なことを言った。 
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