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戦国異伝供書

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第六十七話 元康初陣その十

「考えるべきだ」
「弾正殿がお相手なら」
「只でさえ織田家は一万五千じゃ」
 これだけの兵がいるというのだ。
「当家は二万五千で有利にしても」
「大きく有利ではなく」
「戦の仕方自体で敗れる」
「そうなりますな」
「そしてな」
 雪斎の言葉は続いた。
「迂闊なことをすれば」
「ただ敗れるだけでなく」
「大きくじゃ」
「敗れますな」
「そうなるからじゃ」
 だからだというのだ。
「お主と拙僧が先陣にしても」
「しかと戦わぬと」
「やはり負ける、お主もわかっておろう」
 ここで元康に言った、その言ったことはというと。
「織田家、尾張の兵は弱いというが」
「駿河や遠江の兵もですな」
「同じだけ弱い、三河の兵はお主の兵は強いからよいが」
 岡崎の者達はというのだ。
「やはり全体で見るとな」
「今川の兵もまた弱い」
「織田家の兵と同じだけな、ならばな」
 どちらの兵も弱いならというのだ。
「武具がものを言うが」
「織田家は鉄砲が多く」
「槍も長く弓矢も多く具足もな」
 こちらもというのだ。
「話を聞く限りかなりよい」
「固くしかも身軽で」
「そうしたものでじゃ」
 それでというのだ。
「強い」
「だからですな」
「だからじゃ」
 それでというのだ。
「織田の兵は侮れぬ」
「しかも優れた将帥が揃っていて」
「強い、その織田家と戦うと」
 それならというのだ。
「容易にはいかぬ」
「だからですか」
「絶対に油断は出来ぬ、それで留守はな」
 出陣している間はというのだ。
「朝比奈殿がいてくれる」
「あの方が」
「だからな」
「留守は万全ですな」
「朝比奈殿は仕事は果たしてくれる」
 それはというのだ。
「何があろうともな」
「資質もおありで」
「忠義はな」
「まさに今川家一」
「そうした御仁であるからな」
 だからだというのだ。
「後ろは気にせずともよい、じゃが」
「それでもですな」
「戦はな」
 雪斎はさらに言った。
「容易ではない、尾張一国を手に入れることも」
「それもまた」
「尾張を手に入れれば後はな」
 それが出来ればというのだ。
「ずっと楽になるであろうが」
「美濃や近江の南は」
「そのどちらも堅固な城があるが」
 稲葉山城、観音寺城のことだ。どちらも堅城として知られている。
「しかしな」
「織田家を降すことを考えると」
「何ということはない」
 それこそというのだ。
「拙僧とお主がおれば」
「稲葉山城も観音寺城も」
「どの城もな」
「頭を使ってですな」
 そうしてというのだ。
「攻めれば」
「城はよく篭もって戦うものと言われてるが」
「それは違いますな」
「そこから国を治めるもので兵や兵糧を置き」
「そのうえで戦の拠点に使う」
「確かに守りに使うが」
 それでもというのだ。 
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