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ユア・ブラッド・マイン 〜空と結晶と緋色の鎖〜

作者:のざらし
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第5話『発見』

 
前書き
2022/01/02 タイトルを修正しました 

 
「……」
「……」

 ……気まずい。
 羽音さんに半ば乗せられるような形で先輩に同行したはいいものの、2人の間に漂う奇妙な沈黙に押しつぶされそうになってきた。 いずもを出て最初の方こそ軽い雑談をしていたけど、しばらくすると話題が尽き、口数が少なくなってしまう。
 何か話さなければ、と思ってみてもちょうどいい話の種が思いつかない。

「……今からでも戻っていいんだぞ?」
「い、いえ、大丈夫です」

 完全に気を使われしまっている。嫌々ついてきている訳ではないのは本当のことだ。 ただし、私の場合は先輩と違い景色の確認がしたいからついてきたという訳ではない。

『ついていけばレイトと2人きりになれるよ』

 羽音さんにそう言われたことで、反射的についていくと決めてしまっていた。 我ながら単純な頭をしていると思う。
 とにかく、せっかくの機会なのだからなんとかして先輩との距離を縮めなければ。 そこでふと、先程輝橋先輩の言っていた言葉を思い出す。

「そういえば、学園祭でも展示会やるんですね」
「ん? あぁ、立奈にはまだ説明してなかったな。 聖晶の学園祭は全部活動強制参加なんだ」
「そうなんですか……確かに去年見学に行ったときは模擬店が沢山ありましたね」
「そっちは運動部の連中だな、サッカー部とか野球部とか。 天野たちも去年はホットドッグを売ったって言ってた」
「あれ、去年写真部の展示なかったような……?」
「見ての通りの人手不足だからな。 隅の方で目立たないようにしていた」
「もったいない……」

 茶化すように肩すくめてみせる先輩の態度に思わず大きなため息を漏らす。 入部したてでカメラ初心者の私はともかく、先輩たちは綺麗な写真が撮れるのだからもっと多くの人に見てもらいたい。
 しかし、理由が人手不足というのなら今年も同じ。 いや、聞いた話では引退して卒業した先輩が3人なのに対して入部したのは私1人だから去年より深刻になっている。

「なら……今年も隅っこですかね……」
「いや? 今年はもうちょい頑張ってみる予定だ」
「そうなんですか?」

 これは少し意外だ。 一体どういう風の吹きまわしだろう。 そのことを質問すると呆れたような顔をされる。

「なんでって……立奈、お前の為でもあるんだぞ?」
「私のため?」
「お前……生徒手帳読んでないのか?」

 むしろ読んでる生徒の方が少ないと思う。 私も入学式で配られた時に軽く目を通しただけで何が書いてあったかなんて全く覚えていない。

「……まぁ細かい部分は省くが、部活動に関する規定も書いてあるんだ。 自分に関係する部分は最低限読んでおけ」
「はぁ……」
「そしてその規定の中に『部員数4名未満の部活は休部、あるいは廃部とする』って感じの意味合いの文がある」
「4名未満……あっ」
「気付いたみたいだな」

 現在、写真部の部員数は二年生が3人、一年生が1人の合計4人だ。 今のところは問題ないが、来年には二年生の先輩は三年生になり引退してしまう。 つまり新入部員数が0の場合、来年には部員数不足により休部、最悪廃部になってしまうということか。

「だから今年は学祭とかで宣伝して部員募集しなきゃいけないってことだ」
「うぅ……責任重大ですね……」

 部室にあるアルバムを見ればわかるのだが、写真部は聖晶学園設立後初めて発足した部活動の一つらしい。 一応歴史ある部という認識は先輩にもあるようで、なんとか廃部だけは避けようと考えているようだ。

「この合宿も、輝橋なりに写真部のことを考えた結果だろうな……っと」
「わぁ……」

 そうこう話している間に目的地へと辿り着く。 虎徹山の中腹あたりに設けられた展望台からは、真夏らしい青々とした木々がやや色づいた日差しに照らされる光景が広がっていた。

「綺麗ですね……」
「あぁ、そうだな。 さて……」

 展望台に有料の双眼鏡が設置されているのを見た先輩は、硬貨を握ってそちらの方に歩いていってしまった。 私の方もとりあえずデジカメの電源を入れ、ぐるりと見回してみることにしよう。
 お母さんに無理を言って買ってもらったこのデジカメにも、それなりの数の写真が収められてきたと思う。 それでも、具体的に何処がなのかはわからないけど、部室のアルバムにある歴代の先輩方の写真と比べると“何か”が足りない気がする。 この合宿でその“何か”を少しでも掴むことができればいいなと思っていた。
 ……うん。 本来の目的はそっちだ。 出来るだけ余計なことは考えないようにしよう。
 とは言ったものの、どうしたものか。 アドバイスを貰おうにも、うちの部活は顧問を含めて本格的な写真の知識がある人がいない。

 結局のところ、とりあえずがむしゃらに撮ってみるしかないのかなと思うと思わずため息が出る。
 すると、先輩が奇妙な声をあげた。

「ん?」
「どうかしましたか?」
「……やっぱり、何か……」

 双眼鏡から見える景色に集中しているのか、問いかけにも反応しない。 何かを探すように暫く双眼鏡を動かした後、先輩は俄に展望台の柵を乗り越え出した。

「先輩!?」
「悪い、ちょっと森の中見てくる。 立奈は先に戻っててくれ」

 そう言うが早いか先輩の姿が視界から消える。 そこそこの高さがあった気がするが大丈夫なのかと覗き込んでみると、上手く受け身をとったのかどこか痛めた様子もなく走り出す先輩の姿が確認できた。

「えぇ……」

 置き去りにされた私は、間の抜けた声を出してしまう。
 ……帰ろう。 もうすぐ薄暗くなってくる時間帯にに知らない場所で一人なのは流石に心細い。 大まかに景色やロケーションの分かる写真だけ撮って、来た道を今度は一人で歩く。

「……先輩のバカ」

 思わず呟いた言葉が、誰もいない空間に吸い込まれていった。





「……ックシ!!」

 夏とはいえ夕暮れ時はやや肌寒い。 くしゃみの一つや二つも出るだろう。
 展望台から飛び降りた玲人は、記憶を頼りに虎徹山の森を走っていた。 時折振り返り、展望台の位置を確認する。
 “アレ”が見えたのはこの辺りか。 少なくともそう遠くはないだろう。 そう思い、足を緩めてできるだけ音を立てないように歩く。

「……さて、っと……どこだ……?」

 油断しないように周囲の気配を探る。 戯れに受講していた戦闘訓練の授業がこんなタイミングで役に立つとは思わなかった。
 玲人が双眼鏡で見た“アレ”–––一つ目の怪鳥は何処だ。
 いくら『歪む世界』に視覚が侵されていようと、“アレ”を見間違う筈がない。 そもそも、玲人が見る『歪む世界』は影だけで構成されている。 怪物など見えるはずがない。
 つまり、あの怪鳥は実在している可能性があると考えることが出来る。 あんな化け物を現世に呼び出す方法があるとすれば……

「……鉄脈術か」

 『鉄脈術』。 玲人の持つ『歪む世界』を活用する方法の一つだ。 確か理論は、『歪む世界』を魔女の『鉄脈』に転写して云々云々。 これに関しては興味がなかったのであまり真面目に授業を受けていなかった。
 とりあえず、超能力やら魔法やらが使えるようになるとだけ覚えておけばそれでいい。 玲人はその『鉄脈術』の力であの怪鳥が現れた可能性を考えていた。

「(実際に鉄脈術を使われてたら俺じゃ何ともならないが……様子を見るくらいなら……)」

 出来るだけ木陰に隠れるようにして慎重に進む。
 別に、仮に鉄脈術を使っていた者を見つけたとして、どうにかしようと考えているわけではない。 様子を見て、燕に報告する。 それだけだ。
 しばらく歩いていると少し開けた場所に出る。 どうやら崖の下のようで、目の前に岩壁が広がっていた。

「(行き止まり。 見失ったか……)」

 見渡してみても耳を澄ましてみても怪鳥の姿は影も形も認めることができない。 完全に見失ってしまったようだ。 しかし、あれだけ大きい鳥が飛べば枝の数本折れていそうなものだが。 ここにくるまでにそのような形跡は見つからなかった。
 そんなことを思いながら、何の気もなしに首から下げたリアクトカメラのシャッターを切る。 森の景観自体は悪くない。 あとは現像した時に玲人の『歪む世界』がどのように写し出されるかだ。 まぁ大方森を台無しにするほど影が荒れ狂っていると思うが。

「……帰るか」

 誰に言うわけでもなく呟く。 そういえば、思わず飛び出したから立奈を放ってきてしまった。 展望台からいずもまでは一本道だから迷うことはないと思うが、やや暗くなってくる時間に一人で置いてきぼりにしたのは流石に不味かったか。

「……?」

 引き返そうと思い振り返ると、先程は木陰になっていて見えなかった場所に石碑が立っているのが見えた。 特に手入れなどがされている様子はなく、苔や蔓に覆われているのも見落とした要因の一つだろう。
 表面のそれらを軽く払ってみると彫り込まれた文字が見えてくる。

「これは……『楔』か……?」

 崩れた字体で書かれているため判断がつかない。 それに加えて、文字の上に書かれたマーク。 円を描くようにして尾を引く一対の玉。 どこかで見たことあるような模様なのだが……あとで立石にでも見てもらおう。 こういうのはあいつの方が得意だ。
 戻ったあと直ぐに見れるようにデジカメで石碑の写真を撮る。 立奈はいずもに着いた頃だろうか? 玲人もそろそろ帰らないと後が怖い。 主に燕が。

「……帰らない方が安全な気がしてきたな……」

 そんなことを思いながら玲人は石碑を離れた。 立奈と燕、怒ってなければいいが……







ミ、ツ、ケ、タ 
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