魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
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第7章:神界大戦
第227話「立ち上がる」
前書き
一周して司や緋雪side。
「……はっ!」
祈り、魔力を消費し、攻撃を放つ。
体の調子を確かめるように、司は何度もそれを繰り返していた。
「(……ダメ。これ以上は容易に短縮できない)」
反復練習していたのは、祈りによるタイムラグを縮めるためだった。
神界の戦いで、手も足も出せずに敗北した事で、司の弱点が浮き彫りになった。
元々自覚しており、その克服も頑張って来たが、弱点は弱点。
マイナスを限りなくゼロに近づけた所で、マイナスな事には変わりない。
「少しでも“溜め”があったら割り込まれる。……でも、どうすれば……」
祈りの力に依存した戦法なため、それを妨害されると司は弱い。
普通の魔法も使えるが、それでは決定打を持てない。
〈……マスター〉
「シュライン……何か、いい方法はないかな?」
考え着く事は全てやってきた。
それでも改善出来ないと思い、司はシュラインに頼る。
〈アプローチの仕方を変えるのはどうでしょうか?〉
「アプローチを……?」
〈はい。例えば……〉
少し考えるような間を置き、シュラインは答えた。
〈……マスターの、天巫女の力は神界の神々の力に少し似ています。“そう在れかし”と思うが故にそこに発生する理力と、“そう在れかし”と祈るが故に、実現する天巫女の力。見方を変えれば、共通点もあります。そこから考えてみてはどうでしょう?〉
「理力、と……」
考えてもいなかった事を言われ、司は考え込む。
神界での戦いを思い返し、確かに似通っている部分があると気付く。
〈二つの違いは、理力に対して天巫女は一つプロセスが多い事です〉
「プロセス……」
理力の場合、“そう在れかし”と認識し、発生させている。
対し、天巫女は……
「……祈って、力を消費して、発生……」
〈はい。その通りです〉
先程のであれば、魔力を消費する。
その工程が、理力に比べて余分なプロセスとなっていた。
「……そっか。決定的な差があるから、どうしても追いつけない……」
普通の魔法でも、術式を用意してそこに魔力を通し、魔法を発生させている。
その術式を短縮すればするほど追いつけるが……それもまた難しい。
「(祈りは天巫女の力において必須。だから削る事はこれ以上難しい。……そもそも、さっきまで私がやっていたのは、この工程の短縮だ)」
見方を変えた事で、早速分かった事が出てきた。
どこを削るか、どうすればいいかが、明らかとなる。
「(事象の発生。これはなかったらそもそも“何も起こらない”。つまり、削るとすれば……力を注ぐ工程)」
余分な工程があるなら、そこを削るのが定石だ。
そもそも、盲点だった部分だ。
技を繰り出すための工程を区分けしなければ、気づけなかった。
「(祈ると同時に力も注ぐ。これができれば……!)」
言葉にするのは簡単だったが、実現するには厳しい。
左右の手で別々の事をするのとは、訳が違う。
「っ……ダメ……!」
司が本来行う魔法は、言わば型を作ってそこに中身を流し込み完成させるものだ。
それを、司は型を作りながら中身を流し込むという行動に出ている。
中身が零れれば型も崩れる……つまり、術式が瓦解してしまう。
まさに神業のような制御が必要だった。
「(このままじゃあ、ダメ。実戦でも使えるようにしないと……!)」
それでも、方法がなかった先程までよりは断然マシだ。
地道に、着実に、司は魔法の制御を完璧に仕上げていく。
「(……今度こそ、今度こそ、勝つんだ……!)」
全ては、好きになった親友を助けるために。
「はぁ……はぁ……ふっ……!」
何十分、何時間と経ったのだろうか?
司はずっと祈りの最適化を続けていた。
「(まだ……まだ足りない……!)」
最初に比べれば、かなり早くはなった。
だが、それでも勝てなかったあの神に比べれば、遅すぎる。
「ふぅ……はぁっ―――!」
もう一度、魔力弾として祈りを放つ。
「ッ……!?」
その時、“ドパン”と魔力弾が弾け飛ぶ。
否、今のは術式が瓦解したために魔力が制御できなくなっただけだ。
しかし、司は制御を怠ってはいなかった。
「……緋雪ちゃん?」
「皆食堂とかに来たり、休憩してるのに……何やってるの?」
ならば、今のは集中力を乱された。
その原因である緋雪に、司は目を向ける。
「今……何をしたの?」
緋雪がここに来たのは、ずっと特訓を続ける司を見かねてだ。
アースラに戻ってきた緋雪は、体の調子を確かめようと考えていた。
そこに、特訓をしている司が目に入ったのだ。
「……物理的の戦力強化は頭打ちだと思って、小手先の技を使わせてもらっただけだよ」
「集中が一瞬で途切れた……小手先なんかじゃないよ!」
緋雪がここにいる事、時間がかなり経っていた事。
それらは司にとって大して重要ではなかった。
それよりも、今集中を乱した方法が気になっていた。
「……破壊の瞳で、司さんの集中力を“破壊”したの」
「集中力の……破壊?」
物理的なものではなく、形のない抽象的なもの。
それを、緋雪は破壊の瞳を握りつぶして破壊したのだ。
「物理的な破壊は強力だよ。でも、神界の神相手では大して意味がない。だったら、形のない抽象的なもの、それこそ、概念すら破壊できるように、制御したんだよ」
「っ……!」
概念はともかく、集中力程度なら今の緋雪でも破壊できるようになっていた。
“形のないモノ”を破壊する。その言い分に、司は少し驚く。
「とりあえず、一旦休憩を挟んで。無理しても、良い成果は得られないよ」
「……そうだね。ちょっと、頭を冷やしてくるよ」
集中しすぎていたために、他が疎かになっていたと、司も頭を冷やす。
「あ、椿ちゃんと葵ちゃんは?」
「とこよさん達と一緒に霊脈の所にいるよ。だから、今はアースラにいないよ」
「そっか。それじゃあ、止めてくれてありがとね」
お礼を言って、司は去っていった。
緋雪はそれを見送り、今度は自分が部屋に入っていく。
「……司さんも、頑張ってるんだね」
〈そのようですね〉
感慨深そうに言う緋雪に、シャルも同意する。
「私も、頑張らないと」
体をほぐし、調子を確かめる。
魔力や霊力は完全に戻っておらず、身体能力も落ちている。
それでも、運動するには十分回復していた。
「せめて、さっきみたいに形のないモノは普通に破壊できるようにならないとね」
〈司様のように、無理はなさらないように〉
「自分で言った手前、わかってるよ」
緋雪がやろうとしているのは、概念の破壊の安定だ。
今の状態でもやろうとすればできるのだが、相応の集中力が必要だ。
神を相手にするには、それでは悠長すぎる。
戦闘中に使う事ができる程度には、安定させたかった。
「結界や魔法の破壊。それはどんなものだとしても結局は“物理的な破壊”。……じゃあ、形のないものをどうやって破壊するか……なんだけど」
例え目に見えない結界だろうと、それの破壊は物理に類する。
故に、それらの破壊では緋雪の目的は達成できない。
「……まぁ、こういう所で日和る訳にはいかないよね」
形のないモノ。それは心や感情などだ。
先ほどの司の集中力のように、物理的な効果を齎さないモノの事だ。
だが、緋雪はそれを別途で用意できない。
そのために、自分で代用する事にした。
「さて、じゃあまずは……“疲労”から、かな……!」
破壊の瞳を掌の上に出現させ、意識を自分の中へと集中させる。
「(五感に頼っちゃダメ。もっと深く、根本的な部分で感じ取る。……深く、深く……形として捉えず、漠然と、だけどはっきりと……)」
自分に暗示をかけるように、意識を自分の中に溶かし込む。
明確な“形”としてではなく、“それそのモノ”として、認識していく。
「ッ!」
“これだ”と思った瞬間に、緋雪は瞳を握り潰す。
「かふっ!?」
直後、緋雪は血を吐いた。
失敗だ。“疲労”を破壊できずに、間違えて体内の一部を潰してしまった。
「いっつつつ……!」
すぐに傷を再生させ、治す。
「も、もう一度……!」
何となく感じる事は出来た。後はそれを掴むだけだと、緋雪は再挑戦した。
「っ……ダメかぁ~っ!」
何度も繰り返し、その度に失敗した。
疲労も溜まり、緋雪はその場で仰向けに倒れこむ。
「シャル~、どうしたらいいかなぁ?」
〈……私には、なんとも。形のない、漠然としたものはお嬢様の方が詳しいかと〉
「そっかぁ……」
愛機のシャルに尋ねるも、正解は返ってこない。
さすがに疲れたため、緋雪はそれを機に一旦休憩する事にした。
〈……ただ、神界での記録映像はヒントになるかもしれません。再生しますか?〉
「そっか……“性質”も、形のないモノ……何かわかるかもしれないね」
部屋の端に移動して、座り込みながら緋雪は記録を再生した。
「………改めて見れば、よく足掻けたよね」
記録を見終わって、緋雪は感想としてまずそう呟いた。
「単純な戦闘力においても、私や他の皆と同等以上がいた」
〈加えて、出力においてはほとんどが上回っていました。単純な出力に正面から対応できるとすれば、それは司様かユーリ様、後はなのは様のスターライトブレイカーぐらいでしょう〉
「お兄ちゃんやとこよさん達ですら、隙をつくか何かしら手を加えないと押し負ける程だったからね……」
対抗できるであろう司ですら、少しでも隙を見せれば押し負けていた。
一点集中が得意な優輝達も、真正面から押し負けていた程だ。
尤も、一点集中が得意なだけあって、真正面からでなければ勝っている事が多いが。
「……でも、飽くまでそれは“単純な出力”なら。物理的な問題でしかない」
〈はい。概念の面を見れば、特にマイスターは負けていませんでした。他の皆様も、単純な戦闘力に比べてかなり拮抗できています〉
「人間だからって、神にあっさり負ける程ではない……か」
“戦闘になっていた”。その事実が、確かにそこに存在していた。
何も出来ず、決して敵わず、蹂躙されていた。……そういう訳ではなかった。
〈マイスターやとこよ様、なのは様の“決して諦めない意志”が、皆様を支えていました。それが概念的強化になったのでしょう〉
「だから、抵抗出来た」
もし、これが普通の戦いであれば。
それならば、瞬く間に全員が蹂躙されていただろう。
概念や性質、“そう在れかし”と理屈を無視した法則の神界だからこそ、抵抗出来た。
「神界の法則に苦しめられ、同時に助けられた……か」
皮肉にも、苦戦していたその法則のおかげで、今こうして生き延びている。
それを理解して、緋雪は溜息を吐いた。
「私達、本当に神界について何も知らないよね」
〈はい。……それと、今までのログを見る限り、戦闘に参加した全員に思考誘導が掛けられていました。それも、気づかれないように無意識下、それも薄く広く〉
「……だから、お兄ちゃんやとこよさん、サーラさんの認識が甘かった……」
その類の“性質”がなくとも、理屈を通せば事象を引き起こす事は可能だ。
“性質”は言い換えれば神界における“適性”なのだ。
だから、その“適性”がなくとも、術式などを通せば同じ事はできる。
それを利用して、祈梨及びソレラは優輝達全員に思考誘導を掛けていた。
影響がなかったのは、突入前に戦線離脱した悪路王ぐらいだろう。
〈さすがに“甘かった”と自覚してからはその影響は見られません。気づかれない事に重点を置いた認識阻害だったようです〉
「言い換えれば、隙を見せればそういった事もしてくる程……か」
単純に強い者なら、緋雪は何度も相手にしてきた。
優輝を始め、司や神夜、シュネーの時を含めればオリヴィエやクラウス。
修行の時もサーラやとこよ、ユーリに紫陽など、多種多様な相手だった。
特に、術の類を得意とする者なら、搦め手も使われた事がある。
故に、そういった戦術があることは緋雪も承知で、警戒もできる。
「……決定的な差は、理力とそれに伴う“性質”か……」
だからこそ、神界の神々とそれ以外の存在の決定的差が理解できた。
「埋めるには、最低でも相手に迫る“格”に昇華する。または……」
〈理力の習得ですね〉
「前者も後者も、理屈すっ飛ばして無理矢理行使するしか方法が思いつかないよ」
どちらも理論、理屈は皆無だ。
前者も後者も行った優輝も、そういった理屈は考えていない。
文字通り“体で覚えた”事で理力を扱えるようになっていた。
前者なら可能にした司も、理屈を無視した“祈り”を現実に変えただけだ。
「しかも、お兄ちゃんも司さんも実現したのは土壇場。理力が飛び交う神界の戦場で可能にした事だからね」
〈状況もまた成功させた要素の一つ……ですね〉
“格”の昇華及び理力の習得は、二人の精神状況も関わっていた。
“ここで成功させる”という土壇場での強い意志が、実現に繋げたのだ。
その強い意志は、今この場でおいても再現は不可能ではない。
しかし、状況の方は別だ。
「理力が飛び交い、神や“天使”がいる神界だからこそ、“格”の違いが想像でき、理力の習得が可能だった。……そういう事だよね?」
〈はい。同じ状況を想像しながらなら、再現に近い事は出来ますが……〉
「それで実現できるとは限らない……か」
実際にその場にいるのと、想像で補うのとでは決定的な差がある。
ましてや、緋雪には司のような天巫女の力や、優輝のような“導く”力がない。
その点もあって同じ事を実現するのは難しいと思った。
「……やっぱり、司さんの力を皆に行き渡るようにするのが得策かな?」
〈ですが、それでは司様が倒されるとその時点で敗北が決定します〉
「向こう側もそれを見抜くだろうしね……でも……」
どの道、“格”を昇華する、もしくは理力を習得するにしても、次に戦う者全員が習得できるとは限らない。
その点を見ても、司の力を全員に行き渡らせるのは必須だろう。
「……やっぱり、何人かは自力で辿り着かないと厳しい」
〈一人が狙われるのと、数人が狙われるのとでは、大違いですからね〉
だが、考えても具体的な方法は見つからない。
当然と言えば当然だ。具体的な方法は存在しないのだから。
「悩ましい……本当に、悩ましいな。“道”が見えないよ、お兄ちゃん。いつも私は誰かに手を引かれていた。……自分で道を拓くのって、こんなに難しいんだね」
考えれば考える程、成功に繋げられなくなる。
理屈も理論も存在しない方法など、考える事自体が間違いなのだ。
それを自覚しても、緋雪は考えてしまう。“道”を見失ってしまう。
〈……一つ、興味深い発言が残っています〉
「興味深い発言?」
〈マイスターが理力を習得した際、仰っていました〉
―――「“基本的に、理力を扱えるのは神界の存在のみ”」
―――「……まるで、以前にも神界の存在でなくとも理力を
扱った者がいたかのような言い分じゃないか」
「それって……!?」
確かに言っていたと、緋雪は思い出す。
「……方法があるのは、確かなんだね」
〈だと思われます」
前例が他にもあった。それだけでも心の支えになる。
そして、それが切っ掛けなのかはわからないが、緋雪は考えを切り替えた。
「……そうだ。方法を見つけられないのなら、“道”がないのなら、決定的な差が、“壁”があるのなら……“破壊”してみせる……!」
〈お嬢様?〉
切り替えたおかげか、緋雪は何かが吹っ切れたように掌に破壊の瞳を出した。
理論を、理屈を並べてしまうのなら、“それ”を壊せばいいのだと。
「理屈なんて、過程なんて、いらない!……その工程を“破壊”する!」
―――“破綻せよ、理よ”
「っ……!?」
微かに、緋雪は感じた。
背中を押すような、後ろから支えてくれるような、そんな感触を。
同時に、何かが切り替わったと確信する。
「(……分かる!お兄ちゃんや司さんが“格”の昇華をした時とか、神界の神や“天使”の存在と、私達との“違い”が、はっきりと分かる!)」
“格”の昇華が出来た訳ではない。
だが、今までは漠然としか理解出来なかった“格”の違いが、はっきりと感じ取って理解出来るようになっていた。
「(今まではどこがどう違うのか、漠然としかわからなかった。でも、今は違う。“違い”が分かるなら、そこからどうすればいいか逆算できる……!)」
まるで、一つ上の領域に至った気分だった。
今まで何も見えなかったものが見えるようになり、箍が外れた。
「これなら……!」
〈お嬢様、何を……〉
突然様子が変わり、再び破壊の瞳を掌に出す緋雪にシャルは戸惑う。
そんなシャルを気にせず、緋雪はその瞳を握り潰した。
「ッ……!」
“パキン”と、何かが割れたような音が、緋雪の頭の中に響いた気がした。
実際に音がした訳じゃなく、外見上変化はない。
「……まずは、限界を“破壊”」
〈……!?まさか、お嬢様!?〉
呟かれた言葉に、シャルは驚愕する。
この短時間で、先程まで習得できなかった“概念の破壊”を使いこなしたのだから。
「行くよ、シャル。ここからは、休憩なんてないぶっ続けだよ!」
〈お、お嬢様!?〉
次に“疲労”を破壊して、緋雪はそう宣言した。
まさに疲れ知らずとなった緋雪は、そのまま長時間、“破壊”を使いこなし続けた。
「……それで、こんな時間まで?」
「……はい」
数時間後、緋雪は正座していた。
緋雪に説教しているのは、アースラに戻ってきていた椿と葵、そして司だ。
特に、司は自分が言っておきながら自分も休憩なしだった事に呆れていた。
「はぁ、いくら疲れを“破壊”できるからって、ずっと特訓してたらダメでしょうに。本当、無茶する所は優輝そっくりね」
「……えへ?」
「可愛くしてもダメ!」
優輝に似ていると言われ、若干嬉しそうに笑う緋雪。
しかし、すぐに叱責されて“シュン”と落ち込んだ。
「……とりあえず、“疲れ”の概念を破壊して疲れ知らずになっていたのは分かったわ。物理的な事象だけでなく、概念の破壊すら会得したのね」
「うん。こうでもしないと、お兄ちゃんや司さんみたいに“格”の差を埋める事なんてできないと思ったから」
「……一理あるわ。私や葵、とこよ達も対策を考えていたのだけど、先に貴女が辿り着くなんてね……」
椿達は、霊脈の活用法を探しつつ、“格”の差を埋める方法も調べていた。
概念的干渉から何とかするかまでは考えていたが、それを緋雪に先を越されたのだ。
「……限界の破壊。自分の殻を無理矢理破った事で、見える世界を“変えた”」
「あたし達も概念への干渉はやろうと思えばできるけど、まさか雪ちゃんが力技で概念に干渉してしまうなんてね。驚きだよ」
「そ、そんなに凄いんだ……」
椿と葵の解析に、司が驚きを見せる。
「緋雪、それは他人にも出来るのかしら?」
「……わからないけど、多分出来ると思う。でも、私の場合は無我夢中な所もあったから、どう転ぶかはわからないよ」
「そう……。司、貴女の“格”の昇華は他の皆には?」
「難しいかな。あの土壇場以来、私も試してないから。自分だけならまだしも、複数人を纏めてというのは……」
二人の返答を聞いて、椿は少し考えこむ。
そして、少し間を置いて口を開く。
「緋雪、“他人の限界の破壊”を重点的に鍛えなさい。司は、まずは魔力の回復に努めつつ、“格”の昇華をものにしてみせなさい」
「あ、それと雪ちゃんは司ちゃんを優先して限界の破壊をしてあげて。その方が、全員の力を底上げするのを短縮できるから」
新たな力を手に入れた緋雪に、次々と役目を与える椿。
使えるものは使おうと、これからどうするべきかを擦り合わせながら伝える。
「うぁー、大忙しだね」
「……それだけ大手柄なのよ、緋雪。本来、私達式姫はもう成長限界が来ていた。でも、貴女の限界を破壊する力があれば、今以上に強くなれる。頭打ちだった、物理的な強さの限界を失くす事が出来るのよ」
「そうなんだ……」
限界だけでなく、殻を破り一つ上の領域へ昇華出来る。
本来ならあり得ない事を、緋雪は引き起こしていたのだ。
「……だからこそ、使うのは今回の戦いだけにしなさい」
「それは、神に手を掛ける力。神界に対抗するために、今は必要だけど、戦いが終わったのなら使わない方がいいよ」
「っ……どういう事……?」
「目を付けられるわ。神々に。貴女が神へと成るのなら、そのままでも構わないのだけど……人間のままでいるつもりなら、戦いの後は手放しなさい」
身に余る力は必ず身を滅ぼす。
それが内的要因か外的要因かは関係ない。
緋雪の“破壊の瞳”は、それだけの力を秘めていた。
「……わかった」
「そんな心配しなくていいわ。物理的な破壊であれば、今後も使って大丈夫だろうから。……“何でもできる”って状態が、禁忌なだけよ」
緋雪としても、厄ネタならばあまり手を出す気はない。
椿と葵の言葉に、素直に頷いた。
「司、貴女もよ」
「わ、私も!?」
「ええ。天巫女の力だって似たようなものよ。力として出していいとすれば、それはアンラ・マンユ討伐の時ぐらいが限界のはず。今度の戦いではそれ以上となるのだから、貴女も気を付けなさい」
そのまま流れ弾のように司にも忠告が飛び、司はいきなりの事で驚く。
「貴女の場合は、天“巫女”な事もあって力を使いすぎれば勝手に神に昇格させられそうだけどね……。ともかく、人間でいたいなら過ぎた力は毒よ」
〈……一理ありますね〉
椿の言葉に、今度はシュラインが同意するように声を発した。
「どういう事?」
〈かつて、全盛期のアンラ・マンユを討伐した当時の天巫女は、アンラ・マンユを倒す際に明らかに何かを代償にしていました。私とはそこではぐれてしまいましたが、地球に流れ着いた後は……〉
「神格化されているかもね」
〈おそらくは。……だとすれば、納得です〉
シュラインの最後に呟いた声は、司にしか聞こえなかった。
その声が、司には懐かしい誰かを思うように聞こえて……
「……まぁ、とにかく。忠告はしたわ。それを踏まえて……やるわよ」
「あたし達で、優ちゃんを助けに行く。……いいよね?」
そこで、椿と葵が遮るように言う。
思考を中断し、司と緋雪はその言葉に当然のように返答する。
「もちろん!」
「そのために、私は立ち上がったんだから」
「……いい返事よ」
二人の返答に、椿は笑みを浮かべる。
「なのはと奏も頑張ってるし、他の人達も立ち直ってきている」
「誰かに後押しされるように、皆立ち上がってくれてる」
「……優輝が、後を託してくれたからかもね」
「だから、絶対に助けるわよ!」
椿が力強く発言し、緋雪達もまた、力強く頷き返す。
決意を新たに、緋雪達は再び神へと挑む力を蓄える。
……全ては、大切な人を助けるために。
後書き
破綻せよ、理よ…緋雪のツェアシュテールングが優輝に託された“可能性”により昇華された言霊に近い術。その力は物理的なものだけでなく、概念すら砕く。
ますます直死の魔眼っぽい力になってきた破壊の瞳。
これのおかげでレベルキャップが100から1000まで拡張出来た感じです。
そして、明らかに人の枠を超えた力なため、今回のような特例以外では、神々に目を付けられます。いい意味でも悪い意味でも。
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