魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第7章:神界大戦
第226話「怖くて、それでも」
前書き
アリシアを中心に、原作キャラに焦点を当てていきます。
「………!」
「ここまで耐えたのは流石……と言っておきましょう」
神界にて。
優輝は地面に這いつくばり、未だに立ち塞がる神々を見上げていた。
展開した固有領域は既にほとんどが“闇”に覆われている。
優輝の体も、最早“闇”に侵蝕されていない部分の方が少なくなっていた。
「ですが、もう終わりです」
「ぐっ……っ、ぉ……!」
体の言う事が聞かず、優輝は立ち上がれない。
体も固有領域も“闇”に侵蝕された事で、動かせないのだ。
〈マス、ター……!〉
「リヒト……悪い、な」
優輝に付き合い、共に残ったリヒトもかなりボロボロだった。
剣としての刀身は刃こぼれし、コアの光も点滅していた。
戦闘途中で機能が回復したが、これでは意味がない。
それでも、優輝と共に最後まで足掻くため、再びの機能停止だけはしない。
「……最後の布石を残す。後は、頼んだぞ」
〈……Jawohl……!〉
余計な言葉は不要。
リヒトも、既に覚悟は決まっていた。
「……“我が身は、人を導きし者”……」
ゆっくりと、優輝は立ち上がる。
その手にリヒトを握りしめながら。
「“世を照らし、護るべきものを護りし光を持つ者”……!」
「っ……させませんよ!」
詠唱する優輝を止めようと、イリスが指示する。
一斉に襲い掛かる神々と“天使”。だが、優輝は動じない。
「(回避も防御も不可能。ならば、最初の一撃のみくらう)」
閃光が優輝に突き刺さり、体が紙切れのように吹き飛ぶ。
だが、当たったのはその一撃だけ。
それ以外の攻撃は、先に攻撃に当たった事で回避していた。
「“悪を敷き、善と為り、絶望を消し去る力を手に”」
そして、そんな攻撃が直撃してなお。
優輝は詠唱を止めていなかった。
「“止まれ”!」
「“沈め”!」
“性質”を用いた言霊が優輝をその場に縫い付けようとする。
だが、止まらない。
「(負けない“意志”によって負けなくなるのは間違っていない。だが、“意志”が全てを決める訳じゃない。いや、むしろ“意志”は付属物でしかない)」
今まで神界に対して抱いていた認識は間違っていたと、優輝は断じる。
「(要は自分の“領域”さえ無事ならば、いくらでも戦える。その領域を保つのに、“意志”で負けないようにするのが“分かりやすかった”だけ)」
実を言えば、優輝は既に“勝ち”を諦めている。
しかし、その上でずっと足掻き続けているのだ。
その事実は、今までの神界へ対する認識と矛盾していた。
故に、優輝は神界での法則が違うと確信したのだ。
「(ああ、そうだとも。僕の“領域”はまだ潰されていない。……ならば、まだ足掻ける。戦える。一矢、報いる事が出来る!)」
魔力が、霊力が、神力が。そして、理力が。
全ての力が優輝の手からリヒトへと集束する。
「“導きの光をこの身に―――”」
「止まらない……!?まさか、ここまでの可能性を……!?」
イリスの顔が驚愕に染まる。
優輝は神々の攻撃に晒されたままだった。
体はさらにボロボロになり、一部は原型を留めていない。
それでも、優輝は詠唱と、リヒトを矢として番える弓矢の構えをやめなかった。
「……回避も防御も、出来るものならやってみな……!」
「ッ……!」
イリスが焦ったように“闇”を差し向ける。
同時に、防御のためにも集束させ、盾とした。
それを見て、なお優輝はにやりと笑った。
「全てを矢に込めて―――射貫け、“道を照らせ、可能性の光よ”!!」
刹那、矢が放たれる。
その瞬間に、優輝は“闇”に呑み込まれるが、矢は突き進む。
「文字通り……一矢報いてやった、ぞ……!」
矢は金色の燐光に包まれ、あらゆる神の妨害を無視する。
そして、イリスの“闇”による盾をもあっさりと貫き……
―――その矢は、確かにイリスの体を貫いた。
「ん……うぅ……」
アースラにて、アリシアはふと目を覚ます。
「ここ、は……?」
「アースラですよ。アリシア」
「リニス……?」
顔を横に向ければ、そこにはリニスがいた。
「いっつつつ……そっか、負けちゃったんだった……」
「……はい。アリシアは軽傷で済みましたが……」
「あ、ふぇ、フェイト……!それにママも……!」
すぐ近くのベッドには、フェイトとプレシアが横たわっていた。
フェイトの傍にはアルフがついており、リニスと共に看病していたのがわかる。
「あの戦いで、二割の方が重傷を負いました。また、限界を超えた力の行使や、本来なら死んでいたダメージを負った事が原因なのか、あの場にいた全員が総じて力を落としています」
「……そう、なんだ」
アリシアは、詳しく聞こうとはしない。理解しているからだ。
自分たちは負け、一人残った優輝は犠牲になったのだと。
「これから……どうなるのかな?」
「……わかりません。なのはさんや奏さん、緋雪さん達は諦めずに動いているようですが……私としては、もう絶望しかないと……」
「そっか……」
アリシアもリニスと同じ考えだった。
今まで培ってきた力の全てを、悉く凌駕されたのだ。
限界以上の力をぶつけてなお、通じない。
そんな相手に諦めずにいるというのは……非常に難しい。
「……っとと……」
「無理しないでください。まだ目覚めたばかりですよ」
「そうなんだけどね……。とりあえず、皆の様子を見て回りたいよ」
ふらつきながらも立つアリシアを、リニスが支える。
「何にしても、まずは食事をとってください。神界では飲まず食わずだった事もあって、空腹なはずですから」
「……そうだね。そうするよ」
「では、少し待っていてください。すぐにお持ちしますので」
そう言って、リニスは食堂へと駆けていった。
その際、アルフも一度食事のために席を外す。
それを見送ってアリシアは……
「っ……!はぁ、はぁ、はぁ……!」
抑えていた“震え”を解放した。
「ふ、っ……く……!」
自分を抱きしめるように腕を回し、ベッドの上でうずくまる。
「っっ……はぁ、ふぅ、ふぅ……」
深呼吸して落ち着かせ、何とか震えを落ち着かせるアリシア。
「(―――怖い)」
そんな彼女の心を占めていたのは……“恐怖”の感情だった。
「(怖い、怖い、怖い、怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖いこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイ……!)」
蹂躙され、何度も殺された。
結果的に、こうして生き延びているとしても、その事実は記憶に刻まれている。
そして、その記憶はアリシアに恐怖を植え付けるには十分過ぎた。
「(なんで、あんなの、一体、何を、どうしたら……!)」
支離滅裂に心の中で自問し続ける。
答えは出ない。何をやっても勝てない相手に、考えた所で意味がないからだ。
「……凄い、なぁ。なのはと奏は」
なお立ち上がる二人に、アリシアは素直に感心する。
自分がこうしてトラウマに苛まれているというのに、二人はまだ諦めずに、恐怖に苛まれずに“次”に備えているのだから。
「お待たせしまし……アリシア!?どうしたのですか!?」
「ぁ……リニス……」
見送るまでは隠していたのに、結局リニスにばれてしまう。
心配して駆け寄ってくるリニスに、アリシアは力ない笑みを作る。
「私がいない間に何が……」
「ごめん……ちょっと、神界の時の事を思い、出して……!」
リニスに見られた事で、抑えが効かなくなったのか、再び体が震える。
その尋常じゃない怯え方に、さすがにリニスも理解する。
「……トラウマになったのですね」
「う、うん……」
「……すみません。私では、慰めの言葉が思い浮かびません」
「リニス……」
そっと添えるように、リニスはアリシアを抱きしめる。
そこで、アリシアは気づく。
抱きしめるその手が、ほんの僅かに震えている事に。
「(……皆、同じなんだ)」
そう。リニスもアリシアと同じように、神界の神に恐怖を抱いていた。
否、リニスだけではない。
今この場にはいないアルフも、治療に駆けずり回っているシャマルも。
他にも目を覚ましている者や、傷を癒している者も。
神界に赴き、戦った者達は皆、神界の神に恐怖を抱いている。
「(怖い、恐い。“天使”が、神が、あの邪神が。……でも、優輝はそれに立ち向かった。私達を助けるために、たった一人、あそこに残って)」
アリシアが気絶したのは、帰還直後だ。
そのため、優輝が何を想い、何を覚悟して残ったのかは知っている。
その上で畏れた。“どうしてそこまで出来るのか”と。
「(私達に後を託した。でも、恐いよ。怖いんだよ、優輝。どうしようもなく)」
一度冷静になってしまえば、嫌でも理解出来てしまった。
トラウマになった事で、神界がどうしようもなく恐ろしく思えるのだ。
「アリシア……」
「ごめん……しばらく、傍にいて……」
「……はい」
一人でいると、どうしても恐怖が勝ってしまう。
そのため、アリシアはリニスを頼り、リニスもまたそれに応えた。
「そっか……ヴィータもザフィーラも、まだ目が覚めないんか……」
「はい……傷自体はもう治っているんですけど、限界を超えた体の酷使による影響で、しばらくは目を覚ましそうにないです……」
「命に別状はないだけマシや。……ありがとな、シャマル」
一方で、はやても目を覚まし、行動していた。
現在は未だに眠るヴィータやザフィーラを看ていた。
「申し訳ありません……我らがもっと強ければ……」
「ええよシグナム。誰が悪かったとかやない。あんな……あんな規格外な相手、誰もが実力で負けてた。……こうやって生き残れた事自体が奇跡なんや」
「しかし……」
「これが、最善の結果やったんや!」
実力不足を悔やむシグナムに、はやては語気を荒げて言う。
はやても精神的に限界だったのだ。
アリシアと同じように、神界の存在に恐怖を抱き、必死に耐えようとしていた。
「これ以上、何をどうすればええんよ?全力、全力やった。私も、皆も、全力……それ以上の力で挑んだ。でも、歯が立たなかった。……そんなん、どうすれば勝てるゆうねん。私達は、どうすればええんよ!?」
「主はやて……」
「……ごめん。二人に当たり散らすような事やないな……」
「いえ……はやてちゃんの気持ちは、私にも分かります」
何をしても勝つ事が出来なかった。
その事実がはやて達の心を苛み、その場に立ち止まらせる。
それは歴戦の戦士であるシグナムやシャマルも同じだった。
「……主よ」
「はやてちゃん!」
そこへ、別行動していたアインスとリインが戻ってくる。
会話は聞いていたようで、二人共少し悲しそうな表情をしていた。
「神界での戦闘データ、解析が終わりました」
「戦闘での傾向や、エネルギーの量、諸々は判明したです。……ですが、やっぱり、半分程は解析すら通じなかったです」
「そっか……まぁ、一部が分かるだけ御の字やなぁ……ご苦労様、二人共」
二人を労わり、はやてはデータを受け取ってそれを確認する。
ちなみに、そのデータはリンディを通して管理局や退魔師全体にも今後の参考として行き渡っている。
「……半数が、戦士としての戦闘技術は大した事のない、能力によるゴリ押し……か。やっぱり、“性質”がその神を表しているんやな」
判明したデータの中には、神々の戦闘時の癖などもあった。
半分程は戦闘向きの“性質”ではないため、戦闘技術が大した事がなかった。
だが、それを“性質”によるゴリ押しで何とかしているようだった。
「裏を返せば、戦闘に関する“性質”を持つ神は、相応の戦闘技術も持ち合わせてるって事か……厄介極まり……いや」
ただでさえ厄介な“性質”に加え、戦闘技術もある。
どうしようもないと思えて……ふと、はやては気づく。
「(“逆”や。戦闘技術もあるから厄介なんやない。むしろ、“戦闘向き”な“性質”なら、やりようはある……!?)」
そう。勘違いしていたのだ。
神界の神が自分のルールである“性質”を押し付ける。
それと同様に他の存在もその在り方を押し付けていた。ここまでは分かっていた。
そして、その法則によって、“戦い”が成立している。
はやては、そこにあるポイントに気づいたのだ。
なまじ“戦闘”として長けている神は、それだけ自分以外の“性質”に感化されてしまっているということに。
「(“武術”とか“戦闘”とか、直接そのまま関係している“性質”ならいざ知らず、関連してるだけで戦闘技術が高まるなんて、そういう事なんか……?)」
だが、確信するにはまだ早い。
情報が、はやての手持ちだけでは圧倒的に足りない。
「主……?」
「はやてちゃん……?」
急に黙り込み、考えるはやてを心配するアインスとリイン。
シグナムとシャマルも何事かと見ていた。
「……やっぱり、情報が足りひんねんな……。アインス、他に記録とか取ってた人とかおらんかったか?」
「……いえ、気にする余裕がなかったので……」
「そっかぁ……まぁ、一人ずつ聞いていけばええやろ」
そう結論付けて、一旦思考を止める。
「ふっふっふ……お困りのようだね」
すると、そこへ一人の来客が現れた。
「……レヴィ?どうしたんや?一人で」
「王様から小鴉ちんに届け物だよ!」
「っと……これって……!」
レヴィは、そう言ってはやてに何かを投げ渡す。
はやては咄嗟にそれを受け取り、確認する。
「王様も結構傷が深かったみたいだから、小鴉ちんに任せるってさー」
「……さすが王様やなぁ。おかげでもう少し解析できそうやわ」
受け取ったもの。
それは神界での戦闘データが詰まった情報媒体だった。
ディアーチェもまた、戦闘を記録していたのだ。
「そっちは大丈夫なんか?」
「うーん、シュテるんは重傷だったし、王様も動けないし……アミタとキリエは一番やられてたから、今動けるのはボクとユーリ、後はサーラだけだよ」
「……そっちもそっちやなぁ……」
洗脳されていた時、近接戦を仕掛けていたメンバーは優輝が上手く誘導していたおかげで、同士討ちの対象外に出来た。
しかし、後衛のメンバーはその誘導が間に合わないため、重傷者が多い。
シュテルとディアーチェもそれが要因で大怪我を負っていた。
アミタとキリエに至っては、グランツ博士がいなければ確実に死んでいた程だ。
「ユーリとサーラは体の調子を確かめに行ったから、こっちはボクが来たって訳」
「……二人は、諦めてへんのやな」
既に、ユーリとサーラは動いていた。
シュテル達の傷の治療自体は完了しているため、別の事をしているのだ。
一秒一秒を、無駄にしないために。
それを知って、はやては呟くようにそう言った。
「……?なんで諦めるの?」
「なんでって……」
レヴィに当然のように返され、はやてはそこで言い淀む。
“勝てないと思ったから”。理由としては単純だ。
だが、それを理由にして、“逃げている”だけだと気づいた。
「(……そっか。結局、私達は怖いから逃げてるだけなんや。どうしようもなく強大で、勝てる気がしない相手。だから、私達は怖かった。また、あんな風に蹂躙されるんやないかって。……それじゃあ、ダメなんや)」
「小鴉ちん?」
「……いや、何でもないよ。データ、ありがとな。ディアーチェにも、目が覚めたら伝えといて」
「どういたしまして!それじゃあ、ボクは戻るね!」
元気にレヴィは部屋を後にする。
それを見送ったはやての表情は、心なしか晴れやかになっていた。
「レヴィのおかげで、少し前向きになれたわ。シャマル、確認するけど、二人はもう目が覚めるのを待つだけなんやな?」
「はい。傷自体はもう治ってるので……はやてちゃん?」
「そっか。ならええんや」
シャマルに確認を取り、はやては立ち上がる。
「私も、ユーリ達みたいに足掻いてみる。立ち止まってる訳にはいかないんや」
「主……」
「皆、付きおうてくれるか?」
決意を宿し、はやては今一度アインス達に問う。
「……当然です」
「元より、我らヴォルケンリッターは主の力となるための存在。……主はやてが望むなら、我らはどこまでもついて行きます」
「私も、はやてちゃんのユニゾンデバイスですから!当然、ついて行きますよ!」
当然、その返答は肯定だった。
敗北してなお、立ち上がる者がいる。
ならば自分もと、彼女達は立ち上がった。
「………っ……!」
「ッ、今……!」
そして、返答は出来なくとも、応える者もいた。
未だに目を覚まさないヴィータとザフィーラ。
その二人の体が、僅かに動いた。
……まるで、自分達もはやてについて行くと言わんばかりに。
「ヴィータちゃん!ザフィーラ!」
すぐさまシャマルが容態を確認する。
「……どうなんや?」
「……依然、変わりません。でも、今のは……」
間違いなく、目を覚ます兆候だった。
しかし、身じろぎしたのは先程だけで、まだ眠ったままだった。
「……目を覚ましたら、私の所に来るように言ってや。二人なら、ちゃんと追いついてくれるやろうからな」
「分かりました」
二人をシャマルに任せ、はやては部屋を後にする。
二人が目を覚ますのを待てない訳じゃなく、二人なら追いついてくれるだろうという、確信染みた信頼を持って。
「……アリシア?」
「ぇ……?」
その頃、リニスに寄り添い、気持ちを落ち着けていたアリシア。
そこへ、目を覚ましたアリサとすずかがやって来た。
「アリサ、すずか……?」
「アリシアは目を覚ましてたのね……」
二人は、他の傷を負って眠っている者達を看に来ていた。
その際、目を覚ましていたアリシアに遭遇したのだ。
「ご、ごめん、見苦しい所見せたね……」
「無理しなくていいわよ。……あたし達も似たようなものだから」
アリサとすずかもまた、トラウマになっていた。
それを考えないようにするためにも、こうして見て回っていたのだ。
「なのはは奏と一緒に何かやってるし、はやても立て込んでるみたいだったし……。見てて、どうしてそこまで出来るのか不思議に思ったぐらいよ」
「……諦めてないんだろうね」
「……そうね。諦めていない。怖くても、前に進もうとしている。いえ、進んでいるわ。とこよさん達も、ユーリ達も、まだ足掻いている」
「凄い、よね」
自分は恐怖で動けないのに、他の人は前に進んでいる。
それが、余計にアリシアをその場に縫い付けていた。
「(……皆も、怖いはずなのに。……私は……)」
トラウマになって、恐怖を覚えて。
どうしようもなく、神界の存在が怖く思えて。
……それでも。
「(……何もかも諦めたまま終わるのだけは、嫌だ)」
アリシアは、前に進む事を選択した。
恐怖で体は縫い付けられたように重い。
だけど、それでも動かせた。
「(……優輝?)」
ふと、その時アリシアの胸に暖かい“何か”が灯った気がした。
それは、今この場にいないはずの優輝のもののように思えて……
「(……そっか、まだ諦めてないんだったね。優輝は、私達に後を託したんだ。後の戦いと、“可能性”を)」
それは、優輝の“可能性”の欠片だった。
背中を後押しするような、そんな効果しか今はないが、それで十分だった。
「諦めてない皆は、こんな気持ちだったのかな……?」
「……アリシア?」
「アリシアちゃん?」
しばらく黙った状態からの発言に、アリサとすずかは首を傾げる。
傍にいるリニスは、何かを感じ取ったように息を呑んだ。
「もう、大丈夫。……私も、諦めない。最期まで足掻くよ」
「アリシアちゃん……」
いつの間にか、恐怖による震えは消えていた。
それどころか、手足に籠る力が増していた。
「……ええ、そうね。立ち止まって諦めてちゃ、それこそ無意味よね」
「うん……!私も、私達も、やれる事は最後までやろう!」
つられるように、アリサとすずかも諦めまいと奮い立つ。
その胸に、暖かな“可能性”を感じながら。
「……ですが、どうするおつもりで?力量差は絶対的だというのに」
「前回と次、この二つで決定的に違う事が大まかに二つあるよ」
そこへ、リニスが現実的に考えてどうするつもりなのかと尋ねる。
リニスも諦めない意志は再燃していたが、それでも問うべきだと判断したためだ。
アリシアは、そんなリニスの問いに即座に答える。
「二つ?」
「一つ。前提として、前回は神界の情報がほとんどなかった。唯一の情報源である二人も洗脳されていたし、何よりもあの時は罠に嵌められた。でも、今度は違う。今度は、逆に私達が迎え撃つ番」
「あの時は、全て掌の上だったけど……最後の最後で、優輝さんやなのはが覆した。これによって、向こう側の想定外にいる状態なのよね」
初見か、初見じゃないか。その差は大きい。
加え、罠の可能性も低くなった。
「二つ。前回は向こうの土俵だった。でも、今度は私達の土俵だよ」
「……まさか、地球で戦うつもりですか!?」
「私達から攻める前に、向こうから攻めてくる方が早いだろうしね。まぁ、最低条件として攻撃を通用させる手段がないといけないけど」
相手の土俵である神界よりも、自分達の土俵である地球の方が戦いやすい。
これは、見知った場所だからという理由だけじゃない。
「……“意志”を挫くかどうか。これは飽くまで目安でしかなかった。本当は、“意志”を通じて相手の“領域”を攻めるのが、神界での戦い」
「だから、あたし達の守るべき世界で戦う方が、“領域”を認識しやすい」
抽象的な言い方だが、自分達の世界という事実を裏付ける事で、“意志”を根本から強化して戦うという事だ。
地球に攻め入った時点で、そこはアリシア達にとっての“領域”。
優位性を手に入れて神界の神達を迎え撃つ算段だ。
「……机上の空論どころではありません。それは、理屈が……!」
「通ってない。うん、私達も分かってます、リニスさん。でも、神界ってそういうものだと思うんです」
「っ……そういう事ですか……」
屁理屈ですらない算段。
だけど、“そう思う”事こそが法則として成り立たせるなら、それでいい。
リニスもそれを理解して納得する。
「どの道、まずは最低条件である“格”の差を埋める方法を探さないといけないけどね。司辺りに聞いてみるつもりだよ」
「そうね。……あ、あたし達が聞いて来るわ。アリシアはフェイトを頼むわ」
「オッケー。任せといて!」
方針が決まれば、後は行動するのみ。
恐怖はまだ残っている。それでも、アリシア達は再び前を向く。
「(……私も、彼女達を見習わないといけませんね)」
リニスもまた、三人のその姿に背中を後押しされていた。
「それじゃあ、アリシアちゃん。お大事にね」
「うん。アリサとすずかもだよ」
「分かってるって」
また絶望はするだろう。
だけど、それでも立ち止まらずに、アリシア達は歩き続けるだろう。
後書き
道を照らせ、可能性の光よ…フュールング・リヒトを矢に変えて、全てを込めて放つ一射。優輝のあらゆる力を込めてあるため、防御はほぼ不可能。しかし、飽くまで直接的な威力は付属物。その本領は“後に託す”という概念的効果にある。
途中からアルフがいなくなっていますが、食堂で腹を満たした後、フェイトのためのご飯を頼んでいるためまだ戻っていません。アリシア達のやり取りでは大して時間が過ぎてません。
ページ上へ戻る