クリスマスの姪
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第一章
クリスマスの姪
築後金吾は弟の銀二に携帯からこんなことを言われた。
「クリスマスに七穂が行きたいっていうんだよ」
「こっちに?」
「そう、福岡にさ」
「福岡ってな」
金吾はもう四十過ぎだ、昔と違って身体はでっぷりとなってきていて髪の毛も前からすっかり薄くなってきている。優しい顔立ちにも肉が付いてきて野暮ったい感じになっている。職場でも外見よりも落ち着いた安定した働きぶりで評価されている。結婚はしていて妻との間によんさいになる男の子が一人いる。だがまだ奇麗な妻と違い自分の外見にはやれやれと思っている。
「クリスマスは」
「あまりかい?」
「イメージじゃないんじゃないかい?」
「こっちよりましじゃないか?」
銀二は自分の兄にこう返した。
「佐賀よりは」
「そっちは今話題になってないかい?」
「何でだい?」
「ゾンビで」
「そんな話知らないよ」
銀二は電話の向こうの兄に答えた、野暮ったくなっている兄とは違い彼は黒が観はふさふさとして顔も皺があるがきりっとしている。眼鏡もよく似合い身体にも贅肉は付いていない。
「俺は」
「そうだったかな」
「ああ、しかしな」
「七穂ちゃんがなんだ」
「クリスマスは楽しい場所に行きたいって言ってな」
「福岡にかい」
「行きたいって言い出したからさ」
それでというのだ。
「兄貴にって思って」
「僕は別にいいけれど」
金吾は弟に答えた。
「うちの女房も」
「七穂頼子さんに懐いてるしな」
「うん、けれどね」
「福岡はかい?」
「クリスマス確かに賑わうけれど」
そのクリスマスでというのだ。
「けれどね」
「そんなにクリスマスと無縁かな」
「鶏はよく食べるさ」
「それもあってだよ」
「いや、唐揚げとか焼き鳥とか水炊きだよ」
福岡の鶏はというのだ。
「そっちだよ」
「ローストじゃないかい」
「そうさ、ツリーは飾ってケーキも出るけれど」
それでもというのだ。
「ここはさ」
「そこまでクリスマス色ないかな」
「ラーメンの街だよ」
あの豚骨ラーメンだというのだ。
「それでクリスマスかい」
「どうしてもって言うから」
「まあ僕はいいけれど」
そして妻も反対する筈がない、妻は実際に姪を可愛がっていて彼女と会うと何かと甘やかす。金吾から見れば甘やかし過ぎな位だ。
「それなら」
「それじゃあね」
「一人だよね」
「一人だからだよ」
それで行かせるからだというのだ。
「まさか中学生をホテルで一人とはいかないだろ」
「それはそうだね」
「それで兄貴に頼んでるんだよ」
「僕の家に泊めて欲しい」
「よかったら面倒も見てさ」
「いいけれどね」
金吾の返事は相変わらずだった。
「福岡でいいなら」
「それならね」
「クリスマスにはだね」
「七穂そっちだから」
こうしてあった、金吾はクリスマスに姪の七穂を迎えることになった。妻にこのことを話すと彼女の反応は予想通りだった。
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