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雲に隠れた月は朧げに聖なる光を放つ

作者:かびちゃ
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前章 復讐鬼

バギッ!ドガッ!ボギュッ!

教室に殴打音が響く。

「グハッ!ぐっ、もうやめーー」

その言葉が最後まで紡がれることはなかった。顔面に深々と拳がめり込んだからだ。

「くそっ!誰か止めろ!」

数人がこちらに向かってくる。僕は椅子を持つ。そして一振り。数人はその場に倒れた。椅子を離す。ガシャンという音だけがやけに響く。教室のあちらこちらにあるのは血とクズ切れのように横たわるクラスメイトのみ。残るは‥‥‥‥一人。

僕はただ、ひたすらに一つのことを思う。そして口にする。

「死ね」

と‥‥‥‥。


現在、僕‥‥緋鷹 幸(ヒダカ コウ)は教室で暴れている。なぜこうなったのか。それをこれから話そうと思う。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「はあ‥‥今日も学校に行きたくないな‥‥‥」

朝六時。僕は起床し軽く勉強をする。勉強始めてから十分。溜息が何度出たことか。僕が溜息をつく理由は簡単だ。

「毎日イジメられるのは流石に堪えるな‥‥」

そう、僕は小学生六年間の間、ずっとイジメられているのだ。ちなみに僕は六年生である。

「最初は些細なものだったけど‥‥‥はぁ」

イジメられた理由は単純だった。人と違うスポーツをやってるから。それだけだった。まあ器械体操をやってる人はそうそういないから仕方がないのかもしれない。

「おっと‥‥もう七時か。ご飯食べないと」

僕はご飯を適当に済ませ、学校に行く準備をする。学校までだいたい十五分だ。

「はぁ、行ってきまーす」

僕は家を出た。マンションの三階に住んでいるので下に降りる。そのついでに僕は一階のある部屋に寄る。

インターホンを鳴らす。

「おーい、行くぞー」

『はーい、待っててねー』

透き通った声が聞こえる。すぐにパタパタと音がしてドアが開く。そこには‥‥‥‥。


僕の幼馴染であり最愛の人、雲月 聖(ウヅキ ヒジリ)が立っていた。整った顔、セミロングで少し茶色の髪、少しクリッとした目、モデルのようなスタイル。僕には勿体無いほどの女の子だ。しかも僕っ娘だったりする。

「ごめんね、行こうか」

「はいよ」

自然と手を繋ぎながら登校する。この時間は人がいないので、登校デートみたいなことができるのである。

「コウ、今日は練習あるの?」

「ん?あるけど‥‥それがどうしたのさ」

「うん、練習があるなら僕の部屋でご飯食べていかない?お母さんには言ってあるし、コウのお母さんにも連絡してくれてるから」

「それ断れないやつやん」

談笑しながらも登校する。学校に着いたので自然と手を離す。クラスは同じなので意味はないが、前述の通りイジメられているのでこのまま教室に入ったら格好の的だ。

「‥‥‥‥‥‥‥まただ」

僕は上履きを手に取り、何が起きたかを把握した。

「どうしたの‥‥‥うわあ、これは酷いね‥‥」

僕の上履きの中敷きには、画鋲がたくさん入っていたのだ。幸い固定はされていないみたいなので全部取り出す。画鋲はランドセルの中に入れる。これで百本目とかだろうか。

しかしこれはまだ軽い方である。教室に入ると、まだ人はほとんどいない。イジメっ子たちも来ていないようだ。彼らが来るまでの間に僕は、今日は何がなくなったかを調べる。今日は国語の教科書と算数のドリルノートがなくなっていた。とりあえず探しに行く。場所は大方把握しているので問題はない。

僕は校庭を横切り、プールの近くに行く。排水管の近くに、破られた教科書とノートがあった。回収してその場を去る。

教室に戻ると、既にイジメっ子たちは登校していた。早速絡んでくる。

「よお緋鷹。お前、金は持ってきたんだろうな?」

こいつは上林 祐介。イジメっ子のリーダー格だ。

「五千円持ってきなさいって言ったよね?」

女子がさらに煽る。今喋ったのは中内 詩音。女子のリーダー格である。

その他モブがやんややんやと騒ぐ。

「持ってきてないよ。第一言ったじゃん。あげるお金はないって」

「は?逆らうのか?」

ボカッ!

殴打音が響き渡る。

上林が僕の顔を殴った音だ。

「てめえは俺たちの言うことを聞いてればいいの。お金がないなら親の財布から盗んでこいよ」

めちゃくちゃ反撃したいのだが、手を出したら負けだと思っているので黙っている。

「なんか答えろ!」

ドガッ!

今度は無理矢理立たせて腹に蹴りを入れる。鳩尾に入って蹲る。さらに頭を踏みつけてほざく。

「生意気なやつだ。特別にお仕置きが必要みたいだなあ。ああ?」

周りの子分たちも「そうだそうだ!」と調子に乗る。そこへ救いの手が。

キーーンコーーンカーーンコーーン

そう、授業開始のチャイムである。

「チッ。覚えとけよ?」

足をどかして立ち去る上林。僕は自分の体の状態を確認する。顔が腫れている‥‥が血は出ていない。あちこち汚れてはいるがまあ大丈夫だろう。僕は自分の席につき、授業の準備を始めるのだった‥‥‥。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

中休み。小学生にとっては至福の時間だろうが、僕は違う。校舎の裏(立入禁止)に連れ込まれ、チャイムがなるまでボコボコにされるのだ。これがなかなかキツい。プロレス技もかけてくるので僕は自分の腕や脚を折られないようにするのだ。相手も同じ小学生なので、手加減は一切ない。

無言で殴る、蹴る、技を極めるの連続である。同じく無言で耐えに耐え忍ぶ。

キーーンコーーンカーーンコーーン

チャイムが鳴ったので僕は開放された。今度ばかりは顔から血が出ているので保健室に行くことにする。

「すみませーん」

「はいはいどなた‥‥‥って緋鷹くんね。今日は‥‥あらあら、お顔をやられちゃったの。今手当をしてあげるからね」

保健室の先生は僕が何をされているか察しているようだ。何も言わずに手当をしてくれる。

「はい、これでお終いよ。どうする?今日も休んでいく?」

「ありがとうございます。そうします」

僕は三時間目の授業を保健室で過ごした。途中で聖も体調不良の体で来てくれたので雑談する。

「コウ‥‥‥またやられたの?」

「またっていうかいつも通りだよね」

「‥‥‥僕、あの人たちから告白されたけど‥‥絶対に嫌だな」

「ふーん?なんでさ。ぶっちゃけ僕とだと釣り合わないんじゃないかな?」

「‥‥僕はコウのことが好きだから付き合ってるの。それ以上もそれ以下もないよ」

「好きって‥‥別に取り柄もないのにかよ」

「コウは僕の癒やし人ですから」

「なんじゃあそりゃ」

「うふふ‥‥‥」

妖艶な笑みを浮かべる聖。これが他の男子なら間違いなく落ちていたはずだ。

「その笑み、他の人なら間違いなく鼻血もんだぞ?」

「知らないよー。僕は別に意識してないもん」

この色気のせいで年上からも告白されるのが絶えないのだが‥‥‥‥。彼氏としては凄く、ええそれは凄く心配だ。

キーーンコーーンカーーンコーーン

授業終了のチャイムが鳴った。とても嫌なのだが、僕たちは教室に戻った。おそらく昼休みや放課後に何かあるだろうが、僕は図書室に逃走するつもりなのでなんとかするつもりだ。聖が僕を気遣いながら歩いてくれているので僕は大丈夫だという意思表示をし、教室へ入った。

その後は普通に授業を受け、給食の時間になった。まあ机は落書きだらけだが。
今日の給食はカレーだ。ぶっかけられないように辺を警戒しながら自分の机に運ぶ。ちなみにナプキンはない。全てビリビリにされてしまったので持ってこないようにしたのだ。

自分のだけ激辛カレーみたいなことはなかったので、さっさと食事を済ませて図書室に逃げる。図書室で騒ぐともれなく生活指導室行きなので、彼らも騒げないのだ。

「こんにちはー」

「あら緋鷹くん、こんにちは」

僕は司書さんと仲が良いので、オススメの本を貰う。

「あ、司書さんこんにちは」

聖もやってきた。

「こんにちは。はい、オススメの本よ」

聖も本を渡される。僕たちは一番目立たない隅っこを陣取り、本を読み始めた。妙に聖が近いのは気のせいだと思いたい。

昼休みは特に何も起きず、授業も普通に受けられたので、僕は帰る準備をする。もちろん大急ぎで帰れる準備だ。荷物は最小限必要なものだけを持って帰り、あとはロッカーにしまっていく。まあそれだから色んな物が盗まれたり壊されるのだが‥‥‥。暴力から逃げるためだと思うなら軽いものだ。

「それでは、さようなら」

先生の掛け声。僕は速攻で走り出す。下駄箱まで行き、靴を履き替え、ダッシュする。ちなみに聖も追いついてきている。彼女は50メートル走を小学生なのに七秒後半で走れるのである。自分も同じぐらいなのだが、頑なに他の人は認めてくれない。少し悲しい。

「急ぐぞ‥‥‥見つかりたくねえ」

「追いかけてくる感じではないから‥‥‥待ち伏せに気をつけてね」

「分かってる。あ、家に着いたな」

全力疾走(信号で休憩)したのであっという間に家に到着する。これを毎日やっているので自然と体力がついた。

「それじゃあ後でな」

「うん!」

僕は自分の部屋に駆け込み、水を飲んで着替える。そしてお菓子を少し食べてそのまま出発。この間五分である。

「行くか」

再びダッシュ!今度もイジメっ子に出会わずに駅についた。ここから数駅移動して練習場に行く。

「さて‥‥帰りは‥‥‥‥‥覚悟だな」

帰りは流石に走る体力も残っていないので、僕は悲壮な覚悟(?)をしたのであった‥‥。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
帰り道。

クタクタになって僕は帰路についていた。すると見覚えのある人影が複数現れる。言わずもがな、上林とその子分である。

「よお緋鷹。奇遇だなあ。ちょっと遊ぼうぜ」

そう言っていきなりストレートパンチを顔面に打ち込んでくる。流石に危ないので避ける。その後はラッシュの応酬だ。数人からのラッシュは非常に辛い。何発か被弾しながらも避けに専念する。これが三十分ぐらい続いた。満足したのか、上林たちは引き上げていった。

「ッ‥‥‥痛えなあ」

何発かが顔面と鳩尾に入ったのでなかなかに痛い。とりあえず手当とかは面倒なのでそのまま聖の元へ向かう。

ピンポーン

「来たよー」

『はーい』

ドアを聖が開ける。

「コウ、来たねって顔!」

「ごめん、直行できた。あれ?意識が‥‥」

僕の意識はそのまま途切れた‥‥‥。











「‥‥‥‥‥‥ウ‥‥‥‥‥‥‥コウ‥‥‥‥‥コウ!」

「ん、ん〜?」

頬に当たる温かい感触に目が覚める。見覚えのない天井が見える。

「ん‥‥‥聖?」

「コウ!良かった‥‥‥」

どうやら僕は気絶していたらしい。脳震盪を起こしていたのに気が付かなかったのかもしれない。

「許せないよ‥‥‥こんなことするなんて‥‥‥」

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

「コウは、こんなに優しくていい人で、嫌なところなんて一つもないのに‥‥‥」

「それは言い過ぎだろ‥‥‥‥」

「そんなことない!」

聖が声を大きくする。

「コウだって、顔が整ってるし運動もできて性格も良いのに‥‥‥それこそ僕じゃ勿体無いよ‥‥‥」

「あはは‥‥‥」

乾いた笑い声が出てしまう。もう長いこと心から笑えていないのだ。今日、暴力は少なかったとはいえど様々な物を盗まれたのだ。無傷で帰ってくることはまず有り得ない。

「まあ、なんとか乗り切るからさ。僕は聖がいればなんでも乗り切れるよ」

「それでも‥‥‥」

「大丈夫。きっとなんとかなるさ」

不安そうな聖を見て安心させるために言葉をかける。

「今日のことを考えるんじゃなくて、明日のことを考えよう。それなら気持ちは楽だよ」

「で、でもコウの身体は‥‥‥」

「まあ骨折でもしなければいいよ。体操はできるから」

「そんなのダメだよ‥‥‥そのうちコウが殺されちゃうよ‥‥」

「考え過ぎだって。絶対に死なないから」

その後も不安がる聖に言葉をかけにかけまくる。そんなやり取りをしていたら夜になってしまったので僕は自分の家に戻ることにした。

「それじゃ、また明日」

「うん‥‥‥また明日ね!」

僕たちは最後に互いを見て微笑む。そして僕は階段へ、聖は部屋へと戻っていった。




階段の影で、一部始終を見ていた男の子の人影を誰も知ることはなかった‥‥‥‥。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

次の日。僕たちはいつものように登校していた。空は清々しいぐらいに秋晴れだ。日にちは‥‥10月2日である。

「さて、今日はどんな目に合うことやら」

「なにかされる前提って悲しい‥‥‥」

雑談をしながら登校する。途中で横断歩道があるので僕たちは止まる。ここの横断歩道は結構待つので雑談に花が咲く。

と、そこへ人影が現れた。言わずと知れた上林たちである。見れば中内たち女子もいる。朝から何事だと思い、僕は臨戦態勢を取る。

「よお二人とも、朝から奇遇だなあ。‥‥‥やれ」

その掛け声で僕は男子四人に取り押さえられる。突然の出来事に戸惑う。見れば聖も男子と女子に動きを封じられている。

上林が下卑た笑みを浮かべる。

「緋鷹、随分と雲月のことが大切なんだなあ。朝から手なんか繋いでさー。‥‥‥‥こいつが死んだらどんな顔をするのかな?」

「?!!まさか‥‥‥‥おい、やめろ!」

「黙れ!」

理不尽に殴られる。車道側の信号が一度赤になり、再度青になる。車が走り出す。少し感覚が空き、遠くからトラックが疾駆してくる。

「殺れ」

「やめろおおおお!」

僕は無理矢理拘束を解く。が、時既に遅し。聖が車道に押し出された。僕は助けようと車道に駆け出そうとする。しかし上林に左腕を捕まれ、無理矢理引きずり戻される。その拍子に肘の骨が外れた。

トラックは聖に気が付かない。一層速度を上げて聖に迫る。聖は動かない。いや、動けないのだろう。見れば咳き込んでいるので、おそらく首を締められてから押し出されたのだ。

「聖ぃぃぃぃぃい!」

僕は絶叫する。が、その声に反してトラックは聖に突っ込む。

トラックが突っ込む直前、聖はこちらを見た。その顔は清々しい。僕の目を真っ直ぐ見て、微笑んだ。思わず見惚れてしまいそうな笑み。その笑みには、全ての思いを見事に表現していた。「ありがとう」「大好き」「さようなら」

「聖‥‥‥」

その呟きと共に


僕の最愛の人は



トラックに飲み込まれた‥‥‥‥‥。


「ギャハハハハハ!見ろよこいつの顔!」

「受けるわー!」

「最高!」

汚い笑い声を挙げて通学に戻るイジメっ子たち。追いかけようとするも、ズキッと左腕が痛む。

「そうだ‥‥‥脱臼したんだった」

茫然としていると、トラックの運転手が降りてきた。目の前の惨状を見て、顔が青褪める。さらに、僕のダランとした腕を見て事件に巻き込まれたと判断したらしい。警察と救急に連絡をしてくれた。

「坊主、大丈夫か?」

「‥‥‥肘を外された感じ」

「そうか‥‥‥坊主、すまないな。お嬢ちゃんを轢き殺してしまって‥‥‥‥。謝っても許されないと思うが、頭を下げさせてくれ」

そう言って土下座するおじさん。

「おじさん‥‥顔を上げてください。あれはおじさんのせいじゃないです。今でも聞こえてくる、あいつらの仕業です」

「あいつら‥‥‥?ああ、今も笑い声が聞こえるな‥‥‥誰だかは分からないが」

「あ、パトカーと救急車‥‥‥‥」

サイレンを鳴らしてパトカーと救急車二台がやってきた。警察の人がおじさんを連れて行き、僕は救急車に乗せられる。聖も乗せられているが、おそらく即死、それか瀕死だ。それがなんとなく僕は分かっていた。

「さて、ボク。腕は痛むかい?」

「はい‥‥‥外れた感じです」

その言葉に頷き、「痛いと思うが我慢してくれよ?」と一言。そして外れた腕を再び元の位置にハメてくれた。

「包帯を巻いてっと‥‥‥よし、応急処置はこんなもんだ。これから病院に連れて行くから、名前と住所、電話番号を教えてくれるかな?」

その質問に僕は淡々と答えていく。救急隊員の人は誰かに電話をかけ始めた。おそらくお母さんだ。

そんなことはどうでも良かった。僕は聖のことを考えていた。彼女はおそらく、いや、もう帰ってこないだろう。その現実をなんとか受け入れようと、しかし出来ずに実は生きてたり‥‥‥‥なんて思ったりした。そのうちに病院に着いた。そのまま診察室に通され、レントゲン写真を撮られた。どうやら骨が外れただけですぐに戻してくれたのでそこまでの問題はないらしい。ただししばらくは痛むぞ、と言われた。

腕に包帯を巻かれて診察室から出ると、お父さんとお母さんがいた。

「「幸!」」

そう言って抱き締めてきた。

「お父さん、お母さん、それどころじゃないんだ。聖が‥‥‥‥」

「ああ、聞いたぞ。すぐに行こう」

急いで聖のいるとされる病室まで行く。看護師の人に事情を話して通してもらう。そこには‥‥‥。

身体のあちこちに包帯を巻いた聖がいた。顔は無事だったらしい。とくに外傷はない。聖は辛うじて生きているらしい。が、とても苦しそうだ。

「あ、聖のお母さん‥‥‥」

部屋には聖のお母さんがいた。茫然自失しているらしい。

「ケホッ‥‥‥‥ケホッ‥‥‥‥‥こ、う」

「?!聖!」

聖が名前を呼んだ。目を少しだけ開いている。思わず叫ぶ。

「ご‥‥‥め‥‥‥ケホッケホッ‥‥‥‥ん‥‥ね‥‥‥‥」

「そんな‥‥‥なんで謝るんだよ!」

「い‥‥‥‥き‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥て‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

「ああ‥‥‥生きる‥‥‥生きるから聖も!」

「‥‥‥‥だ‥‥‥‥‥‥‥‥‥い‥‥‥‥‥‥す‥‥‥‥‥‥‥‥‥き‥‥‥‥」

ガクッ

ピーーーーーーーーーーーーーーーー

聖の心臓が止まった。

「?!心音消失!」

「脳波もです!」

「蘇生急げ!」

辺りが騒がしくなる。





看護師と医師の奮闘虚しく、聖は永遠の旅に出た。



享年 11




「幸‥‥‥‥くん‥‥‥」

「聖のお母さん‥‥‥」

「ありがとう、最期に来てくれて‥‥‥‥」

「いえ、それよりすみませんでした‥‥‥止められなかった‥‥‥‥」

「なんで謝るの‥‥‥幸くんは悪くないわ‥‥‥」

「ッ‥‥‥でも‥‥‥‥それでも‥‥‥‥!」

「‥‥‥幸くん、お願いがあるの」

「‥‥‥‥‥‥はい」

「聖の最期の願い。強く生きて‥‥‥‥」

「強く‥‥‥生きる‥‥‥‥」

「あの娘の分も‥‥‥‥私たちの分も‥‥‥‥」

「ちょっ‥‥‥何言ってるんですか?!」

「‥‥‥いえ、何でもないわ‥‥‥‥忘れて」

ものすごく嫌な予感がしたが、なんとかやり過ごしたのだった‥‥‥。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
翌日。僕は学校に一週間休む届けを出したので、聖の部屋に行く。なんとなく、嫌な予感がしたからだ。

ピンポーン

‥‥反応がない。

ピンポーン ピンポーン

やはり反応はない。聖に貰った合鍵を使って家に入ることにする。とても静かだ。なんの音もしない。不気味な空間である。

「まさか‥‥‥‥」

思わず呟きながら聖の親を探す。














すぐに見つかった。ただし、身体は宙に浮き、首には縄がかかっていたが。近くには蹴倒したであろう椅子が転がっている。目は見開かれ、虚空を見ている。

‥‥‥‥聖のお父さんとお母さんは、首吊り自殺を遂げていた。昨日の聖のお母さんの発言はこのことだったのかと今更のように気がつく。思わず下を向く。と、そこに紙が二枚落ちていた。

「まさか‥‥‥遺書?」

そう、遺書だった。手に取り読んでみる。


『※この手紙を見つけてくれた人は、緋鷹 幸くんに渡してください。
幸くん、突然自殺してしまい、まずはごめんなさい。私たちは、あの娘がいないと生きて行けなかったのです。許してください。あの娘の最期の願いを、どうか叶えてあげてください。自殺した私が言えたことではありませんが、強く、長く生きてください。
そして、できるなら別の女の子と一緒になってください。あの娘を思ってくれるのは嬉しいですが、いつまでも引きずって欲しくないのです。幸せに、末永く暮らしてください。それが私たち家族の最後の願いです』

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ッ」

自然と涙が溢れてくる。聖が死んでも、彼女の親が死んだのを間近で見ても泣かなかったが、今、泣いた。

「ッ‥‥‥うわあああああああああああああ!ああああああああああああああああ!!」

僕の泣き声だけが虚しく響く。僕は、ようやく「聖の死」というものを理解したのだ。最愛の者の死。その家族の全滅。一度に大切なモノを多く失って、僕は壊れた。泣き叫び、怒り狂い、止めることのできない殺意が溢れてきた。

悲しみの涙は、やがて憎しみとなり流れていく。一時間もしたとき、僕はこれからのことを冷静に考え始めた。

(僕は何がしたい?)

(僕は復讐がしたい)

(あいつらは何をした?)

(僕たちを苦しめた)

(関係ない人も含めて苦しめた)

(゛俺 ゛は何をするべきだ?)

(復讐するべきだ)

(どう殺る?)

(十倍返し、ただし生かす)


「そうだ‥‥‥簡単なことじゃないか。俺はあいつらを後悔させるぐらいにボコボコにすればいいんだよ」

俺は、決意を固めた。極めてシンプルな決意。

(復讐してやる)

強く、俺は復讐を望んだ。

「復 讐 し て や る」

今度は声に出す。改めて決意するかのように。

「復讐して‥‥‥‥後悔させてやる。聖を殺したことを」

俺は三日月のように口が裂けた笑みを浮かべた。そのまま、昔通っていた護身術の道場へ行く。

「うお?!幸じゃねえか!元気か?その腕はどうしたんだ?」

師匠が出迎えてくれた。

「ああ、ちょっとゴタゴタがあってな。それよりちょっと手伝ってくれ」

「おう、なんだ?」

「確実に気絶させられる技を教えてくれ」

「ほう‥‥‥?珍しいじゃねえか。昔はあんなに戦うのが嫌いだったじゃねえかよ」

「‥‥戦わなくちゃいけない理由があるんだ。教えてくれ」

「‥‥‥‥ふん、すっかり漢の目になったな。よし、それなら教えてやる。ついてこい」

「恩に切るぜ、師匠」

「すっかり変わりやがったな‥‥‥何かを失ったみたいだ」

「それを聞いてくれるなよ。で、何を教えてくれるんだい?」

「ああ、お前は投げ技が得意だったからな。それを上手く使おうと思う。まあその腕だからある程度制限はあると思うが‥‥‥」

「投げ技か。そいつは楽しみだ」

「お前、大外刈りと背負投は極めていたよな。昔は怪我しないように気遣ってたが‥‥‥」

「それなら任せてくれ。誰か相手してくれるかい?」

そんなわけで適当に門下生を捕まえて模擬戦をやる。

「お、おい。片手使えないんじゃ‥‥‥」

「いいから来い。早くしろ」

「ッ‥‥どうなっても知らないからな!」

飛びかかる門下生。俺はそれを右腕だけで受け流す。一瞬隙ができたのを見逃さない。

「セイッ!」

大外刈りをかけた。本来なら相手の腕は持ちっぱなしなのだが、俺は手を離す。

一瞬だけ宙に浮きドタマから落ちる門下生。一応マットの上なので死にはしない。気絶はしているが。

「ほお‥‥‥。戸惑いなくやれるのか。その分なら背負投もできるな」

「ああ、こんな感じだろ?」

俺は近くにいた門下生を投げ飛ばす。思いっきり吹き飛んでマットの上に落ちた。ちなみに片手である。

「やるじゃねえか。それならこの技をだな‥‥‥」

その後も師匠から様々な技を一週間かけて教えてもらった。とても有意義な時間だったと思う。

「ま、何があったかは知らんが、頑張れよ?」

「ああ、ありがとう」

朝早く道場に来て、最後の手合わせをして師匠は送り出してくれた。俺はそのまま学校に向かう。




復讐のために。


久しぶりに登校した学校は何も変わっていなかった。が、他の人が小さく見える。俺はとりあえず威圧感たっぷりで登校したのだ。師匠に威圧感出す方法を教えてもらったので常時発動させているのである。

「さて‥‥‥‥行くか」

俺は自分で持ってきた上履きを履き、教室に入った。クラスメイトから驚いた声が挙がる。それは、俺が姿を現したからなのか、腕のことか。

「よお‥‥‥久しぶりだなあ?クズ野郎共」

俺は上林の方を見て皮肉たっぷりに言う。上林の顔が真っ青になる。身体はブルブルと震えている。いい気味だ。

「な、なんだお前。いきなり舐めた態度取りやがって‥‥‥守りたいものも守れないんだもんなあ?」

「ああ、俺は何一つ守れなかったさ。聖も、あいつの親もな。それなら、あいつの最後の願いぐらい守りたいと思ってな。おかげさまで決心できたぜ?お前らを撲殺する決心がな」

これまでとは段違いの威圧感と殺意が溢れ出す。

「ッ‥‥‥‥殺れ」

子分が飛びかかってくる。俺はそれをヤクザキックで撃沈させる。

「チッ‥‥役立たずが。それならナイフで‥‥‥」

どこから取り出したのか、アーミーナイフを取り出す。そして、一直線に斬りかかってきた。俺は少しだけ食らうことにする。切っ先が頬を撫でる。血が飛び散る。まるで血が、涙のように流れる。

「はは、やるじゃねえか。ならこっちも殺るとするか」

笑顔で言う。ただし目は笑わない。次の瞬間。俺は動き始めた。

一番近くにいたイジメっ子をとりあえず大外刈りで気絶させ、その隣にいたイジメっ子をアッパーカットで撃沈する。さらに俺は動き回り、次々と気絶させる。生かしておいてあるのは最後の温情といえる。本当なら殺したいところだが、ギリギリのところで踏みとどまっているのだ。あと一つ何かしたら殺しにかかるとは思うが‥‥‥。

一応左腕は使えないので、箒を右手に持って振り回す。と、言ってもあくまで牽制程度にしか思っていない。箒を槍投げのように投げて一人を気絶させる。当たりどころが悪かったに違いない。

「く、くっそ!お前本当に緋鷹なのかよ?!」


慟哭する上林。まあ、変わりすぎてしまったかもしれない。混乱しても仕方がないだろう。


それだからといって、許すつもりは一ミリもないが。その意志を強烈に感じ取ったのか、上林は次に有り得ない行動を移した。


「う、動くなあ!ぶっ刺すぞお!!」

近くにいた、聖の友達を捕まえてナイフを首元に当てたのだ。聖の友達とは仲が良いとも悪いとも言えない関係だった。聖がいなかったら関わることもなかったと思う。

しかし、あいつは今は亡き聖の友達までも手を出すのか。俺は自分の体温が一気に下がるのを感じた。冷たくなる身体。徐々に心も冷たくなる感覚がある。

今、心にある感情は、侮辱、哀れみ。そして‥‥‥。




激烈な怒り。


俺は今まで燃えていた復讐の炎が消えていくのを感じた。そして別のモノが心を支配した。


それは、冷たい殺意。


絶対零度も生温いほどの冷たい殺意が心を支配していく。

「お前ら殺れ!」

動かなくなった俺を見てチャンスと思ったのだろう。二人のイジメっ子が俺に襲いかかってきた。

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥え‥‥」

「死ねえ!緋鷹あ!」

「このクソ雑魚があ!」

「‥‥‥‥‥‥‥消えちまえ‥‥‥‥‥」

「何をブツブツと言っている!」

「遺言かあ?」

「‥‥‥何もかも」

一拍おく。そして‥‥‥‥呪詛の言葉を投げかける。

「何 も か も 消 え ち ま え」

イジメっ子の動きが止まる。顔面蒼白。唇は痙攣している。俺は近くにいたイジメっ子の腕を掴んだ。そしてうつ伏せにする。

「?!何をーー」

「死ね」

バギッ!!

嫌な音がする。俺は力任せにイジメっ子の腕を折ったのだ。さらにヤクザキックで仰向けにして金的を踏み潰す。

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」

ものすごい悲鳴を挙げる。煩いので顔面を踏みつけて黙らせる。今まで、こいつらがしてきたように。トドメに鳩尾を踵落としする。

イジメっ子は泡を噴いて気絶した。

俺は次の標的に向かう。ついさっきまでは、心が熱く燃えていたのに、今はなんだ。ドライアイスを直接押し当てられてる感覚だ。何も感じない。嬉しいとか、悲しいとか、こいつウザいとか、復讐したいとか。そういったものを何も感じないのだ。

ただ一つ。最大にして最悪の目的だけが心に残っている。

「死ね」

切に相手の「死」を願う。苦しめ、とか後悔しろなんてものはない。ただただ、「死ね」とだけ思う。

俺は上林を見る。無表情で。上林の顔色がいよいよ土気色に近くなってきた。

「くっ、殺れ!早くしろ!!」

残りは少ない。後は「死」を見るだけだ。俺は飛びかかってきた一人の相手をする。

パンチしてきた腕を掴んだ。そのままの流れで背負投。イジメっ子は投げ飛ばされ窓ガラスにぶつかる。ガラスが割れ、落ちていくイジメっ子。ここは二階だ。それに下は今の時期落ち葉がこんもりとしている。問題ない。

上林を含めて、男子のイジメっ子はあと五人ほど。女子はまだ残ってるが‥‥‥全員漏らしている。後で殺ることにした。

「死ねええええ!緋鷹あああ!」

椅子を持って飛びかかってしたイジメっ子。素手では敵わないとようやく分かったのだろうか。しかし、椅子程度ならどうってことはない。ハイキックで椅子を蹴落とす。足の甲に上手く乗っかったので特に痛みはない。

椅子を蹴落とした俺は、丸腰のイジメっ子の処刑を始める。うつ伏せにして、腕を一本ずつ外していく。腕が終わったら次は脚だ。俺は膝を脱臼させる。そして脛に椅子を落とす。声にならない悲鳴を挙げるイジメっ子。もう、やることはあと一つだ。それは‥‥‥。


拳によるラッシュだ。

バギッ!ドガッ!ボギュッ!

教室に殴打音が響く。

「グハッ!ぐっ、もうやめーー」

その言葉が最後まで紡がれることはなかった。顔面に深々と拳がめり込んだからだ。

「くそっ!誰か止めろ!」

数人がこちらに向かってくる。俺は椅子を持つ。そして一振り。数人はその場に倒れた。椅子を離す。ガシャンという音だけがやけに響く。教室のあちらこちらにあるのは血とクズ切れのように横たわるクラスメイトのみ。残るは‥‥‥‥一人。

俺はただ、ひたすらに一つのことを思う。そして再び口にする。

「死ね」

と。

「て、てめええええええ!!」

そう叫んで襲いかかってくる上林。

「てめえがいなければ!雲月は俺のものになってたんだあああ!なのに!てめえのせいで雲月は俺のことを嫌った!てめえのせいで!だから殺したんだよおおおおお!!!」

表れる本性。殴りながら叫ぶ上林。

「てめえみたいなクズがなんで雲月と付き合っているんだよ!俺よりも劣っているてめえが!なんで!なんでなんだよおおお!!!」

「フフフ‥‥‥‥ハハハ‥‥‥‥」

徐々に笑いがこみ上げてくる。可笑しくて堪らないのだ。こいつの憐れさが。

「アッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」

ついに堪えきれずに大笑いしてしまう。久しぶりに心から笑った。否、嘲笑った。人の不幸を見て。

「ハハハハ!!俺がお前より劣っている、か。アッハハハハハハハ!思い違いにもほどがあるわ!アッハハハハ!」

笑いながら嘲る。上林の顔に青筋が量産されていく。

「フフフフ‥‥‥以前あいつがお前のことをなんて思ってか教えてやろうか?あいつはお前のことを『人以下の猿、いや猿が可愛そうだね。』と言ってたんだぜ?笑えてくるわ!アッハハハハハハハ!!そこでただ見ている女どものこともなあ?『あんなの人じゃない』と気持ち悪がっていたんだよ!さて、劣っているのはどっちかなあ?アッハハハハハハハハハハハハハ!!!」

「てめええええええええええええ!!」

上林の拳は加速する。しかしそれを俺は全て片手で捌く。

「なあどんな気持ちだ?自分は全力なのに相手は片手で、しかも余裕で捌かれてさ!なあどんな気持ちだ?自分が劣っているとバカにしていたヤツに本当は自分の方が劣っていると言われたのはよお!」

俺は捌くのをやめて攻めに入る。上林の顔面に深々と蹴りが刺さる。

「グハア!?」

俺は笑うのをやめた。無表情に戻る。例えるなら今まで吹き荒れていた嵐が突然ピタリと止まり、風一つ感じない空間にいる感覚だと思ってもらえればいい。

「終わりだ。死ね」

俺は鳩尾にストレートのパンチをめり込ませる。呼吸ができないのか、前に倒れ込もうとする上林。その顎を蹴り飛ばして後ろに下がらせる。さらに距離を詰め、肺がありそうなところを殴る。やはり前に倒れ込もうとするので、今度は腹に右腕を添えて左足を後頭部につける。そのまま頭を下に叩きつけるように足を下ろし、反対に右腕は下半身を上に投げるように上げる。

上林は見事に一回転して落ちてきた。そのままヤクザキックで横腹を蹴る。転がる上林。そして無理矢理立たせて再び顔面を殴る蹴る。最後の後ろ回し蹴りで上林が壁まで後退した。すかさず顎を蹴る。壁に寄りかかる上林。そして首を掴み、壁に押し付ける。そしていつの間にか出した改造エアガンを眉間に押し付ける。

このエアガンは昔お父さんにプレゼントしてもらったものだ。それを何度も改造し、電磁加速させることに成功した。分かりやすく言うならばレー○ガンだろう。電磁加速で弾が爆発的な威力を生み出す。BB弾だと貫通の恐れがあるため、致死性のないゴム弾に変えてはいるものの威力はとんでもない。人の骨を砕くぐらいなら簡単にできるのである。ちなみにBB弾なら金属にヒビが入る。強化ガラス程度なら貫通する。こんな凶悪な武器ながら反動はほとんどないに等しい。そのため怪我した左腕でも扱うことができるのである。

そんな改造エアガンを眉間に押し付けたので上林だけではなく女子のイジメっ子たちや聖の友達ですら顔面蒼白である。特に聖の友達は改造エアガンの威力を聖から聞いているからか、必死に止めようとしてくる。俺は止めるつもりはなかったのだが‥‥‥‥。

「そんなの、聖ちゃんが望むわけないよ!」

その声にピクリと反応してしまう。そして、俺はようやく目的を思い出した。

こいつらに復讐しよう。ただし殺さない。と。

このまま引き金を引けば間違いなく上林は死ぬだろう。しかし、それを聖が望むのだろうか。こいつをあの世に送るのを‥‥‥。

そこで俺は一つ名案を思いついた。これなら命を殺すことはないし、色んな意味で死なせることもできる。俺は上林の顔面を殴って仰向けに寝かせた。そして聖の友達に指示をする。

「救急車、呼んでおけ」

そして俺は、銃口を別の場所に向けた。銃口はピタリと上林の男の象徴に狙いを定めている。

「せめてもの情けだ。漢女として生きるんだな」

そう言って引き金を引く。

ドパンッ!!

狙い狂わず電磁加速したゴム弾は上林の男の象徴を撃ち抜いた。そのまま気絶する上林。
とりあえず「実行犯」は社会的に抹殺できた。次は‥‥‥。

「なに自分は関係ないって顔してるんだ?次はお前らだよ」

そう言ってエアガンを中内に向ける。そう、こいつらが計画犯だ。おそらく中内たちが聖の人気に嫉妬したんだろう。ちなみに聖がどのぐらい人気かというと、一ヶ月に最低三十回は告白されるのだ。年上、年下関係なく、である。美少女で僕っ娘、性格、賢さ。本当に完璧超人だったのだ。オマケにスポーツもでき、新体操と卓球をやっていた。新体操は全国レベルだったはずだ。

そんな聖に嫉妬してもおかしいことではない。問題なのは、自分は関係ないという顔をして罪を逃れようとしていることだ。

「とりあえず社会的に殺すが、その前に前座処刑だ」

ドパンッドパンッドパンッドパンッ!!

銃声四発。弾丸は中内の四肢に命中した。

「アガァ!?」

崩れ落ちる中内。

「あとは周りのお前らだな。覚悟はいいか?」

その言葉に反応して見事なシンクロ率で土下座する女子たち(聖の友達以外)。俺はそいつらの顎をそれぞれ一発ずつ蹴って気絶させる。中内よりはだいぶマシな措置だろう。

「な‥‥‥んで‥‥‥」

「ア?」

中内がいつの間にか立ちあがって俺を睨んでくる。四肢を撃ち抜いたと言っても足のほうはとくに骨折などはしてないはずだ。なんせ上履きに当たったのだ。痛いで済むはずである。

「なんで?お前らが聖を殺したからだろ?」

「‥‥‥あんな泥棒ネコ、死んで良かったのよ!」

「ア゛ア゛?」

「私はこんなにもあなたのことが好きであなたも私のことが好きだったのに‥‥なのになんであんな泥棒ネコなんかに盗まれなきゃいけないのよ!」

「はあ?俺がお前のことを好き?ありえねえわ」

「そ、そんな!言ってたじゃない!英語の時間にI like youって!」

「いやそれ教科書の内容じゃん」

あまりに突飛な事実だったので俺は思わず殺意を消してしまった。

「嘘よ嘘よ!ちゃんと言ったの!」

「ご都合解釈にもほどがあるわ。とりあえず黙れ」

煩かったので俺は後ろ回し蹴りで顔面を蹴る。華麗なトリプルスピンをしている中内に追い打ちの蹴りを食らわす。吹き飛んで壁に叩きつけられる中内。

「お前がどう思ってかは知らないが、聖のことを泥棒ネコと言ったのは許さん‥‥‥‥‥。ア?お前が文句あるような顔するんじゃねえよア゛ア゛?」

威圧で黙らせ、顔を足でグリグリとする。完全にヤのついた自由な人だ。

「俺が好きだった人は聖だけだ。お前なんか眼中にもないんだよ!」

ガンッ!

最後に顎を思いっきり蹴り飛ばした。少し宙に浮き、やがて落ちてくる中内。俺はご丁寧に腹を踏みつける。そしてようやく、周りの異常性に気がついた。

先生が教室のドアを開けた姿勢でフリーズしている。教室は地獄絵図だ。無事なのは聖の友達だけである(四人ぐらい)。よくよく見ればあの日、聖を轢いたトラックの運転手もいる。警察もいるが‥‥‥なんか同情するような目で見てくる。どこの時点でいたかは分からないが、あの様子だと上林が自白した辺りからいたのだろう。

俺はガンスピンをしながら警察のところへ歩く。身構える警察。それをスルーして俺は事情を説明する。聖が殺されたこととその経緯。この運転手は何も悪くないこと。復讐のためにこいつらをボコボコにしたこと。上林は男として死んだから病院に連れて行ってほしいことなど。

全てを把握したのか、キリッとした顔になって確保を始めた。俺はそれを確認し、学校から立ち去る。

「さて、父さんと母さんになんて説明するかな‥‥‥」

そんなことをぼやきながら帰路につく。家についた俺は、父さんと母さんに全てを説明した。

始めは驚いた顔をしていたが、すぐに「よくやった」という顔をすると、父さんは新しいエアガンを、母さんは大好きな肉じゃがを作ってくれた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



俺はとある場所に向かう。それは、聖の墓である。長い階段を登って墓場に辿り着く。

「さて‥‥と、聖。見ててくれたのかな‥‥‥?俺、君の敵を取ることができたよ‥‥‥。あの世はどうだ?楽しいか?お父さんとお母さんは元気か?‥‥俺からは何も分からないけど、幸せに暮らしてくれよ‥‥‥?」

俺はランドセルに入れてあった小さな花束を墓に添える。花の名前は、赤いカーネーション。花言葉は、「あなたに会いたくてたまらない」だ。

「会いたくて仕方がない‥‥‥だが、死んだんだよな‥‥‥受け入れないと‥‥‥‥‥だよな」

ポタッポタッと涙が零れ落ちる。止まらない涙。復讐を終えて少し安堵したからなのか、涙は復讐の心を涙にして外に出す。やはり、聖の前では素に戻れるのかもしれない。それが、たとえ死んでいたとしても、だ。




(また、会えるよ)


「?!!聖か!?」

俺は後ろから聖の声がした気がして振り向く。しかし、そこには何もいない。俺はいないはずの聖を探す。


(だから、その時まで)


「どこだ!聖ぃ!!」


(その時まで、サヨナラだよ)


後ろから何かに抱きしめられた感触がする。忘れるはずがない。抱きしめようとすると恥ずかしがり、背中から抱きしめてきた最愛の女の子を。

「聖‥‥‥」


(元気でね)

その言葉を最後に、背中にあった感触はなくなった。俺は後ろを振り向く。そこには誰もいない。



だが、俺は天に昇っていく聖を見た気がした。



それは、幻覚。幻聴だったのかもしれない。


それでもいい。俺は今一度、最愛の人の名前を呼んだ。



「聖‥‥‥‥‥」


俺は空を仰ぎ見る。



空には雲と月だ。



雲に隠されながらも、朧げに、聖なる光を放っていたのだった‥‥‥‥‥。
 
 

 
後書き
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次回もお楽しみに!! 
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