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英雄伝説~灰の騎士の成り上がり~

作者:sorano
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第50話

~隠れ里エリン・ロゼのアトリエ~

「”焦土作戦”…………?一体どういうものなのだ…………?」
「しかも帝国正規軍がクロイツェン州で行ったらしいですけど、一体正規軍はクロイツェン州で何をしたんですか…………?」
初めて聞く言葉に戸惑ったガイウスは不思議そうな表情をし、トワは不安そうな表情で訊ねた。
「馬鹿な…………”焦土作戦”だと!?レン皇女殿下、本当に帝国正規軍は”焦土作戦”をクロイツェン州で実行したのですか!?」
一方”焦土作戦”がどんな内容であるのかを知っていたミュラー少佐は信じられない表情で声を上げた後、厳しい表情でレンに訊ねた。
「ミュラー、”焦土作戦”とは一体どんな内容なのだい?」
その様子を見たオリヴァルト皇子は表情を引き締めてミュラー少佐に訊ねた。

「…………”焦土作戦”とは、『戦争等において、防御側が、攻撃側に奪われる地域の利用価値のある建物・施設や食料を焼き払い、その地の生活に不可欠な公共施設の利用価値をなくして攻撃側に利便性を残さない、つまり自国領土に侵攻する敵軍に食料・燃料の補給・休養等の現地調達を不可能とする戦術及び戦略の一種』だ。」
「な――――――」
「何ですって!?」
「ちょ、ちょっと待ってください!それじゃあ帝国正規軍が自分達の手で帝国領であるクロイツェン州をケルディックの時のように焼き討ちしたという事になりますよ!?」
重々しい口調で答えたミュラー少佐の説明にアリサ達がそれぞれ血相を変えている中アルゼイド子爵は絶句し、サラは厳しい表情で声を上げ、マキアスは信じられない表情で声を上げた。
「クスクス、むしろ”焼き討ちすらも生温い”と思えるくらいの本来の焦土作戦”よりも非道な事をしているわよ?帝国正規軍はクロイツェン州全土の町や都市から、『貴族、平民関係なく利用価値のある物資や食料を全て徴収した上、徴兵予定の男性達を強制連行した上でケルディックを除いたクロイツェン州の町や都市に火を放って、クロイツェン州全土を火の海にした』のよ?――――――ああ、ちなみに実行した正規軍は”第四機甲師団”よ。」
「せ、正規軍が『貴族、平民関係なく利用価値のある物資や食料を全て徴収した上、徴兵予定の男性達を強制連行した上でクロイツェン州全土を火の海にした』って…………!」
「”獅子戦役”でのオルトロスの陣営が行っていた非道さを思い出す程の外道な戦術じゃな…………」
「しかもそれを実行した機甲師団が第四機甲師団だったなんて…………」
「そ、そんな………信じられません!幾ら帝国政府の命令だからって、父さん達が――――――第四機甲師団はそんな非道な事はしません!何かの間違いじゃないんですか!?」
小悪魔な笑みを浮かべて答えたレンの説明を聞いたアリサは信じられない表情で声を上げ、ローゼリアは重々しい口調で呟き、エマは不安そうな表情で信じられない表情で声を上げて反論するエリオットに視線を向けた。

「嘘だと思うんだったら、実際に”現場”にいてそれを目にしたそこにいる”C”に聞けばいいじゃない。」
「ええっ!?クロウ君が…………!?」
「…………クロウ、今の話は本当なのかい?」
エリオットの反論に対して答えたレンの指摘を聞いたトワは驚いてクロウに視線を向け、アンゼリカは真剣な表情でクロウに訊ねた。
「ああ…………その件に関しては”殲滅天使”は嘘は言っていねぇ。エリオットの親父さんやナイトハルト教官も”焦土作戦”の指揮をしていたぜ…………」
「そ、そんな…………父さんが本当にそんな酷すぎる事を…………」
「バカな…………っ!?俺が…………安易に治安維持を正規軍に頼ったばかりに、クロイツェン州が…………っ!」
「エリオット…………ユーシス…………」
複雑そうな表情で答えたクロウの答えを聞いたエリオットは愕然とし、ユーシスは声を上げた後辛そうな表情で顔を俯かせて身体を震わせ、二人の様子をガイウスは心配そうな表情で見守っていた。

「クラウス達は――――――私と父上の代わりにレグラムを任せていたアルゼイド流の門下生達はそのような非道を絶対に許さないはずです!まさかクラウス達の身にも何かあったのですか!?」
「それにレグラムにはトヴァルの代わりにレグラム支部の受付をしているハインツもいるわ!今回正規軍が行った”焦土作戦”はどう考えても、遊撃士協会が掲げている規約にも触れるから、ハインツも正規軍に”焦土作戦”の中止を要求するはずよ!」
我に返ったラウラは血相を変えてレンに訊ね、サラも続くようにレンに訊ねた。
「アルゼイド流の関係者達もそうだけど、レグラム支部の臨時受付もその時は”運悪く用事や街道の見回り等でレグラムを留守にしていた”から、町の異変に気づいて慌てて戻てくれば既に物資や男手を徴収して、町に火を放った正規軍は去った後――――――つまり、”後の祭り”だったとの事よ。」
「そんな………そんな偶然ってありえるんですか…………!?」
「女神の巡りあわせ………いや、それこそが”呪い”か。」
「ええ。恐らく”黄昏”が発動した事でのこのエレボニアに巣食う”呪い”による因果律を狂わせる強制力の影響でしょうね…………」
レンの答えを聞いて悲痛そうな表情を声を上げたエマに対して、重々しい口調で呟いたアルゼイド子爵の推測にクロチルダは複雑そうな表情で同意して説明を補足した。

「あの…………その件について父さんはオズボーン宰相達に対して反対とかしなかったんですか…………?」
その時ある事が気になっていたマキアスはエリオット達を気にしながら複雑そうな表情でレンに訊ねた。
「ああ、レーグニッツ知事?”焦土作戦”の件はレーグニッツ知事にも伏せられていたらしくてね、事の次第を知ったレーグニッツ知事はオズボーン宰相に猛抗議した上で、帝国政府によるクロイツェン州への援助やメンフィル・クロスベル連合との停戦並びにクロイツェン州の一部の領土贈与を条件にメンフィル・クロスベル連合によるクロイツェン州への支援の交渉を要請したらしいんだけど、その場で『国家反逆罪』扱いされて、逮捕されたわよ。」
「そ、そんな…………!?父さんがオズボーン宰相に『国家反逆罪』扱いされて、逮捕されるなんて…………!?」
「レーグニッツ知事はアルフィンの件も含めたいわゆる”戦争反対派”の筆頭と言ってもおかしくない人物だからね…………そんなレーグニッツ知事は内戦を制してカイエン公達”貴族派”に勝った宰相殿達にとっては、今や”邪魔者”になってしまったから、宰相殿達に切り捨て――――――いや、裏切られたんだろうね…………」
「…………もはや今のエレボニアの政府は戦争に勝つ為に、形振り構わないやり方をする事や自分達に反対する連中は味方だった連中だろうとも切り捨てる事に躊躇いはないみたいね…………それを考えると今回の戦争、下手したらエレボニアに与える被害はメンフィル・クロスベル連合ではなく、エレボニア帝国政府の方が大きくなるかもしれないわね。」
レンの答えを聞いたマキアスが信じられない表情をしている中、オリヴァルト皇子は複雑そうな表情で状況を推測し、セリーヌは目を細めて呟いた。

「ま、”ヴァイスラント新生軍”の事があるから、これ以上エレボニア全土の民達を動揺させない為にも逮捕されたレーグニッツ知事はオルディスの臨時代官として、オルディスに飛ばされたから内戦の時よりはマシな状況――――――いえ、下手をすれば内戦の時よりも不味い状況かもしれないわね。」
「それってマキアスのお父さんはオズボーン宰相と”盟友”の関係だったから、”貴族派”の本拠地と言ってもいいオルディスの貴族達がマキアスのお父さんを暗殺するかもしれないって事?」
レンの話を聞いて事情を察したフィーは真剣な表情でレンに訊ね
「ええ。それ所かレーグニッツ知事の暗殺を口実にオルディスを始めとしたラマールの貴族達への徴収をさらに強める為にも、レーグニッツ知事をオルディスに飛ばしたかもしれないわね♪」
「…………今までの話からして、今の帝国政府はそこの小娘が口にした推測を実行してもおかしくないかもしれんな…………」
「ああ、あのギリアスの野郎なら間違いなくそれも考えた上で知事をカイエンのオッサンの影響が一番まだ残っているオルディスに飛ばしたんだと思うぜ。」
「そ、そんな…………」
レンの推測に対して重々しい口調で同意したローゼリアと不愉快そうな表情をしたクロウの話を聞いたマキアスは表情を青褪めさせた。

「レン皇女殿下の話ではトマス教官も”焦土作戦”の件を知っているとの事だけど………それも教会経由ですか?」
「ええ…………皆さんには状況が落ち着いた後に話そうと思っていたのですが…………」
アンゼリカに問われたトマスは複雑そうな表情で答え
「…………ちなみに”ヴァイスラント新生軍”とは一体何のことなんだい?名前からして”ヴァイスラント決起軍”が関係していると思われるのだが…………」
「うふふ、実は帝国政府は”焦土作戦”の件を知ったメンフィル・クロスベル連合とヴァイスラント決起軍が第四機甲師団に襲撃する可能性も考えて、その襲撃に対抗する為に第三機甲師団をトリスタ街道に待機させていたのだけど…………――――――第三機甲師団はアルフィン元皇女――――――いえ、アルフィン卿の通信による説得によって帝国政府に反旗を翻す事を決意して、クロイツェン州の民達を救う為に第四機甲師団に奇襲したのよ♪」
「な――――――叔父上達”第三”が”第四”に!?」
「ゼクス中将閣下達が味方だったはずの第四機甲師団に奇襲を…………」
「しかも第三機甲師団の裏切りにアルフィン皇女殿下が関わっていたなんてね…………大方、それもアンタ達メンフィル・クロスベル連合が皇女殿下に強要したんでしょう!?」
オリヴァルト皇子の質問に答えたレンの驚愕の答えにその場にいる全員が血相を変えている中ミュラー少佐は絶句した後信じられない表情で声を上げ、ガイウスは複雑そうな表情で呟き、サラは厳しい表情でレンを睨んだ。

「失礼ね~。セシリアお姉さん考案のその策はアルフィン卿自身にもそうだけど、”主”であるリィンお兄さんにもちゃんと事情を説明した上で、ゼクス中将の説得をするかしないかの選択権も提示したし、説得を断っても何の罰則もない事を先に伝えたわよ?――――――で、その結果アルフィン卿の説得を受けてメンフィル・クロスベル連合に協力する事を決めた第三機甲師団はメンフィル・クロスベル連合と協力して第四機甲師団を奇襲したのよ。その結果第四機甲師団はせっかくクロイツェン州から集めた物資、男達を捨てて大きな被害を出しながら撤退したというまさに”踏んだり蹴ったり”な目にあったのよ♪」
「大きな被害も受けたって…………第四機甲師団はその襲撃で、どのくらいの被害を受けたのですか………?」
レンの話が気になったトワは不安そうな表情で訊ね
「第四機甲師団は死者、脱走者、そしてケルディックで起こった暴動に参加して第四機甲師団を裏切った兵達を合わせて受けた被害は約5割と推測されているとの事よ。」
「通常、軍事作戦で3割も被害を受ければ”全滅”扱いされるというのに、第四機甲師団は叔父上達の裏切りとメンフィル・クロスベル連合の協力によって5割もの被害を受けたのですか…………!?」
「し、しかも”ケルディックで起こった暴動”って…………もしかして、”焦土作戦”の最中にケルディックの人達が”焦土作戦”を行っていた第四機甲師団の人達に対して暴動を起こしたんですか…………!?」
レンの答えを聞いたミュラー少佐は信じられない表情で声を上げ、アリサは不安そうな表情で声を上げた後レンに確認した。
「ええ。ケルディックは内戦の焼き討ちでの件で、ただでさえ帝国政府や皇家に対する不満が溜まっていたのに、そこにせっかく復興を始めているケルディックが帝国政府による”焦土作戦”を実行されたのだから、ケルディックの民達の不満がついに爆発しちゃったみたいでね♪更に帝国政府から”焦土作戦”の実行を指示されて、実際にその指示に従った上官であるクレイグ中将や帝国政府に対しても反感を抱いた一部の第四機甲師団の軍人達がケルディックの市民達と一緒になって、自分達の仲間だったはずの第四機甲師団を襲撃したのよ♪」
「一部の人達とは言え、第四機甲師団に所属している人達まで同じ第四機甲師団の人達を襲撃するなんて…………」
「……………………」
「ハハ………冗談抜きで、内戦の時すらも比べ物にならない酷い状況にエレボニアは陥ってしまったようだね…………もしかして、”ヴァイスラント新生軍”は第三機甲師団がヴァイスラント決起軍に合流したから、その関係で名を変えたからかい?」
レンの説明を聞いたエマは悲痛そうな表情をし、エリオットは辛そうな表情で顔を俯かせて黙り込み、疲れた表情で肩を落としたオリヴァルト皇子はレンに訊ねた。

「正解♪ちなみに”ヴァイスラント新生軍”はかつての”紅き翼”のようにアルフィン卿を旗印にしているから、”名目上”とはいえ、アルフィン卿が”ヴァイスラント新生軍”の”トップ”よ?」
「なっ!?アルフィン皇女殿下が”ヴァイスラント新生軍”の”旗印”を務めているという事は、それではまるで250年前の…………!」
「皇家同士による争い――――――”獅子戦役”の再来ね。」
更なる驚愕の答えを知って、ある事を察したラウラは血相を変えて声を上げ、セリーヌは目を細めて呟いた。
「うふふ、オズボーン宰相を重用する現エレボニア皇帝であるユーゲント三世を支持する帝国政府と、衰退や滅亡を覚悟してでもオズボーン宰相を始めとした帝国政府打倒を掲げるアルフィン卿を支持するヴァイスラント新生軍の対立だから、理由は250年前と違うけど同じ皇家の人物達同士の対立なのだからそうなるわね♪」
「”獅子戦役”と違う点は、まさに言葉通り”エレボニアの存亡をかけた戦争”という事と、そこにエレボニアにとっての外部の勢力であるメンフィル・クロスベル連合まで最初から介入している点ですね…………」
「ハハ………さしずめ、父上は現代で言うオルトロス帝で、アルフィンがドライケルス大帝という訳か…………アルフィンもそうだが、リィン君もそうなる事も承知の上でアルフィンが”ヴァイスラント新生軍”の”旗印”になる事を承諾したのかい…………?」
レンの説明を聞いたトマスは複雑そうな表情で呟き、オリヴァルト皇子は疲れた表情で肩を落とした後レンに訊ねた。

「ええ。――――――ちなみにリィンお兄さんもヴァリマールを駆って第四機甲師団への襲撃に参加してね。その際の功績とリィンお兄さんに仕えているアルフィン卿が第三機甲師団を寝返らせる説得したという功績でリィンお兄さんは”少佐”から一気に”大佐”に昇格した上、アルフィン卿は戦後シルヴァンお兄様から女男爵(バロネス)の爵位を受ける事が内定したわ。だから、アルフィン卿は今やシルヴァンお兄様も認めた立派な”メンフィル帝国貴族”の一員にしてメンフィル帝国の同胞よ♪」
「リィンまで第四機甲師団への襲撃に関わっていたなんて…………」
「…………しかもその功績と皇女殿下の功績によって、リィンが”大佐”に昇格していたとはな。」
「おまけにアルフィン皇女がメンフィル帝国の貴族になるなんてね。…………というか、さっきから気になっていたんだけど、領邦軍の基地の一つだった”双龍橋”もメンフィル・クロスベル連合の侵攻か焦土作戦によって落とされたの?」
レンの話を聞いたエリオットは複雑そうな表情をし、ミュラー少佐は重々しい口調で呟き、フィーは真剣な表情でレンに訊ねた。
「双龍橋はメンフィル・クロスベル連合の侵攻によって制圧されたわ。――――――ちなみにその際に帝国政府の指示によって双龍橋を守らせられていたクロイツェン領邦軍は殲滅されたから、状況から考えてクロイツェン領邦軍は”焦土作戦”を行う為の時間稼ぎに使われたのでしょうね♪」
「…………っ!」
「哀れなものね…………主君共々、”上”によって使い捨てられた挙句、自分達の代わりに領土を守っていたはずの正規軍がその領土を蹂躙したのだから…………」
更なる悲痛な事情を知ったユーシスは辛そうな表情で唇を噛み締め、クロチルダは憐れみの表情を浮かべてユーシスに視線を向けた。

「ちなみに双龍橋での制圧戦はミルディーヌ公女、アルフィン卿、そしてクルトお兄さんにとっては”初陣”の”戦場”となったわ。――――――この意味、理解できるかしら?」
「そ、それって、もしかしてアルフィン皇女殿下達もリィン君達と一緒にクロイツェン領邦軍の人達を…………」
レンの問いかけを聞いたトワは不安そうな表情で推測を口にし
「勿論殺したわ。うふふ、その話を聞いた時は正直レンもアルフィン卿の事を見直したわよ?蝶よ花よと大切に育てられた籠の鳥のお姫様が、自らの目的の為に祖国の軍人の命を奪ったのだから。メンフィルに寝返った時もどうせリィンお兄さん達に守られて自らの手を血で染めるような事はしないと思っていたのに、それをまさかの初戦から覆してくれたもの♪――――――それと士官学院1年生の”Ⅶ組”よりも年下であるにも関わらず、自らの手で敵を葬ったのだから、”剣士”――――――いえ、”戦い”を生業とする人なら誰もが通る道―――――”自らの手で他者の命を奪う事”を経験して乗り越えたのだから、クルトお兄さんも間違いなく”ヴァンダール流の剣士”として大きく成長しているだろうから、ミュラーお兄さんもよかったわね♪」
「ハハ………他者に対する評価が厳しいレン君にアルフィンがそこまで高評価される事に喜んでいいのか、アルフィンが自身の手で人の命を奪った事でアルフィンの手が血に塗れた事に嘆いていいのか、判断に困るね…………」
「クルト………………………………」
「やれやれ…………皇女殿下もそうだがミルディーヌ君も、次に会った時は前とは比べ物にならないくらい成長しているだろうね…………」
「ん。”戦場の洗礼”を受けて、それを乗り越えたんだから、少なくても精神面は確実に成長している。」
小悪魔な笑みを浮かべて答えたレンの説明にオリヴァルト皇子は疲れた表情で肩を落とし、ミュラー少佐は重々しい様子を纏ってクルトを思い浮かべ、疲れた表情で溜息を吐いたアンゼリカの推測にフィーは真剣な表情で同意して答えた。

「――――――レン皇女殿下、無礼を承知でお願いいたします。聡明なレン皇女殿下でしたらお気づきかと思われますが、今のアルバレア公爵家には外敵を守る”力”は当然として”焦土作戦”によって大きな被害を受けたクロイツェンの民達を保護する”力”すらもありません。どうか、エレボニア帝国政府の所業によって大きな被害を受けたクロイツェンの民達の保護をメンフィル帝国が行ってください…………!その代わりにメンフィル帝国が求める要求通り、クロイツェン州全土は貴国に差し上げます!”焦土作戦”を受けて物資や食料、男手を奪われ、住む家まで焼かれたクロイツェンの民達を救う事ができるのは貴国だけなのです!どうか…………どうか、クロイツェンの民達の保護をお願い致します…………!」
「ユーシス…………」
するとその時ユーシスが立ち上がってフラフラとした足取りでレンの前に来ると土下座をして涙を流しながらレンに嘆願し、その様子を見た仲間達がそれぞれ血相を変えている中マキアスは辛そうな表情で状況を見守っていた。
「別にユーシスお兄さんに頼まれなくても、元々クロイツェン州は今回の戦争でメンフィル帝国の領土にするつもりで既に”焦土作戦”の被害を受けたクロイツェン州全土に対する支援や復興は行っているわよ。――――――その際に、それぞれの領主を務めていたクロイツェン州の貴族達も調略したけどね♪」
ユーシスの嘆願に対して呆れた表情で答えたレンは小悪魔な笑みを浮かべた。
「ク、クロイツェン州の貴族達を調略したって事は、領地を持っているクロイツェン州の貴族達はみんな、メンフィル帝国に寝返ったんですか…………!?」
「勿論♪”焦土作戦”を行った帝国政府に対して更なる反感や怒りを抱いた貴族連合に協力していた貴族達は当然として、内戦では中立を保っていた貴族達も”極一部”を除いてメンフィル帝国に恭順する事に応じたわ。で、レンは”極一部”である”唯一まだ恭順をするかどうかを示していないクロイツェン州の貴族”に聞きに来たのよ―――――メンフィルに恭順するかどうかを。」
レンの答えを聞いて状況を察して信じられない表情をしたエリオットの疑問に答えたレンは不敵な笑みを浮かべてアルゼイド子爵とラウラに視線を向け
「”唯一まだ恭順をするかどうかを示していないクロイツェン州の貴族”という事は…………」
「レグラムの領主である”アルゼイド子爵家”か…………」
「だからレン皇女殿下は先程子爵閣下のことをわざわざ”レグラム領主アルゼイド子爵家”と言い直したんだろうね…………」
「父上…………」
「……………………レン皇女殿下は”焦土作戦”を受けたレグラムへの支援を条件に、”アルゼイド子爵家”がメンフィル帝国に恭順しろと仰りたいのでしょうか?」
レンに続くようにトマスとガイウス、アンゼリカは複雑そうな表情でアルゼイド子爵とラウラに視線を向け、判断を委ねるかのように辛そうな表情をしたラウラに視線を向けられたアルゼイド子爵は重々しい口調で呟いてレンに確認した。

「うふふ、説明の手間が省けて助かるわ♪強制徴収された男達の返還は当然として、今回の戦争が終わるまで食料に水、医薬品、テントと毛布、火種と薪は”エレボニアの為に結成したヴァイスラント新生軍”と同盟を組んでいる事による”義理”を果たす為に”アルゼイド子爵家”の判断に関係なく支援してあげるけど、それ以上の支援――――――例えば町の復興の為の兵の派遣や資材の提供、軍医の派遣まではしてあげないけどね♪だって、”メンフィル帝国領になる事を受け入れていない人達の為にメンフィル帝国がそこまでしてあげる義理はないもの♪”」
「……………っ…………!」
「ラウラさん…………」
「ハッ、大方調略したクロイツェン州の領地持ちの貴族達もその条件もあったから、メンフィルに寝返ったのが見え見えだろ。やり方がギリアスの野郎並みの汚さだな。」
レンの説明を聞いて辛そうな表情で唇を噛み締めて身体を震わせているラウラの様子をエマが心配そうな表情で見守っている中クロウは鼻を鳴らしてレンを睨み
「失礼ね~。むしろ、レン達メンフィルは優しいくらいよ?普通に考えたら、食料等の支援も含めて戦争相手の国民達の為にそこまで施してあげる”義理”はないもの。それに調略された貴族達も、領民達の今後の生活を考えた上での”領主としてのベストな判断”をしただけじゃない♪」
「それは…………」
「……………………子爵閣下、リベールでアリシア女王陛下達にも伝えたように、君達もどうか”自分達の為の最適な判断”をしてくれ。宰相殿を重用した結果エレボニアをこのような状況に陥らせ、挙句の果てには自らの手で国民達に甚大な被害を与えた無能で愚かな私達アルノール皇家に義理立てて、レグラムの民達を苦しめる必要はないよ。」
「オリビエ…………」
レンの反論に対して指摘できないトワが複雑そうな表情で答えを濁している中、静かな表情でアルゼイド子爵に意見をしたオリヴァルト皇子をミュラー少佐は複雑そうな表情で見守っていた。

「…………殿下の寛大なお心遣いには感謝します。――――――ですがこのような状況だからこそ、皇家への忠誠を尽くすのが我らアルゼイド家の為すべき事。」
「へえ?この状況になってもなお、”光の剣匠”さんは信じているのかしら?――――――オリヴァルト皇子や”有角の若獅子”達が今回の戦争の状況を変えて、その結果レグラムはエレボニア帝国領であり続けられることに。」
アルゼイド子爵の答えを聞いたレンは興味ありげな表情でアルゼイド子爵に訊ね
「無論。…………ですがレン皇女殿下が仰ったように、既に調略されたクロイツェン州の貴族達のように領民達の為に判断するのが領主の務め。彼らの判断もまた、領民達の事を考えた上での判断なのですから、彼らの判断についても否定はしません。よって、殿下達には大変申し訳ございませんが、レグラム復興の為に一時的に殿下達と共に活動する事から外れる事をお許しいただきたい。」
「子爵閣下…………わかった、この場での話し合いが終わったらカレイジャスで貴方をレグラムまで送るように手配しておくよ。」
「寛大なお心遣い、感謝致します。復興の状況が落ち着けば必ずや合流しますので、どうかその時までお待ちください。」
「父上!それならば父上の代わりに父上の娘である私がレグラムに戻った方が、殿下や皆の為になりますから私が父上の代わりにレグラムに戻ります!」
アルゼイド子爵がオリヴァルト皇子の許可を得てレグラムに戻る事を知ったラウラは自分が代わりにレグラムに戻る事を申し出たが
「ラウラ。其方には成すべきがある。――――――”友”達と殿下を支え、混迷に満ちたこのエレボニアに”新たなる風”を吹かせる事を。」
「父上…………」
アルゼイド子爵の指摘を受けて呆けた表情を浮かべた。そしてアルゼイド子爵は自身の得物である”宝剣ガランシャール”を鞘ごと手に持って、ラウラの前に出し
「――――――我が”意志”は其方達と合流するその時までこの剣と共に其方に預ける。それまではこの剣と共に殿下や皆を私の代わりに支えてくれ。」
「父上…………――――――わかりました。未熟者の身ではありますが、父上が合流できるその時までこの宝剣に込められた父上の”意志”と共に殿下達を支えさせて頂きます…………!」
アルゼイド子爵が自分に”宝剣ガランシャール”まで託そうとした事に驚いたラウラだったが、すぐに決意の表情を浮かべて”宝剣ガランシャール”を受け取った。

「ふっ、結構”サマ”になっているぞ。」
「ん。わたしも今のラウラと釣り合う武器が欲しくなってきた。」
「ふふっ、持ち上げ過ぎだ。」
席に戻っていたユーシスと静かな笑みを浮かべて呟いたフィーの称賛に対してラウラは苦笑しながら答え
「――――――これが我々”アルゼイド子爵家の現在の答え”になります、レン皇女殿下。」
「ま、メンフィルの助けがなくても自分達で何とかできるって主張するんだったら、現時点ではそれ以上の追及はしないから頑張ればいいんじゃないの?それじゃ、後はもう一つの目的を果たさせてもらうわね♪」
真剣な表情を浮かべたアルゼイド子爵の答えに対してレンは小悪魔な笑みを浮かべて答えた。

「”もう一つの目的”、ですか?」
「そういえば”殲滅天使”は”この場に現れた目的は二つある”とも言っていたわね…………」
「もう一つの目的とやらは、一体どんな内容なのよ?」
レンの答えにエマが目を丸くしている中クロチルダは静かな表情で呟き、セリーヌは目を細めてレンに訊ねた。
「うふふ、もう一つの目的は”白兎を見殺しにした事で余計な軋轢を作る原因になるかもしれなかったリィンお兄さん達に対するせめてもの詫び”として、”紅き翼”に対する支援物資の引き渡しとセドリック皇太子に関する話し合いの為よ。」
そしてレンは今度はその場にいる全員が困惑する内容を口にした――――――
 
 

 
後書き
レンちゃんの暗躍その4!クロイツェン州の貴族達がメンフィルに寝返る調略をしていた!これによって、アルバレア公爵家の威光が完全になくなって実質名ばかりの貴族に落ちぶれちゃいました(冷や汗)更にそれに付随してⅦ組陣営最高戦力であった”光の剣匠”の一時離脱が確定…………これが何かのフラグにならなきゃいいんだけど(ガタガタブルブル)
 
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