ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──
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SAO
~絶望と悲哀の小夜曲~
圏内事件~質問編~
昨夜の事件のあらましを、アスナが的確かつ簡潔に説明するのを聞くあいだも、カインズの死の場面で、ぴくりと片方の眉が動いただけで、《神聖剣》の表情が変わることはなかった。
「………そんなわけで、ご面倒おかけしますが、団長のお知恵を拝借できればと……」
アスナがそう締めくくると、ヒースクリフは卓上に置いてある氷水を含み、ふむ、と呟いた。
ちなみにここは、アインクラッド第五十九層主街区【ダナク】。
うららかで牧歌的な雰囲気を醸し出すこの街の、曲がりくねった裏道を行った先にある築何年かを疑うような木造建築物。
その名も《兎轉舎》。
怪しい雰囲気を醸し出す建物に、怪しげな店の名前、さらには商品までもが日替わりで変わるという怪しさ満点の店だ。
だが、比較的今日の兎轉舎は真っ当で、店の中がそれは見事な日本庭園となっていた。呆れたことに、小川さえ流れている。
これのどこが商品なのか、という疑問はこの際置いておく。
──それもこれも、みぃんなキリトにーちゃんのせいだ!
レンは、ぶちぶちと心中で愚痴を言いながら、隣に座っているキリトを睨む。
キリトは、ヒースクリフにオゴる昼飯は考えていたが、さすがに《白銀の戦神》とその側近、《宵闇の軍神》が付いてこようとは思っていなかったらしく、急遽、行き先変更を申し出たのであった。まったく、六王をどこに連れて行こうとしていたのやら。
ここまではいい。
そう、ここまでは。
何故そこでレンに話を振るのかが解らない。
それでもレンは必死に考えたのだ、必死に。
そして結局は、その場から一番近く、味も──店主の性格と、食品の安全性は別として──美味しいところと言えば、ここしか思い付かなかったのだ。
「では、まずはキリト君の推測から聞こうじゃないか。君は、今回の《圏内殺人》の手口をどう考えているのかな?」
話を振られ、キリトは頬杖をついていた手をはずして指を三本立てた。
「まあ……大まかには三通りだよな。まず一つ目は、正当な圏内デュエルによるもの。二つ目は、既知の手段の組み合わせによるシステム上の抜け道。そして三つ目は……アンチクリミナルコードを無効化する未知のスキル、あるいはアイテム」
「「三つ目の可能性は除外してよい」と思うぞ」
即答したヒースクリフとヴォルティスの顔を、レンは思わず食事をする手を止め──ることはなかったものの、まじまじと凝視してしまった。
キリトやアスナも同様に、二、三度瞬きしてから言う。
「………断言しますね、団長、閣下」
「想像したまえ。もし君らがこのゲームの開発者なら、そのようなスキルなり武器を設定するかね?」
まあ……しないかな、とキリト。
「何故、卿はそう思う?」
磁力的な視線を放つ真鍮色の瞳と、圧倒的な肉食動物に睨まれているかのような威圧感を無意識に放出している黄金の瞳をちらりと見返し、キリトは言う。
「そりゃ……フェアじゃないから。認めるのもちょいと業腹だけど、SAOのルールは基本的にフェアネスを貫いてる。六王の……おっと一人は違うか……五人の《ユニークスキル》を除いては、な」
最後の一言を、片頬の笑みとともにキリトが付け加えると、ヒースクリフも無言で同種の微笑を返す。
謎のニヤニヤ笑いを応酬する男二人を無視して、アスナがため息混じりに首を振り、ヴォルティスに言葉をかける。
「どちらにせよ、今の段階で三つ目の可能性を検討するのは時間の無駄ですね。確認のしようがないもの。ということで……仮説その一、デュエルによるPKから検討しても……よろしいですか?閣下」
「うむ………しかし、レン以外の料理が出てくるのが遅いな、嫌がらせか?」
眉をひそめ、周囲を見渡す閣下殿の背後から明るい声がかけられる。
「悪かったわね~、遅くて」
ヴォルティスの背後から、料理を両手に現れたのは、黒髪黒服黒眼鏡の妙齢の女性。
《兎轉舎》女店主にして、唯一の店員。イヨ。
「……んにしても、手間のかかる料理ばっか注文してそりゃないでしょうよ。レン君は簡単なやつをたのんでくれるから早くて助かるんだけどねえ」
それを聞いて、反論できない一堂(レンを除く)。
「………し、しかし、圏内でプレイヤーが死んだらそれはデュエルの結果、てのがまぁ常識だよな」
「ウィナー表示がなかったとは本当なのか?」
「断言してもいい」
ふむ、と生まれた沈黙の中で、アスナが軽く首を傾げた。
「……そういえば、今まで気にしたこともなかったけど、ウィナー表示の出る位置ってどういう決まりになってるの?」
「へ?………うーん」
迷うキリトだが、ヒースクリフは即答した。
「決闘者ふたりの中間位置。あるいは、決着時ふたりの距離が十メートル以上離れている場合は、双方の至近に二枚のウインドウが表示される。だが、ウインドウが表示されていないとなるとな………」
うむむ、とキリトは唸ってから───
「………デュエルじゃなかった……のか、やっぱり」
イヨが、とぽとぽとワイングラスに注ぐ黒エールを眺めながら、アスナは指を二本立てた。
「じゃあ、残る可能性は二つ目のやつだけね。《システム上の抜け道》…………わたしね、どうしても引っかかるのよ」
「何が?」
「《貫通継続ダメージ》」
テーブル上に、必要もないのに置いてある爪楊枝──この世界では歯は汚れない──
を一本抜き、アスナはそのささやかな武器でしゅっと空気を貫いた。
「あの槍は、公開処刑の演出だけじゃない気がするの。圏内PKを実現するために、継続ダメージがどうしても必要だった………そう思うのよ」
「うん。それは俺も感じる」
頷いてから、しかしキリトはおもむろにかぶりを振る。
「でも、それはさっき実験したじゃないか。たとえ圏外で貫通武器を刺しても、圏内に移動すればダメージは止まる」
「歩いて移動した場合は、ね。なら………《回廊結晶》はどうなの?」
「止まるとも」
再び、ヒースクリフが切れ味鋭く即答した。
「徒歩だろうと、回廊によるテレポートだろうと、あるいは誰かに放り投げられようと、圏内………つまり街の中に入った時点で、《コード》は例外なく適用される」
だがこれには、レンが反論した。
「その、《街の中》ってゆーのは、地面や建物の内部だけなの?上空はどーなるの?」
これには、さしものヒースクリフもやや迷った様子を見せた。
だが、その説明は思わぬところから告げられた。
《宵闇の軍神》様からである。
「いや──、たぶん違うと思う。あの《コード》は、恐らく平面的に街を覆ってるんじゃなくて、三次元的………そうだな、円柱状に覆ってるんだと思うよ」
「その通りだ。だから、仮に街の上空百メートルに回廊の出口を設定し、圏外からそこに飛び込んでもね落下ダメージは発生しないことになる。大いに不快な神経ショックを味わうことにはなるが」
「へえーっ」
レン、キリト、アスナは異口同音に嘆声を漏らした。
他ならぬその知識に。
うーん、とリョロウは唸ったあと、ゆっくりと推測を口にする。
「例えば、だ。圏外において、カインズ氏のHPを、槍の一撃で満タンからゼロまで持っていく。その人は装備から見ても壁戦士だ。HPの総量はかなりの数字だったろう。バーが左端まで減りきるのに、そうだな………五秒はかかってもおかしくはない。その間に、カインズ氏を回廊で教会に送り、窓からぶら下げる……」
「ちょ……ちょっと待ってください」
アスナが掠れた声で遮った。
「攻略組じゃなかったにせよ、カインズさんはボリュームゾーンでは上のほうのプレイヤーだった。そんな人のHPを単発ソードスキルで削り切るなんて、私にも……あなたにだって不可能なはずよ、リョロウさん!」
「できるとも」
《宵闇の軍神》は、いとも簡単に頷いた。まるで、さも当然だという風に。
そして指を揃えた手を首のところに持ってきて、しゅっと空気を切り裂く。つまり、
俗に言うクビキリの動作をした。
「首だよ。どんなにHP総量が多くとも、首を撥ね飛ばせば殺すことができる」
「だけど、カインズの首は繋がってたぜ」
「そこだよ」
リョロウはそう言って、卓上に置いてある黒エールが入ったワイングラスを手に取り
「本当にその首は繋がってたのかい?」
言った。
後書き
なべさん「メリークリスマース!!始まりました!そーどあーとがき☆おんらいん!!!」
レン「メリークリスマース!!!えー、今日は2012年12月25日、クリスマスでございまーすっ!!」
なべさん「いえーい!!」
レン「こんなに無事にクリスマスが過ごせるのも、皆様のお陰でこざいます。どーぞ末永く本作品を楽しんで下さいね」
なべさん「ハイハイ、それでは本日最大のトピックスに行ってみましょう!」
レン「アニメが終わっちゃったよぉー!!」
なべさん「ううぉ~~~(号泣)」
レン「泣くなよ……みっともない」
なべさん「だっで……」
レン「はいはーい、自作キャラ、感想などをドンドン送ってきてくださいねー♪」
──To be continued──
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