NARUTO日向ネジ短篇
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【めぐり逢う螺旋】
前書き
アニメBORUTOの132話を元にしていますが、話している内容は多少違います。まだアニメの方の今回のタイムスリップ編は終わっていないので、今後の展開次第では内容を変える可能性があります、あくまで個人的見解ですのでご了承下さい。
(──あれ、ここら辺ってもしかして、日向家に近いんじゃ)
予期せぬ出来事で木ノ葉隠れの里の過去にやって来てしまったボルトは、少年時代の父ナルトとその師匠に出会い、内に秘められた禍々しいチャクラと少年ナルトの変貌ぶりに触れた事でつい恐れを抱いてしまい、少年時代の父との修業から一旦離れ宛てもなく歩いていた所、過去とはいえ見覚えのある広い塀に囲まれた屋敷に気づく。
……近づくにつれて、誰かと誰かが修業しているらしく威勢のいい掛け声と共にパシッパシッと小気味よい音が聞こえてくる。
なるべく気配を消して門の隙間から覗き見てみると、先日会った下忍当時の母親のヒナタと、ボルトにとっては“いとこ伯父”にあたる日向ネジの二人がちょうど修業を終える所だった。
「ではヒナタ様、今日はこの辺りで失礼します」
「は、はい、修業に付き合って頂いてありがとうございましたネジ兄さん。あの……お茶でも飲んで行きませんか?」
「気持ちは有り難いのですが、また今度に」
「分かりました……また、修業の方よろしくお願いします」
その会話が終わると同時に、ネジが出口の門へと歩いて来たのでボルトは直ぐ様その場から離れようとしたが、何故か気後れしてしまい動きが鈍る。
「……何をしているんだ、お前」
「えっ、いやその、たまたま通りかかってさぁ」
ネジに見つかってしまい笑顔で誤魔化そうとするボルト。
「たまたま通りかかって、覗き見をしていたと?」
「何だ、バレてたのかよ……」
「……ヒナタ様は、気づいていないようだがな」
「なぁおじさ……違う、あんた何で母ちゃ……じゃなくて、ヒナタ…さんのこと様付けしてるんだよ? 敬語も何か気になるっつーか」
「跡目からは外されているとはいえ、彼女は日向宗家で俺は分家という主従関係である事には変わりない」
「跡目って──」
「旅芸人のお前に話す事ではないな、それ以上は聞かないでくれ」
(そっか、ハナビ叔母さんが日向当主の跡目なんだっけ)
ボルトはふとその事を思い出す。
「けど、宗家分家っていう主従関係の割にはヒナタ…さんの方はあんたのこと、“兄さん”って」
「一つ違いの従兄妹ではあるが、実の兄妹ではない。……彼女が俺を兄さんと呼ぶのは、未だによく分からない。そう呼ばなくてもいいと言っているのだが」
僅かに困った様子で下向くネジ。
「ヒナタさんがネジ…さんを慕ってるからじゃねーの?」
「……分かったような口を聞くな」
ネジは怪訝な表情をしながらボルトを睨む。
「わ、悪かったってばさ…! ──⋯」
「何か、あったのか」
ボルトの気落ちした表情をネジは察っする。
「あぁ、えっと、実は……」
日向家前から茜色の夕日の見える橋の上に場所を移し、ボルトはネジと話してみる事にした。……先日に初めて逢ってはいたものの、その時は他に何人も居た為にほとんど会話が出来なかったのでボルトにとっては過去の、生存している“いとこ伯父”と話せる絶好の機会だった。とはいえ旅芸人と称している為、本当の名は明かしていない。
「──なるほど、力を暴走させたのかナルトは。それをお前は恐れるようになってしまったと」
「まぁ……うん」
「その気持ちは分からなくもない。……俺もナルトの腹の中に居る物に一瞬なりと精神を乱され、恐れを抱いた覚えがあるからな」
「え、おじさ…ネジさん、も?」
「中忍選抜三次試験の本戦で、ナルトと闘った事があってな。俺があいつのチャクラを練れなくした上でほぼ負けを確定させたはずなのに、ナルトは腹に封印された物のチャクラを借りたらしくて息を吹き返したように反撃してきてな。……結果、俺は負けたんだ」
「は? それってチートじゃねーの?」
「いや、そういう事じゃない。最終的に精神面では俺の方が負けていた。……それに、あそこで俺がナルトに負けていなければ、俺は未だに──」
そこで一旦ネジは言葉を切る。
「そりゃあんたも流石にあんな得体の知れない力にはビビるよな……」
「俺もよくは知らないが、そのせいもあって周囲から疎まれがちではあったらしい」
「ふーん……何かちょっとかわいそうだな父ちゃ…じゃなくてナルト」
「あいつに哀れみは必要ない、寧ろ失礼だろう。──運命など、誰かが決めるものではないのだから」
「運命……? 何のことだってばさ」
「俺はかつて、自分の運命を呪っていた。籠の中の鳥という、逃れられない運命に」
「籠の中の、鳥……」
ボルトは以前、日向宗家跡目のハナビからかつてあった呪印制度の話を聞いた事を思い出す。
宗家の白眼を守るという名目で、分家の額に籠の中の鳥を意味する日向の秘術である呪印を刻み、逆らおうものなら呪印を発動させ苦痛を与えるのは容易で、その上脳神経を破壊し殺す事も可能だと。そしてその呪印は、刻まれた分家が死してのみしか消える事はなく、外部の人間に悪用されぬよう白眼の能力を封印する役割もあるのだと。
「父はそんな籠の中の鳥として宗家に殺されたのだと、憎しみに囚われていた時期が俺にはあった。……だが父は、最期に自らの自由の意思によって里や一族、家族を守る為に死を選んだのだと知って、宗家を怨む理由は無くなった。何よりあいつに……ナルトに、運命がどうとか変われないとかそんなつまんない事をめそめそ言ってんじゃねえよ、と……闇の中から救い出してもらった。──運命なんて誰かが決めるもんじゃないと、教わったんだ。それに、『オレが火影になってから日向を変えてやるよ』とも、言われているしな」
茜色に染まる夕日を橋の上から眺め、静かな口調で語るネジのどこか穏やかな横顔からボルトは目を離せなかった。
「……俺とした事が、少し喋り過ぎたようだ。意味は分からなくていいから、今のは忘れてく──」
ネジがボルトに顔を向けた時、不意にボルトは片手の指先をネジの額当てに宛てがった。
「──⋯忘れないってばさ」
その薄蒼い真剣な眼差しはまるで、ネジの額当ての下に隠された籠の中の鳥を意味する呪印を一心に見つめているかのようだった。
「おかしな奴だな、お前は。まるであいつのような……」
ネジは思わず微笑して自分の額当てに宛てがわれたボルトの片手をそっととってゆっくりと離した。
「お前のその、首飾りは──」
その際にボルトの胸元の螺のような形状の飾りに目が行く。
「あぁ、これ? オレが物心ついた時には、つけてたんだよなぁ。つけてるのが当たり前過ぎて、風呂の時も寝る時もつけたままなんだ」
「風呂の時も寝る時も……? 錆びないのか? それに寝る時までつけていたら、その形状ではある意味危ないのでは」
「平気だってばさ、錆びたことないし今までだって何ともなかったし。……前に確か、オレ何でこの首飾りつけてんだっけって父ちゃんに聞いたら、それは忘れちゃいけない大切な繋がりだから、お前に身につけていてほしいんだって言われたっけな」
「そうなのか……。お前の、父というのは──いや、聞かないでおこう。⋯──」
ネジはふと片手を伸ばし、ボルトの胸元の螺のような形状の首飾りにそっと触れる。
「……つけてみる? ネジさん」
「ん、いや……お前の大切なものなんだろう。俺がおいそれとつけるのは──」
「いいって別に、ネジさんに一回つけてほしいんだ」
そう言ってボルトは首の後ろに両手をやり留め具を外す。
「って、ネジさんの首元……着てるもので隠れてつけられないってばさ。首元開けてくんない?」
「む、しょうがないな……」
ネジはボルトに言われた通り首元を開けてみせた。
「んじゃちょっと失礼するってばさ」
ボルトはネジに向き合ったまま両手を伸ばし、後ろの髪に両手を差し込む形でネジの首の後ろで首飾りの留め具を留める。
「──どうかな?」
「どう、と言われてもな……」
螺のような形状の部分を片手で感触を確かめるように何度も触れ、ネジはその後何を想ってかぎゅっと握りしめて瞳を閉ざす。
「───⋯⋯」
「ネジ、さん?」
「……これでいい。もうお前に返すよ」
ネジは微笑を浮かべたまま自分の髪の流れる首の後ろに両手を差し入れ首飾りの留め具を外し、今度はネジからボルトの首元に首飾りをそっと付け直す。
「ネジさん……あのさ」
「もういいだろう、ナルトと修業しているんじゃなかったか? ……戻ってやるといい、お前ならもう大丈夫だ」
「うん……そうするってばさ。ありがとう、ネジさん」
どこか寂しげな笑顔を見せて、ボルトはナルトの元へ駆け戻って行き、その後ろ姿をネジは複雑な面持ちで見送る。
「──名を、聴いておくべきだったか。いや、今はまだ……」
《終》
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