NARUTO日向ネジ短篇
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【その変わらなさ】
(あ、れ……私は、また……?)
ヒナタは薄れゆく意識の中、ナルトが襲撃者に連れて行かれるのを見ているしか出来なかった。
(前にも、似たような事が……。私、何をしていたんだっけ──)
独りよがりで飛び出したのは、これが初めてではないと、どこかでぼんやりと感じていた。
(ね、じ……ネジ、兄さん……ナルト、君を……守っ、て)
そう思ったのも、初めてではなかった。
──ほんの少し前、そのナルト君を庇って死んでしまったネジ兄さんに何を言ってるんだろうと、訳の分からない気持ちになる。
『変わらないな、あなたは』
その懐かしい声音にハッとなって意識を戻し顔を上げると、そこはまるで星空の中のような空間だった。そこらじゅう暗闇の中を数えきれない小さな星々が瞬いている。
間を置いた先に立っていたのは、生前着用していた白装束の任務服姿で、鉢金がされていないその額には、籠の中の鳥を意味する日向の呪印が刻まれていない従兄のネジだった。……その表情は、生前よりもとても穏やかに見えた。
「ネジ、兄さん……? ネジ兄さん、なの?」
『あぁ、そうだ。久し振りだな、……ヒナタ様。変わらず兄さんと呼ばれても、随分と歳は離れてしまったが』
……そうだ、ネジ兄さんが亡くなって15年ほど経っている。ネジ兄さんは大戦中の18歳から変わることはないんだとヒナタは思い、うつ伏せになっていた姿勢からゆっくりと立ち上がった。……立ち上がるというよりは、星空の中の空間はまるで浮遊感が強かった。
「私……もしかして、死んでしまったの?」
『いいや、生きている。……ただ、大分怪我を負って意識を失っているんだ。娘のヒマワリが……とても心配している』
「ヒマワリ……。──そうだ、ナルト君は」
『あいつは火影だ、あれ以上人々に危害が及ばぬよう敢えて自分から敵側に連れて行かれたんだ。……あなたはそれを推し量らずに、ナルトの為だけにあの場へ特攻し、すぐに返り討ちに遭い倒れてしまった』
「そう、だったんだ……」
『あの場には息子のボルトもいたのに、息子の事は気遣えなかったのだろうか』
「私……ナルト君の事しか、考えられなくて」
『……本当に変わらないな、あなたは。あのペイン戦の時もそうだった。そして、あの大戦中も』
ネジは虚空を仰いだ。まるで遠のいた過去を手繰り寄せるように。
「あの時は……私の独りよがりだって分かっていても、ナルト君を守りたくて」
『死にかけのあなたを見た時は、生きた心地がしなかった。……俺の父の死が、無意味になってしまいそうで。そして大戦時は白ゼツが化けていたとはいえ、あなたが敵から強烈な一撃を受けたのを目にした時も、また……守れなかったと思った。俺はある意味、あなたの死が怖かった。父が自ら死を選んでまで守った一族の仲間……あなたも確実にその一人だったから。父の死の意味を、俺は守りたかった。──ヒナタ様に、死なれるわけにはいかないと思っていた』
「でも……ネジ兄さんはあの時、ナルト君を守ったんでしょう。ナルト君を守ろうとした、私じゃなくて」
『ナルトを守ろうとしたあなたを守った、というほうがある意味正解だ。……あなたにとって俺は、あくまで自分ではなくナルトを守ったという認識のようだったが』
「だって、ネジ兄さんはナルト君の命はひとつじゃないって……自分の命も、そのひとつに入っていたって──」
『自分で選んだ死をもって仲間を守ったというなら、聞こえはいいのだろう。父と同じように死ねた事を、誇りに思うのならば……』
自らに言い聞かせるかのような従兄のその言葉の意味する所を、ヒナタは理解しきれていない自分にもどかしさを感じた。
「じゃあ、あの時……本当は私を、守ってくれたの、ネジ兄さんは。でも仲間なら……どうして、ネジ兄さんは最期に私の事を、様付けにしたの……? 大戦中は、仲間として闘って、宗家分家関係なく呼び捨てにしていたのに」
『あれはナルトに向けた言葉であって、ヒナタ様に直接呼び掛けたわけではないから……そうだな、最期に見栄を張ったようなものだったかもしれない』
「けど今この時だって私を様付けにしてる……。呪印だって、とっくに消えているのに」
『……あなたはあなたで、死んで間もなかった俺に助けを乞うていたじゃないか。ナルトを守ってくれ、と』
苦笑気味の従兄にヒナタは若干申し訳なさを覚えて俯いた。
「あれは……咄嗟にネジ兄さんしか、思い浮かばなかったから──」
『あなたは覚えていないかもしれないが、俺はかつてあなたに“人は決して変わる事は出来ない”と言った。だがあなたはナルトによって多少変わる事は出来たはずだ。俺もそうだった。……ただ、あなたはそれから平行線のままで、寧ろそこから変わる事はなかった。あなたのその変わらなさは……良くも悪くも、あなたでしかないんだろうと思う』
「ネジ、兄さん……私は──」
そこでその場の星空の空間が、一度ぐらりと揺らいだ。
「何が、起きたの……?」
『そろそろあなたの意識が戻る頃合いらしい。……娘のヒマワリを安心させてやってくれ、あなたに置いて行かれたショックはあれど、とても心配して必死で呼び掛けているから』
「うん……分かった。──ネジ兄さんは」
『俺は一緒に行ってやれないよ、判るだろう』
僅かに困ったような微笑を浮かべるネジ。
「また……こうして、逢えるのかな」
『どうだろうな、次に逢えるとしたら──いや、やめておこう。とにかく今は、あなたが戻るべき場所に還るといい』
「うん、それじゃあ……ネジ兄さん」
『あぁ……いずれまた、その時まで……さようなら、ヒナタ』
《終》
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