緋弾のアリア 〜Side Shuya〜
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第1章(原作1巻) 緋色の改革者(リフォーマー・スカーレット)
第04弾 〜Flashback memories(悲しき過去)〜
前書き
第4話です
———引き分け。
即ち、俺の勝ちである。
暫くの間、静寂に包まれた。
やがて、その静寂をかき消す一人の声があがった。
「アリア先輩!」
間宮の声だった。
間宮に呼ばれた彼女はというと、その場で何が起きたかわかっていない様子で立っていた。
俺は落とした武器を拾い上げ仕舞うと、その場を立ち去るため施設の出入り口に向かおうとすると彼女が口を開きこう言った。
「……あんた、手抜いたでしょ?」
そう言って彼女は俺を睨んでくる。
「……」
俺は、扉に掛けようとしていた手を止めて彼女に向き直る。
「……何の……事かな?」
歯切れ悪くそう言った。
「あんた、あれだけの技量があるのに私と互角のはずがない!」
「馬鹿なことはよしてくれ! 俺はただの……ただの武偵だ」
彼女から視線を逸らしつつ、俺反論した。
「嘘よ! さっきのはただの武偵ではなくSランク、それもかなり上の方に入る技量だった!」
しかし彼女は、それを許さずに追求してくる。
確かに俺はSランクの武偵だ。ただしそれは評価の上でのS。普段はBかCぐらいの能力しか持っていない。
「それはその———」
「それにあんた、一回刀を振り下ろす瞬間に手を止めた! あれは、明らかに手を抜いていた動かぬ証拠よ!」
「…………」
……分かっていたさ。そう言われることぐらいわかっていたさ!
それでも、俺は反論できなかった。バーストモードが切れ、通常状態に戻った今の俺ですら。
彼女の言っていることは正しい。それは俺が一番わかっている。だが、心の何処かでそれを認めたくない俺も居た。
俺は強めの口調でこう言った。
「例え俺が……俺が手を抜いていたとしても、勝負の結果を覆すことはできない。結果的に引き分けで俺の勝ちだろ!」
俺はそう言って、強襲科を後にした。
これが俺こと樋熊シュウヤと、後に『緋弾のアリア』として世界中の犯罪者を恐怖に陥れる鬼武偵、神崎・H・アリアとの武器を向けあった最悪の対面であった———
———時は放課後。
バーストモードの発動によって、疲労の溜まった俺は探偵科の依頼を自由履修で取った。
と言っても、探偵科はすでに修了してるから取る意味もないのだが。
今回取った理由は、昼休みの一件で強襲科にいづらいことと、疲労が半端ではないという理由からである。
今回取った依頼は校外に行く依頼であるが、気休めがてら今は一般校区の校舎の屋上で座って空を見上げている。
「はぁ……」
などとため息をついていると、不意に扉の開く音がした。
振り向くと昼休みに対決した彼女が立っていた。
俺は素っ気なく態度で尋ねた。
「何の用?」
彼女は俺の隣に来て座りながら言った。
「尋問の続き」
尋問って……。
そう思っている俺に彼女は続けてこう言った。
「あの時、どうして手を止めたりしたの?」
やっぱりそこだよな……。
「昔の出来事が頭の中を駆け巡った」
そう説明した俺に対して彼女は首を傾げていた。
「どんな?」
「それは言えない」
そう短く返した。
何か言いたげな顔をしていた気もしたが、俺はそのことを流しつつ、逆に質問を投げかけた。
「なぁ、神崎」
「アリアでいいわよ」
そう神崎……アリアに訂正された。
「じゃあアリア、お前はなんでそんなにキンジにこだわるんだ?」
今一番な疑問はこれだ。何故、必要以上に感じのことを付け回しているのか。
「あいつは、私から逃げた」
「……どいうこと?」
彼女の言葉に眉をひそめつつ尋ねた。
「私の実績を知ってる?」
「ああ、犯罪者連続逮捕。99回連続だっけ?」
何処ぞの資料で読んだことを、頭のうちからひねり出した。
「そう。あいつは、その私から逃げた。その実力を見込んで私のドレイにしようと思ったの」
……ドレイねぇ。まあ、キンジが追っかけ回される理由は大体わかった。
「なるほど。あいつの実力を見たってのは、3日前の自転車爆破事件の時か?」
ここからは、俺の推理タイムだ。
「そうよ」
「ここは大体想定していたから分かった。後、もう一ついい?」
答え合わせしてみたら正解だったようだ。どうせなので、もう1つ尋ねることにした。
「いいわよ」
「なんで、最初に決闘申し込んだ時とやる前とで言うことが違ってたの?」
「……あいつが、パートナーになってくれなかった時に必要になるかもしれないと思ったから」
ふーん……俺は予備だったって訳ね。
「それに、勝負を挑んだのはあんたの経歴を調べて信頼ができると思ったからよ」
「……俺のこと調べたのか?」
衝撃発言に、俺は若干動揺していた。
「そうよ」
「どこまで?」
「そうね。まず、あんたのランクがSってことね」
そこから来たか。確かに俺はSランクに格付けされている。しかしそれは、バーストモードの俺で今の俺は良くてBってところである。
「しかも、強襲科だけじゃなくて探偵科と車輌科でもSランクに格付けされているということ。後は、狙撃科と装備科ではAランク、後はSSRとCVR以外の全ての学科でBランク以上を取っているってことね」
指を折りながらそんなことを言ってきた。こいつの言っていることは全て本当である。俺はほぼ全ての学科を受けてきた。もっとも今は、強襲科と装備科と救護科の三つに絞っている。
「最後に、私と同じでロンドン武偵局に所属していると言うことね」
「ああ、そのことについては少し誤りがあるな」
「?」
「俺はあそこに所属している訳じゃないんだ」
「どういうこと?」
俺の返答に、彼女は問いかけてきた。
「あそこに行ってる理由は、なんて説明したらいいのか分からないけど俺を頼りにして呼ぶ奴がいるから出入りしているってだけなんだよ」
「それでも、あそこでかなりの成果を上げてるんじゃないの? あんたみたいなやつなら、通り名くらいあると思うけどね」
「通り名? ああ、それならつけられてるよ。えっとなんだっけな。あ、そうだ。確か、こんな通り名だったな———『人間戦車』」
「……え?!」
「どうかしたか?」
突然声を上げたアリアに対し、俺は尋ねた。
「あんたが、あの『人間戦車』? あの、いくつものマフィア組織を壊滅させたとかいう噂のある?」
「そういう名前らしいよ。もっとも俺は通り名に興味なんかないけど。ついでに言うと……噂じゃないよ」
過去のことを思い出した俺は頭を抱えながらそう返す。
「やっぱり、私の見込みは間違っていなかったんだわ」
迷惑な話だ。お前に見込まれても嬉しくないよ。でも、ここまでするということは何かあるな。
「お前、何を焦っているんだ?」
「?!」
「そんな驚いた顔するなよ。一応これでも武装探偵、探偵だぞ。今の言葉から推察するに何か時間が無いと読み取れる」
それに、伊達に探偵科のSはやってないし、な。
「そう、私には時間がないの。ママに、濡れ衣を着せたやつらを全員捕まえて、ママの疑いを晴らす必要がある。そのママの裁判まで時間がないの。だから……」
「分かった。それ以上言わなくてもいい。だから、泣くな」
泣きそうになったアリアにそう言った後、俺はこう言った。
「教えてやるよ」
「え?」
「あいつのこと知りたいんだろ? だから教えてやるよ」
「でも……」
「気にするな。これは俺の独断なんだから」
「そう」
こう前置きして、キンジの知っていることを、去年起こったとある事件のこととH・S・S以外のことを全て話した。そして最後に一枚の紙を手渡した。
「何これ?」
「俺の携帯の番号だ。何かあったら連絡してくれ。力にはなるよ。」
「え、でも……」
「気にするな、今日の決闘の時のお詫びとでも思ってくれ。俺はそろそろ行くよ。依頼があるんでね」
そう言って俺は立ち上がり、屋上を後にしようとした。
その瞬間アリアが何か呟いた気がした。だが俺は彼女がなんと言ったのか聞き取れなかった。
俺はそのまま依頼者の元に向かうのだった。
後書き
今回はここまで
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