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戦国異伝供書

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第六十三話 成長その五

「お仕えしていきます、そして」
「井伊殿のか」
「ご子息を迎えられては」
「ではな、わしも家臣が必要であるな」
「殿も城主であられますし」
「今川家の執権ともなれば」
「今川家は駿河、遠江、三河を治めておられます」
 酒井はこのことを話した。
「これはかなり大きいです」
「合わせて百万石、実際は百六十万石はあるな」
「兵は四万です」
「そこまでの家の執権となるとな」
「やはりかなりの家臣が必要で」
 それでというのだ。
「我等がです」
「その家臣になってくれるな」
「左様であります、ですから」
「何かと頼むな」
「承知しております」
「では井伊殿のことは殿に申し出よう」
 こうしてだった、竹千代は義元に井伊家の遺児を引き取り自身の家臣としたいと申し出た。すると義元はまずは残念そうな顔になって述べた。
「麿が先にと思っていたでおじゃる」
「といいますと」
「井伊家の奥方は女ながらかなりの猛者、女手一つで子を育てているでおじゃるが」
「聞きましたところご夫君の遺児で」
「血はつながっていないでおじゃる」
「左様ですな」
「しかしその子を見捨てずしかと育てる」
 まさにというのだ。
「おなごの鑑でおじゃる」
「そしてそのご子息も」
「まだ幼いでおじゃるがかなり利発で」
 それでというのだ。
「麿はでおじゃる」
「殿の直臣にですか」
「しようと思っていたでおじゃるが」
「では」
「いや、そなたの家臣ならば今川の家臣」 
 義元は竹千代に笑って話した。
「よいでおじゃる」
「そう言って頂けますか」
「左様でおじゃる、あの者大事にするでおじゃる」
「では」
「そしてでおじゃるが」
 義元はさらに言ってきた。
「そなた元服すれば」
「その時は、ですか」
「正室を迎えて」
 そうしてというのだ。
「岡崎にもでおじゃる」
「戻れと」
「そなたはあの城の主でおじゃる」
 岡崎城のというのだ。
「だからでおじゃる」
「城にもですか」
「城主として当然でおじゃる」
 城に戻ることはというのだ。
「確かに駿府にいてもらいたいでおじゃるが」
「それでもですね」
「そなたに任せる城でおじゃる」
 岡崎城はというのだ。
「だからでおじゃるよ」
「元服すれば」
「戻るでおじゃる」
「さすれば」
「ただ。そなたこの駿府は」
「好きです」
 竹千代は義元に笑みを浮かべて答えた。
「岡崎のことは覚えていませぬ、尾張は覚えていますが」
「それでもでおじゃるか」
「この駿府は」
 今自分がいるこの地はというのだ。地はというのだ。 
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