キムンアイヌ
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第二章
「そうですか」
「今回の現地調査は私達は山にも入るし」
「気をつけていくことですね」
「そうしていこうか」
「やっぱり妖怪っていますからね」
「そうだ、妖怪はいる」
羽良田はこれまでの民俗学の研究からこのことを確信していた、妖怪は実在しているとだ。それは桜島も同じだ。それで二人で言ったのだ。
「だから気をつけていこう」
「食われたらたまらないですからね」
「もうその対策はしているしな」
「教授鉄砲でも持ってるんですか」
「いや、私は使えないから」
鉄砲はとだ、羽良田は桜島にすぐに否定の言葉と顔で答えた。
「そういうのは」
「僕もですよ」
「羆も出るかも知れないから地元の猟師の人と一緒に山に入るけれど」
それでもという口調での返事だった。
「特にだよ」
「鉄砲は持って行かないですか」
「別のものだよ」
羽良田は今はこう言うだけだった、そうして桜島と二人で彼等が勤めている京都の北区にある大学から北海道に向かった、そして十勝の日高の山に入るとだった。
猟師の人も一緒だった、もう還暦を過ぎたお爺さんだが羽良田に確かな顔で言った。
「あれは持っているから」
「だからですか」
「安心してくれよ」
「それでは」
「鉄砲があると安心ですね」
桜島は猟師が持っている見事な猟銃を見て笑顔になった。
「これで」
「ああ、これは羆の為のもので」
「キムンアイヌのものでじゃないんですか」
「遭わないことを祈るけれど」
このことは絶対だった。
「それでもだよ」
「遭った時のことはですか」
「もう猟師さんが用意してくれているから」
「安心していいですか」
「そっちもね」
人食いの巨人、本土の鬼の様なそれが出てもというのだ。
「安心していいから」
「それじゃあここは」
「猟師さんに任せよう」
羽良田は落ち着いた声で言った、そうしてだった。
二人は猟師と共に日高の山の中の現地調査に入った、それはこの辺りの民俗学の一環で二人は真面目に調査つまりフィ―ルドワークをしていった。
そうして夕方まで山の中で調査をしていよいよ下山しようとすると。
一行の前に木程の大きさまさに五メートルはあるアイヌの民族衣装であるアットゥシを着た顔中髭だらけで口から牙を生えた巨人が出て来た、桜島はその巨人を見てすぐに言った。
「これが」
「運が悪いな、まさに」
「こいつがですね」
「キムンアイヌだよ」
羽良田は桜島に答えた、見れば服から出ている腕や胸元は濃く黒い毛に覆われている。
「まさに」
「そうですよね」
「山犬はいないがね」
「キムンセタっていう」
「それも妖怪だけれど」
「そっちはいないですね」
「ああ、けれど」
それでもとだ、羽良田は桜島にさらに話した。
「ここで油断したら」
「取って喰われますね」
「そうなるよ、けれど」
「猟師さんがですね」
「もう用意はしてくれているから」
だからだというのだ。
「安心していいよ」
「それじゃあ」
桜島も頷いてだ、そうしてだった。
二人で猟師のやることを見ていた、この猟師の名前は及川大輔といったが桜島は及川さんお願いしますと心から思った。
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