キムンアイヌ
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第一章
キムンアイヌ
若いまだ駆け出しの民俗学者桜島潤は教授である羽良田圭一からその話を聞いて最初はこう言った。
「北海道にもそんな話あるんですね」
「これから私達が行くそこにもだよ」
羽良田は桜島に真剣な顔で答えた、少し白いものが混じっている髪の毛は硬い感じがするもので眼鏡は四角く頑丈そうなものだ、やや四角い感じの顔立ちが一七〇程のがっしりとした身体によく似合っている。顔の口周りを覆う髭が如何にも学者らしい。
「あるんだよ」
「巨人ですね」
桜島はどうかという顔で言った、若く面長で黒髪を真ん中で分けている。目は丸く明るい顔立ちである。身体は中肉で背は一七二位だ。二人は羽良田の研究室でお茶を飲みながら話をしている。
「本当にこの話がない国ってないですね」
「日本にしてもあるだろ」
「ダイダラボッチとか」
「見上げ入道にしても」
「あの妖怪も巨人ですね」
「海坊主にしても」
「やっぱり巨人って何処にでもあって」
その話がだ。
「hっ街道にもですね」
「あるんだよ、これから行く十勝の方に」
北海道のそこにというのだ。
「日高の方に」
「今まさに僕達が行くところですね、北海道っていえば」
桜島はここでこうも言った。
「やっぱりあれですよね」
「羆だね」
「あの獣が真っ先に思い浮かびますよ」
「あれは妖怪じゃないけれどね」
「けれど北海道で怖いっていったら」
それこそというのだ。
「これですよね」
「羆だね」
「はい、それでその羆じゃなくて」
「巨人の話もあるから」
だからだというのだ。
「頭に入れておいてくれよ」
「わかりました、それでその巨人は何て名前でどんな外見ですか?」
桜島はお茶菓子の羊羹を食べつつ羽良田に応えた。
「一体」
「背丈は人の三倍で」
「大体五メートル位ですか」
桜島は自分の背丈から話した。
「それじゃあ」
「まあそれ位かな、それで全身毛だらけで大きな口から牙が出ていて」
「鬼みたいですね」
「鬼に似てるね、人も食うし」
「本当に鬼みたいですね」
桜島は大きさと毛だらけということ、牙そして人を食うと聞いてまさにそれだと思った。
「鬼が北海道に行ったんですか?」
「それはわからないがそれでも」
羽良田は桜島に自分も羊羹を食べつつ話した。
「そんな風で熊すらも握り潰す」
「羆もですか」
「だから羆嵐よりもね」
北海道ではあまりにも有名な話だ、明治の開拓期に起こった惨劇だ。
「怖いね」
「鬼ですからね」
「それで名前はキムンアイヌっていうんだよ」
「キムンアイヌですか」
「その名前で現地のアイヌの人達はかなり怖がっていたそうだよ」
「そりゃ鬼ですからね」
桜島は自分のイメージから述べた、民俗学では鬼についても研究する機会が多いのでこう言った。
「誰もが怖がりますね」
「山の洞窟に住んでいて冬は雪輪を履いて動くらしい」
「何かアイヌの人達ですね」
「そこは人と変わらないね、それでキムンセタという山犬も連れていたり」
「山犬までですか」
「それで足跡は半分しかないとかね」
「そうした特徴もありますか」
羽良田のその話を聞いて頷いた。
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