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デート・ア・ライブ~Hakenkreuz~

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第四十七話「天央祭・Ⅷ」

突如発生した突風に襲われた士道であったが幸いにも吹き飛ばされるような事も無く士道は突風を起こした者達(・・)へと顔を向ける。

「くく、愚かな。我らが姉上様に楯突こうとは、総身に知恵が回りかねておると見える」

「肯定。短慮且つ無謀な行動です。お姉さまには指一本触れさせません」

そう言ったのは士道と同じくメイド服に身を包んだ二人の少女。同じ顔立ちから双子と思われた。

「今度は【ベルセルク】か。意外と五河士道に霊力を封印されていた精霊は多いみたいだな」

「耶俱矢と弓弦まで…」

士道は【ベルセルク】、八舞耶俱矢と八舞弓弦の行動に呟く。一方で彼女は自身も含めて十二人の精霊の内三人の霊力を封印していると言う事に感心する。聞かされた当初は不可能だろうと感じていたが案外できる者だなと考えていた。

「(尤も、美九を攻略するのに女装(・・)等と言うだますような行動を取った時点でこうなる可能性は高かったけどね)」

「ふ…ふふ、あははは…っ!なぁに、これ」

と、美九の笑い声が聞こえてくる。

「人が悪いじゃないですかぁ、士織さん。会場に精霊がこんなにいるなんて!しかも皆私好みの子たちばかり!ああ…良いです。最高です!」

美九は可笑しくてしょうがないと言った様子で身を捩っている。恐らく思わぬ収穫(・・)に恍惚としているのであろう。美九の解けたような表情が彼女のいる観客席からも見える。

「さぁ…こうなったら、いよいよあなたに用はなくなっちゃいました。さっさと始末して、精霊さんたちと遊ぶことにします。…さぁ!やっちゃってください!」

そう言うと美九は光の鍵盤を強くたたく。すると、四糸乃や八舞姉妹は敵意の籠った瞳で士道に向ける。霊力を封印されているとは言え精霊である彼女たちと戦えば士道と言えど一溜りもないだろう。更に美九の親族である彼女も美九につくと思われた。ナイトメアと並ぶ危険度を持つ彼女が参加すれば士道では一瞬で肉塊へと変貌する未来が見えた。

そして、事態はさらに悪化する。士道の後方からゆらりと影が近づく。現れたのは同じく精霊である十香。同じく霊装を纏った状態でゆっくりと前に出てきた。

「ま、まさか十香まで…嘘だろ?やめ…」

しかし、この場で士道の言葉に耳を貸す者など皆無。四糸乃が冷気を、八舞姉妹が風圧の塊を士道へと放った。

「う、うわぁぁぁっ!」

士道は自らに襲い来るであろう衝撃と痛みを想像し目を瞑る。しかし、士道を襲ったのは冷気でも風圧でもなくふわりと言う奇妙な浮遊感であった。

「…え?」

士道は間の抜けた声を出す。流石にこの状態、敵になったと思われた十香(・・)お姫様(・・・)抱っこ(・・・)をされていると言うのは士道と言えど意味が分からなかった。

やがて士道を抱えた十香は天井から伸びるキャットウォークの上に降り立った。

「シドー、一体何が起きているのだ…?」

「…」

十香から聞かれた疑問に士道は直ぐに答えられなかった。自らに起きている事を理解するのに少し時間がかかってしまったからだ。とは言えいつまでも相違している事などできない。

士道はキャットウォークへと降り立つと十香に声をかけた。

「ありがとう、助かったよ。でも、十香…おまえ、なんで何ともないんだ?四糸乃達は皆美九に操られちまっているのに…」

そんな疑問を浮かべる士道に十香は

「…ぬ?」

と不思議そうな顔をしたのち、「おお」と何かを思い出したように手を打ってから両耳に手をやった。そして、そこに詰まっていたイヤホン(・・・・)を取り出す。どうやら演奏の時からずっとつけ続けていたらしい。

「お前…それ」

「うむ、どうも片方だけではバランスが悪く、リズムが撮り切れない気がしてな」

「…」

士道は十香の言葉に呆れてしまう。彼女は知らないが十香が演奏で担当していたのはタンバリン。決してそこまでの装備が必要な楽器ではなかった。

「それで、シドー」

「ああ…多分、美九が皆を操っているんだ」

そう言うと十香はステージに立つ美九を見る。美九はキャットウォークに逃れた士道たちを憎々しげに睨みつけると、鍵盤に走らせていた指の動きを変え、〈破軍歌姫(ガブリエル)〉の音色を変化させた。

すると観客たちが一斉に動き出しステージ袖に入っていく。恐らくステージの裏から来るつもり何であろう。中には何を思ったのか壁をよじ登ろうとする者もいた。

しかし、それ以上に士道たちにとって厄介なのは美九の周りを囲むように立つ四糸乃と八舞姉妹、そして先ほどから客席に座り様子を見ている彼女であった。

四糸乃や八舞姉妹ですら厄介なのにそこに時崎狂三と並ぶ危険度を持つ彼女がいては勝ち目は薄かった。実際、十香は屋上にて呆気なく敗北していた。

「…く」

士道は素早く耳に付けられたインカムを叩く。この場は一旦フラクシナスに回収してもらおうと考えたからだ。

『ハイ、どうしたのかしら?』

通信に出た琴里の緊張感のない声に士道はあり得ないと思いつつも最悪の想定をする。

「琴里!不味い状況になった。外に出るから一旦フラクシナスで回収してくれ!」

『はぁ?』

そして、士道の疑念は次の琴里の言葉で確信へと変貌した。

『何言ってるの?お姉さま(・・・・)に逆らったお馬鹿は、そこでミンチにされてなさいよ』

士道の思い浮かんだ疑念。それは今の状況を更に絶望へと突き落とすものだった。
 
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