蒼と紅の雷霆
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蒼紅:第三十一話 凍結
前書き
アキュラとテンジアンのバトル
これからの予定について話し合っていたソウ達にシャオが慌てた様子で駆け込んできた。
「2人共、大変だ!近くの街が1つ、エデンの構成員に乗っ取られたみたいなんだ。街全体が、突然氷に覆われて都市機能が麻痺しているらしい」
「街全体が氷にだと?…テンジアンか?」
ソウが尋ねるとシャオが頷いた。
「どうやらその街を侵攻のための活動拠点にしているようだね…氷は今も範囲を広げている。急がないと全てがエデンに支配されてしまうかも…テンジアンは、豪華ホテルを基地にしているみたい。 2人共…頼めるかな?」
「…まあ、良いだろう。だが今回は俺1人で行かせてもらう。テンジアンには個人的にも用があるからな…GVは念のためにここに残れ」
今回ばかりはソウも無理を通して単独での出撃となる。
凍結都市に足を運んだソウだが、足場が悪いことに少しだけ表情を顰めた。
『路面が凍結してるから滑りやすくなってるよ。何時も以上に慎重にね。ソウならマッハダッシュとホバリングを使えば少しはマシに動けるかも』
「ここでエネルギーの消耗が激しい俺の能力が恨めしくなるな…あの妙な力のおかげで大分マシになったが…」
『なら、GVに代わる?』
モルフォが言うとソウは表情を顰める。
「馬鹿を言うな、テンジアンとは俺が戦う。奴は…あいつの兄のようだからな。逃げられんさ」
『お兄さん…気をつけてね』
「ああ」
滑る床に注意を払いながら先に進み、前を塞ぐ機械群を蹴散らしながら先に進むと氷の城と化したこの国有数の高級ホテルが見える。
『ここは、国内外の著名人や権力者の御用達のホテルでもあったみたいだね』
「ふん、俺達には関係のない話だな。それにしてもやはりテンジアンの能力も以前より強化されていそうだ。この能力規模は異常だ。」
先に進み、マッハダッシュとホバリングで移動すると空中に氷柱が出ている場所に出た。
『空中に氷柱?』
「恐らく、空気中の水分が凍ったのかもしれん。これを利用して進ませてもらおう」
『ソウ、大丈夫なの?足を滑らせて氷柱から落ちたら危険よ?』
「救いようがない運動音痴のお前の宿主と一緒にするな」
『ひ、酷いよお兄さん…』
氷柱を飛び移り、上に登っていくと次の氷柱地帯に出た。
『ソウ、そこを登っていった先に、ゲートモノリスがある。破壊して先に進んで』
「了解した」
『『………』』
『シアン?モルフォ?どうしたの?』
『…何だろうこの感じ…?』
『ソウ、気を付けて…テンジアン以外にアタシの力を感じる…他のG7かもしれないわ』
「…分かった。覚えておこう」
移動してゲートモノリスを破壊し、ホテル内に侵入する。
「随分と無駄に金を使っているようなホテルだな」
『まあ、権力者や著名人御用達のホテルだしね…取り敢えず先に進んで…』
『待って、ソウ!テンジアン以外のアタシの力を持った奴が来るわ!』
「何?…貴様は…」
後ろを振り返るとそこにはロロを伴ったアキュラがいた。
「…ふん、屑とガラクタが此処に何の用だ?部外者はさっさとミラーピースを渡してさっさと消えろ。そうすれば今回だけは特別に見逃してやろう」
『ガ、ガラクタ…!相っ変わらずムカつくー!』
「以前の俺だと思うなソウ…今度こそ貴様の息の根を止めてやる」
「…以前のアメノウキハシでの戦いを忘れたか?愚かな無能力者様は自分に都合の悪い部分を忘れるのに長けていると見える…まあいい、いい加減目障りだ。貴様にはここで消えてもらうとしよう」
銃を構え、銃口に雷撃刃を発現させるとアキュラも銃を向けた。
アキュラのブリッツダッシュとソウのマッハダッシュによる超高速戦闘が行われる。
「「はあっ!!」」
ソウのチャージセイバーをアキュラは腕を受け止めることで防ぎ、そしてアキュラも銃を向けてフォトンレーザーを発射する。
しかし、ソウもすぐに距離を取って回避する。
無言の激突が僅かな時間で何度も繰り広げられる。
「ふん、少しはマシな動きをするようになったな。本当に少しだけだが…な…貴様程度、カゲロウに頼るまでもない」
ペンダントの機能をOFFにし、カゲロウが使用不可の状態にする。
「貴様…!その驕り…俺が討滅する!」
『いけー!やっちゃえー!アキュラ君!!』
「滅べ!」
アキュラの銃から放たれたフォトンレーザーをソウは紅き雷霆の身体強化による動体視力とダッシュとジャンプを駆使して危なげなく回避していく。
「そんな遅い銃撃が当たると思うか?馬鹿め」
「(前回の戦闘データを解析し、更に奴の成長を考慮していると言うのに何故当たらない!?奴の成長が俺の想定を遥かに越えているというのか?能力者(化け物)め!)」
「俺は無能力者は嫌いだが、貴様のような救いようがない馬鹿が特に嫌いだ。今なら痛みも苦しみもなく消してやる。大人しく死を受け入れろ屑が」
「ほざけ…消えるのは貴様だ…!」
「立場と言うものを教えてやろう無能力者。貴様がどれほど努力を重ねようと、俺と貴様との間にある絶対的な実力差を覆すことなど不可能だ。曲がりなりにも知的生命体の人間であるにも関わらず相手との実力差を理解出来んとは哀れなものだな」
「能力者(化け物)が人間を語るな…!貴様のような悪鬼が人間を名乗るなど全人類への冒涜だ…!」
「この現状が貴様のような無能力者(屑)の無知さが起こしたことにも気付かない阿呆が何を抜かす…!」
攻撃を繰り返しながらも相手に罵倒を言い合う2人。
『…さっきからずっと思ってたんだけど…ぶっちゃけ、2人ともキャラ被ってない?全体的なカラーリングとか、色々と』
「全く違う!」
「言いたくはないが同意見だ。俺をこんな無能力者(屑)と被っているだと?不愉快だ、出来損ないの鉄屑め」
『て、鉄屑だってぇ!?』
「今度はこちらから行くぞ!ライトニングレーザー!!」
今度はソウが一瞬で距離を詰めて零距離での雷撃レーザーを放つ。
高い貫通性能を持つ雷撃レーザーのこれをまともに喰らえば確実に風穴が開くが、心臓を貫くどころかカゲロウで攻撃を透かされてしまう。
「ほう?カゲロウか…少しは頭が回るようだな…」
「そうだ…全ては能力者(化け物)の根絶のため!」
「はっ、寝言をほざく…確かにカゲロウを再現したことには驚いたが貴様のそれは機械制御によって行われている物だろう?ならば…」
ブリッツダッシュで迫ってくるアキュラにカウンターで雷撃鱗を展開し、アキュラのヴァイスティーガーの制御系統をクラッキングする。
「何!?」
「さあ、本物の雷撃の能力の力をたっぷりと味わうんだな!!」
カゲロウどころか殆どのヴァイスティーガーの機能が停止しているアキュラにチャージセイバーが直撃する。
「ぐあっ!?」
「プラズマビット!!」
直撃し、吹き飛ばされたアキュラにプラズマビットでビットを召喚してショットとビットの雷撃弾の連射で追撃し、アキュラに追加ダメージを与えていく。
「まだ終わってはいないぞ!メテオスパーク!!サンダーバースト!!」
今度はメテオスパークによる雷撃弾の雨とマッハダッシュを駆使した雷撃攻撃でアキュラに連続ダメージを与える。
「クッ!」
何とか制御系統が正常になるまでソウから距離を取ろうとするが、通常のダッシュではGVよりもダッシュ速度が速いソウの機動力からは逃れられない。
それ以前にマッハダッシュであっさりと距離を詰められてしまう。
「逃がさんぞ」
後少しで制御系統が正常化する直前にマッハダッシュで距離を詰められて雷撃鱗でクラッキングされる。
「ぐっ!」
「機械が電子技術を制御・制圧する電子系統の能力に勝てるわけがないだろう。馬鹿が」
そのままアキュラの首を掴むと壁に叩き付け、そのままプラズマビットを展開し、アキュラに雷撃弾の連射を叩き込んだ。
「ぐわああああ!?」
絶え間ない激痛にアキュラは悲鳴を上げるが、鬱陶しそうに首を掴んでいた手を離して口を強引に塞ぐ。
「俺に挑む時点で死は覚悟していたろう?喚くな」
プラズマビットがエネルギー切れを起こすまで繰り返し、アキュラの体から力が抜けたことを確認すると、興味を失ったソウはアキュラを放り投げ、最後にチャージショットを叩き込んで吹き飛ばした。
「ふん、大人しく隠れていれば痛い目に遭わずに済んだものを、馬鹿め…さて、ガラクタからミラーピースを……逃げたか…まあいい、ガラクタの力などたかが知れている…こいつにとどめを刺す時間も惜しい。今はガラクタとこいつよりもテンジアンを優先すべきか」
ロロへの興味も失ったソウは即座にロロのミラーピースからテンジアンにターゲットを切り替え、先に進み始めた。
そしてソウがこの場を去ったのと同時にロロが飛び出し、アキュラの傍に寄ると…少女の姿に変わった。
『リミッターカット!フルドライブ!!立ち上がってアキュラ君!』
これはモルフォの力が込められたミラーピースとロロの第七波動誘因子スキャニング機能が偶発的に噛み合い、発生した現象なのだ。
アキュラはロロのソングオブディーヴァによりヴァイスティーガーの性能が向上し、大幅に強化されたヒーリングの機能で復活して立ち上がった。
『アキュラ君、大丈夫!?』
「ああ、ロロ…助かったぞ…奴め…どこまで俺を侮辱すれば…!絶対に逃がさんぞ…!!」
とどめを刺さずに放置すると言うことはアキュラを脅威とは見なしていないということ。
自分をどこまでも見下すソウに屈辱でアキュラは表情を歪めた。
そしてソウを追跡するが、それが結果としてアキュラを地獄の底に叩き落とす事態を引き起こすことになるとは知らず。
アキュラを蹴散らしたソウはマッハダッシュとホバリングを駆使して一気に進んでいく。
「やはり来たか、ソウ。これは選別だ」
当然、ソウの侵入はテンジアンに既に知られており、テンジアンが第七波動の力をソウのいる場所に発生させる。
「奴の第七波動か…!だが、無駄だぞテンジアン…俺の紅き雷霆の第七波動を舐めるな…!!」
EPエネルギーの残量に気を配りながらマッハダッシュとジャンプ、ホバリングを駆使して先に進むと更に凍結範囲が広がる。
『また凍った!』
「ふん、この程度の氷では俺の足止めにもならん…心配無用だシアン」
シアンの叫びにソウは冷静に答えると道を塞ぐメカを薙ぎ倒しながら先に進むと広い部屋に出る。
すると、シャッターが閉じてメカが現れる。
「いい加減見飽きてきたぞ!」
『頑張ってソウ!』
『負けないでねお兄さん!』
『まずいと感じたらサイレンを壊すのも手だよ!』
「今更やられるものか…メテオスパーク!!」
襲い掛かる機械群を降り注ぐ雷撃弾の雨で破壊していくとトラップが停止し、シャッターが開いた。
『凍結の第七波動…宝剣が未完成の時とは言え、以前戦った時はここまで強力じゃなかったはずなのに…』
「皇神の宝剣が能力の封印目的の物なら、エデン製の物は元々戦闘用に造られている。俺の紅き雷霆で身体能力を向上させ、残りのリソースを能力強化に回せばこれくらいは不可能ではないだろう。身体強化に紅き雷霆を使い、モルフォの謡精の力で宝剣の力を増幅する…戦闘面に関しては皇神製のオリジナルを上回るだろう」
氷柱の足場を登っていき、坂を気を付けながら進んでいくと更に氷柱地帯に出る。
奥のブロックは残念ながら破壊出来そうにないので氷柱を登っていくしかなさそうだ。
氷柱を登っていくとシアンが呟く。
『こんなに綺麗な氷を…どうして悪いことに使うんだろう…昔、テレビで見た氷の彫刻はとても綺麗だと思ったけど、この凍ったホテルは…何だか怖い』
「当然だろう。それだけテンジアンの無能力者への怒りと憎しみが凄まじいということだ。別にこれくらいのことは珍しいものではないし恐れるようなものでもない。外国の無能力者共め…!能力者を恐れて迫害することで自身が最も恐れている存在を敵に回すことに気付かないとは…その無知さには反吐が出る…!」
『お兄さん…』
シアンの悲しみの籠った声にソウは怒りに染まりかけた思考を元に戻して平静になる。
「………とにかく、これがテンジアンの怒りだ。目を背けずに見ておけシアン。外国の…迫害を受けている能力者の殆どがこれくらいの…いや、これ以上の怒りと憎しみを抱いている者もいるということをな…」
『テーラちゃんもそうなのかな…?』
「それはそうだろう。憎しみは消えない…どれだけの年月が経ってもだ。俺も皇神から受けた仕打ちに対するこの憎しみは忘れられん…絶対にな…」
『お兄さんは…GVの夢に反対なの?』
「肯定も否定もしないとだけ言っておく」
それだけ言うと会話を打ち切ってゲートモノリスを破壊して奥に進むと、そこにはテンジアンがいた。
「流石は海内無双の紅き雷霆…ここまで乗り込んでくるとは恐れ入ったよ」
「………テンジアン、テーラの兄であるお前は出来れば殺したくはない。頼む、ミラーピースを返してもらえないだろうか?」
「悪いがそれは出来ない。これは僕達の理想に必要な物だ。だが、僕個人としても君とまた話がしたかった。パンテーラが随分と君を気にかけていたから、彼女の能力で記憶を幻覚の形で見させてもらった…妹を助けてくれたことに礼を言うよ。君が身を挺して守ってくれなければ妹は生きてはいなかった。だからこそ残念だよ、少しでも出会い方が違っていれば僕達の最大の理解者になってくれたかもしれないとね…今からでもエデンの同志になるつもりはないかな?最初は居心地は悪いかもしれないが…君の関係者の身の安全は無能力者を含めて保障しよう」
「悪いが、それは出来ない。俺は以前言ったように弟と妹を見捨てることは出来ん…」
「…考え直してくれないか?君を倒せば…妹が…パンテーラが悲しむ」
「テーラのことに関しては本当にすまないと思っている。だが、俺はあいつらの兄だ。あいつらの願いを俺は叶えてやりたい」
「ガンヴォルトの願いは今の愚かな無能力者を滅ぼさずに能力者との共存だったね…そのような無理難題、とてもではないが、実現出来るとは思えない」
「そうだな、それは俺も同意見だ。実現させようとしたらどれだけかかるか見当もつかんし、お前達の方が余程現実的だ。だが、GVは誰に似たのか…頑固だからな。一度決めたことは何がなんでもやり通そうとする。だからこそあいつは強い……お前は復讐のためもあるが、テーラの…妹のために力を振るっている…そうだろう?」
「そうだ。妹の望みは僕の望みでもある」
「なら俺も同じだ。家族の願いを叶える。それが俺の戦う理由の1つ…勿論復讐などの個人的事情もあるがな」
「そうか…本当に残念だよ。パンテーラのことを思うと心が痛むが、あの子の障害となる君を生かしてはおけない。許してくれ」
「…謝るな…あいつの信頼を裏切ったのは俺だ…だが、俺はもうあいつから逃げるような真似はしない。悪いが力ずくでもミラーピースを返してもらうぞ!」
変身現象を起こし、剣を構えるテンジアンに対してソウも銃口に雷撃刃を発現させて構える。
テンジアンの剣とソウの雷撃刃が激突する。
「はっ!!」
「チッ!」
円月輪を発射してくるテンジアン。
それを何とか回避しながら距離を詰め、チャージセイバーの斬撃を見舞う。
しかしテンジアンも流石と言うべきか、ダメージを気にせずに剣を振るってくる。
ソウも雷撃刃で捌きながら蹴りを繰り出す。
テンジアンはそれをかわして氷柱を生成しながら突撃し、連続攻撃を仕掛けてくる。
「くっ!」
氷柱で移動範囲を限定されてしまったので何度か攻撃を受けてしまう。
最初はカゲロウで無効化出来たが、連続攻撃のためにEPエネルギーが枯渇し、何度か斬撃を受ける。
紅き雷霆により、体内の生体電流活性化で斬られた部分を即座に異常を正常に戻せるが、並みの相手では体が柔軟性を完全に失ってしまうだろう。
「僕の第七波動を受けても正常を保てるとはね」
「これくらいでやられる程、柔ではない。今度はこちらの番だ!」
エレキブレードを繰り出し、その雷刃波をテンジアンが回避するがそれは想定内だ。
本命はこちらだ。
「プラズマビット!!」
即座にビットを召喚し、ショットと雷撃弾の連射で回避後の隙を突く。
初見の上に不意を突いた攻撃のためにテンジアンはまともにそれを受けてしまう。
「ぐ…っ!?流石だ…ならばこれはどうかな?」
テンジアンが第七波動を解放し、周囲一帯を凍結させる。
これでソウの機動力を削ごうと言うのだろう。
「舐めるな!この程度で俺を止められるものか!迸れ、紅き雷霆よ!お前の信念の氷刃(ヤイバ)を俺の紅き雷刃で叩き斬る!!」
ソウとテンジアンの刃が幾度もぶつかり合う。
やはり向こうもパンテーラから紅き雷霆の欠点は教えられているらしく、ホバリングを駆使している時を見計らって鋭い攻撃を仕掛けてくる。
カゲロウは雷撃鱗を展開していると発動はしない。
その為、テンジアンが攻撃を仕掛けてきたら即座にホバリングを中断して攻撃を雷撃刃で受け止める。
「プラズマビット!!」
受け止めた直後にビットを召喚して雷撃弾を発射し、テンジアンを強引に弾き飛ばしながらエレキブレードの雷刃波による追撃を見舞い、吹き飛ばされたテンジアンは即座に円月輪を飛ばしてくる。
マッハダッシュでそれをかわすが、突っ込んできたテンジアンの斬撃を受ける。
「ぐっ…」
互いに軽くない傷を負いつつ、ソウの熾烈な猛攻は止まらず、テンジアンは決着をつけるためにSPスキルを発動する。
更に謡精の力も上乗せし、更なる威力の向上をさせた物だ。
「覚悟はいいか?君の信念の雷刃を凍てつかせ、砕く!!白闇に舞う冷氷花弁!地に堕つる間もなく斬り捌く!絶対零度、一刀両断!!氷華雪断!!」
「っ!」
上空から襲ってくる冷気をマッハダッシュを駆使してかわしていくが、最後の冷気をかわせずに直撃してしまい、氷に閉じ込められてしまう。
「終わりだ…一閃!!」
とどめの斬撃を叩き込み、テンジアンは勝利を確信したが、テンジアンは心のどこかでオリジナルの紅き雷霆の力を甘く見ていた。
「まだ終わっていないぞテンジアン!」
「何だと!?」
最後の一撃に耐えきったソウにテンジアンの表情が驚愕に染まる。
「俺は負けん!迸れ!紅き雷霆よ!閃くは破滅の雷光!紅雷の刃よ、敵を斬り裂け!!ギガヴォルトセイバー!!」
即座にSPスキルの雷刃波を直撃させ、怯んだテンジアンとの間合いをマッハダッシュで詰める。
「終わりだテンジアン!!」
渾身のチャージセイバーで斬り裂き、まともに受けたテンジアンは膝を着いた。
「っ…不覚…!」
「チェックメイトだ。テンジアン…俺の力を取り込んだ宝剣とモルフォの謡精の力を使っていたことで…お前自身ですら気付いていない驕りがあったな…」
「…そうか、完全な雷霆宝剣とそれに連動させたミラーピースの力…今までにない力を持ったことで、僕の心のどこかに驕りが出来ていたのか…」
何と言う間抜けな敗北だ。
紅き雷霆の力とは言え、所詮は血液に混在していた僅かな能力因子。
そしてそれをテセオの第七波動で無理矢理扱えるようにしたような物だ。
その莫大な力に適正を持つソウに確実に勝てると思うのが愚かだった。
「(すまないパンテーラ…彼を引き入れることも出来ず、君を置いて先に逝く僕を許して…)」
「…………」
死を覚悟していたテンジアンだが、銃口の雷撃刃が消えたことに気付いて俯いていた顔を上げた。
「……?」
「テンジアン…頼む、ミラーピースを渡してくれ…お前を倒せばテーラが悲しむ」
「言ったはずだ。これは僕達に必要な物だと。返して欲しいのなら力ずくで奪うことだ」
「そうか………ならもうここに用はない(すまない…シアン…モルフォ)」
胸中でシアン達に詫びながら銃を納めるソウ。
「何故…?」
「……理由は…お前を倒せばテーラが悲しむからだ。正直自分でも馬鹿なことをしていると思う…だが、あいつは…俺にとっても大事な家族だった。今でもそう思っている……少しだけでもあいつの心配くらいはさせてくれ…俺はあいつの傍にいてやれない…だから、せめて最後の戦いの時まで…お前に……」
言葉を言い切る前に銃声が鳴り、ソウの左肩から血が噴き出した。
突然のことにソウもテンジアンも理解が追い付かず、激痛に膝を着いたソウが後ろを振り返るとアキュラと少女の姿をしたロロがこちらを睨んでいた。
「貴様…」
「グリードスナッチャーからの時間差なしの攻撃なら流石の貴様にも通るか…(以前よりも更に効果が薄い…奴の装備のせいか…)」
「…ようこそ無能力者。と言っても歓迎はしないがな?戦闘で疲弊している相手に不意討ちとは、愚かな無能力者らしい野蛮な行為だ」
敵対しているとは言え、流石に自身との戦闘で疲弊しているソウに不意討ちを仕掛けたことにはテンジアンも嫌悪感を露にした。
「能力者(化け物)と交わす戯言などない。そこの能力者(化け物)を葬ったら貴様もすぐに俺の眼前から消し去ってくれる」
「流石は無能力者様だ。傲慢で、愚かな言論…お前のような奴がいるから…!」
「………」
テンジアンが立ち上がるよりも先にソウが立ち上がった。
「悪いが、こいつを潰すのは俺にやらせてくれ」
「だが、君は先程の不意討ちで……」
テンジアンの言葉は続かなかった。
何故ならソウの表情は圧倒的な怒りと殺意のあまりに無表情になっており、その威圧感によってテンジアンの口は塞がれてしまう。
「テーラのところに帰ってくれ。少し派手に暴れることになりそうだからな…速く帰ってあいつを安心させてやってくれ…」
「………分かった…この命、拾わせてもらう…君とはいずれ…相応しい場所で決着をつけよう」
「ああ」
テンジアンがこの場を離脱すると、先程のソウの表情を思い出す。
怒りと殺意に満ちたあの表情…本物の悪魔を見たような気がしたからだ。
「………その悪趣味な人形はさっきの鉄屑か?モルフォの出来損ないのコピーと言ったところか…先程の不意討ちといい、どこまでも人を苛立たせることに関しては貴様らは天才だな」
「流石の貴様もその体では満足に戦えないはずだ。今度こそ貴様の息の根を止めてやる…」
「片腕を潰したくらいで勝ったつもりでいるのか?流石は無能力者…どこまでもお花畑な頭をしている。寧ろこれで丁度いいハンデ…いや、これでもまだハンデにはならんな。貴様のような雑魚が相手ではな…ふむ、特別サービスと言う奴だ…この状態でカゲロウ無し、更に銃でのショットと雷撃刃、ノーマルスキルは使わない状態で相手をしてやろう…流石の貴様でもこれくらいのハンデを与えてやれば少しは戦いの形にはなるかもしれんしな」
「貴様…っ!」
『ど、どこまでも本気でムカつく奴…!』
テンジアンとの戦闘で疲弊し、片腕まで使えないと言うハンデがあるにも関わらず更にハンデを与えると言うどこまでもアキュラとロロを脅威として見ていないソウに2人は怒りを露にする。
「どうした?かかって来ないのか?それとも今更怖じ気づいたか?臆病者め」
「舐めるな!」
ブリッツダッシュでソウに襲い掛かるアキュラ。
ロロのソングオブディーヴァの力で出力は格段に上がっているが、まずソウはその突撃をギリギリまで引き付けて屈んで回避すると、雷撃鱗を展開してロロにダメージを与える。
『うわっ!!』
「ロロ!」
機械であるロロに紅き雷霆の力は絶大で、一瞬で殆どの機能を一時停止させる。
アキュラはロロを救出するために再びブリッツダッシュを駆使するが、ソウもまたマッハダッシュで回避に徹しながらある物を探す。
「(すまん、借りるぞ…こういう無駄に凝ったホテルなら…ありそうな物だが…あった…)」
道中でアキュラに倒されたエデンの兵士に胸中で謝罪しながらある物を回収する。
そして視界に観葉植物が入り、擦れ違い様に土を一握り掴んでそのまま真上にマッハダッシュで移動する。
「逃がさん!」
上昇したソウにアキュラも追従するが、ソウは握り締めていた土をアキュラの顔にぶつける。
「うっ!?」
目に土が入り、空中で制止するアキュラ。
カゲロウの弱点は攻撃でなければ透かせない。
故にこの目潰しは有効、そして拳のみに雷撃鱗を展開してアキュラの背後を取り、そのまま背中に強烈な一撃を叩き込む。
「ぐはあっ!?」
ダメージと共にヴァイスティーガーの機能をクラッキングし、カゲロウを無力化する。
吹き飛んでいくアキュラをマッハダッシュで追い掛け、真上を取ると回転の勢いを利用した踵落としを脳天に叩き込み、地面に叩き付ける。
「どうした?ここまでハンデをつけてやっていると言うのにこの程度か?」
『目潰しなんて卑怯だよ!』
「先に不意討ちを仕掛けた馬鹿が何を抜かすか…弱すぎて話にもならん。さっさと保護者が待っている家に戻り、俺達に怯えながら過ごすことを勧めよう」
「ふざけるな!」
ダメージから復帰したアキュラが起き上がり、ブリッツダッシュで特攻する。
それを嘲笑うとエデンの兵士の死体から回収し、隠し持っていたナイフを取り出して雷撃を纏わせると軽く振った。
ソウの目の前で血飛沫が舞い、それに表情を歪めるソウの足元には顔を押さえて痛みに震えるアキュラの姿があり、その頭を踏みつける。
持っていたナイフは壊れてしまったが今のアキュラなら大丈夫だろう。
「終わりだな?」
『武器を隠し持っていたなんて卑怯じゃないか!』
「馬鹿か貴様は?戦場では使える物は使うのが基本だ…殺し合いに汚いも何もあるか。全く…いくらテンジアンとの戦闘で疲弊していたとしても貴様のような雑魚に一発喰らってしまうとはな…ふん!」
まずはアキュラの左腕を踏み砕く。
「ぐあああああ!?」
「腕を砕かれた程度で喚くな、鬱陶しい。次は右腕だ」
宣言通りに次は右腕を踏み砕く。
「がああああ!?」
「次は全身に風穴を開けてやろう。それとも斬り刻まれる方が良いか?最期になるのだから特別に選ばせてやろう。それとも両方か?」
戦闘も終わったことでサービスは終わったのか、銃を抜くとアキュラに向け、わざと急所を外してショットを何度も浴びせ、更に雷撃刃で斬りつける。
「があっ!ぐっ!!ぐあああああ!!」
「黙れ」
アキュラの絶叫を冷たい表情で見下ろしながら蹴り上げる。
そしてソウは何度もアキュラを蹴り飛ばしていく。
『や、止めて!それ以上やったらアキュラ君が死んじゃう!』
「やはり屑が作った機械は鉄屑だな…貴様は何を馬鹿なことを言っている?俺がこの屑を殺すつもりでやっているのだから死ぬのは当然だろう」
呆れたようにロロに言い放つと、そのまま無表情で何度も蹴りつける。
ロロはその表情に恐怖を覚える。
今まで倒してきたエデンの兵士は無能力者への憎悪や憤りを隠すことなく襲ってきたが、ソウはまるでアキュラを嬲ることに何の感情も浮かべていない。
まるでただの作業のように、アキュラをまるで虫を殺すように嬲り、返り血を浴びようと平然としたまま攻撃を続ける。
「全く…貴様のせいで戦闘服が血塗れだ…この服は特別な装備で貴様の命と違って貴重なんだ。スペアの服はあまり無いんだぞ…貴様の命では素材の一部にもならんな…まあいい、貴様は俺達とテーラ達共通の敵…いや、害虫だ。害虫は死体すら残さず消してやる」
銃の雷撃エネルギーのチャージが終わり、アキュラに雷撃刃のチャージセイバーを振り下ろそうとした時、ロロが間に入った。
涙を流しながらアキュラを庇う姿はGVなら動揺したかもしれない。
「ほう?人間の泣き真似か?そいつは冷却水か何かか?鉄屑に泣き真似とは随分と下らない機能を付けているな?機械にそんな機能を付けるとは所詮は無能力者か…邪魔だ退け。」
『嫌だ…アキュラ君は…アキュラ君は殺させない!お願いだよ…アキュラ君を殺さないで!!』
涙を流して懇願するロロだが、相手があまりにも悪すぎる。
「駄目だな、俺にはそいつを生かしておく理由がない。大体俺はこいつを何度も見逃してやろうとしたにも関わらずこいつは攻撃してきた。なら、殺されても文句は言えんだろう」
『そ、それは…な、なら…僕のミラーピースをあげるから…それで…それで見逃してよ!』
「そいつと貴様を始末してから奪えばいい話だ。それとも先に貴様から消えるか?」
どれだけロロが懇願しようと元々敵に対しては非情なソウには全く響かない。
「ロロ…そいつに…渡…すな」
「まだ無駄口が叩けるか」
「ぐはあっ!」
アキュラを蹴り飛ばして壁に叩き付ける。
『アキュラ君!止めて!これ以上アキュラ君を攻撃しないで!!』
「…こいつを復活させて俺に挑ませた奴の台詞とは思えんな。貴様があの時こいつを復活させずにさっさと撤退していればこいつは死なずに済んだと言うのにな…」
いい加減にロロが鬱陶しいと感じたのか、チャージセイバーでロロの胴体を横一文字に両断した。
『あ…』
両断されたロロは球体の形状に戻る。
「貴様は正常な判断も相手との実力差すら分析出来ん役立たずの欠陥品だ。まあ、この屑に相応しいと言えばそれまでだがな」
ソウの冷たい言葉が機能停止寸前のロロの心に突き刺さる。
「ロ…ロ…!き、きさ…」
「ミラーピースは貰っていく。貴様には分不相応な物だからな…アメノウキハシでの戦闘で学習するんだったな?貴様がどれだけ無駄な努力しようと俺に勝てるものか…アメノウキハシで貴様の玩具を破壊しただけではお花畑の貴様に身の程を知らせることが出来なかったようだからな…この新しい玩具で教えてやろう。」
ロロの残骸をわざわざアキュラの前に転がし、そのまま勢いよく踏み砕いた。
「ーーーーっ!」
「まともな判断も下せない欠陥品の鉄屑を代わりに処分してやった。俺に感謝しろ無能力者」
ついでにボーダーⅡも雷撃で跡形もなく破壊する。
「…っ…」
「あの玩具もこれから死ぬ貴様には必要ない物だ。破壊しても構わないだろう」
ロロも形見も破壊されたアキュラはどうしようもない怒りに震える。
「許…さん…っ…!貴様だけは…必ず…殺す…!」
「殺す?貴様のような死体を漁るしか能がないハイエナが俺をか?笑わせるな」
そのままアキュラを踏みつけ、絶対零度の瞳で見下ろす。
「貴様の使っている力の大半は俺達能力者から奪った物だ。それも貴様本人は戦わずに俺達が倒した宝剣の能力者の因子を回収してな。貴様自身が戦って奪った物なら別に俺は文句はない。ただ俺が許せないのは俺達が倒した相手の力を我が物顔で奪っていくことだ。そんな貴様をハイエナと言わずに何と言うんだ?小者である貴様が俺を殺すと?笑わせるな。貴様では俺には絶対に勝てん…それ以前に、ここで死ぬ奴にそんな機会は未来永劫訪れない。だが、俺も今…貴様に激しく苛立っていてな。簡単に安らかな死を与えてもらえると思うな?俺がうっかり力加減を誤って殺してくれることを貴様の大好きな神に祈るがいい」
再びアキュラを蹴りつけ、血が舞い、骨が砕けようと構わずに攻撃を続ける。
アキュラが完全に反応しなくなると、ソウは今度こそとどめを刺そうとする。
「鉄屑の元へ送ってやろう。あの粗悪な鉄屑も貴様を地獄で待っているだろう…尤もあんな鉄屑が地獄に行けるかは知らないがな」
首を切り落とそうと雷撃刃を発現した銃を振り上げた瞬間、閃光弾が投げ込まれ目を眩まされる。
「ぐっ!?」
視力が戻った時には既にアキュラの姿はなかった。
「…ふん、協力者がいたか。流石に生きていても戦う気も起きないだろう」
アキュラへの関心を失い、ソウはそのままホテルを後にしたのであった。
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