魔法少⼥リリカルなのは UnlimitedStrikers
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Duel:09 海鳴温泉へ
――sideはな――
「アハハハハ!」
「レヴィ! はしゃぎ過ぎだ。少し抑えよ!!」
拝啓、フェイト様。私ことはなは、現在……。
「れ、レヴィ! その子目回してるわよ?!」
「へ、あ……あー! はな、大丈夫?!」
後ろから抱き上げられたと思ったら、レヴィ……さんと共にその場で回ったのですが。
保ちませんでした。情けない限りでございます。
人ではないこの身ではありますが……まさか限界を超えるとは。
「……なるほど。加速減速を用いての機動だったのですね。それは盲点でした」
「瞬間火力を出せるシュテルなら、応用自体は簡単だと思うよ。
ただ、一瞬ブレて緩急で翻弄だからあまり派手ではないし、レヴィや、アミタ……さん、キリエ……さんの様にはならないとは思うけど」
「いえ。知っていると知らないとでは天と地の差です。セイクリッドの防御にこの軌道が出来たら更なる向上が見込めそうです。
あとキリエと戦った時。居合を使ってた様ですがあれは?」
「うん。察しの通り居合。あれをベースにしてるよ」
……何やら、なのは様とそっくりなシュテル……さんと仲良く話をしており、その側でユーリさんと、アミタさんが感心したように話を聞いております。
さて、今日で丸二日が経過したわけですが、主様も流石に女児の体に慣れたらしく動きやすそうにしております。
所で、前回は大体三日ほどで元に戻っていた主ですが……この件に関して震離様に問い合わせた所驚く回答が来ました。いえ、正確には変わる直前の主の状態を報告した上での回答なのですが。
震離様いわく。怪我をしているならばそれに比例してその期間は伸びる、との事を。
今回の主の怪我……かなり重症でございますが、その容態を伝えた所、大凡5日。早くて4日だと言われました。
震離様曰く主を女児へと変容させた鏡型のロストロギアは、その姿を写したものを変容させる効果の他に、変容前の肉体の修復を兼ねた物でも有ると。
何故そのようなものが? と考えましたが、震離様の推測では。嘗ての戦乱の時。敵を欺いて逃げると共に、その間に治療を兼ねたものではないかとの事。
そのせいか、死ぬほどの怪我では試したことは無いから何とも言えないが、ある程度の大怪我。今回の主並みの怪我であってもそれを癒やすことが出来る、最高クラスの医療道具なのだとか……。
ただし弊害も有るらしく、今は主は魔力を感じないのは上手く馴染みきっていない影響なのと、こちらの姿で怪我をした場合治りが遅い事。そして、女児形態では成長することが無いというデメリットが有るとのこと。何より一番キツイのが、体に合わせて精神年齢も退化するらしく、その影響は大きいらしいです。
ただ、それに関しては目を瞑れば全然良いものだとか。万人が使用できるわけではないらしく。よく考えれば主とフェイト様、そして違う形で流様だけが該当していたな、と。
しかし、この事を主は知りません。いえ、正確にはまだ戻らないということだけで伝えられ詳細は伏せる様にと釘を刺されております。
曰く、コレを知ったら主は無茶をするとの事。今、ではなく、今後の為に今は伏せておく事に私も同意致しました。ある意味初めて主につく嘘でございます。
と、悠長に主のことを思い返しておりますが……。
「……気持ち悪い……です……ぅっ」
「馬・鹿・者!」
「わー、ごめんね。はなー!!」
「ごめんなさいねー……」
キリエ様に背を擦られながら、なんとか堪えております。
ふと、視線を感じて……そちらの方を見ると。心配そうに主が見てるのが見えて、平気ですよと手を振って応えます。
そして、王様が何かに申し訳なさそうに。
「響、そしてはなよ。先にお風呂をすませるが良い。はなの具合も良くなるだろう……レヴィは後だ。我と食事の用意をするぞ!」
「えー!」
「今日は流より、翠屋のシュークリームを頂いた、が。要らないと―――」
「「手伝います!」」
ビシッと敬礼するレヴィ様の隣に、気がつけばシュテル様も立って敬礼しておりました。ユーリ様も間に合ってはいませんがビシッと敬礼している事から、お手伝いをする気満々らしいです。
「え、や、それは流石に申し訳ないと言うかなんというか……」
急な展開に着いてこれていない主。大丈夫でございます、私も急展開過ぎて着いてこれておりませんとも。
「王様、ナイスアイディアよん。KNIよ、KNI!」
「K・N・I! さ、そうと決まれば、どう割り振りますか?」
キリエ様の謎の言葉に驚きながらも、アミタ様の発言を聞いて主が瞬間固まって。
「私が響と入るわよ。そのための交渉でもあったわけだしね! というわけで先に貰ってくわー」
「え、あ、ちょ、待ってぇぇぇー……ぁー」
一瞬……とはいい難いですが、あっという間に座ってた主を抱えて跳んでいきました。
「……響も難儀と言うか……はなはどうする? 我等は食事の用意を始めるが?」
「いえす、あいあむお姉ちゃん! そこは私が面倒を見ますよ王様。それに、はなに色々私もお話をしてみたいことがあったんです」
「ふむ、ではお願いしよう。よし、者共! 客人をもてなす料理を作ろうぞ!」
「おー! じゃ、まったあとでー!」
「フフ、それではまた後ほど」
「ディアーチェの料理、楽しみにしておいて下さいね!」
ぞろぞろと四人が部屋を後にしていく中で、広い部屋に残った私とアミタ様……。
そして、一瞬静かになったと思えば。
「さて、緋凰はなさん!」
「……へ、あ、はい!」
元気いっぱいの声に驚いて思わず声が裏返ってしまいました。
「単刀直入に問いますね。響とは……姉妹ではない、でしょうか?」
「……へ?」
機械仕掛けのこの躰で初めて実感致しました。
背筋が凍るという言葉と、その意味を―――
――side奏――
「……実家よりも広いお風呂って何だろうねぇ」
『『ノーコメントで』』
チャポンと、バニングス家のお風呂をお借りしているのですが、なんというか。もう風呂の中で一軒家建てれると思います。
というか、ようやっと思い出しました。『バニングス』も『月村』も超大手じゃーんって。
海に浮かぶ遊園地、今も有数の遊園地の一つとカウントされてるオールストン・シーに深く関わった事業家と、その建設会社。そりゃお金持ちなわけですよ……。
『おや。ミスタバルディッシュより画像メッセージが』
『いかがしますか、カナデ?』
「ん、開いてくれる」
『『了解』』
珍しいなーと思いながら、湯船の中で画像が表示されて。素直に驚きました。
写真には先輩とそのお母さんであるプレシアさんが写っているのだけど……。
「……なぁんだ。心配して損した」
仲良くお酒? というかジョッキを手に笑い泣きをしながら肩を組んでる写真だ。
『ミスタより連絡が来たことは驚きましたが、その内容に更に驚きました』
『同じデバイスの身なれど、機動六課の面々は皆さん大人しい方が多すぎますしね』
「あ、あはは」
多分君ら……AI復活組がアグレッシブなんだと思いますよ? トワイライトとムーンリットも本当にAIかな? と思うほど感情豊かだし。
優夜のシルフも、静かなふりして厳しい子。煌のフェルが一番フレンドリーかな? 時雨のディーネは時雨っぽいし。紗雪の雪羅は……よくわかんない。
まぁ、それは置いといてと。
「奏ー? まだ掛かりそうなら一緒にはいってもいいかしらー?!」
脱衣所の方から元気な声が聞こえて。思わずニッコリ。
「はぁーい。どうぞー?」
「お邪魔するわよー!」
元気よく入ってきたアリサを迎える。さ、色々お話をしましょうかね。
――sideはな――
この身を得たのは。私の我儘です。あの日あの時、主を護れなくて無力なこの身が許せなくて。ですが、私はこの躰を得たのは幸運だと、本来なら有り得ないことなのだと理解しています。主のお母様の残したこの躰。そして、私は人ではなく人工知能だと言うことを含めても……。
「響とは……姉妹ではない、でしょうか?」
まだまだ穴があったことは認めます。演技とは言え主を姉と呼べなかった事もありました。
ですが……だからといって、こんな……。
「ぁ……ぃ、え。その……あの」
眼の前がモノクロになる。呼吸がおぼつかない。そんな事ないですよ、と言いたいのに。コレではその通りですと言っている様な物だと。
アミタ様の顔を真っ直ぐ見ることが出来なず俯いてしまう。心が凍えて、口腔が酷く乾く。
姉妹ではないと偽り、嘘をついていることを悪と言われるのではないかと、体が震えてしまう。
俯いているとスッと影がアミタ様の方から伸びて、思わず身を屈めて―――
「ごめんなさい。責める訳ではないなんです。どうかもっと楽にして下さい!」
「へ……ぁ、ぅ」
ギュッと抱きしめられ、アミタ様に包み込まれる。凍えた心に、動くなった躰に、おぼつかない呼吸が、スッと楽になった。
いや、どちらかと言うと、解きほぐされた……そう表現出来ることかなと。
「ごめんなさい。純粋に気になったことを聞いてしまった私に非があります」
静かに、ゆっくりと語りかけるアミタ様。だけど、私を抱きしめるその腕は……いや、掌は冷たくて。頭を胸に当てられているせいでよく聞こえます。
静かな口調とは裏腹に、その胸の鼓動は早鐘のように早い事。
ゆっくりと首を上げて、アミタ様の顔を見て。息を呑みました。
怯えたような、どうしていいのか分からないと言った顔で……今にも泣き出しそうだったので。
「ぁ、の。わた、しは。大丈夫で、す。取り乱しただけなので、す。だか、ら……そんな顔、されないで、下さい」
震える声でなんとか告げた。その声が届いたのでしょう。まるで氷が溶けていくかのように、徐々にホッとしたようなそんな顔をされて。
「いえ、こちらこそごめんなさい。失礼な事を聞きましたね」
ふにゃり、とそんな擬音が聞こえるほどの柔らかい笑みを見て私の方も、ホッとすることが出来ました。
――sideアミティエ――
初めてあの姉妹を見た時。私やキリエ、テスタロッサ姉妹とは違う様に見えました。
それは姉妹……と言うより、主とその従者の様に見えたんです。ただ、悪い方ではなくて、普通に仲の良い姉妹と言えるほどでした。
だから、もし響かはなとお話出来る機会があれば、と考えていた時に、そのチャンスが巡ってきました。
だから、聞いてみた。
それだけでした。私もキリエも、似てないねと言われた事はありますし……。
ですが、大いに失敗したと直ぐに悟りました。私の質問をした直後、顔面蒼白に、そして怯えたように小さく震えるはなを見た時に、なんてことを言ってしまったのでしょうと。
それからは自然と体が動きました。
俯き震えるはなをそっと抱きしめました。その際に……唯でさえ小さな体を、更に小さく屈めた時、更に罪悪感を感じました。
私は……このまま拒絶されても構いません。触れてほしくない所を土足で踏みにじったのですから。
ですが、コレがキッカケでこの子が姉と慕う響との仲が悪くなってしまったらと思うと気が気でなりません。
正直、この対応もはなを追い込んでるのではないかと心配してしまいます。
あ、不味いです。大問題です。そう考えるとどんどん冷や汗が流れていくのがわかりますし、どうしようという言葉が頭の中をぐるぐる回っているのがよくわかります。
もぞもぞと腕の中ではなが動いて、恐る恐るその顔を覗くと。
「ぁ、の。わた、しは。大丈夫で、す。取り乱しただけなので、す。だか、ら……そんな顔、されないで、下さい」
震えながらも、一生懸命に話すその顔を、その声を聞いて心から安心しました。すると、私が安心したのが伝わったのか、胸に居るはなもホッとしたように微笑んでくれて……胸を撫で下ろすと言うか、つい頬が緩んでしまいました……。
――――――
「失礼しましたアミタ様。私が勝手に深く考えすぎた結果で御座います」
「いえいえいえいえ、こちらこそ本当にごめんなさい」
お互いに深々ーと頭を下げる中で先程までのはなとは一転して自然な様子の丁寧な口調となったことに驚きを隠せません。きっとコレがはなの普通なんでしょうね。
「しかし、大変驚きました。主……あ、一応響姉様と呼んでおりますが……その呼称の通り主従ですね」
照れたように、だけど嬉しそうに語る。私の要らぬ追求が発端とは言え……こうなったのはいいことなんでしょうかね?
「しかし、色んな意味で歳不相応にも見えますがそれは……?」
「そういう風に躾けられているだけですよ。主と共に行動をしているとまだまだ私は未熟だと痛感しますしね」
フフフと笑うはなを見ていると、本当に余計な事を言ってしまったと後悔の念が絶えず襲ってきます。
「あぁぁあぁ。アミタ様そんな顔をされないで下さい。私も深く考えすぎて悪い方に捉えた結果なんですから。それに、主達以外で普通に話せる方が出来たのは非常にありがたいので。こちらこそ感謝ですよ」
うーん……何となく。ユーリと仲良しさんになれた理由が分かった様な気がします。
「それよりも。今後の為に……何故姉妹ではないと判断したのかご教授をお願いしたいのですが?」
「へ? んー……色々ありますけど……決め手はレヴィと遊んで一瞬具合が悪くなったじゃないですか? あの時、姉妹なら側に行きそうなのに見守ってるだけでしたし、はなも平気ですよって手を振ってたじゃないですか。あれが決定打になったんですよ」
目から鱗がと言わんばかりに目を見開いてるのが可笑しくて、つい笑ってしまう。
「あとは、響がはなを見る時の目が姉としてではなくて……」
途中で止まったと同時に、不思議そうに首を傾げている。
きっと、響のはなを見る目を伝えると、また変な誤解をさせてしまうと思い止めました。
だから。
「いえ。何でもないですよ。さ、沢山お話をしたことですしきっとキリエ達が上がる頃です。私達も用意しましょうか?」
「はい、アミタ様」
きっと私だけだと分かってるから、笑顔でこう言ってるんでしょうとそう理解して、私も嬉しくなりました。
だからこそ!
「今度こそ。お姉ちゃんの威信に掛けて姉っぽい所をお見せします!」
「楽しみにしております!」
二人で、イエイと小さくハイタッチを交わしました。
……響とはなの関係は、なんというか親子に近い物を感じたというのは私の胸に閉まっておきましょうか。
私とはなの二人でお風呂の用意をしていると。ガラリと、脱衣所の扉が開いて……。
「あらお姉ちゃんグッドタイミング。OGTよん」
「えぇ、グットタイミング……ってあら」
お風呂上がりの動きやすい格好のキリエを迎えつつ、その後ろには。長い黒髪を大きな三つ編みにした。
「キリエとっても頑張ったわ! KTGよ!」
「K・T・G! ナイスです!」
イエイと大きくハイタッチをする側で、響の目が何処か遠くを見ているのが印象的でした。
――――――
――sideはやて――
昨晩は。マイシスターと共に、ヴィータを寝かしつけるのが大変で。お陰で……。
「申し訳ないです主殿」
「ごめんなぁ大姉やん?」
「ええよ。コレはコレでえらい……良いもんやし」
アインスと妹が申し訳なさそうにしている中で、すやすやと眠るヴィータを背にしてる。
それにしても……元の世界のヴィータと違って、僅かばかり重い。
女の子相手に使う言葉やないというのは分かっとる。だけど、私の場合……私の騎士達にとっては、ずっと憧れてるはずのものや。
分かってたことやけど、この世界のヴィータは日に日に、年相応に成長してるんやって。
それがなんや、嬉しいような。羨ましいような、ちょっと複雑な気分やってことやね。
ただ、複雑な気分の……5割をとある感情が支配してるんよね。ちなみに、今この場には八神家から、私とちっこい私に、寝過ごしながらも居るヴィータとアインス。
ナカジマ家からはクイントさんを含めたフルメンバーで参戦。テスタロッサ家からはリンディさんとエイミィさん、クロノを除いたフェイトちゃんらが参加。ただ、大きなフェイトちゃんとプレシアさんは、ちょっと体調悪そうやね。
あとはちっちゃいなのはちゃんや、アリサちゃんに、すずかちゃんと、転移してきた皆に。グランツ研究所から王様ーずと、フローリアン姉妹の参戦。
で、グロッキーなフェイトちゃんを除いて、私らは吹き出しそうになりそうなので、とある場所に視線を向けてへん。
なんでやーって言うと……。
「……ツライ」
「ふぁ、ファイトです!」
口からエクトプラズマを出した響を見ると、昨日何があったんか用意に想像できて笑ってしまうんよね。キリエっていう桃色の子が後ろから抱きついとるけど、フェイトちゃんてば、それに対応できひんくらいグロッキーやし。
に、しても……。
T&Hの引率役になっとる奏に、ナカジマ家のチビっ子達を纏める大きい方と小さいギンガ。
研究所組は元々王様……って子が纏めてるから問題ないねー……っと、妹が王様って呼ばれる子の元に行って何かを話しとる。
あ、なんか王様が目を見開いて私を見とる。で、小さい私と視線を行ったり来たり……何やろ?
「なぁなぁアインス? 妹と王様のあれってなんか分かる?」
「フフ、それはですね」
静かに腕を組んで、凄みのある笑みを浮かべてる。その迫力にゴクリと息を呑んで―――
「全くもって分かりません!」
「なんでやねん!!」
渾身のドヤ顔に、自然と突っ込みが出てしもうた。
「流石に主や王の考えることは分かりませんよ」
「そ、それでええんか」
いろんな意味で心配してまうけど、この子はコレが平常なんやなーって。なんというか、リインの天然の上位版やなーって。
ただ、気になるんが……。
「サトー。携帯版で今日こそ倒してみせる!」
「……折角のお休みなんだから。温泉とかにちゃんと入ってからね」
……口数の少ない女の子。丁度奏やギンガ位で、目元こそ見えへんけれど……綺麗な長い銀髪に比例してメンズファッションぽいのが中々ええ感じのギャップを生んでる……ヒタチ・サトさん。
細かい漢字とか聞く前に、他のチビっ子から元気ないねって心配されてて、あんまり会話出来へんかったのよね。
しかし、あまり私ら……飛んできた皆には冷たいと言うか、距離が有る態度やけど。まだ初見だからなのかが判断つかへん。
それに……。
(なんか思い出せた?)
(……ごめんなさい。やっぱり引っかかるんですけど、思い出せないです)
ちらりと視線を奏に向けると申し訳なさそうに小さく頭を下げとる。
サトさんの……私達を寄せない態度を見てると、誰かを思い出しそうやねんけど思い出せへんのよね。奏も何かに気づいたみたいやけど、念話の通り思い出せへんみたいやし……。
それに、何やギンガやスバルもなにか気になるようで、悟られないようにサトさんに視線を向けてるし。何や気になるわぁ。
それにしても……震離と流は夜から朝の何処かで合流って大変やなーって……。
「よし、みなさ~ん車の用意出来ましたので、そろそろ出ましょうかー?」
リニスさんが研究所の駐車場についた所で、今回の車が全部出揃って、皆ではーいと返事の大合唱。みんな元気やなーって。
……ただ、ほんま大所帯よね……。
――side奏――
「……昨晩はお楽しみでしたね」
「……ぅぅ」
辛そうにうめき声を上げる先輩を膝枕してあげる。改めて車内というか、リムジンの中がヤバイんだよね。私達二人にちっちゃいスバルとティアナ、助手席でグロッキーなプレシアさん。フローリアン姉妹と響とはなが乗ってる。
で、何がヤバイかと言うと。
「響ー、温泉も一緒に入るわよー」
「……もう好きにして下さいな」
ツヤッツヤの顔したキリエともはや抵抗しませんよと言わんばかりの響。そして、それを悔しそうに見つめるフェイトさんという嫌な図。
ただ、流石年長というか、年上なのか……ちっちゃいスバルとティアナには悟られない様にしているのは流石です。
はなとアミタはというと。
「今回行くのがここなんですよー」
「わぁ……温泉初めてなんです! 皆様は何度も?」
「はい! といいたいのですが、私達も初めてなんです。あちらに着いたら一緒に回りましょうね?」
「えぇ、宜しくおねがいします!」
すげぇ仲良くなってる。いいこと何だけどまぁ、響が今使い物にならないから仕方ないと言うかなんというか。
なんかもう目から光が失せてる事とまた一緒にって言葉から察するに……お風呂で色々面白い目にあったんだろうなって。
だからさぁ……。
(いいなぁいいなぁいいなぁいいなぁ)
広域念話で私怨言うのやめてくんないかなー。お陰で皆念話切っちゃったし……。私は近すぎて念話以外に直接訴えられてる様な気がするだけというか、なんというか。
響程じゃないけれど、今の私ってば目が死んでる気がするよ。
―――まぁまぁ、その割には嫌がってないじゃない?
……くそう。幻聴が聞こえるし。
まぁ、先輩がコロコロ表情変わるのと、フラれた身だからね。ちょっとだけザマァって思う。
―――……うん、私もだ。
……悲しそうに聞こえたのは気のせいかな? まぁ何でもいいか……。
それにしも、私怨にとりつかれた先輩は気づいてるのかな? 響がサトさんを見る目が若干おかしかったって。
念話を飛ばせないと言うか、あの姿の響相手だと秘密の話をするとなると物理的に移動しなきゃいけないのがキツイなぁ。
そして、サトさんも目元が隠れて見えづらかったけど。響に何かしら思う所があるみたいだし。ちょっと気になると言うかなんというか……。
―――何も無ければ良いんだけどね。
……初めて幻聴と意見が一致したわぁ。
それに関してはその通りだ。折角の旅行、あの子達の楽しみを壊したくないからねー……。正直フラグを建てた気がしなくもないが……。
――side震離――
……今頃皆旅館に向ってる最中かねぇ。
「しかし、こうして震離君と二人で調整作業するのは久しいねぇ」
「えぇ、プロフェッサーの方には流が。こちらもですねぇ」
水出し緑茶をすすりながら、片手でキーボードを叩いてデータを打ち込んでいく。同時に、プロフェッサー側からもデータが送られてくる。
あちらも無事にできてるようで何よりだ。
「今回僕は旅行に参加はないが、スカリエッティ君は結局どうするんだい?」
「んー……プロフェッサーの車を借りて行く……というか片道で行くので。私達を送ったら帰るって言ってましたねー。と言っても行きは私が運転ですが」
正直言えば、この二人にこそ休めっていう企画のはずが、気がつけばただのちびっこ達のシルバーウィークの旅行になっちゃったし。
「上手く行けば……あー、21時位には終るかなぁ」
「まぁ。分かってたことですし良いですよん」
お互いに簡単にため息が出ちゃうけれど。マイナスなものではなくて、どちらかと言えばその程度で終るんだねというため息だ。
「……そういえば、サト君も参加したようだね」
不意の話題に思考が止まると共に、キーボードを叩く手も止まる……が、直ぐに再開。
「えぇ。本人はギリギリまで渋ってましたけどね」
「……そうか。コレで幾分か気持ちが晴れてくれると良いんだが」
顔こそ見えないけれど、博士も……グランツさんもあの人の事を心配しているんだと、よく分かる。
でも。
「……私も流も断片的にしか知らないので、難しいですね」
「……スカリエッティ君が何かを知ってるみたいだけど……彼もまた口を固く塞いでいるからね。でも、よく笑うようになったよ」
「えぇ。お陰でクールな人って印象が強いらしくて……変に人気が出ちゃってまぁ」
ブレイブデュエルもそれなりにしてくれるから、データも取れるし、そのお陰で……ゲームをして笑ってくれるから。
ただまぁ……。
「我が娘達や、ディアーチェ、シュテル。八神堂の騎士とは違う意味で、すごい人気だね。うちの研究員も何人か格好いいって言ってたよ」
「えぇ……男性からも女性からも人気です。白騎士様だったり、ヴァイスリッターとか言われてますしね……」
二人して、はーっとため息。人気が出ることは良いんだけど、違う方向で人気が出てるのはどうなのかなーって。まぁ、私も流も偶に表というかブレイブデュエルに参加するけれど、人目に触れる機会少ないしなー。
私の嫁も良いと思うんだけどなー。ただ、隠れファンというかが居るのは私知ってるし……何より、私が作ったしね!
さ、無事平穏に終わらせて私達も行こうかしらねー。
――sideはやて――
「……眼福やわぁ」
「そうなん?」
フヘヘと、妹と一緒に温泉に浸かりながら露天大浴場の方に視線を向ける。ナカジマ大家族はダブルギンガの統制のお陰なんか、落ち着いとるし、ちっちゃいスバルとティアナについては、こっちのスバルがついて二人の頭を洗ってあげたりしとる。本当に妹が出来たみたいでえらい可愛がっとる。
そして、見ててええなぁと思うんが。小さななのはちゃんとフェイトちゃん。すずかちゃんとアリサちゃんが洗いっこしてるのが、すごく懐かしいわーって。
あれが将来ないすばでぃになるんはほんま凄いで……。
「邪魔するぞ。子鴉と……はやてさん」
「あ、姉やーん。いらっしゃーい」
ざぷざぷと、違う浴槽から歩いてくるちっちゃ私のそっくりさん。ディアーチェこと王様の登場。どっかであったこと有るんやけど何処やろか? 間違いなく会ったら忘れることのないタイプやねんけどな。
「……というか姉やんさ。普通に名前呼んでたけどなんや変なもんでも食べたん?」
「違うわ馬鹿者。同じ小鴉であっても、今は目上に違いない。礼儀位知っておるわ」
難儀と言うか、律儀と言うか……話には聞いてたけれど。全然似てへんわぁ。何よりも……。
「ええよ。私……やない。うちは全然気にせんよ。私も王様って呼ぶから。王様も好きに呼んでくれたら嬉しいわー」
「ム、ならば……大鴉?」
「鴉縛りは続行かーい」
根っこはいい子っていうのがよく分かるわぁ。
すると、コホンと咳払いをしてから。
「それにしても。この子鴉が……こんな落ち着いた人物になるとはわからんな」
じとーとした目で私とちっこい私を行ったり来たりするなかで、私達は笑ってまう。
「いやいや。大姉やんって、案外そうでもないで?」
「せやねー。私の世界……やなくて、未来とは違って皆ちっこいから、色々堪能してるで?」
「前言撤回。鴉は鴉だった。我の気のせいだった」
はぁーっと疲れたようにため息を吐く中で、キリッとした目で。
「はや……大鴉に質問なのだが。今の小鴉が負けたというのは本当か?」
「……?」
な、何のことや? 思わず、隣に視線をやると、参ったなーという顔をしとるけれど。勝負事なんてまだしてへん筈やし。何のことやろ?
「せやぁ。物理的に私の上位互換やで。同じ私が作ったとは思えへんほど、料理の味が違ってん」
「あーそういう事なんや」
そう言えば、昨日もその前も味付け関係で軽く雑談してたわーって。今更ながら思い出したけれど……もしかして。
「……あかん。わた……うちってば、余計なことしてた?」
「え、いやいや全然や。むしろ参考になっとるし、私としてはありがたいで。
ただ姉やん? 私はこういったはずやで。大姉やん、私よりも料理美味しいでって」
「うぅむ。小鴉の料理の腕は我も認めるところだったが、まさかその上が居るとは」
難しそうな顔をする王様と、ケラケラ笑うちっちゃい私を見てるとほんま双子みたいで面白いわーって。なのはちゃんと、フェイトちゃんのそっくりさんも面白いんやけどなぁ。
「3泊4日のこの旅行が終われば、共に料理をさせて欲しい。宜しいか?」
「かまへんよー」
「ちょうどええし、王様もうち泊まればええやん?」
「馬鹿者。旅行の直後では流石に我らもしんどいわ。それに一日充電期間を置かねば、日常生活にも支障が出るであろう……っと、小鴉はニートだったな」
「なんでやねん! ニートちゃうよー? ぷりてぃーな、古書店店主やよー?」
わいわいとする二人を見てると、ほんま和むわぁ。私にも騎士の皆以外の家族が……妹がおったらこんな感じやったんかなって。
……にしても。二日酔いというフェイトちゃんと、プレシアさんはグロッキーのままで、奏とリニスさんが面倒見てるはず。そして、この場にはスバルもギンガもはなも居るけど……。
響は何処行った?
流石に男湯に行ったとは考えにく……いや、ワンチャンあり得るとしても。サトさんもおらへんし、もしかして知らん内に仲良くなって二人でどっか行ったんかな?
まぁ、あんまりにも見えへんかったらとっ捕まえて私がお風呂入れたろーっと。
――side奏――
「うぅぅ、奏ぇ……私響と同室が良かったぁ……」
「一応ワンチャンスは皆にありますから。独り占めはその時にでもしてくださいよ」
二日酔いに苦しみながら、涙声のような情けない声で悲しみに暮れている。
一応部屋割りとしては、チームT&Hと私。ダークマテリアルズとはな。ナカジマ家年長組とギンガとクイントさん。年少組とスバルと小さなティアナ。八神堂にははやてさんに、二人部屋にプレシアさんとリニスさん。一人部屋にサトさんが。そして、3人部屋に先輩が単騎という悲しい結果に。
別に先輩に意地悪した結果ではない。この部屋には流と震離の後から合流する組が来ることと、サトさんは本来予定されてた部屋に入れなくて、一人部屋になっちゃったていう悲しい結果に。
で、各部屋もそれなりに大きいんだけど、結構一杯一杯だということもあって、大人組が分かれる事になったということ。
まぁ、各チームの面々は合宿だーって楽しんでるようだし、先輩も表向きは楽しもうねーってやってたけど……蓋を開けたらネガティブ全開だし。
しかも、響の部屋割りも、今日はマテリアルズと一緒って、取られて嘆いてるし……。ここまで来ると可哀想というかなんというか。
よくよく考えれば、ゆりかご戦で想いを伝えあって、ゆりかご戦の直後に響は意識失ったし、数日してから復活したと思えばなんか女児になってて、初日一緒に寝ようってしたらアリシアさん達に取られたらしくて、次の日には響負けたせいで別々に泊まって……しかも、今晩は現時点で一人っていう……。
流石にそろそろ可哀想になってきた……んだけど。
こんな状態の先輩に現状の響の事伝えたら病むんじゃなかろうか?
普段の響ならば、調子悪い先輩を見て声を掛ける位するはずなのに……。その素振りどころか、気づいてすら居なかったことを。
おそらく何か考え込んでるか、何かあったと思うんだけど……接触が難しいのと、皆がお風呂に行く時に気がつけば姿を消しちゃったしなぁ。
気がつけば、もう夕方だし……そろそろ復活してほしいのと、何処に行ったのか気になるこの頃。
……うーん、なんか落ち着かないのは、コレは先輩を介抱してるからなのか。それとも―――
後書き
長いだけの文かもしれませんが、楽しんで頂けたのなら幸いです。ここまでお付き合いいただき、感謝いたします。
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