魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
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第7章:神界大戦
第220話「たった一人の抵抗」
前書き
リヒトは既に機能停止しています。ただ、宝具はデバイスの機能を必要としていないので、前回発動させる事が出来ました。
=優輝side=
「ぉおおおおおおおおおおおおっ!!」
雄叫びを上げながら、僕は駆ける。
体は既にボロボロで、本来なら満身創痍だ。
けど、神々はそれでも容赦せずに、攻撃を繰り出す。
洗脳された皆も同じだ。
驚愕からの立ち直りはすぐだった。
故に、意表を突けるのは僅か一撃か二撃程度。
……それで、まず一人は落とす!
「はぁっ!!」
「ごぁっ!?」
最も近くにいた“天使”に肉薄。
同時に頭を掴んで膝蹴りを腹に叩き込み、胴体と頭を蹴り飛ばして分離させる。
普通なら即死。だけど、神界では話が別だ。これでは倒しきれない。
「堕ちろ」
故に、“意志”を以てさらに叩き潰す。
神界の法則は、感情がなかった頃にある程度は理解出来た。
言霊を使いつつ、“力場”を発生させてその“天使”を潰す。
“こうすればこんな事も出来る”と、曖昧な思い込みでもそれは実現できる。
「ッ!」
直後に間髪入れず転移する。
“意志”を以て叩き潰したのはいいが、その時点で攻撃に包囲されていた。
倒しきったかは確認せず、次の行動へ移る。
「(転移魔法を“組み立てる”のも無駄だ!極限まで無駄を省き、最適化しろ!)」
ただの転移魔法では、どれほど構築を早くしてもタイムラグが出来る。
今この場において、そのタイムラグすら致命的だ。
……ならば、それも省くしかない。
「(転移魔法の感覚を覚えているのなら、出来るはず。ここは、そういう場所だ!)」
漫画やアニメによくある“瞬間移動”。
それを感覚だけで実現する。
理論?そんなものはない。あるのは“瞬間移動した”と言う事実だけ。
最早、理屈で考える時はとうに過ぎた。
感情、感覚の赴くまま、行動するのみ……!
「ッッ!!」
「なに……!?」
目の前まで肉薄していた神が、驚愕する。
当然だ。転移の連続を捉えたと思ったら、さらに移動の速度が増したからだ。
「ぉおおおおおおおおおっ!!」
向かうは邪神イリス。
元凶さえ倒せば、大きく状況は変わる。
だけど、そう簡単にさせてはもらえない。
「っ!?」
その瞬間、僕に強い力が働く。
先程“闇”に呑み込もうとした時と同じく、拘束できる“性質”の仕業だろう。
「この程度!」
「弾くでしょうね。でも、一歩遅いです」
「ッ……!」
言葉を放ったのは祈梨。
その隣には見覚えのない神がいた。
男とも女とも見える、陰陽師を連想する服装の神が。
やけに目につくと思えば、その訳はすぐに理解できた。
「(結界……!なるほど、そういう“性質”か!)」
結界で僕は隔離された。
中に残ったのは……洗脳された皆だ。
「っづ……!?」
潰し合わせる気なのは、一目で理解した。
それに加え、僕に強い重圧がかかる。
結界にそう言った性質があるのだろう。
「(しかも、僕以外には……)」
僕以外……つまり、洗脳された皆には黒いオーラが纏わりついていた。
明らかに普通ではない。
ゲームで例えれば、こちらにデバフ、向こうにはバフが付く結界なのだろう。
「……だから、どうした……!」
この程度の重圧、戦闘出来ない程ではない。
それに、ここで立ち止まる訳にはいかない。
「(結界で隔離されたのは、むしろ好機……!)」
“意志”を削ぐために潰し合わせるつもりなのは分かっている。
だけど、同時にこれはチャンスでもある。
……今一度、皆の洗脳を解く事が出来るかもしれない。
「ッ!」
思考している内に、既に攻撃が仕掛けられていた。
サーラととこよが同時に斬りかかってくる。
基礎的な戦闘力は二人がトップクラスだから、そうするのは定石だろう。
「ふっ!」
「なっ!?」
「ぐっ……!?」
挟むように繰り出される斬撃。
とこよの方を躱し、サーラの方は受け流した。
それだけじゃなく、受け流したサーラの斬撃をとこよの刀に誘導する。
こうする事で、一瞬とはいえとこよの動きを鈍らせる。
「(速い……直接的な動きでは、今の僕は二人に劣る……!)」
イリスに対する憎しみは増している。
だけど、その上で上手く突破出来ないために歯噛みする。
なにせ、動きを鈍らせられたのと、皆が強化されている事によって、今の状況は完全に劣勢なのだから。
「(“意志”を以て、弱体化を無効化……しきれない……!?そうか、結界だけじゃない。結界外から他の神も“性質”を使って……!)」
結界の効果ぐらいなら、一時的になら無効化出来る“意志”は持てるはず。
しかし、どうやら僕を弱体化させているのは結界だけではなかったようだ。
「ぉおおおおおおおお……!」
いくら力を振り絞ろうと、この身を縛る“性質”によって相殺される。
この状態では、元の世界での全力と同程度しか力を出せない。
「そこ……!」
「邪魔、するな……!」
とこよとサーラを霊撃で吹き飛ばすと、間髪入れずにフェイトが襲い来る。
彼女だけじゃない。アリシア、アリサ、シグナム、レヴィも加勢した。
「ぉぁああああああああ……!」
導王流をフル活用して、五人の攻撃を受け流す。
繰り出される攻撃同士をぶつけ合えば、少ない手数で凌げた。
「ッ!」
直後、瞬間移動でその場を離脱する。
すずかや鈴、はやての遠距離攻撃に、シャマルの拘束などが仕掛けられた。
それを躱すために、一度その場を離脱した。
「簡単に捕まると思うなよ……!」
立体機動を行うために、普段は魔力や霊力を固めて足場にしている。
それを、足場にする度に炸裂させ、設置型のバインドを破壊していく。
「そこっ!」
「はぁっ!」
「ッ……!」
司が大規模な魔法を放つ。
それを瞬間移動で躱した直後、緋雪が飛び蹴りを僕に放つ。
反撃や受け流しを想定していたのか、受け流しても体勢が崩れた。
「好機……!」
「そこよ!」
「やぁあっ!!」
奏、キリエ、アミタが仕掛けてくる。
一瞬遅れて、シュテルや神夜も仕掛けてきた。
「くっ……!」
息をつかせない波状攻撃。
さすがの連撃に導王流の受け流しに粗さが出てくる。
ただでさえ、本来なら満身創痍なのだから、仕方ないとも言えるが……
「ッ……!」
「ふっ!」
サーラが魔力弾で牽制しつつ、攻撃を放ってきた。
魔力弾は創造した剣で相殺し、直接攻撃も受け流して神夜にぶつける。
まだ続く連続攻撃を凌ぎ……
「っぁ……!」
“ギィイン”と、目の前で刀の穂先が止まる。
繰り出したのはとこよで、その一撃を創造した杭二本で挟んで止めたのだ。
「ちっ……!」
反撃しようにも、すぐにそこを飛び退く必要があった。
今まで攻撃してこなかった面子……ユーリやリニス、プレシアなどを恐れてだ。
ユーノはバインドを試みていたが、クロノも動いていなかった。
……一番動きを見せないのは、なのはだが……
「雷か……!」
次々と雷が繰り出される。
リニスとプレシアだけでなく、久遠の雷もあった。
その合間を縫うように、クロノの魔力弾も飛んでくる。
「くっ……!」
動きを止めなければ止めない程、次々と攻撃は増える。
躱しきるのも限界。そう思った瞬間
「呑み込め……!」
「しまっ……!?」
―――“決して砕かれぬ闇”
ユーリによる闇が解き放たれた。
全てを埋め尽くすような、その魔法は本来のものよりも強力だった。
おそらく、イリスの支配下なために“闇”の類が強化されているのだろう。
「(何とか被弾は避けたけど―――)」
瞬間移動で何とか躱し、次の行動を起こそうとする。
……だけど、そこで目にしてしまった。
「っぁ……」
「―――は?」
余波に巻き込まれ、倒れている鞍馬や那美、一部の面子を。
「……ッ―――!」
そして、一つの事柄を思い出す。
同時に、追いついてきた奏の攻撃を受けきれずに吹き飛ばされてしまった。
「(失念していた……!僕と違い、皆は“格”の昇華がなくなっている……!普通に攻撃を食らい続ければ、死ぬ……!)」
そう。神界にいる以上、ある程度の無理は通るだろう。
だけど、そんなの焼け石に水だ。
このままでは、共倒れで父さんと母さんのように……
「―――――――――」
頭が冷えた。怒りと憎悪が急速に冷える。
一周回って冷静になったのか、単にそれどころじゃなくなっただけか。
そんなのはどうでもいい。
「―――これ以上、喪ってたまるか」
今は、皆を死なせないようにするのが先決だ。
「ッッ!」
体勢を立て直すと同時に、瞬間移動で皆から出来る限り離れる。
「(僕らだけを隔離する。……そこに洗脳を解くチャンスがあると思った。だけど、奴らからすればそれ以上に“死ぬ可能性”の方が高い!それが狙いか!)」
全部、全部仕組まれていた。
皆が洗脳されるまでの一連の流れも。
父さんと母さんを殺されて、感情が蘇る事も。
感情が戻ったために、洗脳された皆を見捨てるのを躊躇うのも。
「(全部、掌の上だった……!)」
多少の想定を上回った所で、軌道修正も簡単だった。
感情が戻っていなければ、結界内で誰かを洗脳下から助け出せていただろう。
だが、同時に誰かを見捨てて死なせていたかもしれない。
そうなれば結果的に僕らの戦力が減っていた。
「(そうだ。僕が見捨てられないと思う事も、組み込まれていた……!)」
なんて、なんて見通しが甘かったのだろうか。
否、それすらも仕組まれていたのだろう。
最初、ソレラと祈梨に遭遇した時点で、こうなる事は決まっていたのだろう。
「(この期に及んで、なんて甘い―――)」
思考する間もなかった。
眼前に再び奏が迫る。
今度は、身体強化に特化させた司も一緒だった。
「(どう転んでも、僕に“傷”を負わせるか……!)」
皆を見捨てる選択を取れば、突破する事は可能かもしれない。
だけど、そうすれば僕は一生後悔する。少なくとも、心に傷を負う。
見捨てない選択を取れば、この状況を打開する事も厳しい。
……どちらにしても、僕が絶望するには好都合って訳だ。
「ふざけ……!」
「ッ!」
斬りかかってくる奏と司の攻撃を逸らす。
本来なら、もっと切り結ぶ事も可能だが、急いで二人を吹き飛ばす。
同時に、その反動で上体を逸らし……矢と魔力弾を避けた。
「(射線上でもお構いなしか……!)」
今の攻撃は、全てではないとはいえ明らかに司と奏にも当たる軌道だった。
洗脳された影響か、イリスの指示なのか、皆は味方ごと攻撃するのに一切の躊躇がないらしい。
「(ふざけるな……ふざけるなよ……!)」
一度頭が冷えても、憤怒は収まらない。
むしろ、再燃するかのように再び燃え上がる。
「くっ……!」
奏と司に入れ替わるように、フェイトとアリサが来る。
同じように受け、想定していた行動をキャンセルさせて突き飛ばす。
「緋雪……!」
「あは、あはははははははははははははははははははは!!」
「(狂気が振り切れてる……!?父さんと母さんの死の影響か!?)」
咄嗟に片腕を犠牲に、緋雪の蹴りを防ぐ。
同時にいくつか矢と砲撃が飛んでくるが、直撃は避けた。
「(ああくそっ!また緋雪を“この状態”にしてしまった……!止める余裕なんて、今度はないというのに……!)」
両親の死に、緋雪は洗脳下でも嘆いた。
その悲しみが慟哭として、そして狂気として今振りまかれているんだ。
証拠に、狂気の笑みを浮かべながらも、緋雪は涙を流していた。
「ッ……!」
本音を言えば、何としてでも緋雪を止めたい。
だけど、今はそれどころじゃなかった。
凄まじい力で振るわれる攻撃を避け、受け流し、緋雪を突き飛ばす。
同時に、瞬間移動して一度仕切り直す。
「っ!」
……が、読まれていた。
咄嗟にヘッドスリップで飛んできた矢を避ける。
しかし、その矢は風を纏っていて、体勢に影響が出た。
「ッ―――!」
次に襲い掛かって来たのは、刀とレイピアの連撃。
先程の矢は椿の仕業で、連携するようにとこよと葵も仕掛けてきたのだ。
「(とこよは実力で、葵は動きを知っているから……!)」
導王流を以ってしても、二人の攻撃は捌ききれない。
どちらも、一対一でも凌ぎ切れない相手なのだ。
そして、不用意に距離を離せば……
「っ、つぁっ!!」
殲滅魔法が得意なはやて、ディアーチェ、ユーリ、アインスが仕掛けてくる。
四人一斉だと、いくらとこよと葵でも死ぬ。
故に、全力で霊力と魔力を放出して二人を射程外に吹き飛ばす。
「(ギリギリ……!)」
二人を吹き飛ばすために、僅かながら時間を使う。
結果、回避のための瞬間移動は本当にギリギリだった。
「ッ!」
もちろん、瞬間移動後も狙われる。
襲い掛かって来たのはサーラだ。そして、彼女だけじゃなかった。
「ちっ……!」
サーラの攻撃を受け流し、カウンターを防がれた所で体を逸らす。
紙一重で加勢してきたシグナムの攻撃を躱す。
「邪魔だぁっ!」
「生憎、余裕はないからな!」
さらに剣を創造して操作する事で、ヴィータの攻撃も牽制する。
さすがにサーラを相手にしつつ、さらに追加で二人は直接相手に出来ない。
「(これも、あるからな……!)」
瞬間移動で後方にずれる。
直後、先程までの心臓の位置から手が突き出てくる。
シャマルの仕業だ。
「(少しでも気を抜けば、誰かが死ぬ……!)」
間髪入れずに、次の行動を仕掛ける。
行うのは攻撃でも防御でも回避でもなく、サーラ達の転移。
瞬時に術式を組み立て、発動させる。
「ちっ……!」
シグナムとヴィータは飛ばせた。
しかし、サーラはそれを回避してきた。
その事に、僕は舌打ちする。
「ッ……くっそぉっ!」
元々ギリギリだったというのに、そこへ制限が付けばどうしようもない。
サーラの攻撃を受け流した瞬間、青い軌跡が煌めく。
レヴィが、その速さを以て斬りかかって来たのだ。
だけど、サーラがいるとはいえ、まだ二人掛かり。何とかなった。
……同時に、アミタとキリエ、そしてシュテルとディアーチェが来なければ。
「貰った!」
「がっ……!?」
アミタとキリエの銃撃に、シュテルの魔力弾。
サーラとレヴィの攻撃を凌ぎながら、それらをどうにかする事は厳しい。
おまけに、巻き添えになるサーラとレヴィも何とかしなければならない。
故に、僕は甘んじて一撃を受ける事に決めた。
シュテル達三人の攻撃を、創造魔法で盾を展開する事で凌ぐ。
同時に、サーラの懐に無理矢理肉薄。攻撃のカウンターで上に吹き飛ばす。
間髪入れずに障壁を多重展開。
レヴィと共にディアーチェの殲滅魔法から身を守る。
……そして、唯一防ぐ手立てがなかったレヴィの一撃を食らった。
「(―――ダメだ)」
その時点で悟った。
このままでは、共倒れになると。
明らかに、イリス達の思惑通りになってしまうと。
感情が戻ったために、それがはっきりと理解できた。
「………」
無論、だからと言って諦められる訳がない。
だから手段を考える。
考えて、考えて、考えて、考えて、考えて、考えて、考えて、考えて、考えて。
考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて。
「ッ―――」
……そして、一つの答えに行き着いた。
あらゆる手段を思いつき、そして欠点に気付いてその案を切り捨てた。
それを繰り返し、辿り着いたその“解”は……
「(……あぁ、これは“ツケ”か……。今まで僕がしてきた事の、因果……。この身に余る事を成そうとしたがための反動が、ここで……)」
傲慢だったのかもしれない。
守りたいものを守る。ただそれだけのつもりだったのに。
いつの間にか、その範囲が広くなり過ぎていたのかもしれない。
尤も、実際に追い詰められた理由はイリスが仕組んでいただけに過ぎない。
……それでも、“ツケ”が回って来たのだと、僕は思った。
「(……こんな状況に追い込まれても、皆は……)」
頼って欲しいと、言われた。
無理をしないでほしいと、何度も言われた。
それでも、僕はその通りにしていなかった。
そんな僕が今更頼って、皆は受け入れてくれるだろうか?
……否
「(それでも、僕は皆を信じよう。“可能性”を、諦めないでいよう)」
瞬間移動で、レヴィから間合いを離す。
ディアーチェの攻撃を凌ぎ切ったと同時だから、これで巻き添えは起きない。
出来る限り、皆の包囲が薄い場所に行く。
「(……尤も、この“手段”自体が綱渡り。皆を、そして自分を信じなければ成し得ない事。その上、さらにきつい綱渡りをするんだ。信じなくちゃ、実行も出来ない)」
狙いは一点。先程までと大して変わらない。
“皆を助ける”。それだけだ。……今は。
「(最後に宝具を使わなければ、これすら出来なかった。ありがとうリヒト)」
先程までとの違いは言葉にすれば簡単だ。
“自分の身を顧みない事”。これに限る。
「……来なよ、皆。今まで、少なからず僕に不満や思う所はあっただろう?……いいよ、悉くそれを受け止めてやる」
挑発するように、手招きをする。
瞬間、魔力と霊力が膨れ上がるのを肌で感じた。
そして、皆の魔法や霊術が、解き放たれる。
―――……最期、だからな。
か細く呟いたその声は、その轟音に吹き飛ばされるように、掻き消えて行った。
=out side=
「っ……!」
放たれた攻撃を、優輝は瞬間移動で躱す。
そして、次の一手を打たれる前に優輝は行動を起こした。
だが、それは回避でも防御でも、攻撃の準備でもない。
表情が僅かに動いた程度で、パッと見て何も変化がないように見える。
「あはっ♪」
「ッ……!」
直後、最初の一手が来る。
転移してきた緋雪と、瞬間的な速さを発揮して肉薄した奏の挟撃だ。
「ふっ……!」
「はぁっ……!」
「逃がさないよ!」
その挟撃を受け流すのを狙ったように、一瞬遅れてフェイトとレヴィが来る。
さらに、そんな二人をフォローするように後方から魔力弾も飛んできた。
「はっ!」
だが、優輝はそれらを最低限のダメージで切り抜ける。
攻撃の切っ先と魔力弾が掠り、優輝の体に傷が刻まれる。
「うっ……!?」
直後、流れるように肉薄していた四人が吹き飛ぶ。
優輝が傷を負うのを代償に繰り出したカウンターだ。
「(かつて行った、互換性のない代償。それによって僕は導王流の極致に至った。あの時は無我夢中だったから、どうやったかは覚えていない。だから、再び至る事は出来なかった。それは、例え同じ条件で感情を代償にした所で同じだろう)」
そもそもやり方を覚えていないから、自分から行う事は不可能だ。
優輝はそう思い、別の方法を考えていた。
「(だが、神界なら話は別だ)」
理屈が必要のない神界でなら、あらゆる事象に互換性が持たせられた。
“こうする代わりにこうなる”と、理屈のない決めつけのような対価が支払える。
「(感情を失う代わりに、極致に至る。そんな事もできる訳だ)」
“そう在るべきだから、そう在る”。そんな理屈にもならない事が可能。
それが神界だ。故に、一度そう“定めて”しまえば、不可能を可能にできる。
「う、ぐっ……!」
援護射撃と共に、サーラととこよが迫る。
フレンドリーファイアをさせないように、優輝は二人の攻撃を受け流していく。
だが、当然そんな事をすれば、傷はどんどん刻まれる。
「シッ!」
「えっ!?」
「くっ……!」
刀と剣が、優輝の腕を掠める。
その代わりに、とこよとサーラは大きく後ろに吹き飛んだ。
「っ……!」
直後、優輝は錐揉み回転するかのように体を捻る。
飛んできていた砲撃魔法や魔力弾などを躱すためだ。
「はっ!」
「(速い!?)」
直後、司が転移してシュラインを振るって来た。
神々の支援による強化を受けた状態だからか、その速さは優輝の想定を上回る。
直撃のダメージは受け流したが、大きく吹き飛ばされる。
「ッ!」
そこへ、狙ったかのように矢がいくつも飛んでくる。
椿と鈴の仕業だ。
吹き飛んだ状態から、優輝はなんとかその矢を創造した剣をぶつけて相殺する。
「くそっ……!」
手が休まる暇は存在しない。
さらに葵が仕掛け、その背後からは何人もの魔法や霊術が迫る。
このまま葵の攻撃を迎え撃てば、優輝はともかく葵が死ぬだろう。
そのために、優輝は自ら葵に突っ込み、まず一撃を受け流す。
「つっ……!」
斬り返しの二撃目を脇腹に掠らせつつ、優輝は葵を巻き込んで瞬間移動する。
直後、移動先で葵による首を狙った一撃を防いだ。
「(ダメだ。躱しきれない……!)」
躱しても、移動しても、次々と攻撃が迫る。
それを見て、躱しきれないと優輝は確信した。
「巻き添えは、させない……!」
司や奏、とこよにサーラなど複数人が一斉に斬りかかる。
同時に、はやてやディアーチェなど、後方支援による砲撃も放たれた。
さすがにこれほどの人数を瞬間移動で巻き添えから避難させる事は出来ず、同時に全ての攻撃を凌ぎ切る余裕も優輝にはない。
……そのため、優輝は真っ先に“選択”した。
「凌げ、“霊魔螺旋壁”!!」
肉薄してきた者達ごと、優輝は障壁で守った。
“受け止めるため”ではなく、“受け流すため”の障壁は、確かに攻撃を防いだ。
「ご、ぁ……ぐ……!」
だが、当然のように障壁の内側にいた者の攻撃は防げない。
元より、優輝は肉薄してきた葵達を死なせないために、こうしたのだから。
必然的に、守った代わりに優輝は彼女たちの攻撃を受け止める事となった。
レイピアが、槍が、刃が、刀が、剣が、優輝の体を貫き、切り裂いた。
「ッッ……!」
攻撃を凌いだ直後を狙っていたのか、緋雪が転移と同時に斬りかかってくる。
優輝は、それを片腕を犠牲に受け止める。
同時に、遠方から飛んできた椿の矢が足を貫く。
「(肩、腹、心臓、腕……足もか。……はは、頭以外無事じゃないな)」
朦朧とした意識の中、優輝は自分の状況を軽く分析する。
片腕、片足は斬り飛ばされ、致命傷もいくつか負っている。
思考のために頭だけは攻撃を受けないように避けたが、本来なら即死の傷だった。
「条……件、完…了………!」
絞り出すように優輝はそう言った。
直後、出ていた血が魔法陣を描く。
魔力と霊力が迸り、その圧力が優輝以外の全員を拘束する。
「(致命傷を“代償”とし、力を引き出す……!)」
優輝がここまで致命傷を負っておきながら回復しないのには理由があった。
それは、致命傷を力を引き出すための“代償”とするためだった。
力を得た代わりに代償を背負う。優輝はそれを利用していた。
力と代償を逆説的に反転させ、代償を先に決めて力を引き出す。
神界ならではの無理矢理な手法で、優輝は規格外の力を得ていた。
「(……まだだ……!これじゃあ、足りない……!)」
しかし、代償を利用して引き出した力でも、優輝は足りないと確信した。
「(もっと、もっと魔力と霊力を、純化させないと……!)」
力の純化。それはただ“力”として存在するエネルギーへと変える行為。
言い換えれば、より理力へと近づけているのだ。
「ぁ、ぁあ、ぁあああああああああああ………!」
声にならないような声を上げ、優輝から溢れ出す力が一つの塊になる。
そしてそれは徐々に小さくなり、機能停止しているリヒトへと吸い込まれた。
「っ………!」
機能停止したリヒトは、デバイスとしての役目を果たしていない。
しかし、それでも優輝の“剣”としてそこに在る。
力が一点に集束したのを見た優輝は、力の圧力に警戒している周りを見据える。
「……こうなったのは、僕の責任だ。だから、この身に代えてでも皆だけは助ける。……責めてもいい。恨んでも、憎んでもいい。業は、僕が背負う……!」
剣の輝きが増していく。
想いを束ね、意志を込めたその輝きが結界内を埋め尽くす。
「導きを、救いをここに!“導きを差し伸べし、救済の光”!!」
導きの光が迸る。
限界を遥かに超えた力によって放たれたソレは、神々の力を凌駕した。
後書き
瞬間移動…文字通りの瞬間移動。転移魔法のタイムラグを削除した結果の産物。理論はなく、転移魔法の感覚で移動する事で瞬間移動している。戦闘中だと、短距離しか使えない。神界限定で発動可能。イメージはDBの高速戦闘でのアレ。
“結界の性質”…陰陽師っぽい服装の神がもつ“性質”。文字通り結界に特化した“性質”で、神すらもその結界に囚われると簡単には出られない。
霊魔螺旋壁…霊魔相乗の要領で、螺旋状の障壁を張る。螺旋状ではあるが、全方位からの攻撃を防ぐ事が出来る代物。螺旋状に渦巻いているためか、攻撃を受け流す性質を持つ。
力と代償の反転…“力を得た代わりに代償を背負う”という因果を反転させ、先に代償を背負って力を得るという手法。定義や概念をその場で定められる神界ならではのごり押し。なお、これによって優輝は神界なら治せるはずの傷が治せなくなっている。
優輝、満身創痍なのを顧みずに限界突破。
この瞬間のみ、優輝は神界でも上の中にめり込む力を発揮しています。
優輝が思いついた“策”は、それを実現する程の“意志”が込められていました。
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