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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第7章:神界大戦
  第219話「絶望と憎しみ、負の感情」

 
前書き
何気に元の世界のメンバーの描写をしていないという……。
一応、今回は若干出番があります。
ちなみに、洗脳から生き残るメンバーは一部以外成り行きだったりします。前回の時点でせっかくサーラが生き残ったのに結局あっさり洗脳されたりしてますし。
 

 









「どうなっているの!?」

「わかりません!ただ、観測は出来てもそれ以外は……!」

 優輝達が神界に突入してしばらく。
 元の世界でも、管理局や陰陽師が動いていた。
 しかし、既に祈梨の結界によって道は閉ざされており、援軍を出せずにいた。

「霊術から見ても、解析出来ない……これが神界の力なの……?」

「打つ手なし……という事なの……?」

 澄紀も、リンディも、立ち往生するしかなかった。
 それ以上の干渉が一切出来ずにいた。

「ふむ、どの観点から見ても、突破は不可能に近いか」

「エネルギー自体は観測出来るのだけどね」

 この場にいるのはリンディと澄紀達だけではない。
 ジェイルとグランツも来ており、彼らは比較的冷静に分析を続けていた。
 集まった管理局員の半分程がジェイルを見て捕まえようとしたが、リンディ達一部の管理局員とジェイルの護衛であるナンバーズが止めた事で、今は大人しくしている。

「理論上、この障壁らしきものが持つエネルギーを超えた威力を集中させれば、突き破る事は可能だろう。幸い、本来干渉が出来なかった神界の力に干渉出来るようにはなっているみたいだからね」

「問題は、貫ける程の威力が用意できないと言う事だね」

 “意志”を強く持てば、本来以上の威力を発揮する事も可能だ。
 しかし、その情報を彼らは知らない。
 そのため、こうして立ち往生が続いていた。

「アルカンシェルなら……」

「止めておきたまえ。確かにアルカンシェルは空間歪曲などの特殊効果から高い殲滅力を発揮する。しかし、この障壁らしきものは、あらゆる攻撃を等しく“攻撃エネルギー”として受け止めている」

「物理的な力だろうと、魔法であろうと、霊術であろうと、空間歪曲であろうと、この障壁らしきものは全て同一のものと見なしているんだ。アルカンシェルの特殊性が一切役に立たない」

 管理局員の一人が呟いた提案は、ジェイルとグランツによって潰される。
 実際、アルカンシェルでは障壁は貫けない。
 神界への道を塞ぐ障壁は、“道を妨害するモノ”として存在している。
 “そういう存在”として在るモノに、空間歪曲程度では意味がなかった。

「……この分だと、先行して突入した彼らも戻れないだろうね」

「……そうだね」

 ジェイルはともかく、グランツも気が気でなかった。
 家族であるキリエやアミタ達が向こう側にいるため、安否が気になっていた。

「クロノ……皆……」

 そして、それはリンディも同じだった。
 ただ無事を祈るしか、今出来る事はなかった。

「時間さえかければ、かなり強力な攻撃が出来るはずだ。急ぐ必要もあるが、儀式魔法及び霊術で突破を試みよう」

 ジェイルの提案で、ひとまず障壁の突破を試みる。
 何十人もいる魔導師や陰陽師の力を一点に集めれば、或いは……
 そんな想いを込めて、彼らの奮闘が始まった。





















「っ……!」

 洗脳解除が効かなかった。
 その結果が分かった瞬間、優輝は即座に導王流を構えた。
 そして、緋雪の飛び蹴りを受け流す。

「ちっ……!」

 直後にサーラ、葵、奏、シグナム、フェイトの近接攻撃を何とか受け流す。
 同時に椿や鈴、アリシア達の霊術や矢を霊力の障壁で凌いだ。

「ッッ……!」

 最後に残ったメンバーでバインドと弾幕が同時に繰り出される。
 ヴィータのギガントシュラークから逃れつつ、優輝は一旦後退する。

「(洗脳解除の術式が通じない……!足りないか……!)」

 術式としては最高峰だと自負していたモノが、通用しなかった。
 今の術式をさらに昇華させるのは不可能なため、“意志”が足りないと考える。
 だが、次の手を打つ前に相手の攻撃が始まった。

「避けて!!」

「ッ……!」

 とこよの叫びと共に、全員が散り散りに避ける。
 しかし、あまりにも物量が多すぎた。

「ぐっ……!」

「ぁあっ……!?」

 攻撃が掠る。“闇”が迫る。
 ただでさえ敵いもしない物量差に加え、イリスの洗脳がある。
 足を止める訳にはいかなく、故に回避に手一杯だった。

「『……優輝君』」

「『……手短に頼む』」

 その最中、とこよの伝心が優輝へと繋げられる。
 優輝も回避と防御に手一杯なため、手短に済ませようと応える。

「『まだ、諦めてないみたいだね?でも、その手を使う暇がない。……だったら、私と蓮ちゃんで時間を稼ぐよ』」

「『何……?』」

「『神界の法則に慣れてきて、気づいたの。……自分の心象を映し出す結界なら、大いに効果を発揮するだろうって』」

「『心象……あれか……!』」

 とこよの言う結界に、優輝は心当たりがあった。
 守護者だった時と、修行の時にも見せてもらった結界。
 彼女の魂の故郷を映し出す結界の事だった。

「『他に手がないなら、私は行くよ』」

「『……任せた』」

「『……うん。健闘を祈るよ』」

 その結界で神々を隔離した所で、とこよ自身が勝てる訳じゃない。
 とこよが倒れるか洗脳された時点で、結界は解けるだろう。
 それがタイムリミットなのは、優輝もとこよも分かっていた。
 しかし敢えてそれは口にせず、互いを信頼して後を任せた。

「……蓮ちゃん。ついてきてくれる?」

「……はい。ご主人様のためなら、地獄の底であろうとお供いたします。……今度こそ、最期まで共にいます」

「ふふ……心強いや。……じゃあ、行くよ……!!」

 合流し、僅かな時間会話を交わす。
 そして、二人で神々の大群に向き合った。
 本来、その結界を発動するには術式を組むのに時間が掛かる。
 しかし、心象を映し出す結界なため、神界ならば“意志”一つで発動出来た。

「顕現せよ……!“我が愛しき魂の故郷(逢魔時退魔学園)”……!!」

 瞬時に展開された結界が、神々のほぼ全てを巻き込む。
 イリスも例外ではなく、残ったのは比較的優輝達の近くにいた一部の神々と“天使”、そして洗脳された者達だけだった。

「これが私の全身全霊……今までの“私”の総て……!」

 対し、結界内。
 そこでは、神々の大群と大勢の式姫が対峙していた。
 蓮以外、その式姫達は本人ではないが、その強さは変わらない。
 その上守護者の時と違い、とこよの“意志”によりむしろ強化されていた。
 間違いなく、今この場においてとこよが最高戦力を持っていた。

「そう簡単に倒せると思わない事だね!!」

 既に満身創痍。しかし、とこよの闘志はまだ燃え尽きていなかった。
 打開策を優輝に託し、とこよは最後の力を振り絞って神々とぶつかった。













「ッ……!」

 一方で、優輝達の方はというと……

「あはははははははは!!」

「シッ……!」

「そこ!」

「厄介な……!」

 相も変わらず、苦戦していた。
 緋雪の猛攻と、その隙を埋めるような奏の連撃。
 さらに、援護に司と隙のない連携で攻撃してくる。
 加え、そんな三人にお構いなしにアリシアやサーラなど、他の者にも攻撃されており、防戦一方に近かった。

「はっ!!」

   ―――導王流壱ノ型“流撃衝波”

 だが、何も出来ない訳ではなかった。
 とこよが引き付けた分、攻撃の密度は減っていた。
 その差が優輝に反撃のチャンスを与え、カウンターを成功させた。
 緋雪達の連携が流れるようにカウンターで潰され、吹き飛ばされる。

「(結界を破壊する隙がないならば、術者を倒す!)」

 優輝の狙いはただ一つ。祈梨を倒す事。
 結界は優輝達がここに来るまでに何重にも重ねたためか、先程イリス達に包囲されていた時の結界よりも遥かに破壊しづらかった。
 時間を掛けた分、祈梨の結界の方が強固だったのだ。
 故に、破壊よりも術者の撃破が早いと判断し、倒す事を目的としていた。

「ふっ……!」

 転移で避け、回避できない攻撃を受け流す。
 バインドや拘束術は引っかかる前に解析し、分解する。
 さらに、その分解したエネルギーを集束し、攻撃を撃ち落とす。
 洗脳された味方だろうと、“天使”だろうと、神だろうと、邪魔させなかった。
 アスレチックを乗り越えていくように、軽快な動きで襲い来る相手を弾く。
 攻撃や攻撃した本人を足場にさらに加速し、祈梨へと肉薄する。

「はぁっ!!」

 魔力と霊力の込められた拳が繰り出される。
 しかし、それは祈梨に届く前に障壁によって阻まれた。

「ッ!」

 その障壁に手をつき、まるで倒立回転するようにその場から退く。
 直後、そこへ次々と司や緋雪、サーラ達の強力な攻撃が直撃した。
 自分一人で手間取るならば、相手の攻撃も利用すればいいと考えた行動だ。
 実際、優輝を狙った攻撃が次々と障壁へと当たり、かなり脆くなっていた。

「ふっ!!」

 そして、今度は回し蹴りを叩き込み、優輝は障壁を破壊した。
 同時に魔法陣を足場に加速魔法を使って一気に祈梨の懐に入った。

「はぁああああっ!!」

 強い“意志”を持った攻撃。
 それが祈梨へと叩き込まれる……そのはずだった。







「―――お忘れですか?」

「ッ……!?」

 その拳はあまりにも呆気なく祈梨の体をすり抜けた。
 同時に、優輝の体が一気に重くなる。

「ぐっ……!」

 洗脳された味方の攻撃も止まったが、既に放たれたものは優輝に接近する。
 それらの攻撃を優輝は受け流し、体勢を立て直して着地した。

「がふっ……ぇ……?」

 その瞬間、優輝の口から血が零れ、膝を付いて吐血した。
 視界が揺れ、体が粉々にされたかのように激痛が生じた。

「貴方達が神界の者に攻撃出来るのは、私の力があってこそ。……故に、私の匙加減一つで貴方を完封するのは容易い事です」

「ごふっ、ぐ、これ、は……!」

 今までの無茶の反動が、優輝を襲う。
 “格”の昇華があったからこそ出来ていた身体強化は、それがなくなれば反動で体が壊れてもおかしくはないものだった。
 そして、つい先程までの戦闘で、優輝はあまり死んでいなかった。
 死んでいればリセットされる反動も、そのせいで残っていた。
 祈梨の解説を聞くまでもなく、優輝はその反動によって苦しんでいたのだ。

「残念でしたね。希望はまだ掴めると、まだ諦めるには早いと、そう思っていたようですが……既に詰んでいるのですよ。いい加減に認めなさい」

「っ………」

 影響が大きく出ているのは、優輝だけではない。
 優香や光輝、久遠、なのはもまた、今までの“意志”による限界突破が祟った。
 反動が体を襲い、激痛に見舞われる。
 そして、もう二人。

「ッ、ぁ……」

 結界が割れ、とこよと蓮、そして相手していた神々が再び現れる。
 二人もまた反動で力尽き、直後に“闇”に呑まれた。

「く、そ……!」

「足が震えてるよお兄ちゃん!あははは!」

 優輝が立ち上がろうとするが、顔面を狙った攻撃が緋雪によって叩き込まれる。
 辛うじて腕で防いだが、再び倒れ込む。

「優輝……!」

「緋雪、やめて……!」

「嫌だね!だって、お兄ちゃんがいなければこんな状況にはなってないもん。……こうなるのは当然の報いだよ。ねぇ?」

「ぐっ……」

 倒れ込む優輝の頭を掴み上げ、緋雪は言う。
 その緋雪の後ろには、司や奏、優輝を慕っていたはずの者達が、冷たい目で優輝を見ており、さらにバインドを掛けてきた。

「そんな、心にもない事を……」

「心にもない?あはっ、おかしな事を言うねお母さん。一瞬でも、そんな事を考えたのなら、それは本心なんだよ!」

「ッ……」

 笑いながら言う緋雪は、確かに正気ではなかった。
 それでも、その言葉に即座に反論できない。

「私だけじゃないよ。司さんも、奏ちゃんも、椿さんや葵さんすら、“志導優輝を狙ったから他も巻き込んだ”と言う事実がある以上、お兄ちゃんを心のどこかで責めた!……お父さんとお母さんも、そうでしょ?」

「緋雪……」

 誰もが、同じ事を考えた。
 決して敵いそうにない相手と戦い、何度も殺された。
 そんな絶望の折、ふと考えるのは“どうしてこうなったのか”だ。
 絶望の中ならば、その思考から誰かを責める事になるのはあまりに容易だった。
 それは優香と光輝も例外でなく、故に言い返せなかった。

「ぁああああああああああああっ!!」

「ッ!?なのはちゃん……!?」

 そこへ、未だに優輝の頭を掴んでいる緋雪目掛け、なのはが突貫した。
 なのはも今までの無茶から体がボロボロになっているはず。
 しかし、それでも二刀を束ねて緋雪へと繰り出し、突き飛ばした。

「それでも……っ、私は……っ!」

「うるさいなぁ……」

 反論しようとするなのはに、緋雪は鬱陶しそうな反応を見せる。
 片手で胴に刺さっている二刀を引き抜こうとし、掌をなのはに向ける。

「ッ!」

「……へぇ」

 直後、魔力弾が緋雪の掌を弾き、即座にその腕を斬り落とした。
 これで破壊の瞳による攻撃を防いだ。

「なのはちゃん、さらに強くなってない?……まぁ、でも」

「ぁ……」

 優輝を襲う緋雪に集中した事がいけなかった。
 なのはの背後から、イリスの“闇”が迫る。
 回避するには遅く、なのはも“闇”に呑まれてしまう。

「ぅ、ぁ……!?」

「ぐっ……!?」

「っ……」

 そして、優香と光輝、久遠も同じように“闇”に呑まれてしまった。
 これで無事なのは優輝のみとなる。
 その優輝も、既に身動きが取れない程満身創痍だ。

「ッ……!」

「っ、今のは……」

 その時、“ザワリ”と司が何かを感じ取る。
 天巫女故の、感情の感知能力は洗脳されていても変わらない。
 その感知能力が、優輝から何かを感じ取ったのだ。

「既に勝ち目はゼロに等しいですが……油断はしません」

「っ……!」

 イリスが指示を出し、一部の“天使”が優輝に攻撃を仕掛ける。

「ふっ……!」

 刹那、その攻撃が受け流される。
 反撃に出る事のない、防御に専念した導王流。
 今この場において、その動きにさらに磨きがかかっていた。

「まさか……!」

 “天使”達の攻撃を受け流しつつ、少しでも包囲を抜けようと移動する優輝。
 その姿を見て、緋雪は思い当たる節があった。

「この期に及んで、またアレを……!」

 それは、大門の守護者との戦いでも使った、導王流の極致。
 あらゆる攻撃を受け流し、逸らし、そして反撃に転じる最終奥義。
 その片鱗が優輝から感じられたのだ。
 反撃が通じない今、攻撃を受け流す事しかしていないが、だからこそその時の極致の片鱗を見せる事が出来ていた。

「させませんよ」

「ガッ……!?」

 だが、それすら神達は許容しない。
 既に満身創痍で、体にガタが来ている。その上に“性質”による拘束が入った。
 祈梨による“格”の昇華がない今、それを抜け出す術はない。

〈マスター!〉

「ぉ……ご……ふ……!?」

 辛うじて、霊力と魔力による強化と障壁によって、身体欠損は逃れる。
 だが、それは目に見えた範囲だけだ。
 動きを止められ、嬲られたその体はもう動かせない状態だ。

「トドメです。死になさい」

 最後に、イリスが極光を放つ。
 それは間違いなく優輝を呑み込み、消し去るだろう攻撃だった。
 そして、優輝にはもうそれを避ける術はない。









 ……そう。“優輝には”……



















「「ぁぁぁああああああああああああああああああああああああ!!!!」」

 それは、ただ“守りたい”その一心だった。
 今まで、親らしい事が出来ず、自分達よりも強い息子だった。
 そんな息子が、目の前で嬲られ、今まさに消し去られそうになっていた。

「ぇ―――?」

 声を上げたのは、優輝か、緋雪か、それとも両方か。
 優輝の状況を目の当たりにして、その二人はじっとしていられなかった。
 例え“闇”に呑まれ、自意識が洗脳されようとも。
 ……何としてでも、親として優輝を守ろうとした。

「(母さん、父さん……?)」

 体中“闇”に塗れ、ボロボロになろうとも、二人は動いた。
 未だかつて出した事のない速度で優輝の下へ行き、突き飛ばした。
 そして、その代償に……

「ぁ―――」

 二人が、極光に呑まれた。

「う、そ……?」

 その様を見て、緋雪が呆然と声を上げる。
 当然だ。親が目の前で消えたのだから。
 その事実は洗脳されていても変わらず、そのためショックを受けた。

「――――――」

 だが、それよりも。
 優輝の方が、そのショックは大きかった。

「(……なんで、二人が……どうして……)」

 ぐるぐると、頭の中で自問が繰り返される。
 本当は理解出来ていた。状況としては簡単な事だった。
 だが、その“自分を庇った”と言う事実を受け入れられずにいた。

「ぁ……ぁぁ……」

 優輝は頭が悪い訳じゃない。
 頭が固い訳でもない。
 そのため、自然と目の前で起きた事は理解できる。出来てしまう。

「ッ……!」

「ぁ、ぁぁぁ……!」

 “ビリリ”と、感情の動きを司が感じ取る。
 同時に、優輝へと霊力や魔力が螺旋状に纏うように集束していく。
 そこへ、“天使”達が再び容赦なく襲い掛かった。











「―――ぁああああああああああああああああああああああああ!!!」

 刹那、それは爆発した。
 怒り、憎しみ、後悔。行き場のないその“感情”が噴き出す。
 感情の爆発により生じた衝撃波は、ダメージはないものの“天使”達を怯ませる。

「(僕が……僕がもっと強ければ……いや、もっと慎重でいれば……!こんな事には……こんな事にはならなかったのに……!)」

 思考がまとまらなくなる。
 理屈が伴わなくなる。
 失われたはずの感情がただただ湧き出す。
 その感情の赴くまま、優輝は行動を開始した。















       =優輝side=









 ……まただ。
 また、僕は喪った。
 手を伸ばせば届いたはずなのに、届かなかった。

「ぅぁあああああああああああああああああ!!!」

 失われたはずの感情が蘇る。
 感情(これ)さえあれば、結果は違っていただろうか。
 否、最早そんなのは関係ない。

「―――殺す……!!」

 今は、目の前のあいつらを……感情に任せて蹴散らす!

「はぁっ!」

「ふっ!」

 洗脳されたサーラととこよが両サイドから挟撃を繰り出してくる。
 体は既に満身創痍。一挙一動の度に体が悲鳴を上げる。
 ……だけど、それがどうした。

「邪魔だ!」

「なっ……!?」

「嘘……!?」

 剣と刀をそれぞれクロスさせた両手で受け止める。
 リヒトによるグローブもあるが、それだけでは本来は防げない。
 でも、ここは神界。“格”の昇華がなかろうと多少の無理は通せる。
 そもそも、斬り落とされてさえいなければどうでもいい……!

「ふん!」

「っ!?」

「ぐっ……!?」

 クロスさせていた手を引き戻し、その反動で二人をぶつける。
 武器を手放す隙なんて与えない。全て一瞬だ……!

「ぉおおおおおおおおおおおっ!!!」

 共倒れさせた二人に見向きもせず、短距離転移する。
 転移後、足場を創造魔法で創り、跳躍。加速する。

「っ……!」

 洗脳された皆が立ち塞がる。
 だけど、遅い。
 勢いのまま掌底や蹴りを放ち、その反動でさらに跳ぶ。

「ぁ……」

「遅い」

 肉薄した際、緋雪が呆けた顔でこちらを見ていた。
 ……父さんと母さんの死に、洗脳されていても思う所があったのだろう。

 でも、今は同情する暇はない。

「あ、がっ……!?」

「そこ!」

 腕を掴み、地面に叩きつける。その全てを力任せに行う。
 “ブチブチ”と、体から出てはいけない音が聞こえる。
 それでも、僕は怒りに任せて力を行使する。

 そこへ、司が砲撃魔法を仕掛けてくる。
 ジュエルシードも使っているためか、それは広範囲で普通では躱せないだろう。

「ふっ!」

「っ!?ぐっ……!」

 だから、転移で躱す。
 直後に肉薄しようとした奏に向けて、まだ掴んでいた緋雪を投げつける。
 そこからさらに跳躍。蹴りを司に向けて放つ。

「甘い―――」

「甘いぞ」

「ッ!?」

 用意していた転移魔法でそれは躱されるが、振り返りざまに魔法を放つ。
 それは無造作で、術式なんて存在しない。
 だからこそ、純粋な魔力が円錐状に広がるように繰り出された。
 そこまで広範囲なら、転移先がどこであろうと変わらない。

「手出しはさせない!」

「なっ……!?」

 そして、()()()()()()()()を開放する。
 それは創造魔法による剣群の射出だ。
 それらを、残りの皆に差し向ける。

「――――――」

「っ―――――」

 唯一、なのはだけはこちらを見ているだけで何も仕掛けてこなかった。
 魔力を集束させていたが、何か抵抗するようにそれを放とうとはしない。
 もしかすると、あれは……

「(いや、今は……)」

 考えるのは後だ。
 とにかく、これで一瞬の“間”が出来た。

「―――イリスぅぅうううううううううううううう!!!」

 踏み込み、一気に加速する。
 体が悲鳴を上げるにも関わらず、ただ加速し、目指すは一点。
 全ての元凶、邪神イリスに向けて突貫する。

「っっ……!」

 だけど、すり抜けた。

「ふふふ、滑稽ですねぇ」

「くっ……!」

 あぁ、失念していた。“格”の昇華がない今、攻撃は効かないというのに。
 それが分かっていたから、他の神々は妨害してこなかったのだろう。

「ふっ!」

 飛んできた矢と霊術、魔力弾を叩き落とす。椿やとこよ、神夜などの仕業だ。
 直後、葵やサーラが斬り込んでくる。即座に受け流し、蹴り飛ばす。

「っっづ……!」

 そこへ、重力のようなものが掛かる。
 魔力が感じられない所から見て、神々の仕業だろう。
 ……これでは、身動きが出来ない。

「終わりです。貴方も絶望に堕ちなさい」

「ッ―――!」

 そして、イリスが“闇”を放つ。
 転移魔法も発動出来ないように妨害されているため、躱す手段はない。
 僕は、あっさりとその“闇”に呑まれた。



























「―――ふざけるな……!!」

 だが、それでも。
 僕の憎悪は、怒りは、収まらない……!

「ここで、終わるか……!終われるか……!」

 “闇”による自我や感情、意識の浸食。
 確かに抗い難い、強力なものだ。
 神夜の魅了など、氷山の一角ですらなかったのだろう。
 ……それでも、呑まれる訳にはいかない。

「リヒト……!」

〈マ……ー……!〉

 リヒトに呼びかけるも、返答はノイズばかりだ。
 緋雪達のデバイスと同じで、“闇”に呑まれればこうなるのだろう。
 ……なら、言葉は不要だ。

「……覚悟を決めろ。僕に、光を示せ」

〈――――――〉

 返答はない。だけど、それでいい。
 最後に一度だけ点滅した。その事実さえあれば、いい。

「絶対的な優位に、いつまでも立っていると思うなよ、神共!!」

 待機状態に戻ってしまったリヒトに、魔力と霊力を流す。
 反応はない。形も変えない。だけど、内に秘めた“力”が噴き出す。

「昇華せよ……“導きを差し伸べし、救済の光(フュールング・リヒト)”ぉおおおおっ!!!」

 光が僕を包む。
 直後、“闇”を振り払う。

「っ、……ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 憎悪と怒りと共に、“意志”を咆哮として吐き出す。
 神々と“天使”に、驚きが見えた。















「―――殺す。殺してやる!!」

 どす黒い感情と共に、僕は駆けた。

















 
 

 
後書き
両親の死により、優輝ぶち切れ&感情復活(ただし憎悪マシマシ)。
ついでにサーラやとこよなど、さん付けしていた相手も呼び捨てになっています。
描写はしていなくとも、親という存在は重要なもの。
両親本人達は“親らしい事が出来ていない”と思っていましたが、ただ家や傍にいるだけでも優輝や緋雪に影響があったという事です。
(……ぶっちゃけ、もっと本編で描写しておくべきだった……)

ラストの“格”の昇華。以前のイリスの尖兵(117、118話参照)の時と違い、かなりやばい行使の仕方になっています。あちらが無理な限界突破なら、こっちは憎悪による暴走覚醒みたいな。 
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