戦国異伝供書
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第五十七話 善徳寺の会盟その五
「よく来られたでおじゃる」
「お招き頂き感謝する」
「実に有り難きこと」
晴信と氏康は共に義元に応えた。
「ではこれより」
「話をいたそうぞ」
「それではこれより茶と菓子をでおじゃる」
それを出してというのだ。
「楽しみつつ」
「そうしてであるな」
「これより」
「そうでおじゃる、それでは」
こうしてだった、義元は一同を座らせてだった。そのうえで実際に菓子と茶を出してだった。そうしたものを飲み食いしつつだった。
義元からだ、こう切り出した。
「麿達は争いよりもでおじゃる」
「和をであるな」
晴信が微笑んで応えた。
「それを選ぶべきであるな」
「左様、だからこそ」
「この度はこうして」
「お二方に来て頂いたでおじゃる」
そうだったというのだ。
「ご足労をかけて」
「いやいや、それはよいとして」
氏康が義元に笑って答えた。
「この茶と菓子の美味いこと」
「そのことを言われるでおじゃるか」
「まずは有り難く思いまするぞ」
「確かに」
晴信も氏康に応えて述べた。
「この茶も菓子もよき味でありますな」
「ほっほっほ、当家では普通にでおじゃる」
義元は二人に余流を見せて答えた。
「こうした茶や菓子はでおじゃる」
「口にしておられる」
「そう言われるか」
「左様でおじゃる、ではお二方には」
是非にと言うのだった。
「この二つを楽しんで頂きたいでおじゃる」
「それでは。しかし茶は」
晴信はそのちゃえおのみつつ話した。
「どうも」
「どうしたでおじゃるか」
「甲斐では滅多に口に出来ぬ故」
こう義元に言うのだった。
「慣れませぬな」
「相模でも茶は珍しくかつ高きもの」
氏康もそれは同じだった。
「ましてやそれを道にするなぞ」
「途方もないことですな」
「いや、それがでおじゃる」
義元は二人に笑ったままさらに話した。
「近畿、そして駿河や尾張ではでおじゃる」
「この様に飲まれるさまになっている」
「左様でありますか」
「近頃では民も飲んでいるでおじゃる」
そこまで普通になってきているというのだ。
「流石に常ではないでおじゃるが」
「茶がそうなるとは」
晴信は義元のその話を聞いて述べた。
「いや、これはまた」
「思いも寄らぬことでおじゃるか」
「それがしにとっては。茶器も」
茶道で使うそれもというのだ。
「あまりにも高く」
「あの値では」
氏康がここでまた言った。
「国一つの価値もあるかと」
「そこまでのものを買えるか」
「それすらでありますな」
「我等にとっては」
「そうしたものでありますが」
「それがです」
笑ってだ、また答えた義元だった。
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