ある晴れた日に
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93部分:小さな橋の上でその九
小さな橋の上でその九
そのうえで赤チンを塗って最後にバンドエイドをする。これで終わりだった。
「これでいいよな」
「そこまでやったらね」
未晴が彼に答える。当然赤チンも彼女のものである。
「流石にね。大丈夫よ」
「悪いな、竹林」
野本は未晴に顔を向けて微笑んで礼を述べた。
「おかげで助かったぜ」
「御礼は別に」
「いいさ、助けてもらったんは事実だからな」
未晴の謙虚にこうも返す。
「おかげでな。じゃああらためて行くか」
「ああ、そうしようぜ」
正道が彼の言葉に応える。
「それじゃあな」
「うん。そうしよう」
加山がそれに頷いて進むのだった。謎々はその加山と未晴が解いていく。これは予定通りで後の四人はいるだけだった。しかし皆それでも楽しくやっていた。
「それにしても御前等もな」
「どうしたの?」
明日夢が自分達の方に振り向いて声をかけてきた正道に言葉を返した。
「体力あるんだな」
「そういや北乃ってボクシング部のマネージャーだったか?」
野本がここで明日夢に尋ねた。
「確か」
「ええ、そうだけれど」
彼女の部活はそれなのだ。
「それがどうかしたの?」
「だからか」
正道はそれを聞いて納得した顔になるのだった。
「だから体力もあるんだな」
「まあ毎日部員のトレーニングに付き合って走ったりはしてるけれど」
マネージャーもマネージャーで大変なのだ。ボクシングはそれだけハードなスポーツなのだ。
「そのせいかしら」
「橋口は何かやってるのか?」
「私は別に」
奈々瀬は正道の問いに首を横に振るのだった。
「けれど毎日自転車で通ってるから」
「御前の家って結構学校まで遠くなかったか?」
「大体二十キロ位」
「ああ、それでか」
奈々瀬の体力も理由もわかった。
「体力あるのは」
「その割に足細くないか?」
「これは元々なのよ」
野本の今の言葉には顔を曇らせて自分の足を見る。どうやら気にしているらしい。
「ちょっとね」
「そうなのかよ」
「ええ。それでも毎日身体動かしてることになるから」
「体力あるのか」
「竹林は何もしてなかったか?」
正道は今度は未晴に尋ねた。話をする間も山道を歩いている。道は決して緩やかなものではないが彼等はそれで道を普通に進んでいる。
「そういうのって」
「運動はあまり」
正道の問いに苦笑いで返す未晴だった。
「してないのよ」
「そうなのか。けれどその割にはな」
「何?」
「体力あるよな」
こう未晴に言うのだった。
「それもかなり」
「そうかしら」
「ああ、あるよ」
また彼女に対して言う。
「この連中を上手くまとめてるしな」
「何が言いたいのよ」
指差された奈々瀬が表情を強張らせている。
「私達ってどういうことよ」
「だから西ドイツ組だよ」
明日夢の三人と対比的にこう言われてそれが完全に一つになってしまっているのだった。
「西ドイツ組。竹林以外全員まとももじゃないじゃねえかよ」
「何処がよ」
奈々瀬はその薄い眉を顰めさせて反論する。
「私達の何処がまともじゃないっていうのよ」
「もう存在自体がよ」
正道も正道でかなり口が悪い。
「まともじゃねえだろうがよ」
「あんたに言われたら余計にむかつくんだけれど」
そして奈々瀬もそれに返せるだけのものがあった。
「何かね。余計に」
「とにかく御前等竹林に頼り過ぎだろ」
野本も参戦してきた。
「六人の中で明らかに竹林だけ傑出してるだろうが」
「そう?」
「そうだよ。ったくよお」
野本は珍しく口を尖らせていた。いつも言われる方なのでこれはかなり珍しいものだった。
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