ある晴れた日に
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92部分:小さな橋の上でその八
小さな橋の上でその八
「だからなんだよ」
「ふうん、そうなの」
「やくざ屋さんみたいって」
「言われてみればそう?」
「確かにね」
明日夢も奈々瀬もそれに同意して頷くところがあった。
「まあそっちの世界でも最近それは少ないみたいだけれど」
「スキンヘッドならね。普通の世界でもいるけれどね」
「スキンヘッドは校則で禁止されていなかったか?」
今度は正道が言った。
「確かよ」
「そうだったっけ」
「そこまでは」
「はいはい、お話はそこまでね」
五人でそんな話をしていると田淵先生がやって来て五人に声をかけてきた。
「そこまで。話はちゃんと聞いてね」
「あっ、先生」
「何時の間に」
「何時の間にも何もないわよ」
目を少し怒らせての言葉だった。
「全く。何をしているかって思ったら」
「普通におしゃべりですけれど」
「それが駄目なの。よく見たらうちのクラス全体でそんな感じじゃない」
それがこのクラスのカラーになってしまっているのだった。
「全く。何をやっているのよ」
「まあそれは」
「気にしないで下さい・・・・・・っていうのはいいですよね」
「駄目に決まってるでしょ」
こう言って明日夢と奈々瀬の言葉を否定する。
「話はちゃんと聞きなさい。いいわね」
「わかりました」
「やっぱりそうですか」
「全く。うちのクラスって」
これは少し愚痴であった。
「どうしてこうなのかしら」
「それがいいところなんじゃないですか」
全く悪びれたところのない野本の言葉であった。
「エンジョイアンドエキサイト」
「随分手前勝手な言葉ね」
「やっぱりこれですよ。腕白なのがいいんですよ」
「悪ガキって言葉は知ってるかしら」
「いえ、全然」
先生も負けてはいないが野本はそれ以上だった。
「食えるんですか?それって」
「そういうこと言ってたらそのうちバチが当たるわよ」
「ははは、蛭でも蝮でも何でも受けてやりますよ」
能天気にこう言う野本だった。そうしていざオリエンテーションがはじまってみると。歩きだしてすぐ靴を直しその時木に手を当てているとそこに。蛭がいて彼の血を吸った。
「見事な天罰ね」
「本当にあるなんて」
明日夢も奈々瀬もこれには唖然とした。蛭はその間にも彼から血を美味そうに吸い続けている。その勢いは予想以上に速く丸々としだしている。
「騒いだことに対する天罰かしら」
「あんたもこれで心入れ替えたら?」
「おい、御前等」
野本は血を吸われるのはまずそのままにして二人に顔を向けて言った。
「御前等だって騒いでただろ?何で俺だけなんだよ」
「日頃の行いの差よ」
「そうそう」
二人は平然と野本に言葉を返してみせた。
「あんた毎日馬鹿なことばかりしてるから」
「そうなるのよ」
「ちっ、何でこんな所に蛭がいるんだよ」
言い負かされて今度は悪態になった。気付くと蛭はもう何処かに行ってしまっていて残ったのは彼の手の傷口だけであった。
「血を吸われたなんてはじめてだぜ」
「消毒はしておいた方がいいよ」
憮然とした顔になる野本に加山が声をかけてきた。
「それはね」
「消毒!?何でだよ」
「だってさ。蛭って普通に土の上とかにいるんだよ」
「それは俺でもわかるぜ」
「だったら消毒しておかないと」
こう野本に言うのであった。
「傷口が化膿しても知らないよ」
「御前破傷風とかになったら大変だぞ」
正道も彼に忠告してきた。
「だからよ。ここはな」
「それもそうか。じゃあよ」
「はい」
未晴が早速濡れたティッシュと薬を出してきた。
「これ使って」
「おお、悪いな」
「ウェットティッシュと消毒液」
こう野本に話す。
「よかったら使ってね」
「そうさせてもらうな。よし」
まずは濡れたティッシュで傷口を拭いてそれから今度は消毒液をこれまた未晴が出して来た奇麗な布につけてそのうえで丹念に奇麗にする。実に細かい。
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