銀河英雄伝説〜ラインハルトに負けません
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第百三十三話 亡命者達への余波
前書き
暁へきて最初のUPです。
発表場所を作って下さった、肥前のポチ様ありがとうございました。
宇宙暦792年9月7日
■自由惑星同盟
宇宙暦792年 帝国暦483年9月5日に帝国で正式に発表されたクロプシュトック事件のあらましがフェザーンを経由して同盟に報道されたのは9月7日の事であった。同盟市民は皇帝暗殺未遂事件のあらましを非常な興味をもって受け入れたのである。
特にクロプシュトック侯爵に示唆した人物であり、ルードヴィヒ皇太子暗殺の主犯ヘルマン・フォン・リューネブルクは亡命者を装った自由惑星同盟のスパイだと発表された事で、大きな反響を呼んでいた。
更に内務省解体や社会秩序維持局の廃止などが発表されたことも市民の興味をそそることになった。
実際の所、皇太子が黒幕であることは完全に隠されていたのであり、テレーゼがシナリオを書いて皆が監修した結果の報道であった。
曰く、リューネブルクを逆亡命者を装ってクロプシュトック侯に近づき叛乱を起こさせ、皇帝と皇太子と皇女を一気に殺害し帝国に内乱を起こさせようとした、同盟の大陰謀であると。
帝国内では内務省分割や社会秩序維持局廃止で平民の不満が解消されつつあり、更に同盟に対しての敵愾心をあおれる、そして同盟に対しては亡命者達に使い捨ての駒と成らないようにとサインを出したのである。亡命者が動揺すれば帝国の利益になるが為であった。
皇太子死まで策謀に使う事を話したテレーゼの言葉が此である。
「皇太子は散々悪さしてきたのだから、死んでからぐらいは役に立って貰いましょう。無論息子もだけどね」
その言葉を放ったテレーゼの顔は能面のようであったとの事である。
宇宙暦792年9月10日
■自由惑星同盟首都星ハイネセン統合作戦本部長室
「ヤン・ウェンリー入ります」
「入りたまえ」
ヤン・ウェンリー中佐がシトレ統合作戦本部長に呼び出しを受け本部長室へ入ると既に其処にはアレックス・キャゼルヌ大佐がシトレ元帥と共に待っていた。
「本部長、私に何の御用でしょうか?」
「ヤン中佐、帝国の発表を聞いたかね?」
シトレの言う帝国の発表とはクロプシュトック侯爵による皇帝暗殺未遂と皇太子暗殺事件の事であることは容易に想像出来た。
「ええ、些かあやふやな点はありますが、嫌な点を突いては来ていますね」
「それだ、ルードヴィヒ皇太子暗殺の主犯ヘルマン・フォン・リューネブルクは亡命者を装った自由惑星同盟のスパイだと発表された」
「逆亡命者が皇帝と皇太子暗殺を企む、下手な立体TVのドラマですな」
「しかし、帝国の公式発表としては無視出来ん状態な訳で、マスコミがこぞってかき立てている」
「しかし、本部長、リューネブルク大佐に命令が出ていた可能性は無いのですよね?」
ヤンの言葉にシトレは一言ずつ考えながら話していく。
「無論、統合作戦本部から、その様な命令は出しては居ないが」
「情報部やその他の所までは判らないと言うのが現状なんだ」
シトレの言葉をキャゼルヌが補填する。
「しかも、幼い皇女まで暗殺されかかっている。強行派マスコミや市民以外は僅か10歳ほどの女児の暗殺未遂事件だけでも険悪感を示している」
「つまりは、戦争にもルールがある。汚い手を使うなと言うわけですか」
「そんなところだな。ヤン中佐」
「それに帝国では一年間喪に服す為に、暫くは対外的な攻撃がないと考えられる訳ですか」
「本来であれば、皇太子の敵討ちのためにしゃにむに報復の為に侵攻をしてきても可笑しくないが、臣民生活の為に一年間は喪に服しと皇帝自らが宣言した以上、侵攻はほぼ無いと思われる」
「なるほど」
「それに、今回の件で、同盟は亡命者を暗殺の捨て駒に使ったという悪評が立って、軍内部の亡命者達の士気の問題が生じていることだ」
「特にリューネブルク大佐の原隊であるローゼンリッター連隊はリューネブルク大佐の逆亡命時に全士官が査問を受け、連隊の解散まで考えられたほどの屈辱を受けているんだ、その屈辱が軍の思惑による行為だと成ったら、それこそ大変な事に成りかねないと。一部のお歴々が騒いでいるのさ」
「宇宙艦隊総司令部辺りからですね」
「ヤンにまで伝わっているとは、それほど凄いと言う事だな」
「困った事だよ。ロボス大将は焦っているようだからな、宇宙艦隊司令長官に昨年就任以来小競り合い以外の戦闘を経験していない。其処へ来てこの暗殺事件だ、軍同士が疑心暗鬼に成って居る状態では戦闘もできんと、零しているらしい」
「その為には、不安定要素のローゼンリッター連隊を始めとする亡命者達を前線の辺境地帯へ島流しにした方が良いと政治屋達に話をしているらしい」
「政治業者は亡命者よりご自分の票の方が大事ですからね」
「その辺の算段をしているのが、アンドリュー・フォーク少佐らしい」
「フォーク、フォーク・・・」
「ほれ、アッテンボローの一期下で生徒会役員だった」
「んー、余り覚えていないですね」
「ヤン候補生は歴史書ばかりを読んでいたから、気づかなかったのだろうな」
「本部長」
ひとしきり笑いが起こった後で、シトレが真顔で話を再開する。
「それ以上に問題は、帝国が攻めてこない以上此方から攻めるべきだという声が宇宙艦隊総司令部辺りから上がってきていることだな」
「ロボス大将ですか、本部長とは25年来のライバルでしたっけ?」
「向こうがそう思っているだけで、私は気にしてはいないのだがね」
「焦るでしょう。本部長は元帥。自分は未だに大将ですから。帝国が混乱している今なら勝てると踏んでいるんでしょう」
シトレ本部長とキャゼルヌ先輩の話を聞きながら、ヤンも日頃の面倒くささは身を潜め意見を言ってしまう。
「それは些か、短急過ぎるかと、確かに帝国はサイオキシン麻薬検挙や今回の内乱で混乱はしたでしょうが、皇帝自身が最近政務に励んで次第に帝国内部の改革を進めている状態です。今なら混乱しているから弱いと言うのは危険ではないかと」
珍しいヤンの積極的な意見にシトレは何か悪い事を考えたかのような顔で頷きながら答える。
「そうだな、其処でヤン中佐には10月1日付けをもって宇宙艦隊総司令部へ作戦参謀として移動する事に成った。君の見識をもってグリーンヒル総参謀長と共に頑張ってもらいたい」
「私がですか?」
「ヤン、俺も宇宙艦隊後方参謀兼任だ、諦めるんだな」
「今は、国力の回復の時期だ、敵が攻めてこないならその間にするべきだからな」
ヤンは頭を掻きながら、しょうがなく返答をした。
「判りました。微力を尽くします」
「頼んだぞ」
翌月からヤンの宇宙艦隊総司令部勤務が始まるが、ロボス派からはシトレのスパイと嫌悪される為に、グリーンヒル総参謀長付きになるのであった。
宇宙暦792年9月12日
■自由惑星同盟首都星ハイネセン最高評議会ビル
最高評議会では、今回の帝国発表に対する会議が行われていた。
「えー、今回の帝国の発表においてですが、各委員長の忌憚なき意見をお願いする」
評議会議長の言葉に各委員長が喧々諤々と話し始める。
「国防委員長、帝国の発表にあるようにリューネブルク大佐を偽装亡命させ暗殺を示唆した事は無いのかね?」
「統合作戦本部、宇宙艦隊総司令部共にその様な事は命じていないと言って居ますが」
「それは軍人の詭弁だろう。情報部とかがやっているのではないのかね?」
「それに、幾ら敵でも暗殺などしてはアンフェアーだ」
「マスコミには我々同盟政府軍は今回の件には何ら関与していないと発表すべきです」
各委員長達がそれぞれに暗殺の汚さを論う中、1人の女性委員長が反論を述べた。
「待って下さい、帝国は同盟を認めていません、そして悪魔のルドルフの子孫をリューネブルク大佐は倒したのです。国家同士の戦いなら暗殺はアンフェアーでしょうが、此は生存競争なのです。生存競争は弱肉強食です、皇太子は弱いからリューネブルク大佐に倒されたのです。それだけでも彼は英雄です。私は彼を称えるべきだと思います。そうすれば亡命者の士気も上がるでしょう」
女性的な感性からその委員長はそう言ったのであるが、説得力のあることだったため、各委員長も考えさせられることと成った。
宇宙暦792年9月12日
■自由惑星同盟首都星ハイネセン ローゼンリッター連隊本部
ローゼンリッター連隊本部では、相変わらず連隊長ヴァーンシャッフェ大佐が苦虫を噛み潰したようなッ顔をして、リューネブルクの記事を見ていた。
隊長室から離れたレクレーションルームでは副連隊長シェーンコップ中佐以下のローゼンリッター連隊最強カルテット達が集まっていた。
「副連隊長、リューネブルク大佐の記事ですが、ほんとの所はどうなんですかね」
リンツ大尉の言葉に考え気味にシェーンコップが答える。
「判らんな、あのリューネブルクが暗殺者として、そう簡単に使われるたまか?」
「そりゃそうですね、元連隊長の性格じゃ余り似合わないかんじですもんね」
シェーンコップの答えにブルームハルト中尉が軽く受ける。
「しかし、リューネブルク大佐が亡命者を装った同盟のスパイだったと言う話は巷間に流れまくってますから」
そんな中、デア・デッケン中尉が落ち着いた口調で話す。
「亡命者連中は、その話で燻っている同盟に対する不満を再燃させそうな勢いだそうですからね」
「あの亡命が演技だとしたら、あの時からの我々の苦労は何だったんだと思いますよね。あれは並大抵な物ではかなったですから」
「連隊長が亡命すれば、残った隊員が汚名をそそぐために死にものぐるいになり戦果もあがる」
「それにしても、リューネブルクの事が宣伝通りだとしたら、自分達の存在を認めさせるために血を流し続けてきた、俺達も哀れな境遇だな」
「それにしてもリューネブルク大佐もそりゃ颯爽とした人でしたがね、いったい何が不満で帝国に逆亡命なんぞしたんでしょうね」
「さあな、ただ一つだけ言えることがある。俺だって同盟軍の現状にはうんざりしている」
「そりゃ俺だって、一度ならず頭に来たことはありますが、最近帝国や軍の現状が良くなっているらしいですから、余計に同盟の悪いところを感じるんでしょうかね」
「俺の爺様を嬲り殺した社会秩序維持局も今回の叛乱で完全廃止になったそうですからね」
「そうか、ブルームハルトの爺さんは彼奴等に殺されたんだったな」
「ええ、爺様が名誉ある共和主義者ならいいんでしょうが、実際は単なる不平屋だっただけですから。皇帝陛下の御聖断で連中の悪事が白日の下に晒されて、処罰された事で婆様が泣いて喜んでましたよ」
「結果的に見てリューネブルク大佐が、皇太子を殺害した事は事実な訳ですからね、同盟にして見れば英雄ですかね」
「まあ、リューネブルクは逃亡して指名手配中らしいが、どうなるかだな」
「此方に帰ってくれば、英雄でしょうな」
「図らずも、逆亡命者が英雄ですか、散々貶しておいて持ち上げるわけか」
「皇太子を殺害した事が武勲ですか」
「そんなところだな」
「いやな世の中ですね、暗殺犯で英雄なんて」
「違いない」
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