銀河英雄伝説〜ラインハルトに負けません
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第百三十二話 事件の終演
前書き
クロプシュトック事件終演。
テレーゼが大変な事に!
帝国暦483年8月5日~20日
■銀河帝国各地
クロプシュトック侯爵に唆されたルードビィヒ皇太子の起こしたクーデターは僅か一日で鎮圧された。皇太子、クロプシュトック侯親子は死亡し、クーデターに迎合したフレーゲル内務尚書も捕らえられ、テロ行為を行っていた社会秩序維持局も装甲擲弾兵上がりの武装憲兵隊により完全に鎮圧された。
リューネブルクには逃亡されたものの、直ぐさま銀河帝国中に指名手配がかかり捕縛されるのも時間の問題であろうと皆が考えたのは致し方なかった事である。しかしリューネブルクの行方はようとして知れず行くとはこの時点では思いも拠らぬ事に成っていくのである。
リューネブルク以外で、残る追討場所は留守部隊の居るはずのクロプシュトック侯爵領恒星系であった。クロプシュトック候爵領討伐にはフレイヤ星系より急遽帰還した宇宙艦隊司令長官エッシェンバッハ元帥が当たる事とした。これは宇宙艦隊主力留守中に空き巣狙いのようにクーデターを起こされて面子を潰された宇宙艦隊基幹部隊も帝国の為に充分に役に立ったとするための措置であった。皇帝からのこの温情にエッシェンバッハ元帥以下宇宙艦隊首脳部は感謝していた。
クロプシュトック侯爵領に到着した宇宙艦隊は、残存のクロプシュトック侯爵領軍艦隊500隻を手もなく撃破し、地上の防衛設備を破壊後に陸戦部隊を送り僅かな時間でクロプシュトック侯爵領を制圧した。その際、原作でブラウンシュバイク公爵軍が醜態を晒したような事態は、エッシェンバッハ元帥の威厳で一切起こさずに済みクロプシュトック侯爵領は軍政下に置かれ、その後に到着した民政部隊に後を任せてオーディンへ帰還した。
元々場当たり的なクーデター計画であった事とテレーゼの機転、装甲擲弾兵、宮中警備隊、憲兵隊、宇宙艦隊の奮戦により戦禍に包まれたのはオーディンとクロプシュトック侯爵領だけという結果に終わり、エーレンベルク元帥達が危惧した不平貴族の反乱事件は起こらずに終わった。
結果的に臣民に対しての損害は最小限度に済む事になり、クロプシュトック侯の企んだ銀河帝国の混乱という事態は起こらず、返って500年近くに及んだ社会秩序維持局の排除に進むのであるから、皮肉としか言いようがない結果に終わった。
帝国暦483年9月1日
■オーディン リーツェンブルク宮殿
クーデターにより破損が甚だしい新無憂宮は修理に入ったために暫くノイエ・サンスーシからほど近く海岸沿いにある夏の離宮リーツェンブルク宮殿が仮皇居として整備され利用されていた。本日宮殿の青翡翠の間にてクロプシュトック侯爵反乱事件の論功行賞と処罰が言い渡される為、宮殿は神妙な趣の者達と両脇を宮中警備隊に挟まれ屠殺場に連れられてきたような顔の者達も居て、それぞれがお互いの顔を見合わせながら佇んでいた。
広大な黒真珠の間にと違い大勢の人間が集まると少々手狭の青翡翠の間ではあるが、皇帝の玉座に近い位置には大貴族、高級文官、武官が文官と武官に分かれて列を作って並んでいる。
一方の列には文官が並ぶ。リヒテンラーデ国務尚書、カストロプ財務尚書、ルンプ司法尚書、ウィルへルミ科学尚書、ノイケルン宮内尚書、マリードルフ典礼尚書、キールマンゼク内閣書記官長。
反対側の列には武官が並ぶ。エーレンベルク元帥、シュタインホフ元帥、クラーゼン元帥、ブラウンシュバイク上級大将、ライムバッハー上級大将、グリンメルスハウゼン上級大将、オフレッサー大将。
古風なラッパの音が青翡翠の間に響く。その音とともに参列者は皆姿勢を正した。
「全人類の支配者にして全宇宙の統治者、天界を統べる秩序と法則の保護
者、神聖にして不可侵なる銀河帝国フリードリヒ四世陛下の御入来」
式部官の声と帝国国歌の荘重な音楽が耳朶を打つ。そして参列者は頭を深々と下げる。
ゆっくりと頭を上げると皇帝フリードリヒ四世が豪奢な椅子に座っていた。皇帝は跡継ぎを失った失意に嘆いているかと思った貴族、政府高官、軍高官は、皇太子自身が弑逆未遂犯とは知らずに皇帝の毅然とした姿に流石は陛下と感心する者達が多数居たのである。
「宇宙艦隊司令長官エッシェンバッハ殿」
式部官の朗々たる声がエッシェンバッハ元帥の名を呼んだ。
「エッシェンバッハ元帥、先の叛乱時、フレイヤ星系より素早くオーディンへ帰還し、反乱者クロプシュトック候爵領の制圧見事であった。此処に此を賞す」
「ありがたく幸せ」
皇帝自らの言葉にエッシェンバッハ元帥は恐縮しているが、数日前に『陛下の危機に艦隊が留守でお役に立てず、臣として宇宙艦隊司令長官を辞任する』と辞意まで示したエッシェンバッハ元帥に対して陛下が親しく話しかけ、一念発起した後であるので陛下のお褒めの言葉に深々と最敬礼を行う。
その後順番に各人の叛乱時の功績が読み上げられ論功が発せられていく。
「装甲擲弾兵総監ライムバッハー殿」
「ライムバッハー上級大将、予は卿の働きでこの様に無事で居られる」
「勿体ないお言葉」
「ライムバッハー上級大将を元帥に処し同時に近衛兵総監に命じる」
「御意」
「装甲擲弾兵副総監オフレッサー殿」
「オフレッサー大将、卿の働きで予もテレーゼも無事であった」
「勿体ないお言葉」
「オフレッサー大将を上級大将に処し同時に装甲擲弾兵総監に命じる」
「御意」
「ローエングラム大公領警備艦隊司令官メルカッツ殿、宇宙艦隊所属ミッターマイヤー殿、ビッテンフェルト殿」
「卿等の働きがなければ、オーディンがクロプシュトックにより攻撃されるところであった。よくぞ守り抜いてくれた」
「「「勿体なきお言葉」」」
「メルカッツ大将を上級大将にミッターマイヤー、ビッテンフェルト両准将を少将へ叙任する」
「「「御意」」」
メルカッツもミッターマイヤーも皇帝陛下直々のお言葉に感動し,ビッテンフェルトは初めての事に借りてきた猫の様に大人しくなっていた。
活躍した者達の論功行賞が終わると、いよいよ事件の全貌と共に捕獲された叛乱首謀者唯一の生き残りフレーゲル内務尚書、テレーゼ皇女暗殺未遂事件の関係者リッテンハイム侯爵、ヘルクスハイマー伯爵に対する処罰が言い渡される。
陛下の前に跪くウィルヘルム・フォン・リッテンハイムIII世、跪かないが神妙な趣のクリスティーネ・フォン・リッテンハイム、サビーネ・フォン・リッテンハイム。そして、青い顔で跪いているヘルクスハイマー伯爵、ヘルクスハイマー夫人、マルガレータ・フォン・ヘルクスハイマー、それを冷ややかに見つめる参加者達。
特別に検察官の役目を与えられていた、ケスラー少将によりフレーゲル元内務尚書の罪状が読み上げられていく。そしてワイツの件もあり辞意を示していたが、皇帝より慰留されたリヒテンラーデ侯がルンプ司法尚書に目配せして裁きを言い渡さす。
「フレーゲル元内務尚書、自らの野望のためにクロプシュトック侯爵に迎合し社会秩序維持局を使いテロ行為を行うとは言語道断、拠って極刑を申し渡す」
何か反論しようとするが、それも許されずに宮中警備隊によりフレーゲル元内務尚書は引き立てられていった。
続いて、リッテンハイム侯爵の番である、テレーゼ皇女暗殺未遂事件自体は自分のあずかり知らぬ事と言い張り、ヘルクスハイマーに罪を1人被せては居たが、それでもクロプシュトック侯の陰謀に自分が巻き込まれたと知り益々自分は無罪であると考え始めていたが、それでも皇帝の前では跪かなければ成らない状態に些か憮然とし始めていた。
しかし、直ぐにその甘い考えも吹っ飛ぶ程に皇帝の自分を見る目が冷たい事に気づくのである。
「リッテンハイム侯爵」
「はっ」
「卿はテレーゼ暗殺未遂事件に何の関係もないと言うのじゃな?」
「御意、私が皇女殿下に害意を得るなど天地神明にかけ全くあり得ない事に御座います」
「成るほど」
リッテンハイム侯は陛下の言葉にホッとした表情を見せるが、そうは問屋が卸さなかったのである。
「侯爵、聞くところによると、サビーネを皇位につけたいと常日頃から内々の宴などで話しているようじゃな」
リッテンハイム侯は陛下の言葉に再度真っ青になる。
「いいいえ、その様なことは・・・」
「無いと申すか。幾人もがその事を予に知らせてきたわ」
テレーゼ皇女暗殺未遂事件の主犯として擬しられている間に、リッテンハイム侯を見限った貴族達がご注進に上がって居たのである。
「陛下、あれは酒の上での冗談に御座います。平に平にご容赦を」
リッテンハイム侯は土下座し、こめつきバッタのように頭を下げまくる。
「父上、夫も本心からその様な事を言ったわけではあるますまい、どうか許して頂けませんでしょうか?」
ジッと聞いていたクリスティーネ皇女が懇願する。
それを聞いた皇帝は考えた振りをしながら、諭すように話し始める。
「良いか、リッテンハイムは予の婿という立場を利用して、無理難題を起こしてきた、今回の決闘騒ぎも同じ事じゃ、クリスティーネ、多少の欲は良いじゃろうが、全てをほしがる欲は悪じゃ。そちの夫はその悪癖に染まってきておる。此処で仕置きをせねばサビーネの為にもならんのじゃ」
皇帝の言葉に渋い顔をする者も居れば、よく言ってくれましたという顔の者も居る、その姿は確り記録されて、渋い顔の者は潜在的な叛乱要素を持つ者として監視対象になったのである。
その言葉にクリスティーネ皇女も覚悟を決めたらしく、押し黙り皇帝の裁可を待った。
「リッテンハイム侯爵、この度の落ち度により向こう5年間の謹慎を命じる。尚その間のリッテンハイム侯爵家の差配はサビーネを当主代行とし、クリスティーネが後見致す事とする」
リッテンハイム侯にすれば思った以上の厳しい沙汰、クリスティーネ皇女にしてみれば、軽い沙汰で終わった事で、青翡翠の間にもホッとした空気が流れた。
そして、ヘルクスハイマー伯爵の番である。リッテンハイム侯ですら謹慎5年も受けたのであるから、死罪であるというのが、列席者の考えであった。
「ヘルクスハイマー伯爵、卿の決闘代理人が皇女殿下を害し奉ろうとした。最早言い逃れは叶わんぞ」
ヘルクスハイマーはルンプ司法尚書の声に震える。
「私も騙されていたのです」
「しかし、卿の悪行は知れ渡っている、今回の事とて卿がシャッハウゼン家に難癖を付けなければ済んだ事だ、自業自得と言えよう」
ヘルクスハイマーはガックリとする。
「裁きを言い渡す。ヘルクスハイマー伯爵は爵位と資産没収の上流刑、尚陛下と殿下の格別の思し召しにより夫人と息女はオーディンにて謹慎せよ」
崩れ落ちるヘルクスハイマー伯爵。
まさに因果応報であった。
ヘルクスハイマーの処罰で全ての事が済んだ。
その後、皇帝自らしばらくの間は皇太子を置かずに行く事が発せられ、それを聞いた者達は、次の皇位が誰になるかを噂するのであった。
リッテンハイム侯爵家のサビーネが脱落状態で、皇孫エルウィン・ヨーゼフ、皇女テレーゼ、ブラウンシュバイク公爵家のエリザベートの3人が有力候補として囁かれる事になった。
マルガレータ・フォン・ヘルクスハイマー親子は謹慎とは言え実際はノイエ・サンスーシでの謹慎でテレーゼやベーネミュンデ侯爵夫人との付き合いは相変わらず続く事になり、マルガレータが20歳になった時点でヘルクスハイマー伯爵家の再興が許される事に決まっていた。
クロプシュトック事件の結果
クロプシュトック侯爵領→皇帝直轄領へ編入
ヘルクスハイマー伯爵領→テレーゼ皇女直轄領へ編入
リッテンハイム候爵領から旧同盟系農奴や軍人の捕虜がローエングラム大公領に委譲
テレーゼはローエングラム大公領で他の貴族が同盟から拉致してきた農奴や捕虜の軍人を優遇し門閥貴族と皇族とは別物であるとの作戦を行っているのである。つまり同盟捕虜のうち半数は貴族が主体の悪名高き解放区に半数は自由に生活できる同盟のエコニア捕虜収容所のようなローエングラム大公領収容所に送り、同盟捕虜の意識に自然と門閥貴族は市民を拉致し捕虜を虐待するが、皇族は農奴を助け捕虜を優遇すると同盟に流れるようにしているので、ここぞとばかりにお詫びとしてリッテンハイム侯から農奴と捕虜を分捕ったのである。
論功行賞
ライムバッハー上級大将→男爵叙爵、元帥、近衛兵総監
オフレッサー大将→男爵叙爵、上級大将、装甲擲弾兵総監
ハルテンブルク侯爵→内務尚書
ケスラー少将→帝国騎士叙爵、中将
メルカッツ大将→男爵叙爵、上級大将
ミッターマイヤー准将→帝国騎士叙爵、少将
ビッテンフェルト准将→帝国騎士叙爵、少将
ズザンナ→勲一等帝国柏葉サファイヤ勲章叙勲→女性としては最高位の勲章
その他多数の人間が叙爵、叙勲、昇進を遂げた。
近衛総監ラムスドルフ上級大将は死後の元帥昇進を、遺族に伝えられたが、遺族から『陛下よりお預かりした近衛の叛乱を押さえられずに陛下の御身を危うくしたのですから』と、元帥昇進を辞退したのである。陛下もそれを聞き、遺族に厚く遇するように命じたのである。
処罰
フレーゲル内務尚書、死罪
ワイツ秘書官、死罪
グレーザー医師、死罪
黒マント、死罪 最後まで本名を明かさなかった
近衛叛乱の指導者達、死罪
近衛兵、近衛の任を解き最前戦送り
ヘルクスハイマー伯爵、流刑
リッテンハイム侯爵、蟄居5年
社会秩序維持局は廃止
社会秩序維持局局長も死罪
内務省は幾つかの省に分割が決まった。
今後分省についての会議が行われていくのである。
シャフハウゼン子爵夫妻、ヴェストパーレ男爵夫人等はお咎め無し
ラインハルトとキルヒアイスはテレーゼと皇帝の考えでお咎めも左遷も無し
更にオーベルシュタインの話しを聞いたテレーゼが監視をするように命じながら、敢えて咎めもせずに放置させた。
リューネブルクが指名手配犯として街頭に顔写真が並ぶ事になった。また警察、憲兵隊、諜報部などが、クローン関する調査を行うが、遅々として進まず、その後数年にわたる懸案事件として関係者達を悩ます事になる。その事がその後の帝国版FBIを生む結果と成った。
因みにテレーゼへのお母様からのお仕置き。
一応帝国の危機を救ったという事で皇帝陛下から程々にとのお話があったが、グリンメルスハウゼンやケーフェンヒラーやケスラー達は笑っているだけで、減刑嘆願してくれなかった。曰くたまにはお仕置きされた方が面白いとの事。
嫌いなお行儀作法のお勉強が週5時間プラス&お小遣い6ヶ月間半額にされた。
「うわー!!、助けてー!!ズザンナー!!」
「申し訳ありませんが、皇帝陛下より直々のご命令ですからそれは出来ません」
「うわー、薄情だーよー!」
後書き
お仕置きを食らいました。
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