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魔法少⼥リリカルなのは UnlimitedStrikers

作者:kyonsi
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第74話 また逢おう


――sideなのは――

 ―――空が割れた。

 そう表現することしか出来なかった。私達がゆりかごを脱出して、私とヴィヴィオ、ヴィータちゃんはアルトのヘリへ。ディエチや、4番の子は航空部隊に保護され、そのまま連れて行かれたけど、保護部隊へと引き渡されるみたいだから少し安心した。
 そんな中、ゆりかごの外まで、聖王……ううん、ヌルと流の体を借りたヴァレンが戦った。

 たった3分の攻防戦。目にも留まらぬ高速での攻撃の応酬。映像越し故に最初と最後のやり取りしか見えなかった。

 最後の一撃を放った直後、衝撃が、空を、雲を裂いて少し遅れて音が聞こえた。まるで遠くで何かが衝突したような重い音が。
 そして、二人の間にレリックが現れたと思えば、直後に爆発。モニターもそこで暗転したままだ。

「……なぁなのは。あたしは分かんねーんだけどよ。流はヴァレンって奴で良いのか?」

 映像をじっと見ていたヴィータちゃんが不意に質問を飛ばす。

「……ううん、違うと思う。そもそもの戦い方が全然違うし、何より……」

「流とヴァレン様は体は同じ……でも、中身は全然違うの。ただ、なんて説明していいか分からない」

 ゆりかごから脱出する時にヴィヴィオが言っていた。ヴァレンの中に流も居ると。それこそ、一時的に体を借りてるというか、間借りをしている関係かもしれないと。

「……あいつら、帰ってくるよな?」

 ヴィータちゃんが心配そうに呟く。この場合のあいつらっていうのは……。

「きっと大丈夫。二人共ちゃんと帰ってくるようにって言ってあるから」

 最後に別れた日の事を思い出す。そう言えばあの時フェイトちゃんと響は居なかったんだよね。

 二人が帰ってきたら、ちゃんとおかえりって伝えて、居なかったときのことや、フェイトちゃんが響を落としたかもしれないってことを教えたり色々したいんだ。

『なのはさん! クロノ提督より連絡が入りました!』

「うん、お願い!」 

 アルトからの連絡を受けて、私の前にモニターが現れると共にクロノくんの姿が現れる。

 そして、伝えられたことを聞いて―――

「そんなぁ!?」

「う、嘘だろ!?」

 私とヴィータちゃんの叫びが響く。クロノくんの言うことを聞いて目の前が白くなる。
 だって、それが本当ならば……あの人が散っていった意味がなくなってしまう。

「なのはママ……」

 心配そうにヴィヴィオが私の服を掴んでる。
 大丈夫って言ってあげたいのに、それが出来ない……だけど、現状を考えると、どうしようも出来ない。

 そして、不意にゆりかごの方の映像が回復して、そこに映ってるのは―――


――side震離――

 遠くでヴァレンさんが、聖王を膝枕しながら何かを話している。遠くからでも分かるほど、優しそうに聖王へと話しかけて、聖王もまた、儚げに、優しげにヴァレンさんを見上げ話している。

 ―――邪魔をしてはいけない。

 それを察して私は二人の会話が終わるのを待つ。割と時間が無いはずなのに、時間がゆっくりと経過していくように感じる。

『震離さん』

 不意に見知った声が聞こえて、そちらに首を向けると。

「流も此方に来ちゃったか」

『えぇ、大事なお話をしているのに、私はお邪魔ですから』

 ふふ、と笑う流を見て、私も笑いかける。実体があるならお疲れ様って抱きしめようかと思ったけど、今はまだヴァレンさんに貸し出してるしね。
 
『……ライザさんは?』

「響が倒した。私は私で響から頼まれたことと、やるべきこと、調べることがあったからさ。だけど腕の敵は取ってくれたよ」

『……そうですか』

 一瞬目を伏せた様に見えたけど、直ぐに微笑みを浮かべる。きっと流が一番あの人と戦って、真意を聞き出したかったに違いない。
 でもヴァレンさんを優先させて、自分はそのサポートに回った。それがあの勝利に繋がったと私は考える。

『……ギルとアークは?』

「……ごめんね、それは分からない。響の元へ最後行ってたように見えたけどね。あの二機にお礼を言えてないんだよね」

『……えぇ、まだありがとうって伝えてないんです』

 今度こそ寂しそうに顔を伏せた。
 私が腕を落とされた日。あの日あの時、あの二機はマイスターに虚偽の報告をした。流の遺体を確認したと。だけど、それは、全く違う人物の遺体。しかも爆発の際に偶然(・・)そこに飛んできたという。
 それに、私が接近してることに気づかない二機でもない事から、あの時出来る限りの虚偽を重ねたんじゃないかというのが私と流の見解だ。

「あ、そうだ。響の様子から、どうもフェイトさんと想いを交わしたみたいだよ」

『……え!? でも、あの、それは……震離、さん……的に、は?』

 あ、すっごくしどろもどろになっちゃったよ。

「……そりゃ一番の親友と心を交わして欲しかったのは事実だよ。だけど、ま、あの二人はそれぞれ吹っ切ったんだと思う。直接聞いたわけじゃないからなんとも言えないけどね」

『……そうですか』

 きっと納得はしてないだろう。だが、それでも私も流も、人の心について沢山学んだ。お互いに護り合う事も大切で、あの二人のように互いを護るとは信頼してないことだと言う場合もあると知った。
 
 不意に、遠くのヴァレンさんが、聖王をかかえて立ち上がった。見れば聖王は完全に気を失っているのが分かる。その証拠にヴァレンさんは満足したように微かに笑っていた。

「すまないな二人共。それで転移装置はあったかい?」

「えぇ、ただ問題があって……調べた時点では全員飛ばすことは出来たんですが、今はもう1人程度しか」

 手元にコンソールを出現させて、ヴァレンさんと流に見えるように現在のゆりかごの状況を見せる。ゆりかごには、確かにまだ魔力は残っているが、それは攻撃用や聖王用。つまり月が交わるポイントに行った際に放てるよう自動装填されている物。そして、聖王が使う為の代物で、大分減っては居るものの、それでもまだ残っている。が、どう操作してもコレから魔力を引き出すことが出来なかった。
 そして、もう一つは、ほぼ空になりつつある物。コレはこのゆりかごで使えるフリーの魔力。さっきまでそれなりに残っていたが、コレが大きく減ったのは聖王が魔力をここから引っ張り出したということ。

「……じゃあ、王を……いや、レイって言ったっけな。この子を転移させりゃ問題ないな」

「へー0(レイ)って言うんですね。てっきり0(ヌル)って読むかと思った」

 キョトンとした顔をしたかと思えば、感心するようにニカっと笑って。

「そのとおりだ。王がヌルって名前は女の子らしからぬからって名付けたんだよ」

 ……自由だね聖王?! それよりも……チラリとヴァレンさんの体を見る。黒い神父服にも関わらず、肩は血が滴ってるのが分かるし、左脇腹は風穴どころか、ぽっかり貫通してるし。全身も傷だらけだし……。

「すまないが震離。どこから転移させられる?」

「あ、今すぐにでも」

「そうか、なら用意をしてくれ。おそらく聖王を転移させればゆりかごも到達するまではおとなしい船になるだろうしな」

 そんな会話の横で座標を指定。
 そして、その地点の施設に同時に物理的なメッセージとデータを送付して、と。なんかここスカリエッティのアジトっぽいけど、まぁ大丈夫でしょう。2番の人がどこに居るかわからんけど、ナンバーズの子達は2番を除いてどこに居るか分かるし。

「ありがとう震離。コレで憂いは無くなった……ッ」

 軽く咳き込むと共に血を吐き出す。慌てて駆け寄ろうとすると、その前に手で制されて止まる。 
「……無理をしすぎた。だが―――」

『この身はまだ耐えられる。ですがヴァレンさん、嘘をつかないで下さい。詠唱をしてから急速に貴方の気配を感じ取れなくなっています。やはりもう―――』

 バツが悪そうに、視線を外しちゃった。対して流はそんなヴァレンさんを見て悲しそうに顔をしかめてる。

「……せめてこの痛みがなくなるまでって考えてるんだがな。俺じゃわからないんだ、今どれくらいなのかって」

 気まずそうにヴァレンさんが流の方を向く。流もそれに気付いて、深呼吸を一つ挟んでから。

『……長くは持たないです。それ程までに気配が薄く、何より貴方に体を渡してるはずなのに痛覚を共有しています』

「そうか。すま―――」

『ありがとうございます。貴方とキュオンさんを見て、私は私の戦い方を構築することが出来た』

 あら意外。と考えてしまう。それはヴァレンさんも同じらしく、目が点となってる。

『私はまだまだ弱くて、全然だということがわかりました。だから―――』

 唐突に流の瞳から涙が溢れた。
 いや、予兆はあった。少しずつ、少しずつ……涙を浮かべてたもんね。

『あ、あれ……変です、ね』 

 ポロポロと涙が溢れる。拭ってあげたいけど、今の流は映像のようなもの、触れることは敵わない。この涙の意味は分かるから余計に辛い。だってその涙は。

「……ふ、ははは。ありがとう。こんな俺のために泣いてくれて」

『だ、って……、ヴァレンさ、ん。貴方も消える、かもしれないんです、よ?』

 決壊した。きっとキュオンさんが消えた時、誰よりも想い、悲しんだのはヴァレンさんだろう。そして、それは一緒に居た流にダイレクトに伝わってるはず。そして今度は、ヴァレンさんが消えようとしているんだ。私だって……泣きそうだ。

「いいんだよ。俺は。嘗ては思いもしなかった。こんな俺が次に託せるなんて夢にも思わなかった」

 自然な手つきで、懐からキセルと取り出して口に咥える。

『……わ、たしは……私では―――』

 ボロボロと溢れる涙を隠すように、顔を覆い声を震わせている。

「私では、じゃない。お前だから託すんだ。まぁ、まさか体を渡して託すとは思ってなかったが……」

 あはは、と苦笑い。まぁ、普通そうだよねー……。私もキュオンさんから、色々受け継いだけど力という概念というか継承だけど、流の場合体をそのままだからなぁ。

「先にも言ったが、俺もキュオンも―――」

『だけど、私は私という存在が貴方を殺すんです! ……私が居なければ、私が居るから貴方が消えるんですよ……? 本来なら消えるべきは……』

「それは無い。それは無いんだよ流。俺だって嘗ては人体実験されていたのだから、本来の人格がどちらなのかなんて分かるはずもないんだよ」

『でも、でもぉ……』

 子供のように泣きわめき、膝をつく流と、視線を合わせて優しく語りかけると共に、咥えていたキセルが落ちた。

「初めてお前と会った時何を馬鹿なと思った。だから本気で戦った―――嬉しかった。キュオン以外に本気でぶつかれる相手が未来に居るんだと知ったから。そして、それは序章に過ぎず、遥かに広がっているんだと。
 やる前から諦めないで、ちゃんと前を向いて。辛いことや、負い目を感じて自己嫌悪で駄目になりそうでも、お前()は共に並び立つと決めたのだろう?」

『……ッ』

 目を伏せて無く流を優しく見守りつつ、私にも視線を送ってくれた。
 でも……言葉は要らない。私はキュオンさんから学んでいるのだから。

「この力を制御できても、別に世界を救う英雄なんて成らなくていい。ただ、この青空の元でしっかりと生きて、希望を抱いて立ち上がって。そして、いつまでも笑顔で居てくれたら俺は嬉しい。
 先にも言ったけど。俺達は過去の影だ。それは未来を穢してはいけない事。今日よりずっと、明日をもっと、良くしたいと願って戦い、涙を笑顔に変えるために走り続けたのだから。
 だから嘗ての時代は戦争が起きてしまった。王たちは自分のことよりも民が幸せになって欲しいからと、願い、戦ってしまった。
 でも、もうそんな世界じゃないだろう。だって―――

 ―――こんなにも世界は、空は青くて、人は笑って生きているのだから』

 気が付けば、涙が本物となっていた。いや、彼らの位置がいつの間にか反転していたんだ。そして、それが意味するのはただ一つ。少しずつヴァレンさんの姿が霞んでいく。

『過去を、俺なんかに気を取られないで振り返らず、背を引かれずに歩いて行きなさい。
 俺は……いや、俺たちはもう十分救われているんだ。暗い世界の中で目を覚ましたあの日、アルや琴に出会えたあの日、キュオンに巡り会えたあの日、流と震離に巡り会えたことだけで、とうに俺は救われていたんだ。
 僅かな時間だった、だけど共に過ごせた時間は本当に夢の様だった……だから、笑ってくれ流』

 静かに、それでもハッキリと告げるヴァレンさんの言葉を受けて、涙を拭う。私ももう、前が見えない。

「……はい。私も貴方達と過ごした思い出だけは消えません。私は決して忘れないです。そして、私はこの現実を精一杯生きて参ります。力尽き果てた時、あなたに笑われないよう鮮烈に」

『あぁ、その通りだ。だから流、サヨナラは無しだ。またな』

「はい、また。その時をずっと待ってます」

 お互いに笑顔で話す。同じ顔だと言うのに、その雰囲気は全然違う。そして。

『あぁ、楽しかったなぁ―――』

 笑顔を浮かべたまま、灰色の魔力の粒子となり空に解けていった。


――side響―― 


「震離も流もまだどこに居るか判ってないのに」

「大丈夫だって響、今の映像見てたでしょう? 震離も流も無事だってわかったんだし」

 アルトさんが操縦するヘリを待つために、ゆりかごの外に出て、空中で浮遊しながら待機をしている最中なのだが。
 今しがた出たばかりで、それどころじゃないんだけどなぁ。だって、限界高度まで15分つったっけ? もうすぐじゃねーか……はやてさんもセインと共に、スカリエッティ達連れて航空部隊の方へ飛んでったし。
 本当は残って探してから出る予定だったけど……くっそ、フェイトにⅡ型に縛られて動けんかったしよ。

『テスタロッサ』

「シグナム! ……え、その姿は?」

 不意にシグナムさんからの通信が入ると、いつもの姿とは異なっていた、髪が薄桃色に変わり、瞳は薄い紫だ。

『頼もしい救援が付いてくれてな。現在ポイントで迎撃している。それよりも緋凰はいるか?』

「え、あ、はい。なんでしょう?」

 名前を出されてちょっと焦る。モニターをこちらに回してくれたおかげで、あまり動かなくて済んだんだけどね。

『テスタロッサであのレベルだ。お前が使えばもっといいんだろう。楽しみだ』

 ニヤリ、と笑みを浮かべるシグナムさんから視線を逸らす。シグナムさんが言ってる言葉の意味が判るからこそ、ちょっと嫌になるというか、何というか……だけどまぁ、要約すればただの一言だ。

 無事で何よりって。

『まぁいい。後は風鈴と叶望だけか? 映像をこちらでも確認しているがもう間もなく来るだろうよ。ちゃんと迎えられるのか?』

「えぇ、勿論そのつもりです。大体、行くにしろ何にしろ……まだ何も話せてない。おかえりも言ってませんから」

 自然と拳に力が入る。あの馬鹿さっさとどっかに行きやがって……うん?

「映像?」

『あぁ、最初の時とは違って、風鈴と……シュタインと言う者。そして、相対し戦った者と、叶望も居たぞ』

 視線の端で、フェイトが何かを調べたと同時に、先程まで外で流れていたという映像を入手していた。ふとシャーリーさんが見えたということは……うん? そう言えば、六課ってどうなったか聞いてないんだよなぁ。大体何でアルトさんがヘリ乗って操縦してんのって話だし。

 あー、やべぇ。皆がどうなってるのか気になってきた。やべぇ、腹痛い。

『……まぁいい。後ほど積もる話もあるだろう。お前とテスタロッサの死闘も聞きたいしな』

「……まぁぼちぼちと」

『無事に帰ってこい。では、な』

 ブツン、と映像が途切れる。視界の端でフェイトが何とも言えないような表情を浮かべてるのが見えて。

「……帰って落ち着いたら模擬戦かなー」

「……怖ぇ」

 ガクンと首が落ちる。

「主、主。そのシグナム様なんですけど……」

「おう、どうした?」

 頭の上に乗っている花霞に目を上げて答える。つっても見ないんだけどね。

「以前リインさんが出会ったっていう、融合騎さんの感じがしました。多分ですけど」

「あー……だから、姿が変わってたのか。リインさんははやてさんと一緒に居るのに、なんだろうっては思ってたけど」

「色々出力とか、炎が強化されてた感じがするから、その状態で戦うのは楽しみ」

 小さくガッツポーズを取るフェイト。いや、あの、貴女も大概ですよ……うん。

『二人共ちょっとええ?!』

「「はい?!」」

 突然のはやてさんからの通信で、花霞と声が被る。対してフェイトは落ち着いてて。

「どうしたの?」

『……最悪な展開や。今軌道上に居る次元艦隊なんやけど―――』

 そこからはやてさんから話を聞いて、最後にはやてさんは悔しそうに唇を噛む。一瞬理解できなくて、ようやっと理解出来たときには。

「……アルカンシェルが、撃てない……って、何で……?」

 そう呟くことしか出来なかった。



――sideギンガ――

「疲れたからねるって……自由だね?!」

「本当よ……全く」

 スバルがぽかんとしてる。
 あの時、煌と二人で戦線を構築して、ガジェットがビルの屋上、エリオとキャロの元へ行かないように抑えていた。
 そして、ある程度たった時チンクから通信の後は気絶させるだけだと連絡を受けたと同時に、私と煌で戦っていた人型モドキのガジェットの動きが鈍った。
 直ぐにティアナや、スバル、エリオとキャロに連絡を入れて気絶させれば大丈夫だと伝えて。

 結果、無事に保護することが出来た。直ぐ様、召喚士……ううん、ルーちゃん? の回収や、煌が倒したナンバーズの子達の回収を依頼していると、六課のエンブレムが入ったヘリがやって来た。
 既に中にはスバルとティアナが待っていた。操縦してるのはなんとヴァイス陸曹。曰くザフィーラさんとシャマル先生を連れて前線までやって来たらしい。
 
 ゆりかごに残った面々の救出に向かうとの事でFW陣。皆で乗り込むことになったんだけど……。

 煌だけは適当な瓦礫を背に座ったまま、疲れたからって拒否。確かに凄くぼろぼろだったけど、それでも……。

「響なら大丈夫だろ、意識取り戻したんだろ? なら行ってやれって、俺は後で良いから。疲れたから寝る」

 そう言って本当に眠りだしちゃった。

 仕方ない……わけではないけど、地上部隊の方に彼の回収も依頼してから、私達はヘリへと乗った。

 そして―――

『おう、間もなくゆりかごが見えるが……その前に2人回収してくれって頼まれた。後ろ開けっからしっかり捕まっとけよ!』

 ヴァイス陸曹の声と共にハッチが開いて。外から二人が入ってきた。その人物を見て……。

「あら、皆無事で何より」

「……ぅ」

 時雨と紗雪が入ってきた。時雨は普通に私達を見て、普通に挨拶。紗雪はと言うと、私の顔を見て気まずそうに視線を逸した。
 そういえば、襲撃の日から倒されてずっと会話してなかったもんね。

「ギンガ……その」

「そこから先は私の方だよ。あの時、私はあなたに頼まれたのに追いきれなかった。打ちのめされ意識を奪われていたのに、私はそれに報いることができなかったんだ」

 視線が下がってしまう。あの日、あの時、響を奪還出来なくて戻ってきたら、紗雪が伏せていたこと。悔しかった、そこから皆で外のガジェットを倒している最中に、奏が氷漬けで発見されて、六課にいた煌達も海上を彷徨っていた。だから……。

「私がこんなことを言うのはおかしいのだけど……皆が戦ってるのを見て、本当に、本当に……無事でよかったって」

「……ごめんギンガ。本当に……本当に」

 涙が溢れそうになる。ずっと残っていたんだ。あの日私も残って戦っていればって、ずっと後悔をしてたんだ。

 不意に時雨が私と紗雪の手を取って握手させるかのように近づけて。

「まぁ、結果オーライとは言わないけど、こうしてまた再会出来たしね。それでいいとしましょう。ギンガも、紗雪も、ね?」

「うん、ごめんね。紗雪」

「ううん、ありがとう、ギンガ」

 お互いに涙目に成りながら握手を交わして……。

『ん? お、時雨ー、八神部隊長と響から音声通信が入った。そっちに回す』

「え、あ、はい!」

 咄嗟の事で時雨が慌てる。私達も何でこのタイミングで?と首を傾げながら通信の様子を見守ると。

『時雨ー、突然で悪いが。XV級次元航行船6機でゆりかごを攻める、もしくは衛星軌道上まで1時間稼ぐとなるとしたら、時雨ならどうする?』

 久しぶりに響の声を聞いた。音声通信故に、表情は分からない。声の様子から元気だというのは判るけど、どこか焦りを含んでいる。

「……アルカンシェルで撃てば……って、まさか!?」

『……その通りや。現在アルカンシェルは撃てへん。撃てるとしても今響が言った通り1時間掛かる。そしてゆりかごはあと40分で衛星軌道上のポイントへ辿り着き、そして装填された魔力砲撃を開始されてまう』

 苦々しくはやてさんが言う。その言葉にヘリに乗っていた皆が言葉を失った。

 だけど―――

「多分響とはやてさんと考えてることは一緒のはず。両翼に二隻、前後に一隻ずつ。上に二隻置いて、防御フィールドを最大にして物理的に押しとどめる。その間に前後左右の船によって砲撃、足を削る。違う?」

『やっぱそれしかねぇよなぁ。だが問題が……』

「コレで何分稼げるか。速度が落ちたと言ってもたった40分で到着してしまう。それにまだ迎撃機能を保持している可能性がある以上。こちらが損傷してそもそもアルカンシェルを撃てないのでは意味がない。
 あと、1時間という時間はどこから?」

『地上と本局のエンジニアスタッフが総動員でアルカンシェルの発射プログラムを再構成してる。スカリエッティが襲撃を敢行した時、秘密裏にアルカンシェルの発射プログラムを書き換え無力化してたってよ』

「……2重で見せ札だったというわけ、か。ヴィヴィちゃんが本命だとしても、万が一に備えてコレをするとは……最悪」

 髪を掻き上げながら、深くため息を吐く。艦隊戦については全く知識がないから何とも言えないなぁ。

「で、次元船の人らはどうしてるの?」

『勿論今言った案を、クロノ提督も即座に考えて今実践しようとしとるよ。ただ、それ以外にも何かって言うのがあってね』

 声のトーンからはやてさんもこれ以上は無いと言っている。

 でも凄いなぁって。はやてさんも響も時雨も、即座にそれを思いつくなんて。

「で、響はどこに居るの? 震離と流は回収できたの?」

『あ、俺は今フェイト……さんと、ゆりかご周辺で待機。直にアルトさんのヘリに乗る予定。あの二人は……わからん。ゆりかごの中で震離と会ったけど、それ以上は分からない』

 ……前半部分の所に違和感が合ったけど。後半はどこか気落ちしてる様子だった。

「……そう。多分、アルトの方に奏も回収された筈だから。こってり絞られろ。あと帰ってきたら覚えときなよ?」

『……やだなぁ』

 思わず皆で笑ってしまう。先程までの真面目な雰囲気から一変して、完全に涙目と言った様子の声だったから。

「まぁ、また後で」

『……あぁ、じゃあまた』

『皆もホンマにありがとうな』

 そう言って二人と通信が途切れる。不意に時雨がヘリの天井を見上げて。

「……こりゃ切れたねー」

「うん? 切れたって何が?」

 何のことだろうと思って質問をすると。悲しそうに目を伏せたと思ったら、ニコリと笑みを浮かべて。

「終わったら解るよ」

 何とも言えない様子で笑う時雨を、ただただ見つめるしかできなかった。


――side響――

『フェイト執務官! こちらヴェロッサ』

「アコース査察官! どうしましたか?」

 時雨との通信を終えた直後に、今度は直接通信が飛んできて、声こそ出さなかったけど驚いた。だって、ホッと一息つく瞬間だったし……。

『こちらに、ゆりかごの上で戦っていた聖王がスカリエッティのアジトに転送されたのだけど、何かわからないか、と』

「え?!」「は?!」

 え、待って待って。さっきまで流と……いや、ヴァレンさんと戦ってた人だろ? 何でそこに?

『あと、メッセージが2つ。どれも同じ内容なのだけど。名前は0(ヌル)ではなく、0(レイ)だと。そして、無人世界の座標が添付されているんだが、コレについては?』

「……いえ、心当たりは無いですが。意識はないんですよね?」

 フェイトの影に隠れながら様子を伺う。そう言えばこの人ってば流(女装)が好きだって言ってたっけなぁ……。
 不意にアコース査察官の後ろを見知った金髪が走ったのが見えて。目を丸くする。何度かチラチラと映るソイツは、黒い陣羽織を纏ってて……。

『えぇ。片腕が無いがそれでも止血されているし、それ以外では目立った外傷もない。でも魔力を殆ど感じられない。コレは使い果たしたのか、それとも……現状は分からないがこちらも間もなくアジトから脱出するよ。こちらとしてはあまり情報を得られなかったが……直ぐにこの座標を調べてみる。では、後ほど』

「はい、後ほど」

 そして、通信が途切た。最後にちらりと顔が見えて、その顔は……。

 あぁ、無事で良かった、と。不意に。

「主。あのチラチラ映ってた金髪の方は……?」

「へ、あぁ。多分アレな。リュウキ……リュウキ・ハザマ。あの黒い侍の中身だな」

「え? じゃあアコース査察官達が危険で……わぁああ?!」

 頭の上で待機してた花霞が突然前に落ちてくるのをキャッチして、今度は肩に乗せて座らせる。その際に小さく会釈してから乗る辺り、しっかりリインさんの影響受けてんだなぁと。

「ほらー、だから言ったじゃんか。頭の上は危ないって……てか飛べるよね?」

「いえ、あの、ごめんなさい。まだ目覚めて10時間も稼働して無くて、中々難しくて……」

 しゅんと肩を落とす花霞を見ながら苦笑い。その割にフェイトと即興で合わせたり、俺と合わせたり出来るんだもんなぁ。本番に強いタイプなのかね。

「響、ヘリが来たから行こっか」

「了解です。花霞……はなも捕まっときなよ」

「! はい、了解です!」

 ぱぁっと笑顔になるはなを見ながら、移動を開始する。あー。奏になんて言われるかなぁ。怖いわぁ。


 ―――限界高度まであと12分。衛星軌道上まで39分。


――side震離――

 さてさて、限界高度まであと12分か。ゆりかごの防護フィールドのお陰で普通に呼吸できてるけど……流石にそろそろ不味いね。今なら流を下ろせばまだ何とかなる。

 問題はどう伝えたものか、な?
 きっと本当の事を伝えれば流は絶対に降りようとしない、転移装置が生きてたら無理やりにでも転移させることが出来たけど、それはもう出来ないし。
 残った手で転移魔法を使えるけど、この後(・・・)の事を考えると僅かな魔力すら惜しい。でも―――

「震離さん」

 残ってた魔力の粒子を抱きしめる様に膝をついてた流が静かに立ち上がった。背中しか見えないけど、それでもその声はどこか落ち着いてて、優しくて……。

「……私はヴァレンさんに嘘をつきました。そしてそれは貴女にも嘘をつきそうですが……やはり、震離さんには嘘をつきたくないので伝えようかなと」

 目を見開く。表情は見えないのに、それでも分かってしまう……いや、分かってしまった。

 嫌だと叫びたい、だけどそれは出来ない。それを言えば辛くなるだけだから……。

 震えそうになるのを堪えて、なるべく普通に伝える。

「……凄く悪い報告と、最悪な報告。2つあるんだけど、どうする?」

「なら凄く悪い報告で。私の伝えることも最悪な方なので」

 そう言いながら、振り返った流はどこか優しそうに微笑んでいた。だけど、直ぐにキョトンとした表情になって。

「あれ、未だに元に戻らないんですね? 髪の長い震離さんもまた珍しいんですけどね」

「んー、流石にアレだから。いい加減戻すかー」

 本来の姿をイメージして瞳を閉じる。乾いた音が何度か鳴った後で瞳を開けると。

「……何というか凄いですね。震離さんを血霧が包んだと思ったら元に戻るなんて」

「あー、そう見えるんだね……ってか、それでも右腕は戻らないのか」

 いつもの背丈に戻ったはいいけど、それでもやはり右腕は戻ってきてない。キュオンさん曰く何処かで保管されてる関係で戻ってこないとのことだけど。人の腕をどこに持っていったのやら。

 あぁ、もっとこうやって他愛のない会話を続けたいけど……。

「さ、本題へ。さっきメインいじってる最中にさ。嫌なものを見つけて、響の頼みを受けて強制操作を解除してたんだけど……何が合ったと思う?」

「……主砲はキュオンさんが防いでおりましたが。一つ気になるのが、なぜゆりかごは聖王陛下が居なくなったにも関わらず動き続けているのか。もしかしてそれでしょうか?」

「残念。でもそれもあながち間違いではないけどね」

 ふと、遠くの空に次元船が6艇ワープしてきたのが見えた。

「話ながら中へ移動しようか」

「えぇ」

 二人で跳び跳ねながら王室を通って通路へ出る。その道中に。

「スカリエッティがわざわざ地上本部を墜として、六課も墜とした時にね。実はもう一つ狙いがあったの。
 その2つの被害の影で、アイツは万が一にでも自分達が負けたときの保険を掛けていた。二人の聖王が倒れても、自分達が負けても、この世界に爪を立てようって決めてたんだろうね。

 今、飛んできた次元船では……いや。本局のシステムではアルカンシェルは撃てない」

 ここから操作したのか、もしくはここでそのプログラムを作ったのか分からないけど……ご丁寧にその作成データの一部を残してた。嘘か誠か分からない。
 だけど、アイツも科学者だ。実験に失敗は付き物。だけらその対策を事前に用意してたとなると大いに有り得る。
 
 もっと言えば、管理局から2人も離脱させてる以上。それはこちらが思ってる以上に容易いんじゃないか、と。

 手元のコンソールを操作して、ゆりかご周辺の映像を出す。更には上空、宙の次元船の動きも確認する。そして、確信した。ゆりかごの軌道を計算したのだろう。上手い具合に4艇で円陣を組んで、真ん中には2艇縦に並んでる。

 おそらくゆりかごの到達する地点までの時間を稼ぐ為の行動。

 だが―――

『敵船接近。コレより迎撃行動に移ります』

 自然と舌打ちが漏れる。直ぐにコンソールを使ってその行動を辞めるように操作をするけれど。

「……やはり、全権限があるのは聖王陛下だけで。私では無理、か」

 全てが弾かれた。ものの見事に攻撃という手段だけは緩めないと……嫌な兵器だねコレは。だが、コレは丁度いいのかな。下手な被害は出ないだろうし。

 ……あぁ。言いたくないなぁ、そして流の方も聞きたくないなぁ。

 でも言わなきゃなぁ、聞かなきゃなぁ……。

「「あの!」」

 隣を跳ぶ流に伝えようと声を掛けた瞬間被ってしまい、お互いを見つめてしまう。きっと私も驚いて変な顔なんだろうな、流でさえも普段は見せないようなキョトンとした顔だし。

 そして、数秒見つめたと思いきや。お互いに可笑しくなって笑ってしまう。
 あーあ、やっぱりいいなぁって。

「さて震離さん。どちらからいいます?」

「多分の違いはあれど、同じことでしょう? じゃあ同時に言おっか?」

「えぇ」

 一瞬寂しそうに目を伏せたのが見えた。だけど直ぐに視線を上げて。

「「――――――」」

 私達は同じ事を伝えあった。だけど、それは分かってたことで不思議な気分になった。

 さぁ、後はやることは一つだ。外にいる人達に伝えなきゃ。
 
 その前にあの場所を目指して行かなきゃ。


――side響――

「……マジカヨ」

 回収されたヘリの中で跪く。と言うかかなり悲しい……。

「……あの響? そうされると私的には文句いいたいのに言えないんだけど?」

 俺の様子が哀れに見えたのか、怒ってたはずの奏がワタワタと慌ててる様子が伝わってくる。
 正直な所、割とショックだった。奏と久しぶりにあったなぁと思ったらショートカットになってるんですもん。フェイトと違った髪色で昔から見てた色でもあるから凄く好きな色だったし。

「アイツ、コロス」

「片言でやめなって。あと優夜が倒したはずだからもういいよ」

 そうか、色々突っ込みたいことあるけど。なんで昔のデバイス持ってるのとか聞きたいことあるけども……。
 ガタガタと震える足を踏ん張って、何とか立ち上がって。

「いや、すまん」

「……はぁ、怒る気もなくなったよ。その様子だと分かってるみたいだし。私はいいよ。後でギンガに殴られてしまえ」

「……絶対痛いよなぁ」

 はぁ、とため息混じりに話す奏に対して苦笑い。不意に視線をずらすと、なのはさんとヴィヴィオ、そしてはやてさんがフェイトに詰め寄ってるし。ヴィータさんは不思議そうに観戦していて、リインさんはそんなヴィータさんの肩に座ってニコニコ笑ってるのがちょっと可笑しいなって。

「で、どっちから告ったの?」

 自然な動作で、俺に顔を寄せて小声で聞いてくる。

 正直な所……うん、何でバレたしっていうのが一つ。だとしたら、あそこで詰め寄られてるのは……そういう事かって。

「……え、解るの?」

「だって先輩の響に対する視線が変わってるもん。解るよ」

 フフンと胸を張ってる。かと思えば、直ぐに寂しそうに笑って。

「ちゃんと向き合うんだよ?」

 スッと拳を顔の所まで持ち上げて。

「……あぁ。ありがとう、奏」

 コツン、とぶつける。

「主! ゆりかごが迎撃行動を始めました!」

「……まじかよ」

 肩に乗っていたはながヘリの天井を……いや、その先にいるゆりかごを見ながら伝えてくれた。その瞬間、フェイトに詰め寄ってたはやてさんも動いて。

「クロノくん! そっちは大丈夫なんか?」

『……大丈夫、と言いたいが。いかんせん迎撃が激しいなコレは』

 直ぐに艦隊からの映像がまわされる。そこに映るのはゆりかごを中心に前後左右に船が近づこうとするのをゆりかごが迎撃している様子が映し出された。
 勿論次元船もそれぞれもただ近づくだけじゃなく、砲撃を放っているものの。それでもゆりかごの防御フィールドは固い。

『追加の次元船もこちらに向っているが、それでも厳しいだろう。最悪な場合……衛星軌道のポイントで相手をしなければならない』

 苦々しくクロノさんが呟く。それもそうだろう。嘗ての最悪と呼ばれた船を相手にしていて、きっと聖王教会の信者の人たちだって乗ってるだろうし、士気にも影響が出てるはずだ。
 大体さ、駆動炉潰れて、主砲も放った後だって言うのに、何であの船動いてて、何で次元船6艇と渡り合ってんのさ。あの船全部新型なのに。

『……何!? はやて、中に人が残っていると言う情報が来たのだが本当か?!』

「え!?」

 ヘリの中に居た人全員が叫ぶ。このタイミングで2人残っているということは……。

「花霞!」

「え、あ、はい!」

 花霞を連れてヘリのハッチから飛び降りる―――筈だった。

「離せ奏!」

「駄目だよ、限界高度に余裕があるって言っても、それはゆりかごの防御フィールド込の話だよ!? 今から追いかけても響が死んじゃう!」

 奏が腕にしがみ付いて、離れない。無理に離せないことはない、だけど……。
 
「この程度で死ぬかよ! 近づいて呼びかける事くらい出来る! なんかあったから、あいつら脱出出来てないんだろうが!」

「馬鹿お前、両足だってやばいんだ。落ち着けって!」

「だけど―――」

 ヴィータさんが叫ぶ。そして、不意に金色の光が奔ったと思えば。

「駄目、行くなら私が行くから。花霞、バルディッシュ。行けるね?」

「だけど!」

「響!!」

 フェイトの一喝で思わずそれ以上の言葉を言うことが出来なかった。

「その足で、その体で……今無理をすれば本当に死んじゃう。私なら、響が護ってくれたら……大丈夫だから」

 凛として、ハッキリと伝えるフェイトを見て。自然と両腕に力が入る。情けない……ゆりかごに残ったアイツに助けられているのに、あの時アイツを見失わなければ。

「だから、私が行けばきっと―――」

『……お、ビンゴ。繋がったぁ』

 不意に聞き慣れて、この場の雰囲気に合わない声が響いた。

 皆が視線をそっちに向ける。

『よく出来ましたね……本当に出来るとは思ってなかったです』

『フフン、コレでも昔は神童なんて呼ばれてましたから。実は古代ベルカ語もある程度解析出来るんだよねー』

 見知った声と、見知った雰囲気を感じる。ゆりかごの中で会ったあの人とは異なる優しそうな声な……。

「震離? 流?」

『やっほ』

『……お久しぶりです』

 久しぶりだと思える2人から通信を受けた。

 片方はまるで遊ぶ約束をしていたように気軽に、片方は気恥ずかしそうにはにかんで。
 ゆりかごの戦いを見て、ヴァレンさんとやらに何かがあったのは察してたけど、今の様子は流だというのが判る。

「無事でよかった」

 心から良かったと、色々言いたいことはあるけれどそれでも……ちゃんと無事で2人共いたのが分かって良かった……じゃない!

「震離、流。次元船6艇がゆりかごと戦闘を開始する。だから―――」

『ゆりかごの迎撃の度合、上昇速度を考えると時間を稼げても10分程度。ただしゆりかごは衛星軌道のポイントに近づく度にその性能が上がっていく。
 悪いけど、アルカンシェルが間に合う前に正面からの殴り合いになってしまうし。ポイントに着いたと同時クラナガン目掛けて二度目の主砲が放たれてしまう』

 こちらの言葉を遮って震離が言う。はやてさんが、そうだったと言わんばかりに舌打ちを。震離と流から見えない所で奏が俺の背中を強く掴んでる。
 だが。

「あぁ、それなら大丈夫だ。そのための艦隊の陣形も出来てる。だから、二人共安心して脱出してきな。
 ―――大丈夫だから」

 右隣のフェイトの手を強く握る。気を抜いてしまうと一気に心配していると、現状だと厳しいとバレてしまいそうだから。
 不意にフェイトの方からも手を強く握られるのが分かった。

 でも……震離はさみしげに微笑みながら首を横に振る。

『嘘。今の陣を用いて10分程度だよ。コレでも希望的観測での事。アルカンシェルの発射プログラムの再構成はきっちりしないと、自分達も空間歪曲に巻き込まれる恐れもあるし、何より発射する前に懐で発動する恐れもあるんだよ?
 だからこそアルカンシェルは外付けの武装で、条件を満たさなきゃ撃てない代物。とても衛星軌道ポイントに着くまでには間に合わない。仮に間に合ったとしても決戦の最中で撃てるのが私の予想だ』

 淡々と事実を伝える震離の言葉に、目の前が歪むような錯覚に囚われた。


――sideフェイト――

 奏も何かを言おうとしているのに言葉にならないのか落ち着かないようだ。響の背中を掴んだその手は震えている。特に……私の手を掴む響の手が凄く冷たくて、震えてるのが判る。表情にこそ出してないけれど……凄く焦っているというのが伝わってくる。
 響の言うことは理想論。裏付けもないことだ。対して震離は事実だけを伝えている。

「それでもや。2人が中に残ってるから、クロノ提督達が本気で砲撃が出来ないと考えられへんか?」

 はやてが助け舟を出した。表情は明るくないけれどコレならば。

『二人の人間とミッドの住人、そして、艦隊を指揮する方々。比べるまでも無い。違いますか?』

 間髪入れずに流がそれを否定する。同時にクロノ達の船とゆりかごの攻防が始まり、ゆりかごから通信してる2人の映像にノイズが混じるようになって。

「なら、命令や! 叶望震離一等空士。風鈴流空曹。両名とも直ぐに帰還しなさい。コレは部隊長命令です!」

 もはや時間は無いと判断したはやてが、権限を使って2人に命令を出す。それは悲鳴のようにも聞こえた。このままでは本当にゆりかご事本当に……。
 ―――でも。

『『聞けま―ん』』

 ノイズが混じりながらも、静かに、そしてハッキリとそれを拒否した。そして―――

『別にこ―に残って死ぬわけじゃな―ですよ。……ちゃ―とプランが合っ――事です』

 流が優しく笑みを浮かべながら言う。

『そうです―。上手く行け――りかごを内部から破壊――ますし……ちゃんと離脱用のプランも考えてます。
 思い出――下さい。私やキュオ――ん、ヴァレンさ――此方に来た時の事を』

「! 空間を割ってやって来たあの方法か? けどそんなん……確実にできる保証なんて、何処にもあらへん!」

 え!? 空間を割る? そんな方法で……3人が現れた時、魔力はなんとなく感じてたけど、どうやって現れたのか分からなかったけど……まさかそんな方法で。

『―から平気で―。ただ、問題―一つあるとす―ば……私はヴァレンさ―程―精度を持っ―るわけではありま――から……変な所と繋がってし―えば、それこそ―――』

 ノイズが激しくなりその後の流の言葉が聞こえなかった。だけど、その一瞬凄く寂しそうな顔をしたのが見えて……。

『まぁ、その為―私です。だか―、しっ―りと流と一緒に破―……は出来な――も、時間稼ぎ位はす―んで』

 今度は震離が声得てくれるけど、声は途切れ途切れだ。だけど、映像の方はもう完全に見えない。それにともなって艦隊戦も激しさを増すばかり。さっきまで一緒に聞いていたはずのクロノとの通信がいつの間にか途切れている。

「……大丈夫なんだな?」

 震える声で響が問いかける。気が付けば大粒の雫が頬を伝っているのが判る。奏も同じだ。声を殺して俯いて雫を落としている。

『『勿論』』

 ハッキリと声が聞こえた。迷いも戸惑いもないただ一言が。

「……二人共。私が言った事。スターズ一同からのお願い覚えてるね?」

『えぇ、い―か』

『帰っ―きた―響を弄―たいです―』

 なのはの言葉に2人が答える。ノイズまみれでも、顔が見えなくても2人が笑っているのが分かる。

「ながれ……帰ってきたら。ヴァレン様とキュオン様と、聖王オリヴィエの関係を教えて、絶対に」

『短かっ―けど色々聞け――ら教える―、ね?』

『……うん』

 なのはに抱かれたままのヴィヴィオが泣いている。2人には離脱する手段があるというのは判る。だが、それでも……。

 どことなく後生の別れのように感じるのは何でだろうって。

『……――――――、――――――!』

 もう声が聞き取れない。震離が何かを言ったように聞こえるけど、それでも……。

「……いってらっしゃい。気をつけて帰ってくるんやで? コレはスターズだけやない。ライトニングも、ロングアーチも、機動六課皆のお願いや。ちゃんと帰って、ただいまって言うんよ?」

 はやてが言う。もう、何を言っても2人はあそこから離れないだろう。ならばと、はやては覚悟を決めたんだろう。本当はここに居る誰もが2人を送り出したくない。プランが有ると言っても成功するとは限らないのだから。
 だからこそ……。

『『いってきます』』

 その言葉を最後に通信モニターが途切れた。

 ――――――

 この12分後に、ゆりかごが内部から爆発を起こし、内部からの爆発……いや、まるでアルカンシェルを放ったかのような爆発はゆりかごの船体を飲み込み消滅したと報告が上がった。その後、流と震離の両名がMIAと認定された。
 
 その数日後にはヴァレン・A・L・シュタイン。キュオン・ドナーシャッテンの出現とその様子から聖王教会の保持する記述に誤りがあるのではないかと、再度の調査が開始。
 
 そして、管理局としては表沙汰にはなっていないものの流の古巣である「特殊鎮圧部隊」の壊滅が確認された事。同時にその部隊を預かっていたライザ・ジェイブは、響との戦闘中に強い衝撃を頭に受けた影響か、全てを忘れ、本当に優しそうなおばあちゃんの様になってしまった。
 演技の可能性が高いと、アコース査察官の記憶捜査をしたが、それでも完全に記憶が失われていると報告がある。
 ただ、沢山子供が居たのに誰も何も覚えていないとよく泣いていると収監施設から報告が上がっている。

 アヤ元三佐は、捕まってからは答えることはないと黙秘を続けている。
 記憶捜査でもすれば良いと言っているが、あくまであれは最終手段ということもあり、当面は話してくれるよう根気よく説得を続けるらしい。
 そして、アヤ元三佐を援護した管理職員達は、辺境世界での謹慎と数年の異動を言い渡された様子。
 
 そして、ナンバーズの子達もそれぞれ保護されている。ヌルこと、レイに関しては借りてきた猫のように大人しく、そして姉妹であるナンバーズ達と顔を合わせられていない。これは意識を取り戻してから、性格が大きく変わったからと言うのが大きく、未だ図り切れていないからというもの。
 
 レジアス中将を殺害した2番は騎士ゼストにより倒され、彼もまた騎士として死ぬことを選んだ。
 
 ナンバーズの1番と3番、4番、7番、そして彼女らを作ったスカリエッティもまたそれぞれ協力を拒んでおり、近いうちにそれぞれ無人世界の収容所へそれぞれ送られるそうだ。
 逆に終盤に管理局に協力したチンクとセイン、ディエチ、そして操られてしまった子達と、召喚士の女の子、ルーテシア・アルピーノ、融合騎アギトは地上本部の海上隔離施設にて教育プログラムを受ける事となった。

 スカリエッティのアジトにいたはずの被験者が何処にいったか分からなかったが、レイがアジトへ転移した時に送られたデータを解析した所、とある無人世界の座標で、その地点を調べるとその施設に被験者達が捕らえられていた。
 一年中冬のその場所は、見た目は普通のコテージだけど、無人世界のはずのこの世界には本来あってはならないもの。
 そして、この場所の座標を提供した震離の記述によると、ここの施設はウィンドベル夫妻の隠し研究施設だったとのこと。嘗て壊滅されたこの施設を改修し、使えるようにスカリエッティが手を施したようだ。

 唯の管理局員では知るはずも無いこの場所を、震離が知っていたということで問題となりかけたが、そこはフレイさんや、お兄ちゃんの手回し。特に響はいろんなツテを使って、何とかする事に成功していたけど、それは別のお話。
 彼がこれをするに至るまでは、ちょっとだけ別の要因も重なったから。 

 この日から響達は、震離と流から連絡が来ないか待つ日々が始まった。

 
 

 
後書き
 長いだけの文かもしれませんが、楽しんで頂けたのなら幸いです。ここまでお付き合いいただき、感謝いたします。
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