魔法少⼥リリカルなのは UnlimitedStrikers
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第72話 Stronger Than You.
――side響――
「お前、なん……その―――」
「驚いたわ! まさか、あの状況から生き延びるとは!」
腕はどうしたと聞く前に、前方より驚愕の叫びに掻き消される。叫んだ方向へ視線を向けると、スカリエッティの隣には老婆が1人。
対して震離はにやりと笑みを浮かべて。
「えぇ、死ぬかと思った……いや、違うな……実際死んだんだよ私は。あの日あの時あの一瞬。私は私のために死を選んだ。けど、なんやかんやで文字通り灰の中から蘇った」
なんやかんやって……なんやかんやって何さ?
「そう。その割に私が飛ばした右腕は戻ってないのは仕様かしら?」
「さぁ? 燃えて塵になったか……はたまた炭になったか。わからないけれ、ど。
そこをどけ三下。私には確かめなければならない事がある」
左手に白い巨大な十字架型の武装を出現、剣のように持ち、その切先を老婆へと向ける。それに呼応するかのように老婆もまたデバイスを展開させる。右手に大剣を、左手に長銃を。
だが、それを見て驚いた。あの老婆が持つデバイス2つ。あれは流が使っていた……ギルガメッシュ、アークジャベリンだという事を。
「ねぇ響、フェイトさん? 啖呵切っておいて何だけど……ごめんなさい。私1人だと勝てないって事はないんだけど。手伝ってくれると嬉しい。
予想が正しければ……アイツ、相当に面倒な資質を持ってる」
「あ、あぁ。何方にせよ戦うつもりだけど。お前今まで……」
「細かいことは全部なし! 今はアイツを叩いて、ここを制圧して……確かめないといけない事があるんだ。って、前!」
「は?」
言われるがまま視線を前に向けると、鈍く光る刃が見えて――
「危ない!」
咄嗟に晩鐘で防ぐ。ここに来てから不意打ち多いなーとか思いながら、ふと違和感。
ヌルとの戦闘時は文字通り高速で接近してきたが、同時に風を切る音、移動時の風圧も僅かに感じた。
だが、この老婆の一撃は……って。鍔迫り合いになったと同時に、銃口向けて躊躇なく撃ってきやがった。放たれる直前に暁鐘を使い銃口を逸らす。それに合わせてフェイトが背後に周り、一閃を放つが。容易く躱される。
どこからか長杖を取り出したと思えば、なのはさんのビットの様に空中に浮遊。それと同時に、魔力刃を展開して、それを手足のように操作して、フェイトを斬り合う。
ここまでの一連の流れを見て、正直思うのが……気持ち悪いということ。
速さの質がどうにもおかしいんだ。
空気抵抗や重量等を無視した高速駆動。攻撃は異様に軽く、弾かれた後のリカバリーの速度の異常さ。弾いたと思えば即座に、いや、ほぼラグなくもう一度振るわれた後だ。
気が付けば、俺と震離で老婆を挟んで攻撃。フェイトも高速で振るわれる魔力刃を捌きつつ。的確にこちらにも援護射撃をしてくるのは上手いなぁと。
が、しかし、そんなフェイトの周りに、多脚型の人の上半身を持った、また新たなガジェットが二機現れ。
「母君、私も手伝おうかな?」
「あら、助かるわ。ジェイル」
両手にグローブを付けたスカリエッティがその場で指揮者の様に手をあげると共に、そのガジェットがフェイトに接近。
「フェイト! 此方は良いから、スカリエッティを! 花霞はそっちついて!」
「うん、ごめんね!」
「了解です!」
明らかに今までと挙動が違うガジェット。おそらくあれは……。
「え、待って。響? ちょっとおいロン毛。もしかして……LOVE?」
ガクン、と。俺とフェイトの動きが止まる。同時に、フェイトは二機のガジェットを上手い具合に回避。こちらも同様に、斬撃を回避。そして言った本人は……。
「……何してんの? 戦闘中に……馬鹿なの?」
「誰のせいだよ、誰の!?」
冷めた視線を送ってくるけど、その口元は僅かに笑ってるのが見えて。
何というか、久しぶりに馬鹿してるなぁって。
さて、大きく切り払って一度距離を取ってから。震離の右隣に並び立って。
「ははは、らしくないな。お互いに」
「フフン、そうだね。お互いに」
老婆が不思議そうな顔をしてる。それでも。
「響。その、ね―――」
「わかってる言うな。聡いお前のことだ分かってるよ―――
だから先に伝えておくよ。ありがとう、震離のお陰で俺は俺であり続けられたのだから」
息を呑むのが聞こえた。顔は見えない、だから表情は分からない。
「―――そっかぁ」
短く、噛みしめるようにそう呟いて。
「頼むよ」
「おうさ」
言葉は不要。共に過ごしてもう12年か。早いもんだな、なんて考えながら弾けるように跳ぶ。一瞬で俺より前へと出る震離の背を見て懐かしいと思う。初めて魔法を覚えた震離との勝負でも負けたっけなぁと。何時までたっても俺はお前に勝てないんだなぁと。
さぁ、意識を老婆へ向けよう。
コイツが強いのは分かった。おそらく俺やフェイトとは違った速度を極めたのかはたまた違う物なのかわからない。
―――だがな。
先行した震離が十字架を振って、大剣と斬り合う。時折向けられる銃口にはこちらで、銃に当てて逸らす。鍔迫り合いになればワザと宿した魔力を爆発させてくる以上、足を止めての斬り合いは意味がない。
そして、三本目の獲物が戻ってきた時に。それは起きた。
一瞬で俺と震離から離れたと思えば、即座に追撃。
だが、僅かに反応が遅れた震離は、背後からの魔力刃に震離が貫かれ、即座に魔力刃を爆発させられて。
「取った!」
「ッ!」
感傷に浸る暇等無い。前へ前へと。
手を抜ける相手ではない。こちらも右肩に痛みを抱えてる以上、僅かに動作が鈍る。振るった二閃は障壁と大剣によって受け流され、反撃と言わんばかりに銃口を向けられたのを無理やり体を捻ってそれを回避。
だが、次に向けられたのは大剣による斬撃。それを受け止め、流すと共に後退。
間髪入れずに、またもやラグ無しの大剣の横薙ぎ。
下がった勢いで直撃こそ避けたものの、その切先が胸を割く。
鮮血が舞う。だが、そんな事はどうでもいい。
その横薙ぎを振り切ったタイミングで、もう一度踏み込み。上下からの斬撃を見舞う。またしても剣と……いや、今度は銃を使ってコレを防がれる。
ならば、と。踏み込んだ足を軸に、もう片方の足で老婆の顔面目掛けて蹴り上げる。
身体強化とゼロ距離。とはいえ、やはり障壁によってそれは遮られる。だが、足は障壁によって拮抗するかのように振り上げた体勢を維持。全身を連動させて、蹴撃をそのまま徹す。
弾けるように老婆の顔が後方へ跳ね上がるのを見えて、追撃をするために今一度刀を持つ手に力が入る。
だが、微かに老婆の目が死んでないのが見えて、反射で身を引いた。
事実、引かずに、もしもう一歩踏み込んでいたら、間違いなく取られていた。目の前には三本目の獲物である魔力刃が突き刺さっている。
正直な所、チャンスの1つを逃してしまった事に自然と奥歯を噛みしめる力が強くなる。頭に入ってたことだ、やりようはあったはずなのにと。
そこからはもう一度先程の繰り返し、だが、明らかに変わったことと言えば、老婆が大きなアクションではなく、細かくこちらの隙を見て銃撃、三本目の魔力刃で取ると言うスタイルに変わってしまったこと。
斬撃を捌き、銃口をずらしても、見えない三本目は、紙一重で避ける事しか出来ない。老婆の目を見ても、挙動を見てもそれを判断することが出来ないのだ。
だからこそ、三本目が飛来する風切り音を聞いてそれを回避するしか出来ず、徐々に削られていく。
だが。
「ぐ、ぅ!」
真上からの一手を読みきれず、右の頬が縦に切り裂けられる。
瞬間、老婆の顔が僅かに綻んだ。あの顔はよーく知ってる。勝ちを確信した顔、負けは無いと悟った顔。
でも、な。
「キャア?!」
突然の悲鳴に老婆が動きを止める。少し離れたスカリエッティとその傀儡も、そして、フェイトも動きを止めた。
この場の4者以外の悲鳴。視線を部屋の奥に向ければ、薄紫の長髪が倒れている。そして、代わりにそこに居るのは、小さな女の子。前髪で目は隠れ、胸や背中に到達するほどの髪の長さを持った……。
「ナイス。震離」
「ニッ!」
つい先程、絶命させたはずの人物が幼くなってそこにいる事実に、老婆とスカリエッティの顔が青くなり、震離の元へ駆け出そうとするけど。
「フェイト、ここで決着を!」
「勿論!」
その移動を阻害するように、俺は老婆の、フェイトはスカリエッティの前へ。
「震離。地上で暴走させられてる子達を止められないか見てくれる?」
「了解。多分コレかなーっていう、何か変なプログラム走ってるけど、多分止められる。平気だよー。でも、その前に調べたいことがあるから」
背を向けてるから顔を見ることは出来ない。だけど、それでもだ。きっと彼女は笑っているのだろう。かつて見たあの笑顔のままで。
「……そうか、やっぱりか。響、今からそのプログラム解除するよ。だから足止めお願いね?」
「おうさ」
今一度、老婆を見据える。その顔は怒りで染まっている。だが。
「無駄だ! ゆりかごの雷はもう間もなく放たれる! ここからでは解除出来ないのさ!」
歓喜の声という表現が似合う程の、嬉しそうな声でスカリエッティが叫ぶ。聞きなれない単語に首を傾げるが、おそらく良いものではない。
「知ってるわそんなもん。それでも可能性があると信じてここに来た。結果は散々だったけどねー」
背後からの震離の言葉を聞きながら、ガクンと突然の地響きに驚く。その隙を逃さず老婆がこちらに射撃したと思いきや。
「死ね」
まじかよ。と思うのが半分、やっぱりと思いながら、老婆の斬撃を受け止め弾き、弾丸を落とす。
コイツの機動術の正体がわかったのだから。
『もう、いい。二人仲良く消滅すればいい!!』
突然の怒号にまた驚く。部屋の中央に浮かべられたモニターからのヌルの叫び。そう言えば、あの2人痴話喧嘩してて動き止まってたんだっけか。
瞬間、ゆりかごの上空に強大な魔力を感じる。あれ、やばくね? 2人の方向……いや、あんなもん撃たれた日には。
「震離! あれ、ここから止められない?! あと、どこに向けられてんの!?」
老婆の攻撃を捌きつつ、叫ぶ。場所によってはあれは……何人。何万死ぬか、想定出来ない。
「止められないし、あの2人を狙って……いや、これはゆりかごの向いてる方向。首都クラナガン。正確には地上本部周辺コースだね」
血の気が引いた。それに合わせるかのように老婆が笑う。
それをしってかしらずか、震離は言葉を続ける。
「厄介なのが、聖王が撃つって宣言したから止められない。だけど、動力炉は破壊されてるから、今は一発しか撃てない。でもリチャージすれば撃てるし、月の魔力を受ければこれ以上で撃てるかも知れない」
よそ見できない筈なのに、それでも視線がモニターへ移るのをやめられない。
「……なんだけど」
どことなく安心した様子の声色に変わり、
「最強と最強が、三度目の共闘を果たした今ならば……あれくらい何とかなるよ」
そう告げる震離の声が、寂しそうだったのがとても印象的だった。
――side震離――
告げられていた。言われていたんだ。
予言の後半部分は何が何でも阻止しなければいけないんだ、と。
ゆりかごの雷、全てを滅ぼす虹の極光。ゆりかごが最強たる由縁。
モニターがどんどん滲んでいく。左手を必死に動かして、響から頼まれたことを達するために。
『今、この瞬間を持って貴女をマスターと認めましょう』
「……う゛ん。ありがと」
声が震える。私の胸のロザリオが……エクスピアシオンが、そう言ってくれた。
きっと流なんかは、大泣きしてるんじゃないかなって。僅かな期間しか居なかった。
だけど、それでも……濃密な期間だった。知らないことを教えてくれて、何より英雄って案外ズボラ何だなーって分かって幻滅して……。
それでも、あの2人がなのだと言うのが痛いほど分かって……。
二人共深く愛し合ってるのも分かった。
祈っても無意味だと思う。神なんて信じてないから。だからコレは願いだ。
どうか、どうか―――
―――あの方々に、安らぎを。
――sideキュオン――
懐かしむように、彼との会話を楽しむ。
こんな姿なんだ、他に比べれば若いつもりで居たけれど……年甲斐もなくはしゃいでいるらしい。
久しぶりの表での戦で、隣には彼が居る。
ただ、それだけの事実が私を掻き立てる。
はしゃぐには申し分ないな。
再会してからも、こんな他愛もない会話をしていたんだけど……やはり青空の元だと、やはり高揚してしまうんだなと。
「ヴァレン」
「……そうか、分かってたことだが。直前になるとこみあげるものがあるな」
表情は見えない。だけど、僅かに口調が静かになったのが分かる。
「あら、泣いてくれるの?」
「まさか」
目の前に、いや、空を虹の光が埋め尽くす。圧倒的な魔力。それは国を滅ぼす雷となる必滅の雷。
「でも、コレは懐かしいよ。初めて共闘した時の事を思い出すね」
「あぁ、懐かしいな。あの時は二人で叩き込んで勝ったな。あの時と同じく面倒事を―――」
掛ける。というより先に彼を抱き寄せ、口を重ねる。唇を浅く開けて、彼の唇を啄むように。
カリッ、と。
彼の上唇を小さく噛み切った。肉を断つ感触を感じつつ、舌先に僅かに血を乗せて飲み込む。
「……お前、流が放心しちまったじゃねーか」
「フフ、まぁこれから成長するのだから、コレくらい慣れてくれないと。
それよりも……ねぇ、ヴァレン? コレは私と貴方の意思。あの時も、そして今も。私はそうは思ってないよ。
それとも、数百年で貴方はすっかり丸くなってしまったのかしら?」
は、と短く吐き捨て彼は笑う。
―――さて。
「―――今度はそんなに待てないからね」
あぁ、と呟くように、愛おしそうに言ってくれる。
「―――分かってる。またな」
「はい、また」
数百年という、長い間溜め込んだ魔力により身体強化。即座にゆりかごの進路方向へと跳ぶ。
「「いざ」」
距離が離れて居るにも関わらず、彼の声が聞こえた。己の手首を歯で噛み切る。滲み出る血を眺めつつ、魔法陣を展開し、そのまま跪く。両手を組んで、瞳を閉じて、心を落ち着かせる。
既に体を蝕む痛みは感じない。だが、代わりに感じるのは少しずつ私が消えていく感覚を。
好き好んで、真祖になったわけではなかった。
なりたくなかったと、何度も何度も泣いたときもあった。
だが、今ではそれを感謝している。お陰で私はここまで生きて、もう一度出会えることも出来て、この力を与えてでも救いたいと思う子にも会えた。
空に漂う虹の光が徐々に収束していくのを感じる。
だから私は願い、乞う。
―――この身は悠久を生きし者。ゆえに誰もが我らを置き去り先に行く。
―――ああ、日の光は要らぬ。ならば夜こそ我が世界
―――されど、我は輝きに焼かれたい。追い縋りたい、されど、追いつけない。
―――追おう、追い続けよう何処までも。我は御身の胸で焼かれたい。
瞳を開ける。天を仰ぐ。かつて背を向けざるを得なかった、陽の光をこの身に浴びる。熱は感じない筈なのに、心が暖かくなるのを感じる。
そして。
「灰燼とかせぇえええええぇぇぇえ!!」
遠くから、怒号の様に叫ぶ彼女の声と共に極光が奔った。
――side震離――
瞬間、皆の動きが止まった。太陽の光に負けず劣らずの虹の極光、そして、ありえないほどの魔力の奔流を感じて。
響がフェイトさんが叫ぶ。老婆とスカリエッティが勝利を確信して嘲笑う。
だが、それは長くは続かなかった。
虹の極光は、壁に隔てられるように、紅蓮の炎によって、行く手を阻まれてしまったのだから。
奇跡という物は無いと思ってた。どんな事象もそれまでの積み重ね故に起こる。故に奇跡等無いと考えていた。
しかし、目の前でそれは起きた。人の身では……最強と恐れられたゆりかごの雷を、あの人は1人でそれを止めて見せた。
両手を組み、瞳を閉じ、その場に跪く彼女の姿は、あまりにも美しい姿勢で、彼女の上からは光が差してるとさえ認識してしまった。
そして。彼女は続ける。子守唄を歌うように。
―――主よ、永遠の光で彼らを照らしたまえ。
―――彼らに安息を与えたまえ。
―――安らぎのうちに眠り、喜びのうちに目覚めたまえ
―――心が再び呼び起こされる時には。
―――お往きなさい、心から愛し慕う方と共に。
―――そしていつの日か、天使の手によって、主は私たちを来世で引き合わすでしょう。
組んでいた両手を解いて、虹の極光へと掲げる。
刹那、その姿が変わる。ストロベリーブロンドの長い三つ編みの髪を肩から前へ垂らした、流と……いや、ヴァレンさんと同じ背丈の女の子。赤かった瞳が、一瞬綺麗な琥珀色の瞳に変わる。
1秒にも満たない時間の中で、ハッキリ見えた。
優しそうに目を細め、小さく笑って。
「 」
遠くに映る彼女が何かを呟いた。それが何を意味するのか、誰に向けて言ったのかが分かって、再び涙が溢れて止まらなくなる。
天国かと錯覚する程の虹と雷、そして焔の共演。
焔が虹を喰らい、雷となった虹がそれを防ごうとする。
全てを破壊せんと、虹と雷が奔る。
全てを焼き尽くさんと、焔が煌めく。
光が収束すると共に、暗転。黒が画面を包む。数秒の静寂。
そして、次に画面が映し出されたときには―――
――sideヴァレン――
(ヴァ……レンさん、キュオンさんが……キュオンさんが!)
「分かってるよ。コレで良いんだよ流」
全身から血を零れ出るのを感じながら、今一度紛い物の前へと出る。
しかし、我ながら情けないな。空間を割ってそこに入って避難したにも関わらず、負荷に耐えきれずに、血を流してんるんだから。
いや、情けないということは無い。ちゃんと理由が分かってるから……それはおいおい震離に任せるとして、だ。
「……なぜ?」
「それはどっちの意味でだ? 雷を撃ったお前が? それとも俺か?」
「貴様……なぜ」
「まぁ、言うわけ無いだろう」
わざわざ種明かしする程、人は出来てないもので。
しかし、まさに驚愕といった表情をしてるなぁと。だが、不意に口元を歪めて彼女は笑う。
「だが、私の勝ちだ!」
歓喜の絶叫。まぁ、状況は最悪だが、まぁそれはあちらも同じだろうが……気付いてないなこりゃ。
でもそう考えるよなぁ。ゆりかごの雷と、アイツの焔は完全に霧散してしまった。だが、アイツは……文字通り消えてしまった。
あちらはまだ、動力炉が砕かれたとは言え、ゆりかごと、その鍵である己が生き残っている。でもこんな展開には、自分達でも想定していなかったほどの危機的状況であったのだろう。
それでも喜びのあまり、涙を流して感動している。
それは、己が勝ったという、勝利者になったのだという感動に。
「く、ふ。フフフ、アハハハ! 折角の想い人も死んだ! お前は想い人を護れずしてここで死ぬんだ!」
勝利を確信した紛い物が高らかにそう告げる。
だが。
「護る? 誰を? 俺が? キュオンを護る?」
高笑いが止まる。そして、信じられない物を見ているかの様な表情を浮かべている。
その言葉の意味が分からなかったが……少し考えて、その意味が分かって。思わず笑ってしまう。
紛い物は、幼い子供なんだと認識出来たのだから。
「バカを言うなよガキ」
瞳を閉じるとアイツの姿が思い描ける。
「好き好き大好き、素敵な貴女を傷つけない。貴女を一生護っていきたい、ってか?」
「……」
目を見開いている。やはりガキで処女か。分かってねぇな。
「疾うに知っている。アイツが……キュオンが――
強く気高く、胸に秘めた熱さ、そして、誇り高き精神に変な所で見栄っ張りな所も。
全部まとめて愛してる。
だが、それ以上に。彼女は確固たる自我を持ち、心を持った他人で。キュオンと幾度と無く張り合ったけど、正直今でも俺のが強いと自負すらある」
霧散した魔力が徐々に落ち着き、空が見え始める。
「護るとは。彼女を強さを信じないということ。俺が居なければ何も出来ないと決め付けることだ。
冗談じゃない、やめてくれ聖王よ。失望させるな。
俺と対をなす奴を護るなんて、キュオンを信じてませんって宣言するようなものだ。キュオンを信じてるからこそ、俺は安心して退避出来たのだから。
これ以上、俺の惚れた彼女を侮辱するな。
それよりも、だ」
拳に魔力を込める。極限の全力を込めて。
「ゆりかごの雷を放った以上。お前もまた聖王だと認めざるをえない」
「……それが? 私こそが現代の聖王だ!」
未だ無傷とも思えるほど、綺麗な姿をした聖王が拳を構える。その姿は、間違いなくかつてのヴィヴィアン様の再来だと思えるほどに。
「敬意を払いましょう、で、だから?」
拳を握り、聖王へと向ける。
「……なんだ、何だお前は? 関係ないだろう、お前たちは!」
きっとお前たちにも果たしたい事があるのだろう。きっと長い時間を掛けてこの用意をしたのだろう。
だがしかし。
「俺もアイツも……ゆりかごも、この時代には不必要なもので、未来に不要な過去だ」
一歩踏み出す。
「我らは過去の影に過ぎない。故に未来を生きる者たちを、古の王たちが、我らが願った―――平和に生きる宝を脅かすなら」
更に一歩踏み出して。今一度魔力を込める。
「―――オレはお前を討ち倒すために、この拳を振るおう」
魂を動力炉に。魔力を熱に。
「今こそ、心を滾らせ。いざ」
不意に背中に気配を感じ、背中が暖かくなると共に、口元が緩んでしまう。
―――早すぎるんだよ、全く。
さぁ、息を吸って。目を閉じて。決意を込め、前を見据えて。
「我が名はヴァレン・アオスシュテルベン・リューゲ・シュタイン! 貴殿を打ち砕くものなり!」
そして、踏み込んだ。
後書き
長いだけの文かもしれませんが、楽しんで頂けたのなら幸いです。ここまでお付き合いいただき、感謝いたします。
作者のマイページのHPリンクが、ウェブ拍手へと繋がっておりますので、押して頂けるとより一層励みになります。
ページ上へ戻る