蒼と紅の雷霆
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蒼紅:第七話 彩花
シアンとテーラと午後の雑談をしていたGVとソウにモニカからミッションの依頼が舞い込んできた。
GVはモニカから詳細内容を確認する。
『あなた達には、皇神の薬理研究所で培養されている、ある花を駆除して欲しいの』
「花の駆除…?変わった依頼ですね」
「その花に何か問題があるのか?」
『正解よ、ソウ。実は、その花から採れる成分が問題なのよ。S.E.E.D…聞いた事はないかしら?』
「…S.E.E.D…確か…元々は“ジャム”と呼ばれる奇病に対する特効薬として生み出された物だったな。俺も何度か投与されたことがある。」
何度か投与されて副作用に苦しんだが、紅き雷霆による生体電流の活性化によって副作用を強引に克服した過去があるのだ。
『そうよ。他にも抗ストレス剤に使われたりするものなんだけど…製法次第では、第七波動を強化する他に、強い副作用をもたらすこともあるの』
「それって…」
『ええ…秘密裏に皇神は、S.E.E.Dを能力者の制御に使っているようね…』
「なるほど…そういうことですか…分かりました。その依頼、受けますよ」
装備の確認をすると、テーラがソウとGVにある情報を渡してきた。
「GV…ソウ…皇神の薬理研究所に行くのですね?」
「え?…聞いてたんだね…」
「あそこに向かうなら1つお願いがあります…度重なる薬物実験によって廃人にされた同胞がいるのです…彼は常に満たされることのない飢餓感に苛まれ、本能の赴くまま目に留まるもの全てを喰らい尽くす怪物と成り果てています…S.E.E.Dの原料となる花を駆除するとなると、彼との戦いは避けられません。彼はS.E.E.Dがないと自身の飢餓感を抑えることが出来ないというある種の禁断症状に陥っているんです…」
「皇神でのスパイ活動で得た情報か?」
「はい」
ソウの問いにテーラは頷く。
「能力者の名前はストラトス。彼もまた宝剣の能力者であり、肉体を羽虫のようなエネルギー体に変化させる第七波動・翅蟲(ザ・フライ)の能力者です。エネルギー体で触れた物質は自身のエネルギーとして分解・吸収することが出来るので直撃は絶対に避けて下さい」
真剣な表情で2人を見上げるテーラ。
彼女の目的の為でもあるが、薬理研究所に捕らえられている彼があまりにも哀れだったのだ。
救うことが出来ないならせめて安らかな眠りを与えて欲しいと思う。
「分かったよテーラ。貴重な情報の提供に感謝するよ」
「とにかくストラトスと言う奴のことは俺達に任せろ。お前はシアンのお守りを任せた」
「…はい」
テーラに隠れ家のことを任せると、ソウとGVはミッションに向かった。
残されたテーラは複雑そうな表情であった。
「どうしてでしょうか…?彼らが皇神を追い詰めることは私達にとって都合が良いはずなのに…この隠れ家での暮らしが終わることになるのが惜しいと感じてしまうなんて…」
この隠れ家での暮らしはテーラには温か過ぎた。
ソウやシアン達と触れ合う度に自分の中の迷いが強くなっていく。
そして薬理研究所に侵入したソウとGV。
今回は宝剣持ちの能力者がいると言うことをテーラから聞いているので、今回は単独行動は取らずに進む。
「こちらGV、施設内への潜入に成功しました」
『了解、その先にターゲットの花が培養されているはずよ。』
「花か…忌々しい…破片も残らないくらい粉々にしてやる…」
過去に投与された際の苦しみを思い出してか、ソウの表情は険しい。
「兄さん、落ち着いて」
「分かっている」
皇神薬理研究所内第一ビオトープ。
研究用植物の生育のため、常に人工の陽光で照らされたこの建物はまるで今が昼間であるかのように錯覚させる。
現在の時刻は午前1時過ぎ…あまりここに長居をし過ぎると、帰ってから眠れなくなるかもしれないとGVは思った。
道を塞ぐ実験植物をGVがショットからの雷撃、ソウが雷撃ショットを放った時、真上の触手のような実験植物が動いた。
『どうも、あなた達の雷撃に反応するようね。触手…ジーノが喜びそうなトラップだわ…』
「モニカさん…」
「何だ?あの馬鹿は被虐癖でもあるのか?ならこの触手を1つ持ち帰り、あいつに贈りつけてやるのも良いかもしれんな…あいつの軽口はいい加減に耳障りになってきたからこれであいつの口を永遠に黙らせてやるとしよう」
「兄さん!?駄目だよそれは!!」
『そ、そうよ!!絶対に駄目よ!!』
声に今までにない本気を感じ取ったGVとモニカが必死にソウを止めようとする。
「チッ…冗談だ」
『GV…ソウは本気だったわよね…?』
「ええ、本気でジーノを亡き者にしようとしていました。」
舌打ちしながら先に進むソウにGVとモニカは不安を抱くのと同時にジーノがソウに命を狙われないことを願うのであった。
『その通路は縦に続いているわ…雷撃に反応する触手に注意しながら上に昇っていって』
「了解…」
「それにしても、この研究所は酷い状態だ…至る所に実験植物が生えていて植物に侵食されているように見えるぞ。こんな場所で仕事なんてまともな神経じゃないな」
「そうだね…それだけS.E.E.Dの価値が皇神にあるんだろうけど」
キッククライミングとダッシュジャンプを駆使して触手を刺激しないように移動していくが、進んでいる途中で行き止まりに差し掛かる。
「おい、行き止まりだぞ。ルートを間違えたか?」
『少し待って…足元のシャッターから下に行けるみたい。目の前の壁にある配電盤に雷撃を流してみて』
「了解」
GVが避雷針を配電盤に撃ち込み、雷撃を流し込むとシャッターが開いた。
GVが雷撃鱗のホバリングでゆっくりと下降し、下降までに時間がかかるソウは何度か雷撃鱗の展開を繰り返して降下していく。
「こういう降下の際は不便だな」
GVよりも長時間の滞空が可能でも降下の際は雷撃鱗の展開を繰り返さなければならないのは不便だ。
先に進むと足場が蔦の場所に出た。
「GV、邪魔になりそうな蔦は雷撃鱗で焼き切れそうだ」
2人は雷撃鱗を展開しながら蔦を焼き切りながら敵を蹴散らして先に進むとGVが小さい宝石を発見した。
「あの宝石だ…シアンにあげたら喜ぶだろうな…それにしても何でこんな所に宝石があるんだろう?」
「何かの素材に使われてるのかもしれないな。拾うならさっさと拾え…ミッションが長引くぞ」
GVは宝石を回収するとミッションを再開する。
先に進むソウとGVだが、進みながら周囲を見渡すと、薄暗い地下でも実験植物と思わしき植物が生えている。
中には内壁を侵食しているものさえある…怖ろしい繁殖力だ。
そしてターゲットが培養されている部屋に辿り着いた。
『その奥に、ターゲットが培養されているわ』
2人が中に入ると、そこには不気味で巨大な怪物花が存在していた。
「これがターゲット?…まるで怪物じゃないか」
『資料と全然違うわ……成長したというの?』
「それともターゲットを改造したのかのどちらかだな」
GVが目を見開き、モニカも信じられないかのように呟いて、ソウが何時でも動けるように構える。
『実験コード“ViVid”…まさか、こんな姿になっているなんて…資料通りなら、その花の弱点は花弁に守られた雌しべ…ショットで花弁を刺激し続ければ防衛本能が働いて、弱点を露出するはずよ。』
「よし、やるぞGV。こんな悪趣味な花はさっさと駆除するに限る」
「うん…この怪物花から作られる抗ストレス剤…巷の遺伝子組み換え食品なんかよりよっぽど危なそうだな」
「こんな怪物花と比べること自体おかしいだろう」
GVとソウが二方向から避雷針と雷撃のショットを連射して飛んでくる花粉をかわしながら花弁を刺激すると、情報通りに防衛本能が働いて雌しべが露出し、中から大量の虫が出て来た。
2人は雷撃鱗を展開しながらショットを撃ち込み、GVは避雷針が雌しべに三発当てると雷撃を流し込み、ソウはショットの雷撃を連射し続けた。
同時攻撃によってあっという間に耐久限界を迎えたViVidは爆発を起こした。
「これ植物なのに何で爆発するんだろう…?」
「こんな怪物花に常識を当て嵌めようとしても無駄だと思うがな。こいつは薬品の原料でもあるし、液体には引火性があるんだろう…そしてこいつの大量の花粉が俺達の雷撃によって粉塵爆発を起こしたんだろうな」
「なるほどね」
GVの些細な疑問に呆れながら答えるソウ。
『お疲れ様、2人共。後はその施設から脱出するだけね』
「…来た道のシャッターが閉まっている…奥へ進みます……それにまだやらなくてはならないことがありますから」
『え?どういうこと?』
「とにかく奥に進んでみます」
『…?分かったわ』
奥に進むとゲートモノリスが道を塞いでいる。
「よし、ゲートモノリスを破壊して先に進むぞ」
ソウがチャージセイバーでゲートモノリスを破壊して奥に進むと、テーラに依頼されたストラトスの撃破の為に捜索するが、ViVidが撃破された事で2人は見つかり、大量の皇神兵を相手にすることとなった。
「ViVidがやられた!侵入者を捕らえるんだ!!」
「ふん、また雑魚が現れたか」
「何時ものこととは言え、骨が折れそうだ…」
敵を蹴散らしながら先に進むと、突如羽虫のようなエネルギー体が襲い掛かって来た。
咄嗟に雷撃鱗で弾くソウとGVだが、カゲロウ発動用のペンダントのような特殊な装備を持たない皇神兵やメカ達は瞬く間に飲まれて消えてしまった。
「カゲロウがあるとは言え、テーラから宝剣の能力者の触れた物体を分解・吸収すると言う能力を聞いていなければ喰らっていたかもしれんな…しかもメカまでやるとは…見境なしか…」
「と言うことはテーラから聞いた宝剣の能力者が近くにいるんだろうね」
飛んでいった羽虫を追い掛け、皇神兵達の悲鳴が響き渡る中、ゲートモノリスを破壊しても2人は更に奥に進むとそこには度重なる薬物実験によって廃人に堕とされた宝剣の能力者、ストラトスらしき人物がいた。
「何だぁ…いい匂いが…するなぁ…あんたらから…漂ってくる…匂い…これはぁ…クヒヒヒヒッ!!!」
「(この人がテーラの言っていたストラトス…あの濁りきった目…正気ではない!匂いとは…あの怪物花のことだろうか。戦った際に僕と兄さんにS.E.E.Dの原料である花の匂いが移ったのかもしれない)」
「貴様が…さっきの羽虫の…翅蟲の第七波動の能力者のストラトスか?」
ストラトスを油断なく見据えるソウ。
言ってみれば今のストラトスは理性のない怪物だ。
理性のない怪物がやることほど恐ろしい物はない。
「ディナーが…お喋りするんじゃぁ…ねぇ…空腹に響くだろうがぁ…」
ストラトスが宝剣を取り出して変身現象を起こすと、全身がエネルギー体のような姿となる。
「クッ…クヒヒヒッ!!ならよぉ…腹を満たすために…目の前の物を喰いまくるしかないじゃないかぁ…なぁ!?」
「チッ…皇神の屑共が…」
ソウが舌打ちするとストラトスの肉体が羽虫化した次の瞬間に球状に変化し、ソウとGVに襲い掛かって来る。
「喰わせろぉ!!」
「かわせ!!」
「分かってるよ!!」
2人はギリギリでそれをかわしてGVはストラトスに避雷針を撃ち込んで雷撃を流し、ソウは接近戦は危険と判断し、雷撃ショットを連射してストラトスに撃ち込んでいく。
「あんたらのその匂い…たまらないなぁ…さっきからブンブンブンブン、俺の腹の虫がよぉ…腹の中で…騒ぎまくってうるさいんだよ…」
「なるほど…度重なる実験によって第七波動に人格が飲まれてしまっているようだな。ここまでとなるとテーラの言う通り、倒して楽にしてやるしかないだろうな」
ストラトスが地面に卵を植えつけ、植えつけた卵からは羽虫が生まれると、生まれた羽虫は即座にソウとGVに襲い掛かる。
雷撃鱗で凌ぎながらソウとGVはストラトス本体にダメージを与えていく。
「(ストラトスの暴走も相俟って、この能力の羽虫は作物を食い荒らすイナゴの群れを想起させるな…宝剣ですら制御出来ない程の実験をするなんて…能力者を何だと思っているんだ…)」
GVは表情を険しくしながら攻撃を続ける。
「GV、分かっているな?」
「分かっているよ兄さん。この状態だと彼を救うことは出来ない。テーラの言っていたように楽にしてやらないと…」
「なぁに…お喋りしてんだぁ…?言っただろぉ…ディナーがお喋りするなんてよぉ…マナー違反もいい所じゃぁないか……ヒヒッ!あぁー…腹が減ったぁ…なぁ…喰わせてくれよぉ…一口でいいからよ…誰か…誰か…誰か…この空腹を…止めてくれよおぉぉ!!!」
ストラトスの飢餓感に苛まれた叫びが響き渡る。
「流石にお前は哀れだ…安心しろ。痛みは感じさせない…俺達がお前を解放してやる!!迸れ!紅き雷霆よ!!」
「クヒヒヒ…!クワセロッ!!クワセロオォーッ!!」
左右に展開したパーツから周囲の羽虫を集め巨大化し始めるストラトス。
しかしそれよりも2人の行動が速い。
「実験体として利用されたあなたには同情する…だけど!今のあなたを、外に出すことは出来ない!…あなたの空腹は、僕達の雷が満たす!迸れ!蒼き雷霆よ!! 」
「お前を苛む飢餓感を俺の紅き雷刃で叩き斬る!…永久に眠れ!!」
「安息をもたらす救いの光となれ!!」
ソウとGVは同時にジャンプでストラトスとの距離を詰めるとGVとソウはSPスキルの詠唱を始めた。
「行くぞGV!!閃くは破滅の雷光!紅雷の刃よ、敵を斬り裂け!」
「了解!煌くは雷纏いし聖剣!蒼雷の暴虐よ、敵を貫け!」
「ギガヴォルトセイバーーーーッ!!!」
「スパークカリバーーーーッ!!!」
紅き雷刃波が直撃し、直後に蒼き雷霆の聖剣が同時にストラトスを貫いた。
「ぐおぉっ!腹の……虫が……!」
最強格の第七波動の紅き雷霆と蒼き雷霆のSPスキルを同時に喰らうと言うオーバーキルの攻撃を受けたストラトスの体は膨張し、爆発を起こして他の宝剣の能力者のように亀裂が入った宝剣が何処かへと転移された。
「兄さん…」
「仕方がないだろう。あいつは最早動く災害みたいな状態だったんだ…どうしようもなかった。速くここから脱出するぞ」
こうして薬理研究所を後にしたソウとGV。
自分達を見据える存在に気付かないまま…。
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