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蒼と紅の雷霆

作者:setuna
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無印編:トークルームⅢ

《宝石を少女に》


「お前にくれてやる」

唐突に兄さんがテーラに小さな宝石を渡した。

あれは僕がミッション中に拾ってシアンにプレゼントした宝石と同じ物のようだ。

「え?」

「ミッション中に拾った物だ。お前にくれてやる。男の俺が宝石など持っていても意味がないからな」

テーラが渡された宝石を見つめながら驚く中、僕も兄さんの行動に驚いた。

あの兄さんが誰かにプレゼントするなんて…。

「本当に貰っていいのですか?」

「要らんのならさっさと捨てろ」

兄さんの言葉にテーラは微笑みを浮かべた。

「いいえ、ありがとうございます。ソウ…とても嬉しいです…」

「良かったねテーラちゃん」

「本当に驚いたな…兄さんが誰かにプレゼントするなんて…」

このことをジーノやモニカさんに言っても絶対に信じないだろうな…。


《雷霆兄弟のコンタクト等》


「GVとお兄さんってコンタクトしてるけど…視力、2人共悪いの?」

「兄さんは僕と違って視力は良いよ…僕と兄さんがつけてるコンタクトは特殊な物で、第七波動を高める効果があるんだ」

詳しい原理は知らないが、第七波動と能力者の精神状態は密接に関係している。

このコンタクトは着用者の視覚情報に特殊なパターンのバイアスをかけることで無意識レベルの軽度な精神的負荷をかけ、第七波動に影響を及ぼすものなんだとか。

「学校では、軽い変装の意味も兼ねて眼鏡にしているんだけどね」

「GVは眼鏡より、コンタクトの方が似合うと思うよ…あ、でもお兄さんの眼鏡姿は見てみたいかも」

「…あまり僕と変わらないんじゃないかな?」

僕と兄さんは顔立ちは似てるって良く言われているし…まあ、何の理由もなく兄さんは眼鏡はかけないだろう。


《避雷針は髪の毛針》


リビングで寛いでいたシアンとテーラの視線が僕と兄さんに注がれていることに気付いた。

正確には僕と兄さんがメンテナンスしている物にだろう。

電磁加速銃“ダートリーダー”。

細部に違いはあるが、どちらもフェザーで開発された僕と兄さんの専用の銃。

替えのストックはあるものの、特注品のため、その数は決して多くない。

だから、銃のメンテナンスは僕達兄弟にとって欠かせない日課だった。

「その銃って、弾丸じゃなくって針みたいな物を撃つんだよね?」

「ああ…“避雷針”だね。避雷針は、僕と兄さんの髪の毛を電気伝導率の高い特殊な金属でコーティングした物なんだ。」

「…弾芯が髪の毛なのですか?」

「ああ、俺達の体の一部だからこそ俺達の雷撃が的確にこの避雷針に流れ込むらしい。ただし、俺達では避雷針の用途が違うがな」

「確か、GVは雷撃を避雷針を通じて流し込むため、ソウは雷撃を纏わせた避雷針を撃って敵にダメージを与えるのでしたね」

そのために兄さんのカートリッジは避雷針にチャージすることで貫通力を持たせるナーガが基本装備となっている。

他のカートリッジも使えないことはないんだけど、ナーガ以上の威力は見込めない。

でもその分、チャージショットの威力はそのデメリットを補って余るくらいの威力はある。

そして敵に接近された時は雷撃刃も使えるからどのような状況にも迅速に対応出来るのが兄さんの強みだ。

「ふーん…そっかぁ。つまり、“髪の毛針”なんだね」

「そうだけど…そういう呼び方はあんまり好きじゃない…かな」

「GVとソウの髪が長いのはその為なのですね」

「他にも色々理由はあるが、基本的に弾芯のために伸ばしているな…それにしても避雷針を髪の毛針と言われたのは初めてだな」

一応髪の毛針もとい避雷針にもそれなりの殺傷力はあるのだが、シアンが笑っているし黙っていよう。


《桜咲モータース》


「…~♪」

四人でネットの配信動画を見ていると不意にシアンが口ずさむ。

どうやら、今見ていた動画に使われていた曲のようだ。

「どこかで聴いたことがあるけど…もしかして、モルフォの歌?」

「ううん、車のCMソングだよ」

「ああ、そういえば…」

「あの妙に派手なセダンのCMをやっていたな。あまりにも派手だから確かに一度観れば印象には残るが…無能力者の考えることは本当に理解出来んな…」

確か、サクラザキとかいう大手の自動車メーカーだったか。

一時期、ド派手なピンクのセダンのCMがやたらと流れていたことを思い出す。

兄さんの言う通りの派手すぎるあの車、買った人は何人居るんだろうか。

「CMソングって、つい口ずさんじゃうんだよね…テーラちゃんはそんなことない?」

「そう…ですねえ…確かに気に入った曲はたまに口ずさんでしまいますね…私は愛の探究家であるために基本的にラブソングしか聴きませんが」

「そ、そうなんだ…」

毎回思うけどテーラの愛の探究とは何なんだろう?


《不器用な兄》


「ねえ、GV。小さい頃のお兄さんってどんな子だったの?」

「小さい頃の兄さん?」

シアンからの突然の問いに僕は思わず首を傾げた。

「だって、お兄さんはGV以上に自分のことを話してくれないし…GVなら小さい頃からお兄さんと一緒なんでしょう?」

「確かに…わたしもソウの幼い頃のことは少し興味はありますね…」

と言われても、僕と兄さんが一緒にいるようになったのは兄さんと一緒に皇神の研究施設から逃亡してからだ。

「フェザーに拾われる前の頃の…僕達が兄弟になった後のことで良ければ話すよ。多分、兄さんもこれくらいなら話しても大丈夫なはず…」

「「お願い(します)」」

「フェザーに…アシモフに拾われる前までの僕達はストリートチルドレンだったんだ。その頃の兄さんは皇神の研究員から色々されていたから今よりずっと荒れていて…皇神の研究所から逃げ出した最初の時は僕も怖がっていた程なんだ…フェザーのみんなからは狂犬とか言われてるけど、僕にとって兄さんはたった1人の家族で、ストリートチルドレン時代では食べ物が手に入ったらまず僕を優先してくれたんだよ。自分だってお腹が空いてるはずなのに…」

兄さんが採ってくる食べ物は犬などの動物を焼き殺した物や盗んだ物なのは伏せておこう。

でもテーラは何となくストリートチルドレン時代の僕達の食料に気付いているのかもしれない。

「そして食べ物がない日は雑草をお湯でふやかした物で誤魔化して飲み水は泥水だったこともある。酷い物ばかり食べていたから体調を崩してしまったこともあったけど、それでも兄さんは僕を見捨てずにずっと僕の傍にいてくれたんだ…僕がいなければ食料だってもう少しは保っただろうし、ずっと楽だったはずなのにね…だから最初は荒れてて怖かった兄さんだけど…一緒に過ごしていると段々怖くなくなったんだ」

「ソウは昔から優しかったのですね…」

「うん、弟想いの優しいお兄さんだよね。」

「ありがとう…」

例え誰もが兄さんを嫌っても、僕は兄さんの味方でありたい。

それが、僕が兄さんに出来る恩返しなんだって…。


《同居人の好き嫌い》


「そういえばGV達って食べ物の好き嫌いってある…?」

シアンがそんなことを尋ねてくる。

…何だろう?料理でも作ってくれるんだろうか?

因みに普段はシアンを除いた僕達が当番制で料理をしている。

「嫌いな物は特にないけど好きな物か…雷撃鱗を使うと、乾燥したりするから…ビタミンとかミネラルが豊富な物…とかかな?」

「とにかく食べられる物なら何でも構わないが…まあ、強いて言えば甘い物を好むが…近いうち、このどら焼きとやらを作ってみようと思っているんだが、お前達も食べるか?」

最近の兄さんは和菓子作りをネットで調べたり本を購入して勉強していたのを覚えてる。

「私も嫌いな物はありませんね。強いて好きな物を挙げるとしたらやはり私もお菓子になりますね…どら焼き…初めて食べますから楽しみですね」

「そ、そうなんだ…お兄さんとテーラちゃんはともかくGVはちょっと期待してた返事とは違うけど…今度調べて、何時か私が料理出来るようになったら作ってあげる…ね?」

「ありがとう 期待せずに待ってるよ」

「むぅ…そこは期待してもいいのに…」

「それは無理だろう、何せ作るのが現時点では料理経験が殆どない奴だからな」

「料理を1人でしようなんて無謀ですからやる時は私達の誰かを頼って下さい。貴重な食材を失うわけにはいきませんから」

「う…は、はあい…」

兄さんとテーラの言葉に項垂れるシアン。

これなら料理をする時も大丈夫かもしれない。

「それで?お前も食べるのか?」

「お兄さんの作るどら焼き食べたい」

本当にシアンは和菓子が好きなんだな…


《かっぷらーめん》


「GVとお兄さんとテーラちゃんは、"かっぷらーめん"って知ってた?」

「「え?」」

「何?カップ麺だと?」

リビングで寛いでいると、シアンの突然の言葉に僕達は思わず顔を見合わせた。

「…まあ、食事を作る時間が無いか…後は小腹が空いた時に食べることはあるな」

「私はカップラーメンは食べたことはありませんが、見たことはありますよ」

シアンは長い間皇神に囚われていたせいもあって…時折こういった世間知らずなところを見せることがあった…。

似たような境遇の僕も、あまり彼女のことは言えないのだけど…。

けど、それにしたって皇神に居た時もTVなんかは見ていたようだし…カップ麺くらい、知らないものなんだろうか…。

「うん、僕もミッション前に食べることもあるかな…」

「本当にあるんだ…今度食べてみたいな」

「…明日にでも買ってくるよ」

「本当!?約束だからね!」

ぐいっとシアンが身を乗り出す。

…物凄くテンションが上がっている…ちょっと不憫だ…。

「となると……誰でも食べられそうな醤油ラーメン辺りが良いかもしれないな」

兄さんが無難な意見を出してくれた。

「醤油ラーメン…ですか…」

「テーラ、食べたいなら買ってやる」

「お願いします」

明日の昼食はカップ麺になりそうだ…。


《正しい淹れ方》


「あの…みんな…」

シアンが何やら僕達に言いたそうにこちらを見つめている。

「いつもお疲れ様…コーヒー、淹れてみたの」

目をテーブルの方に向けるシアン。

なるほど…テーブルの上にはコーヒーカップが3つ置いてあった。

「ありがとう…頂くよ」

「ありがとうございます…では」

カップを取り、僕達は一口啜る。

「…………」

薄い…。

それは僅かにコーヒーの風味がついたただのお湯と呼んで差し支えのない代物だった。

テーラの方を見るとどうやら彼女も同じ感想を抱いたようで微妙な表情を浮かべていた。

「あれ…もしかしてGVとテーラちゃん。コーヒー苦手だった?じゃあ、次からは紅茶にするね…」

「違う、薄すぎるぞ。これではコーヒーの風味がついているだけのただの湯だ」

「え?」

僕達が言えなかったことを兄さんはあっさりと言い放った。

「ソウ…シアンなりに頑張ったのですから少しくらい…」

「駄目だ、おいシアン。コーヒーの淹れ方を教えてやるから来い…念のため紅茶も教えてやる…薄いものばかり出されてはたまらんからな」

テーラがシアンを擁護するが、兄さんは構わずにシアンを連れてキッチンに向かった。

「兄さん…」

「ソウなりにシアンを思ってのことなんでしょうけどね…」

シアンの境遇を考えると厳しく接することが出来ない僕には出来ないことだ。

敢えて厳しく接することも彼女のためなのかもしれない。


《シアンの日記》


「…?これは…誰のノートでしょう?」

ソファの下に小さなノートが落ちているのを見つけました。

このノートはGVの物にしては可愛らしいので、シアンのノートでしょうね…落としたんでしょうか?

悪いとは思いましたが、シアンの物かを確かめるために中身を確認することにしました。

勿論、じっくり読むわけにはいかないので適当にページをパラパラと捲るだけです。

『今日GVが──』

『お兄さんが私に──』

『テーラちゃんと──』

シアンの日記…のようですけど…私とソウのこと…特にGVのことばかり書いてありますね。

やはりシアンはGVを…。

「あっ!」

背後からシアンの声が聞こえたので振り返ると案の定、シアンが立っていました。

「みっ…見ちゃ駄目!!」

私の手から勢いよくノートを奪い取るシアン。

「やはり、シアンのノートでしたか……大丈夫です。見てはいません」

本当は少し見てしまいましたが、内容を理解する程には読み込んではいないので、見ていない…と言っても差し支えはないでしょう…多分。

「そ…それならいいんだけど…」

少し…悪いことをしてしまいましたね。


《にゃーんにゃん♪》


「にゃーんにゃん♪」

…今、見てはいけないものが見えたような…。

僕の隣で見ている兄さんも不気味な物を見るような表情を浮かべていて、テーラも表情が微妙に引き攣っている…。

「にゃーん♪」

見間違いじゃない…。

シアンがにゃんにゃん言っている…。

にゃんにゃん言いながら、猫耳と尻尾をつけて踊っている…。

「何をしているんだお前は…?」

「悩みがあったら相談に乗りますけど…」

「…何か…嫌なことでもあった…?」

「G…GVっ!!?…それにお兄さんやテーラちゃんまで…あ痛っ!!」

シアンがその場に倒れこんだ。

どうやら足が縺れたようだ…。

「…ハッ!ち…違うの! こっこれは…友達がっ!劇ぎゃっ…!!うぅ…舌かんら……」

混乱してしどろもどろになっているようだけど…大体のことは分かった。

つまり、友達と演劇か何かをやることになって、その練習をしていた…。

シアンは猫の役…そんなところだろう。

「…分かってるから…落ち着いて?」

「あうぅ…」

「しかし随分と本格的な道具だな。たかが、学校の演劇如きで無駄な出費を…やはり無能力者の考えは理解出来んな」

「猫耳カチューシャとかではなく着ぐるみにすれば良いと思うのですが…可愛いですし(それにしても学校ですか…無能力者を殲滅したら学校を創ってソウ達とお兄様達と一緒に通うのも良いかもしれません…)」

「着ぐるみと言うのはお前が寝る時に能力の夢幻鏡で作っている着ぐるみのような寝巻きか?前はフクロウだったが…」

「そうです。因みに私のパジャマは質感にも拘っている特別仕様です。今度ソウもどうですか?犬の着ぐるみパジャマを夢幻鏡で用意しますよ。因みにソウの犬の着ぐるみパジャマの色はソウのイメージカラーの黒、白、赤の3パターンがあります」

「断固拒否する」

「犬の着ぐるみパジャマのソウ…可愛いと思うのですが…」

そんなことを兄さんに向かって簡単に言い放つことが出来るテーラは凄いと僕は思う。


《フェザー》


それは兄さんとテーラが買い出しに出ている時だった。

「GV…GVは、私のためにフェザーを辞めたんだよね…本当に…良かったの?フェザーはGVにとって家族みたいな物なんでしょ?それに、お兄さんまで巻き込んで…私…GV達の足…引っ張りたくないよ…」

僕を見つめるシアンの瞳が切なさを滲ませて揺れる…。

「シアン…僕は後悔してないよ。君が自由に生きてくれたらそれでいい…」

「GV…」

そう、これは僕が決めたこと。

そして兄さんがフェザーを辞めたのも自分の意思なんだと僕は思っている。


《おねんね》


僕と兄さんがリビングを通りすぎようとしたらソファにシアンとテーラが寝ていた。

「すー…すー…」

「シアン、こんな所で寝ると風邪引くよ…」

「テーラ、寝るなら部屋で寝ろ」

「むにゃ…G…V………」

「ソ…ウ…」

しかし、彼女達は再び眠りへと落ちてしまった。

「仕方ない…毛布でも取って来るか」

「手間を取らせる奴らだ…」

口ではああ言いながらも僕と一緒にテーラの分の毛布を持ってきてあげようとしている兄さん。

もしテーラが起きたらこのことを教えてあげようかな…?


《兄弟の第七波動で節約》


「GVとお兄さんの第七波動って…雷撃なんだよね?」

「そうだけど…どうしたの突然?」

雷撃の第七波動・蒼き雷霆と紅き雷霆。

それはただ電気を放出するだけの力ではない。

自身の生体電流を活性化させる音で身体能力を向上させたり…体表面を薄い電磁場の膜フィールドで覆うことであらゆる衝撃から身を守ることが出来る。

また、蒼き雷霆は電子機器を外部から制御ハックすることも可能だ。

紅き雷霆は出力が強すぎて電子機器は制御ハック出来ないから主に戦闘面で活躍している。

皇神の研究者の間では、現在確認されている第七波動中、蒼き雷霆は"無限の可能性を秘めた第七波動"とさえ言われている……なんて話を、アシモフから聞いたことがあった。

「それで…電気代って節約出来ないのかな?」

「………厳しいな…」

流石に自家発電は無理だろうと僕は思った。

兄さんの第七波動だと大変なことになりそうだし…。 
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